黒人差別とアメリカ公民権運動 ―名もなき人々の戦いの記録 (集英社新書)
- 集英社 (2007年5月17日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087203929
作品紹介・あらすじ
アメリカ社会はいかにして、苛烈な黒人差別の慣習や諸制度を温存してきたのか。そして、建国以来の巨大な暗闇に光を灯そうと試みたのは、いったい何者だったのか?本書は、名もなき人々の勇気と犠牲に焦点を当てた、公民権運動の本当のヒーロー、ヒロインの物語である。
感想・レビュー・書評
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作者がこの本を書いた理由が衝撃的でした。
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ほんの数十年前の出来事である。決して過去のことではない。
読めば読むほど、暗澹たる気持ちになってしまうような事実が、ここには沢山、記されていた。
文化的な生活を営む「普通の」人たちが、肌の色だけを理由に続けてきた酷い仕打ちは、人として異常なものばかり。何かに脅えた集団ヒステリーのようでもある。現実に起こっていたなんて、信じたくないけれど、これらは全て、実際にあったことばかり。そして今も、こうした差別は消えたわけではない。
日本でだって、排他的な人々による似たような事件は起こっているのだ。 そう、テレビで報道されていないだけである。 -
黒人差別の実態が今までわかっていなかったが、この本を通してその激しさがわかった。
1950年まで、アメリカの主に南部のミシシッピ州などが挙げられるが、黒人が白人にリンチにあったとしても、裁かれることがほとんどなかったということが衝撃だった。リンチした白人がなぜ裁かれないかと言うと、裁判官や陪審員が全員白人であり、
具体的な事件を挙げると、黒人の女性が、白人用の席に座り、運転手にどけ!といわれ黒人女性ができませんと言うと、バスを下ろされた事件がある。
つい最近まで、黒人差別が法律で明記されていたのが衝撃だ。
例を挙げるとジムクロー法と言われる法律が1964年まであった。
気になる人はぜひ調べて欲しい。この本を読むのがオススメだ。 -
ブラックカルチャー、公民権運動モノの書籍でこんな読み易い本はなかなかないかもしれません!
著名人に焦点を当てない分、全容が分かりやすい。 -
名もなき、数々の一般市民が受けてきた厳しい差別の歴史。主にキング牧師や本当にメジャーな事件は頭にある。ただ、黒人たちの思いはとてつもなく大きく、沈殿し、鬱屈したエネルギーから、怒りのエネルギーへと変わる。その根源は、決して一事象として片付けられるものではなく、負ってきた数々の傷と闘いの日々にあったことがわかる、非常に大事な本だ。
ジム・クロウ法(黒人差別法)の闇の深さに少しでも触れることができる。ジム・クロウは架空の黒人のキャラクターであり、黒人を劣ったものとして表現されたものだった。こうした劣ったもの、に対し白人がすばらしいもの、統治するがわの人というような屈折した解釈からスタートしているし、現在もなお白人がえらい、最も優れている、という風な感覚を持っている人が非常に多いのも長い歴史を経た結果だ。NAACPの活動もその頃からであり、現在も黒人差別を撤廃すべく諸処働きかけていっている。黒人たちは、余計なことを白人に言うとリンチされるので気を使い、バスでも白人の席が空いていなければ譲らないといけない。それが当たり前になっていた。バスで席を白人に譲らなかったことで、逮捕されたのはいうまでもないが、これが当たり前なわけはない、でもどうしようもない、GenZ世代にはとても受け入れられないだろうし、どうあるべきかから入るこの世代に、ある意味淘汰させるであろうロジックだ。そしてキング牧師に繋がっていく。彼の非暴力の抵抗、高潔さ、やはり彼なしでは黒人差別問題の大きな転換点はなかったのかもしれない。バスはもう乗らないのさ、この歌が心に沁みる。学校の問題も重い、白人と黒人を分離すれども平等、このコンセプトがありながらも、でも自由はある。よく理解できないところが、結局黒人が白人が通う学校には通えなかったことにある。この時のポイントは、どうやら白人の強烈な反対運動と、激しい抵抗によって大統領はじめとする多くのポイントとなる人物たちが、黒人にはまだ我慢を強いるしかないと考えていたことにあるとわかった。立場をわきまえた、「良い二グロ」という考え方が根底にある限り、どちらにいくと個人の幸せにつながるか、そしてそれが正しいのか、という2つの問題に挟まれ続ける。映画館も教会さえも、公共の場も分けられていた。これは映画グリーンブックを見ることで、強く印象付けられたものだ。オクスフォードでの暴動など、日本の学生運動の時代をも想像させるような時代が、ここアメリカにもあったということを日本人はほとんど知らないのではないだろうか。そして、NAACPの活動家も、非常に危険だったことがわかる。1963年に、キング牧師の有名な演説、I have a dream、、が行われた。ケネディが、差別撤廃の法を作ると宣言するのも、大きなデモのうねりの中で行われた。そして、ケネディ大統領が暗殺される。この後に法律は成立するのだが、重苦しい時代だったはずだ。ここまでの大きな流れと、名もなき黒人たちの日々の気持ち、その2つを取り込んだ本書は、どんな人にも学ぶべきポイントがある良書だ。 -
読み応えあり
知ってるようで知らなかった過酷な現実 -
公民権運動を題材としながらキング牧師を初めとする主要人物にスポットを当てるのでなく、副題にもあるように"名もなき人々"の視点、行動から見た公民権運動が書かれていて非常に入り込みやすかった。
この本で扱われた運動は歴史的に重要なもので、恐らく実際にはもっとたくさんの"名もなき人々"が行動を起こしたものの、その多くが実を結ばぬまま人知れず亡くなっていったのだろうと考えると胸が痛い。
この本で書かれた一連の運動は決して過去のものではなく、現在のBLM運動に繋がる潮流の一部に過ぎないと感じた。
運動により進行したのはあくまでも法と権利と保証の問題で、差別感情、人間の心の問題は置き去りにされたままのように思う。
また、扱う題材の性質上黒人の視点、感情でこの問題を見てしまい"差別をする側"に対する怒りや失望を覚えてしまうが、果たして"差別をする側"の視点で見た場合はどうなのか?と言うことがとても気になった。
伝統的、盲目的に差別をしている人もいれば同調圧力に屈したり、本当に黒人に対する恐怖心から差別意識が発露した人もいるはずで、だからと言って暴力を肯定するわけではないけれど、する側の感情も理解する必要があると感じた。一方の視点だけで差別問題を扱うのは少々危険なように思う。
この本では少ないながら"差別をする側"の感情にも触れており、中立的でとても好印象だった。
現在の世情を見ていると、市井の人々が国や法を動かすと言うこの結果が行き過ぎた差別への配慮を生み出しているきらいがあるように個人的には感じるが、黒人差別に関しては一日も早く、昔話として話せる日が来るよう願いたい。 -
2020.4.10. 読了。
●ジェームス・М・バーダマン著『黒人差別とアメリカ公民権運動』<集英社新書>(07)
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html…
黒人音楽を趣味とする私は、黒人文化や人種差別問題等に関しても気にはなっている。ジム・クロウ法、ローザ・パークス、バス・ボイコット、NAACP、キング牧師、KKK、アーカンソー州リトルロック、シット・イン、フリーダム・ライド、ジェイムズ・メレディス、ウィー・シャル・オーヴァーカム、アラバマ州バーミングハム、教会爆破、ケネディー大統領暗殺、長く暑い夏、ワシントン大行進、ミシシッピ・バーニング、マルコムX、アラバマ州セルマ・・・などなど知識としては捉えていた。
しかし、本書を読んで、各事柄の把握が不十分なのを痛感した。もちろん一読して完璧に把握できたとは言い難いが、丁寧に描かれている事でより深く理解できたのは事実だ。「名もなき人々の戦いの記録」と副題にあるように、大局的な、歴史的政治的流れを背景にしながらも、一般の社会人や学生の言動を主体に描かれている為リアリティーを感じたのも一因だろう。
さらに、各事案のあらましは、学術的考察というよりストーリーテリングの感触で語られる。その為映画のような衝撃を伴う。闘争というより戦争であり、悪役の底意地の悪さは、フィクションでは逆にやり過ぎと言われそうな非情さを生み出している。
これらが実際に起きた事であると改めて気づくと、怖ろしさとやるせなさに包まれる。人種差別についてはある程度改善されてはいるものの、日本でも話題になっているヘイト問題などを合わせて考えると人間の醜い部分を見せつけられ、逆に、光明が見える箇所では人間の果てしなき勇敢さも感じる。 -
掲題について入門的な内容。
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「パパ、どうしておじさんは殺されたの?」
「そうだな、ただ黒人だったからさ」
「じゃ、パパも殺される?」
「奴らの気に入らないことをしたら、きっとそうされるよ」
父親の「黒人だった」を違う言葉にしたら今でも使えそうだな。
キング牧師やマルコムXのような公民権運動指導者ではなく、
南部諸州をはじめとしたアメリカ各地で黒人差別と戦った市井の
人々の記録である。
お針子の黒人女性がバスの座席を白人に譲らなかったことから
逮捕された。この出来事をきっかけに、乗り物での人種隔離を
撤廃させようとバスボイコット運動が起こる。
ある者は徒歩で、ある者は黒人運転手のタクシーで、職場や
学校に通う。高齢の労働者は仕事場への5マイルの道を歩き
続ける。「孫の世代のために歩くのさ」と言って。
合衆国最最高裁判所にまで上がった人種隔離撤廃問題は黒人
たちに勝利をもたらす判決を下した。
「私の足はくたびれ果てている、でも魂はやすらいでいるのよ」
来る日も来る日も、歩き続けた黒人女性の言葉である。不覚にも
泣きそうになった。
凄まじいばかりの差別と虐殺の歴史である。南北戦争で敗れて
以降、奴隷解放のなったアメリカ南部では依然公然とした黒人
差別が続く。
黒人であるということだけで、ある者はリンチの対象にされ、ある者は
命さえ奪われる。犯人が見つかったとしても、白人である為に有罪に
などなるはずもない。
肌の色が違う。それだけでここまでの憎悪が湧きあがるものなの
だろうか。そして、その憎悪の裏にあるのは恐怖ではないのだろうか。
新書という紙数の関係で深く追求した部分が少ないが、アメリカ公民権
運動の入門書として最適な良書である。