- Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087203981
作品紹介・あらすじ
江戸の幕が閉じて、たかだか一四〇年にしかならない。ところが、かつてのこの国には津々浦々、町にも村にも、いや野にも山にも水の中にも妖しきものどもが出没していた。それを嘲笑する者ももちろんいたが、そのような態度は少数派であった。人々は妖しき話を歓び、また恐怖した。そして現代からみれば滑稽なほど、さまざまな化物譚を熱心に書き残した。しかしこうした文書には、あながち一笑に付すことのできない、今の我われ日本人の心をも騒がせる不思議の魅力が満ち満ちている。
感想・レビュー・書評
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ロフト行き
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現代と江戸時代では妖怪の受け止め方にかなり差があるのだな、と読み終えて思いました。
狐憑きの狐を御白洲で裁く事件には驚きましたが…。 -
江戸の人びとが妖怪とどう付き合っていたか、をメインテーマにすえた一冊。
キツネは当然化かすものという常識、妖怪に仮託した批評、風刺など、瓦版、錦絵を通じて、丁寧に解説。やじうまの恐ろしさ、人びとの抱えていた闇など、妖怪から派生して興味深い指摘が多かった。 -
本書は江戸時代の日記などに残っている、妖怪が絡んだ事件を紹介したもの。
中には、どこかで聞いた事があるような話も。
例えば「幽霊星」
八歳で子供を産んだという”とや”という少女の話。
(なぜかとは詳しく語られないが)その少女は翌年に死んで「星」になる。そして、その星を見た人は、たちまち死んでしまうという。
「北斗の拳」の”死兆星”の話そっくり。
・・・ではなく、この話、死なないで済むための”おまじない”が付いている。
ある”おまじない”をしておくと、うっかりこの星を見てしまったとしても大丈夫というオチになっている。
思い出すのは「口裂け女」を怯ませるキーワード「ポマード」
他にも学校の怪談でも似た話を聞いた事がある。
他にも出てくる妖怪の話は、まるで芸能人のゴシップネタのような感覚で語られているのが面白い。
現在は、ある一定レベルまでの教育は行き届き、夜は街灯や看板が煌々と街を照らし、「暗闇」が少なくなっている。
そのため、暗闇を跋扈していた妖怪たちもどんどん追いやられてしまった。
・・・と思うのは早計で、かつて「妖怪の行い」という事にしていた事が「電気の振る舞い」に変わったなどと、説明する単語が変わっただけでは?
一見、現象が解明されたように見えても、突き詰めて考えれば、「妖怪の行い」と変わらない部分がある、
と言っていたのは、物理学者であり、夏目漱石の弟子でもあった寺田寅彦。
この言葉をつくづく考えさせられるのは、特に章を分けて紹介されている「アメリカからきた狐」
幕末、欧米列強の船が次々に日本に来た際、「妖怪」までも連れてきてしまった。
その「妖怪」とは伝染病の「コレラ」
この「妖怪」に「狐狼狸」という文字をあて、人々は「妖怪退治」にいそしんだ。
ところで、寺田寅彦が言ったような意味でなくとも「妖怪」を「心霊現象」とか「スピリチュアル」とかいう単語に置き換えると、今も十分、妖怪たちが跋扈していることが分かる。
(特に、とある業界には、一見、人間と見分けがつかない妖怪がたくさんいる。風に乗って空を飛ぶが「滑空能力」しかなく、弱点は「選挙」「金」)
ちなみに江戸時代でも合理的な説明をする人もいた。ただし、少数派ではあったが・・・。
江戸幕府が倒れてから、たかだか140年ほどでは人はそんなに変わらないのだろう。
すくなくとも、ある面では。 -
そういうつもり(当時の人達が妖怪、妖異をどのように認識していたか)で読んだ訳ではなかったが、巷説百物語シリーズ(特に妖怪仕掛けが複雑でない”前巷説”や、文明開化の明治を舞台にした”後巷説”)のサブテキスト的内容だった。
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想像してたより軽い書き口でした。余り好みでない。
意外とたくさんの方が登録されてるんですね。 -
本書のタイトルである「江戸の妖怪事件簿」などという「金田一少年の事件簿」をもじったようなネーミングセンスは置いておくとして、妖怪と聞くと何を思い浮かべるだろうか。首長女だったり、天狗だったり、雪女だったり、そんなものが出てくるだろうか。その他にも数え上げればきりが無いほどたくさんいることだろう。しかし、本当に存在するのだろうか。現在では妖怪などという超自然的存在を信じる者は全くいないだろうが、幽霊ならいまだに多くの人々から信じられているのではないだろうか。江戸時代の人々の間では幽霊と同じぐらい妖怪も根強く信じられていた。民俗学では妖怪のことを、信仰の普遍性が失われて落ちぶれてしまった神々の姿であるとされているが、本書に登場する江戸の人々からすれば妖怪の正体は狐であるとされていた。もし妖怪に出くわしたなら、それは狐に化かされているということだったのだ。
筆者はたしかな証拠や資料にもとずいて、さまざまな妖怪談を披露してくれる。いろんな意味で面白いので、ぜひとも多くの人に読んでいただきたい。 -
<blockquote>昭和十一年に柳田国男が『妖怪談義』で幽霊と妖怪とを区別する定義をしているから。その頃には今に近い使われ方をしていたようだが、それでも今日の我々の思うような「妖怪」という概念については、「昭和三十年代にできあがった」とする京極夏彦氏の指摘もある。漫画家の水木しげる氏が「通俗的妖怪」の構成/読解のシステムを提示し、以後、「水木しげるさんのシステムを使って生成され読み解かれるものが一般に『妖怪』として認識されている」というのである</blockquote>もしそのとおりだとすると、水木しげるの影響力や恐るべしということになる。<br /><br />江戸の人々は、一体どれほどまでに幽霊や妖怪といったものの存在を信じていたのだろうか。<br />著者が、<blockquote>噂こそは、化物がもっとも力を発揮できる棲処だった。</blockquote>と言っているように、自分に都合の良いように解釈して、利用していただけではないかと思えてくる。<br /><blockquote>怨霊の噂は、このように法の裁きの届かない暗部を明るみに出汁裁く死刑(リンチ)としての働きをも果たしていた。それは、正義の鉄槌であり、デマの暴力であり、世間の娯楽であり、つまりゴシップであった。</blockquote>そんなところに引っ張り出される怨霊の存在とは一体何なのだろうか?<br /><blockquote>投石は群衆のなかに棲む妖怪のしわざであったともいえるだろう。</blockquote>江戸の人々の群集心理のはけ口になっていたと見るべきなのか。<br /><br />江戸時代の俳人であり仮名草子作者であった山岡元隣が、怪異に関する解釈として示した<blockquote>「人の目に見え、耳に聞こえるものは、すべて陰陽の二気からなっています。<br />そのうち、陽のなすしわざを神といい、陰のなすところを鬼といいます。物事の始まり成長することは神であり、減衰して終わることが鬼なのです。</blockquote>という理解は、至極単純化されていて面白いと思った。<br />また、<blockquote>元隣は、「雪女」は雪から生まれるという。ものが多く積もれば、必ずそのなかに生物を生ずるのが道理で、水が深ければ魚、林が茂れば鳥を生ずる。雪も陰、女も陰であるから、越路などでは深い雪のなかに雪女を生ずるということもあるかもしれぬというのである。</blockquote>という考えは、なかなかユニークで、そんな馬鹿なと一笑に付すには惜しい、日本古来の「八百万(やおよろず)の神々」という考えにも相通じるものがあるような気がした。もっとも、「女も陰」という点については、世の女性陣の賛同は得られないだろうが。<br />さらに、<blockquote>すべてが理にしたがっているという意味では「世界に不思議な氏」、だが人は理のすべてを把握できないから「世界皆ふしぎ」である。</blockquote>という元隣の考えには素直に賛同できた。すなわち、この世の理解不能な現象も、現在人類が知り得ている知識では解明できないが、未だ発見されていない科学の真理をもってすればつまびらかになるであろうという解釈である。<br /><blockquote>怪談は、その隠された倫理性ゆえに、遠方の物語であるよりも、雑踏し人倫の錯綜する都市でこそ多く生まれ、娯楽として大量消費されるのである。</blockquote><blockquote>怪談は世相につれて変容する娯楽であったばかりでなく、民衆の無意識、社会の底流のざわめきをすくい取って物語化したものであり、闇の領域からこの世を牽引しようとしてうごめく力を形象化したものでもあった。それは猟奇的で逸脱的な表象に満ちていながらも、混沌にではなく、むしろ秩序への志向をもっていたようである。</blockquote>
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[ 内容 ]
江戸の幕が閉じて、たかだか一四〇年にしかならない。
ところが、かつてのこの国には津々浦々、町にも村にも、いや野にも山にも水の中にも妖しきものどもが出没していた。
それを嘲笑する者ももちろんいたが、そのような態度は少数派であった。
人々は妖しき話を歓び、また恐怖した。
そして現代からみれば滑稽なほど、さまざまな化物譚を熱心に書き残した。
しかしこうした文書には、あながち一笑に付すことのできない、今の我われ日本人の心をも騒がせる不思議の魅力が満ち満ちている。
[ 目次 ]
1章 江戸時代は、妖怪でいっぱい!
2章 本木村化物騒動
3章 ゴシップとしての怪談
4章 狐の裁判
5章 妖怪のいる自然学
6章 アメリカから来た狐
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