創るセンス 工作の思考 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 860
レビュー : 84
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087205312

作品紹介・あらすじ

かつての日本では、多くの少年が何らかの工作をしていた。しかし、技術の発展で社会が便利になり、手を汚して実際にものを作るという習慣は衰退し、既製品を選んだり、コンピュータの画面上で作業することが主になった。このような変化の過程で失われた、大切なものがある。それは、ものを作ったことのない人には、想像さえつかないものかもしれない。「ものを作る体験」でしか学べない創造の領域、視覚的な思考、培われるセンスとは何か。長年、工作を続けている人気作家が、自らの経験を踏まえつつ論じていく。

感想・レビュー・書評

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  • 工作力があがるほどに、工作者は工作の過程において出来上がりを悲観する。この謙虚さを、このリアリズムを、設計図を描き数値化すればすべてを完成させた気になる技術者は忘れている。素人工作者のはしくれとして、肝に銘じた。
    近頃は何もかもがパッケージ化されている。その内実を見ることなく、パッケージごと取り替えることのつまらなさを改めて実感。

  • 冒頭の「僕は工作が大好きだ。ほとんど毎日なにか作っている」という言葉にわっと惹かれました。

    この人のように自分も中途半端に迷わず何かを作り続けてくればよかったと感じます。

    読み終わった後、スカイクロラの作者と知った。
    小さい頃、私も工作ばかりしてた。工作やめる理由なんてなかったのに。また始めようと思う。

  • 工作好きな私にとっては、内容にも納得がいく書籍でした。内容は工作文化に関する事です。著者と私は14歳程度離れていますが、育った社会環境が似ていたのか、懐かしくもありました。

    自分時間を増やし、散らかした工作の続きをしたいこのごろです。

  • 思索

  •  凄い。
     ただその一言に尽きる。
     森博嗣という希有な才能が発している魅力が、本書にはぎっしりと詰まっていると感じた。
     こんな凄い本が1,000円未満で買えるなんて信じられないほど。

     あとがきにも書かれているように、森氏の持つ素晴らしい思考の輝きや思想の断片は、これまでも作品やエッセィの端々で見受けられてきた。けれど、それらはあくまでも「断片」でしかなく、たぶん、同じ「性質」を持っている同士(と言うのは烏滸がましいけれど)でなければ理解できない種類のものでしかなかったように思う。もっと分かりやすい、例えば誰か(何か)を批判する文章や、単純に技巧の面白さだけが読者の目に付き、その奥にある本質的な部分にまで辿り着ける読者は少なかったんじゃないかなと思う。もちろん、それはあくまでも割合の話であって、それなりの読書経験を積んできた人にとっては、その片鱗的なものは垣間見ることが出来ていたのだろう。けれど、そこに込められている「意志」あるいは「哲学」とでも呼ぶべき種類のものは、きっと「同士」でなければ見出すことすら出来なかったはずだ。
     そんな素晴らしい宝物を、森氏は本書で惜しげもなく開陳してくれている。ただ見せるだけではなく、実際に手にとって弄くり回せるように準備までしてくれている。こんなに贅沢な本、そうそう巡り会えるものではない。

     「技術者」を自称している人にとって必読の書だと思う。
     最早バイブルとして位置付けられても良いくらいだ。
     「技術者」を名乗るのであれば、ここに綴られている全ての文章が理解できなければならない。内容を盲信する必要はない。しかし、結局は同じ場所に辿り着くはずだ。書かれている言葉をなぞるのではなく、書かれている言葉の意味をしっかりと考え、「自分の言葉」として消化し、吸収することが重要だ。それがつまり、「理解する」という事なのだから。

     とにかく凄い書籍であることは間違いない。
     四の五の言わずにとりあえず読むべき。
     こういう方面に意識を向けてこなかった人でも、きっと新しい世界が見えてくる。
     それは素晴らしく豊穣で、途轍もなく面白い世界である。

    最後の段落を引用しておく。
    <blockquote> 工作を紹介したインターネットのサイト、そして日々の工作を楽しく綴ったブログも数多い。それぞれに「神様」がいることが感じられる。というか、そういう「神様」を感じさせる工作者は、揺るがないし、傍から見ていても「凄い」と感じるものがある。上手い下手というよりも、大事なのはこの「凄さ」なのだ。
     最終的に周囲の人に影響を与えるものは、技術的な高い低い、上手い下手ではなくて、「凄さ」なのだと思われる。いろいろな要素が、その「凄さ」に関わってくるけれど、これに触れると、もう自分でも何かしないと気が済まない、という思いに駆られる。「凄さ」がひしひしと伝わってきて、本当に痺れてしまう。痺れたら最後、自分も少しでも凄いことをしてみたい、といても立ってもいられなくなるのだ。
     この連鎖こそが、人間の力なのではないかとさえ思う。「教育」だって、基本はここにあるはずだ。人に伝えられるもの、影響を与えられるものを、大事にしなければならない。凄い大人がいれば、子供はすぐにそれを見つけて、集まってくるだろう。子供の好奇心は、常に人間の凄さを探し求めている。自分がなりたいと思えるような凄い人を見つけようとしているのだ。それが「若さ」というものだと思う。だからこそ、僕はこの歳になっても、まだまだ人間の凄さに出合いたいし、もちろん自分の中にも、少しでも凄さを見つけたい。そう願っているのである。
     というわけで、結論としては、創作が生み出す価値とは、「人間の凄さ」である、ということになる。抽象的な表現で申し訳ないが、これ以上に適切な言葉を思いつけなかった。ご理解いただけただろうか。
     一度でも「凄さ」を感じたことがあれば、「ああ、そうそう」と頷かれることと思う。それは、工作に限らず、どんなジャンルでも見つけることができるし、人間が人間に憧れるメカニズムはすべてこれだといえる。天性の凄さももちろんあるけれど、大部分の凄さは、日常の中で、こつこつと少しずつ作られたものであることに注目して欲しい。それは、きっと貴方にもできる。

     ものを作ることは、「凄さ」を見つけること、「凄さ」を形にすることである。</blockquote>

  • 新書

  • ジャンル:森博嗣の工作と人生について。これを読んで物を創られずにはいられない。赤松健と同じ視点の仕事感も面白い。自分のような創りあぐねている人に超オススメできる一冊。

  • 少年時代から趣味としての工作を続けてきた著者が、「ものを作る」ということの意義と魅力を語っている本です。「ものを作る体験」の中で培われるセンスを重視する著者の姿勢は、養老孟司の都市化・脳化批判に通じるところがあります。

    教育論や人生論に話は及んでいきますが、はにかみながらもみずからの信念を普遍化して語ってみようとする著者の文章に、何とも言いがたいユーモアが感じられます。

  • 以下、本文からの引用

    ──教育の場には、わかっている子とわかっていない子がいなければならない。最初はみんなわかっていないけれど、教えることによって、一部の子がわかるようになる。しかし、教えてもらってもわからない子が必ずいる。これがとても大事なことなのだ。
     子供たちは、自分はわかったのに、わからない他者がいる、ということを認識するのである。そして、なぜわからないのか、と考える。ここが重要なのだ。どうして理解できないのか。どう考えているから理解できないのか。どうすれば理解できるようになるのか。そういう思考になる。

    ──それでは、もう少し具体的に、この「技術のセンス」がどんなものかを説明していきたい。まず、時系列に箇条書きにすると、こんな感じになる。
    ①上手くいかないのが普通、という悲観
    ②トラブルの原因を特定するための試行
    ③現場にあるものを利用するための応用力
    ④最適化を追求する観察眼

    ──そもそも、完璧というものはない。どこまでいってもこれ以上はない、という状況にはならない。むしろ、上り詰めるほど見えなかったものが見えてくる。この感覚は、研究でも同じだ。調べるほど、考えるほど、探求するほど、むしろ謎は増える。知れば知るほど、わからないことが多くなる。ようするに、知ることは、知らないことを増やす行為なのだ。工作の技術が向上するほど、工作の未熟さが見えるようになる、というのと似ている。

  • 作家である森博嗣が書く、工作についての1冊。
    作家として有名な森博嗣であるが、モノを作ることも得意としており、小さいころからモノづくりをしながら育ってきたような人でもある。
    そのため、モノをつくるということに対する、基本的なことというか芯の部分から理解することができる1冊となっている。また、予め決められたモノを作るではなく、モノを創り出すとはどういうことかという視点にも立たれており、工学に携わる者なら非常に参考になる本となっている。
    この本を読んでいて特にハッとしたのが、自分の先輩も誤差には特に細かかったというのを思い出した。本書の中でも誤差を知ることはとても重要だとされており、誤差は必ず生じるものなので、その誤差がどれぐらいの大きさなのかを知っておく必要があるとしている。同じく自分の先輩も、モノづくりの確認過程におけるチェックでモノ自身の誤差、そして測定する機器にも誤差があることを踏まえ、どの程度の誤差なら許容してもいいかを考える必要があるとしていた。
    モノをつくるうえで、設計どおりに作ることは当然重要であるが、誤差がそれ以上に重要であるということを思い出させた1冊でもあった。

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著者プロフィール

森 博嗣(もり ひろし)
1957年、愛知県生まれ。作家、元研究者。名古屋大学工学部建築学科、同大学大学院修士課程修了を経て、三重大学工学部助手、名古屋大学助教授。名古屋大学で工学博士を取得し、2005年退職。学会で数々の受賞歴がある。
作家として、1996年に『すべてがFになる』で第1回メフィスト賞を受賞し、同作で作家デビュー。S&Mシリーズとして代表作の一つに。『スカイ・クロラ』シリーズは本人も認める代表作で、2008年アニメ映画化された。その他にも非常に多くの著作がある。

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