悪魔のささやき (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087203547

作品紹介・あらすじ

人は意識と無意識の間の、ふわふわとした心理状態にあるときに、犯罪を犯したり、自殺をしようとしたり、扇動されて一斉に同じ行動に走ってしまったりする。その実行への後押しをするのが、「自分ではない者の意志」のような力、すなわち「悪魔のささやき」である-。精神科医、心理学者、そして作家として半世紀以上にわたり日本人の心を見つめてきた著者が、戦前の軍国主義、六〇年代の学園闘争、オウム真理教事件、世間を震撼させた殺人事件など数々の実例をもとに、その正体を分析。拝金主義に翻弄され、想像を超えた凶悪な犯罪が次々と起きる現代日本の危うい状況に、警鐘を鳴らす。

感想・レビュー・書評

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  • 精神科医、犯罪学者でもある著者が、医務部技官として勤務した東京拘置所で囚人たちと接して、犯罪を起こしたその時の心理を表現した言葉として多かったのが

    「あの時は、悪魔がささやいたんです」
    「どうしてあんなことをしたのか、自分でもわからない。悪魔にささやかれたとしか思えない」

    その「悪魔のささやき」とは何なのか?
    高学歴で将来を嘱望されていた人たちが、オウム真理教のようなマインドコントロールを受けるのはなぜか?
    家族を簡単に殺してしまうのはなぜか?
    見知らぬ人と集団自殺するのはなぜか?
    自殺する勇気のない人が、犯罪を起こすことによって死刑になろうとするのはなぜか?

    昨今は理解に苦しむ事件も多く、「どうして?」「なぜ?」と沢山の疑問符がついたまま。

    「悪魔のささやき」とは何なのか。
    「悪魔にささやかれ」ないようにするためにはどうしたら良いのか。
    そんなヒントを与えてくれる本です。

  • 面白かった!もう一度、じっくり読んでみます。

  • ・加賀乙彦も留学中(仏)に、ひどく心を閉ざしていた時期があった
    「自分がたった一人の黄色人種であることを突きつけられたような気がしてしまう。パリの医者のように外国人を小馬鹿にしたりしない朴訥で人のいい人物ばかりだと思っていた同僚たちとのあいだに、心底からは打ち解けられぬ冷ややかな者があるように感じられる。とにかく気持ちが沈んで、毎日が憂うつで、身体もだるくてしょうがないのです。・・・こうして留学までしたけれど、おまえは本当に犯罪学をやりたいのか?やがて、死を願う気持ちは次第に薄れて行きました。日本語の本を読み、日本語で考えるのを自分に許してからのことです。・・・ネイティブな言語という者がいかに人間を元気づけてくれるか、それは驚くほどでした」(pp.46-7)
    ・肉体を介したコミュニケーションで、前頭前野を刺激!(p.162)
    「お互いの肉体が発する表情や雰囲気、手振りや身振りも非常に大切な者なのです。・・・前頭前野は人間だけが特別に発達している部分で、考える力、記憶力、コミュニケーション力、自制力、自発性などに大きく関わっている」

    ・現代人は悪魔に「さあどうぞ、お入りください」と言っている(p.179)
    自分の目の前、身の周りだけに関心をとどめてしまわず、視界を360°に広げ、できるだけ遠くまで見はるかすこと。それが悪魔を避ける方法、その一なのです。

    →現代人は誰にでも悪魔に囁かれる可能性を持っている。

  • 面白いんだけど、事実の認識がほんとにそうかなあ、というのがちらほら。最近は切れる子供が増えているとかね。

    オウムの麻原死刑囚の記述は特に興味深かった。
    いろんな意見はあるけれど、著者の言っていることがいちばん真実に近いように思う。

  • 力作、お勧めです。

  • 非常に示唆に富む内容。社会全体の緩みが悪魔のささやきにそそ流れる環境を作り出していて、それを克服するには、一人一人が自分で考える事が重要であると。その通りだが、未熟な自分の胸に刺さる。

  • 知性と主体性と人間性を失うな、悪魔にささやかれたくなければ。
    そのためにも、好きなことをして、本を読み、体験しなければならない。

    まさに、という内容でした。


    ただ、宗教への態度が、筆者の"リベラルなクリスチャン"というフィルターを通されており、読みながら多少の違和感を覚えた。

    だが、これもまた読書体験。と割り切っていいほど、よくできた本でした。

  • 宣告のモデル、正田昭とのエピソードは良かった。
    ハイデガーのナチ入党、アインシュタインの署名←原爆開発のきっかけ、など、偉人の行動も悪魔のささやきだと考えられないこともない。
    偉人達でさえ、その人生に惑いつつ歩んできたであろうに、凡人の私が惑うのは言うまでもないこと‥‥。なんて、本書とは関係ないことを思ったり。

  • それって社会事象というか、ふわふわした集団にも当てはまるものなのか、それってささやかれる前からもう…という風に思っていますがよく考えたらやはりそうなのかもしれないし、人間が構成していることには代わりないのだからそうなのかもしれませんが、要は出発点が難儀であって、終盤出てくる哲学的観点からスタートすれば納得しやすいのかもしれませんが。終戦後の大人の変わり身の速さに裏切りを感じたってのは、仲代達矢も同じこと言ってましたね。

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著者プロフィール

1929年生れ。東大医学部卒。日本ペンクラブ名誉会員、文藝家協会・日本近代文学館理事。カトリック作家。犯罪心理学・精神医学の権威でもある。著書に『フランドルの冬』、『帰らざる夏』(谷崎潤一郎賞)、『宣告』(日本文学大賞)、『湿原』(大佛次郎賞)、『錨のない船』など多数。『永遠の都』で芸術選奨文部大臣賞を受賞、続編である『雲の都』で毎日出版文化賞特別賞を受賞した。

「2020年 『遠藤周作 神に問いかけつづける旅』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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