非線形科学 (集英社新書 408G)

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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087204087

作品紹介・あらすじ

自然界の秩序は、どのように生み出されているのだろうか。すべてのものがエントロピーを生成し崩壊に向かう物理法則のなかで、どのように森羅万象が形づくられているのだろう?自然にでき上がる模様などのパターン、自ずと同期するリズムや振動-実は、意思を感じざるを得ないような不思議な自然現象にも、複雑で手のつけようのなさそうな現象にも、明快な法則・能動因が潜んでいる。そして、非線形科学は、これまでの科学とは異なる視点から、その動的な機構を明らかにする。私たちに新たな自然観を与える非線形科学について、第一人者が分かりやすく解説した、知的好奇心を刺激する入門書。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の蔵本由紀氏は、国際高等研究所副所長、京都大学名誉教授などを務める物理学者。非線形動力学(非線形科学)の世界的権威で、本書でも取り上げられる「蔵本モデル」(振動子集団の可解模型)を提唱した業績などで、ノーベル賞候補との評価もある。
    本書は、「全体が部分の総和としては理解できない」いわゆる“非線形現象”の典型である“同期現象”について、具体的な現れ方を多くの例を通じて、数式を使わずに紹介・説明しようとしたものである。因みに、「全体が部分の総和として理解できる」現象を“線形現象”といい、従来の数学を基にした数々の手法は、線形現象は説明できるが、非線形現象を説明することは困難であったのだという。
    そして、著者は同期(=シンクロ)現象として、複数の振り子時計、複数のメトロノーム、パイプオルガンの音、ろうそくの炎や、自然界のコオロギの声、カエルの声、ホタルの光、生理現象である心拍、体内時計、更に、ロンドンのミレニアム・ブリッジの揺れ、コンサートホールでの拍手など、数々の興味深い例を詳しく取り上げている。
    そうした同期現象は近年注目を集めるようになってきており、それは、物理学者の努力やコンピューターの高度化により理論的な取り扱いが可能になってきたこと、生命科学の進歩に伴い、生き物の様々な活動の中に同期現象が含まれていることが判明してきたこと、同期現象を人工システムにいろいろと応用できるのではないかと期待されていることなどによるのだという。
    そして著者は、同期現象は一見関係がなく見える様々な科学分野をつなげる普遍的な概念の典型であるとし、これまでの科学は、「分解して、総合する」ことによって、この世界を理解しようとしてきたが、ここに来て人々はそのアプローチに疑いと不安を感じ始めており、この複雑世界を理解するためには、複雑なものを複雑なまま捉えて、そこに潜む構造を発見し、それらを丁寧に調べていくことが必要であると結んでいる。
    後段の生理現象や自律分散システムに関する記述は相当難解で、典型的文系キャリアの私はとても理解できたとは思えないが、著者が最も伝えたかったであろう同期現象の面白さは十分に感じられたし、今後現実世界で様々な現象を見、聞き、感じるにあたって、新たな切り口を与えてもらったことは間違いない。
    (2017年7月了)

  •  落下の法則、ニュートンの3法則なんかとは違う、不確定的な法則、反応、事実を調べる非線形科学について書かれている。
    うちの学科ってこういうことをやるんだよなー、って再確認できる。BZ反応とか授業でやったしなー。魅力的だが、めちゃくちゃ難しいというのはあるが…

  • この先生の授業は大学の時に受けた気がする。当時はよくわからなかった。今回、この本は楽しめた。新書だがレベルは高い。

  • 非常に難しいが、歴史は冪乗で動く、アロメトリーの冪乗法則、これもフラクタルか。とのつながりが興味深かい。さらにプロローグとエピローグがすべて。「創発と言う概念をよりどころにした複雑現象の科学は、原理を探求する基礎科学として本当に成り立つか、その根拠は」これには明確な応えはない。しかし。「不変と多様性」で前者が素粒子物理の諸法則に、行為者が物質科学レベルの諸現象に対応するというのは間違いと。つまり樹木の根元に遡ることなく、枝葉にわかれた末端レベルで横断的な不変構造を発見できるという事実を強調。逆に言えば「不変なものを通じて変転する世界、多様な世界を理解する」を主張。ファイゲンバウムの普遍定数も。

  • 文系脳の非線形科学 №1   -2007.11.01記

    「非線形科学」を読みおえ、混濁した頭を抱えつつなんとか理解の歩を進めたいと悪銭苦闘しているのだが、なかなかに点と点が結ばれて線へとはならないものである。これまで科学的な知見に対し、どれほど直感的かつ好い加減に接してきたか、たんなる言語遊戯にすぎなかったのではないかと悔恨しきりである。
    だが、このたびはこのままやり過ごすわけにはいかぬ。あくまでも私なりにではあるが、本書をほぼ理解する必要があると、そんな衝動が、熱が身内を貫いている。おそらく、これらの理解は、私がずっと拘ってきた身体表現のありように、方法論的な明証さを与えるものとなるはずだ、とそう思うからである。
    遅々とした歩みだとしても、ひとまず歩き出さねばならない。

    <フィードバックシステム>
    栄養物の入った容器のなかで増殖するバクテリアは、バクテリアの量が少なく栄養が充分に豊富なあいだはどんどん増殖するが、その限りにおいて増殖の速さはバクテリアの総量に比例するという線形的な法則が成り立っているかとみえる。しかし、容器内の栄養物が枯渇してくると、この比例関係は成り立たなくなり、増殖は頭打ちとなる。この場合、増殖の進行そのものが増殖を押しとどめる原因になるという、自動調節機構が働いていると考えられるが、この機能をフィードバックといい、事態の進行がその進行そのものを妨げるように働くことを、負のフィードバック=ネガティヴ.フィードバックといい、その逆に、栄養物が枯渇するまでバクテリアの自己増殖がどんどん促進される、その機能を正のフィードバック=ポジティヴ.フィードバックという。このように生化学反応における自己増殖や自己組織化にはフィードバックシステムが欠かせない。生物は熱力学の第二法則に反して、エントロピーの高い状態を保ち続ける物質であり、そのためには、動物の場合の化学エネルギーであれ植物の場合の光エネルギーであれ、たえずエネルギーを必要とする。これらのエネルギーを体内に取り込んでは捨てるという代謝作用が分子的に組みあげられた複合体が生物である。
    細胞内ではこれら正と負の2つのフィードバックシステムはさまざまな場面で現れ、細胞の自己組織化をコントロールしている。ネガティブ.フィードバックは代謝反応の制御や細胞増殖の制御に利用され、ポジティブ.フィードバックは情報伝達と応答反応に利用されている。遺伝子発現の制御、複製や細胞分裂など複雑な生命現象では双方が同時的に働き、巧妙な仕組みが成立している。一般にポジティヴ.フィードバックが働く場合は、それを抑制するネガティブ.フィードバックが備わっていないと破滅的な結果にいたる。正と負の双方のフィードバックをあわせもつ複合的な非線形システムは、自然界において広く存在する。

    元来フィードバックとはサイバネティクスにおける用語であるが、この考え方は人間社会でも多く取り入れられている。分かり易い例を引けば、個人レベルにおける「反省」ということ。反省とは経験から学んだ大切なことを文章にして、他人に伝えることができる形にすることだが、通常、反省はポジティブではなく、ネガティブな経験から教訓を導き出すように使われ、自らの失敗や不十分さを謙虚に認めることや、同じ過ちを繰り返さないために、その原因を分析し明らかにする。また、さまざまな事象や問題に対する評価や批判は、社会のフィードバック制御であるといえる。行政の行動に対しては選挙やマスコミによる世論調査、裁判、NGOの活動などがいろいろな評価をする。経済活動に対しては価格や市場、株価などが結果的にポジティブ.ネガティブに作用する。これらは外部の独立した仕組みとしてのフィードバックシステムといえるだろう。実際には、あらゆる組織というものはそれぞれにおいてなんらかのフィードバック.システムを内蔵してその安定を保とうとしているものである。それぞれ固有の歯止めとしてのフィードバックシステムが働かなければ組織がうまく機能しないというわけである。

    だが、これら人間社会にもさまざまにみられるフィードバック.システムには、制御の「遅れ」という難題がつねに立ちはだかっているともいえる。
    近頃の、NOVAの破綻騒動にしても然り、C型肝炎の薬害問題然りで、行政の監視システムや法制上の綻びなどさまざまに複合的な原因が云々されようが、これらすべてフィードバックの制御システムの「遅れ」の問題といえるわけである。
    NOVAや薬害問題のごとき大きな事件にかぎらず、いわば新聞紙面やTV報道に日々登場するあらゆる事件や事象のうちに、この制御の「遅れ」という問題が潜んでいるのだ。

  • 金大生のための読書案内で展示していた図書です。
    ▼先生の推薦文はこちら
    https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=31081

    ▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
    http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BA83121800

  • p.19-21 構成要素の相互作用から生まれる新しい性質の発現を創発とよぶことができる。例)鉄が結晶化したり、磁気を帯びる。
    p.120 縮約
    p.211 臨界状態での物質内のゆらぎを特徴づけるキーワードは、自己相似性やベキ法則。(平均値や分散や中心極限定理に変わって)
    ☆不安定というか、生々流転する世界の基本法則なのか?
    p.212-213 自己相似性はベキ法則と密接に関係。自自己相似性を持つ。

  • 一般書だが、やはり難しい。
    ただ一見無関係に見える自然現象に共通の挙動が見られたり、同じ指数を共有していたりという事実を、控えめながらもその感激を読者に伝えたいという思いが感じられる。
    別の本でも印象に残っているのが、本論に関わらず物事に対する見方、視点の柔軟性、また既存観念に囚われることの危険性への発言など、頷く事ばかり。
    学者以前に人間・啓蒙家としての蔵本に脱帽。

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著者プロフィール

京都大学名誉教授

「2023年 『リズム現象の世界 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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