日本の行く道 (集英社新書 423C)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087204230

感想・レビュー・書評

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  • いじめ問題や格差問題、環境問題や経済問題など、さまざまな題材の周りをめぐりつつ、「日本の行く道」について著者が論じた本です。

    「いじめ」問題が「学校化社会」の閉塞感によって深刻化しているという指摘は、とくに目新しいものではありません。ただ著者の議論のおもしろいところは、こうした問題を格差社会の問題に結びつけているところです。

    著者は、現在の日本が「格差があるから格差社会だ」という同語反復の中に閉じこもっていると指摘しています。「このままでは生きていけない」という崖っぷちに立たされている人びとへの想像力を、「格差」という言葉が隠蔽してしまっているというのが、著者の着眼点です。そして、「さっさと自立しなさい」と言われた「子ども」が、「子ども」のままで「促成栽培の大人」になってしまったことが、こうした問題の背後にあると著者は主張します。こうして「促成栽培の大人」になってしまった「子ども」は、「自己責任」という言葉を口にして、「その自立した自分と他人との関係はどうなるのか」という面倒くさい問題を引き受けないままでいると論じられます。

    後半は、日本が近代化という道を選択し、そこで成功を収めたにも関わらず、その後の日本の自立について何も考えてこなかったことが、ここへきて問題として現われてきていることが論じられます。

    最近の著者の議論は、以前よりも格段に読みやすくなった一方で、やや図式的な議論に陥りがちな気がします。

  • 2005年出版。
    しかし内容は震災と原発事故、悪化する一方の経済に喘ぐ
    今の日本にますますふさわしい。

    タイトルからは「何らかの解答」が示されているように思えるけれど、
    これは「ほとんど解決不能な問題を前にしたときの考え方」
    について書かれた本。

    そんな問題に直面した時には「これからどうしよう?」ではなく
    「過去にどういった選択をした結果、この状況に至ったのだろう?」
    と考えるといい。

    コナン・ドイルの「緋色の研究」でシャーロック・ホームズは
    「物事を訴求的に推理する(reason backward)」ことの大切さを
    説いているが、まさにこれが遡及的な思考。

    例えば地球温暖化について著者は
    「じゃあ冷房の温度設定を28℃にしよう」ではなく
    どうしてこうなったかを遡って考える。
    すると「炭酸ガスの排出が劇的に増加した19世紀の産業革命」に
    辿り着く。それは「自分が必要とする以上のものを生産し、
    必要か不必要かに関係なく誰かに売りつけて利潤を増やす」という
    道を選択した、ということである。
    その結果、原材料と市場の確保のために植民地を必要とし、
    いくつもの直接的な戦争と、その後の貿易戦争、
    そして様々な廃棄物と炭酸ガスを生み出した。

    著者は「じゃあ、産業革命以前に戻ったらどうなる?」
    せめて「日本が調子よかった1960年前半くらいに戻ったらどうか」
    という大胆な仮説を立てる。
    それはあまりにも壮大で笑ってしまうくらいなのだが、
    よく考えると妙に納得してしまうものだったりする。

    「せめて日本が調子よかった1960年前半くらいに戻ったらどうか」
    「新幹線は辛うじてあるが、高層ビルはまだなく、クルマもまばら」

    そんなのも悪くないな。と感じさせるのはさすが。

  • 当時誰も気づかない方向の示唆があったよね。

  • 日本が旧列強国家の顔色を伺ってしまっているのはどうしてかわかった

    開国=近代化ではなく、(近代化しないという選択肢もあったのに)その間に成り行きがあった

    (長州・薩摩が今に続いているということも感慨深い)

    近代化はうまく行き、国民に生活がひとまずできる豊かさが行き渡ったところで「もういいね」と言えたらかっこよかったんだな

    顔色を伺う必要はないんだね
    今だってできることはある
    顔色を伺わない、という選択ができたらいいんだな

    歴史を知ることで今違う選択をできたら学ぶ意味もある

  • いつもなら橋本氏の著書を読むと新しい視野が開けてきて、「言われてみれば確かにそうだ!」と手を打つのだが、今回は納得感に乏しかった。
    総論として言わんとするところは、「もう進歩を目指すのは止めようよ。地球も社会も壊れちゃって幸せになれないよ。」というもので、産業革命以前、それが難しければ1960年以前の生活に戻ろうという提案。その象徴として高層ビルを禁止し、大量生産して外国へ貿易戦争を仕掛けるのもやめようと説く。1960年から人口が3000万人も増えているのだから、1960年の生活に戻すには3000万人の日本人を国外追放するか抹殺しなければ収支が成立しないのだが、著者が言いたいのはそういう各論の議論ではなく、「進歩=良い事という固定観念を疑い、みんなで貧乏になろうぜ」と言う思想なのだろう。それはそれでミニマリストにも通じる一つの見識ではあるものの、それで「何かおかしい」が解決するとして、人々は幸せになれるのだろうか。そうかも知れないし、違うような気もする。

  • 20170202読了。読み進めながら、子供の自殺・教育・家とフンフンと納得したつもりだった。読み終えてふりかえると、「なぜ途中で産業革命が挟まれているのか」と不思議に思える。この本はなんだったんだろう、、、

  • 05/17 せんげんカメレオン ¥105

  • 20110403 やはり面白い

  • “1960年代の生き方に戻ったらよい”という考え。

  • 内容を思い出せない。なにか、心をハッとさせるところがなかったのだと思う(私にとって)。

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著者プロフィール

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文科卒。小説、戯曲、舞台演出、評論、古典の現代語訳ほか、ジャンルを越えて活躍。著書に『桃尻娘』(小説現代新人賞佳作)、『宗教なんかこわくない!』(新潮学芸賞)、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『蝶のゆくえ』(柴田錬三郎賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)、『窯変源氏物語』、『巡礼』、『リア家の人々』、『BAcBAHその他』『あなたの苦手な彼女について』『人はなぜ「美しい」がわかるのか』『ちゃんと話すための敬語の本』他多数。

「2019年 『思いつきで世界は進む』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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