- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087206098
作品紹介・あらすじ
ドイツ留学中の著者は、五〇〇年前のデューラーの『自画像』から啓示を受けた。「私はここにいる。お前はどこに立っている?」。絵の中の同じ二八歳の男は、鬱々とした内面の森をさ迷う在日の青年に、宿命との対峙を突きつけたのだ。三〇年後、人気美術番組の司会を務めた著者は、古今東西の絵画や彫刻の魅力を次々に再発見していく。ベラスケス、マネ、クリムト、ゴーギャン、ブリューゲル、ミレー、若冲、沈寿官-。本書は「美術本」的な装いの「自己内対話」の記録であり、現代の祈りと再生への道筋を標した人生哲学の書でもある。
感想・レビュー・書評
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タイトルがいいと思う。
あなたは誰?と問われ
なんと応じましょう?
ちなみに相手は肖像画。
時代も文化も何もかも
違う相手。
まずは名乗ってみる?
いえいえそういうこと
ではなさそうです。
そう、問われてるのは
アイデンティティです。
見透かされてるんです、
ボンヤリ生きてること
を(¯―¯٥)・・・
さてさて、なんと応じ
ましょうか???詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2009年4月から2011年3月まで、NHK日曜美術館の司会をされていた姜尚中氏による美術に関する考察本。
美術はご専門ではなく、政治思想史が専門だが、在日であることからアイデンティティのあり方に悩んでいた時に出会った数々の絵や工芸品にどのようにして惹かれていったのかを語り、作家の心がどこにあったのかを考察した、大変興味深い本。
特に興味を持てたのは、次の美術品に対する考察。
ベラスケスの絵画「女官たち」
宮廷の中央に王女がいて、そのまわりに何人かの女官がかしづいてして、絵筆を持ったベラスケス自身も絵の中にいる。ベラスケス自身の心はどこにあるかというと、隅っこに描かれた矮人(体が小さく愛玩動物的に宮廷に住んでいた人)の女性と重ねていたのではないか。ユダヤ人であることを隠していたユダヤ人はマイノリティである矮人と心を重ねていたのではないか。
長谷川等伯「松林図屏風」
一面に靄がかかった中、濃く、薄く松が姿を表しているが、白の面積が多い“白の絵画“。白というのは空虚な色ではないと分かる。非常なる密度でさまざまな要素が詰め込まれ、凝縮され、その結果、白い輝きとして発光した色。
マーク・ロスコ「シーグラム壁画」
巨大なキャンバスに黒と臙脂だけを使って塗った抽象画。臙脂にも血のような赤や暗い褐色、黒にも紫のような黒や焦茶色のような黒がある。じっと見ていると自我が心地良く溶け出し、忘我の境地のようなところに入っていく。
世界大戦のころから人々は自分の物語と過去の物語が繋がらないことが多くなり、自分と世界が容易に結びつけられなくなってきた。もはや具体的な方法では自己表現が出来なくなり、抽象画が生まれた。
ブリューゲル「絞首台の上のカササギ」
絞首台の横で人々が手を繋いで踊っていて、その光景をカササギが見ている。不吉な場の絵だが、おそらく絞首台はもうその役目を果たしたものであって、雲の切れ間から光が指すような安堵感を感じられる。辛いことがあっても「再生」の時は必ずやってくるというメッセージがあるのではないか。
伊藤若冲「群鶏図」
真っ赤なとさかと色とりどりの尾を靡かせた鶏が大きな画面を覆い尽くしていて、圧巻。
絵のどこにも中心がない。遠近法は無視され、13羽のどの鶏にも焦点が合っている。生き物の写生というよりもデザイン画のよう。人間の目で鶏を描いたのではなく若冲自身が鶏の仲間になって絵筆を運んだのではないか。
美術はただ「綺麗」なものが尊ばれるのではなく技術的に「上手い」がいいとも限らず、文学や音楽のように奥深いと思った。絵が上手くなくても、美術に対する知識が無くても自分なりに美術を楽しみたいと思った。
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美術館に行く前に、予習したくて読んだ。
絵と対峙する中でどのような思いがあるのか著者の見解を楽しんだ。 -
芸術鑑賞論と哲学論の中間のような感じ。
人によって絵画彫刻の観方が違うので、人の着眼点を知るのは面白い。
同じ視点には共感し、知らなかった視点には気付きと
同じ物を見て自分はどう思うか試したい意欲が出てくる。 -
ブックオフ売却
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30年前、デューラーの《自画像》から身震いするような感動を覚え啓示を受けたと云う著者。ベラスケス、マネ、ブリューゲル、クリムト、ゴーギャン、ルーシー・リー、ハンス・コパー、円空、熊田千佳慕・・・などの絵画や陶器や彫刻という古今東西のアーティストの作品群を深い洞察力で綴っている。
福島を訪れた氏が戦慄的ながれきの山を目にした様子から、ブリューゲルの《死の勝利》《バベルの塔》について、失意と絶望の闇の中に、それでも希望のかすかな光が見える。再生の時が必ずやってくるのだ!というそうしたメッセージが認められている。
NHKEテレ『日曜美術館』の司会をやられていたのを拝見して好感を持っていたが、こんな細部まで観ているのかと・・・本書を読んで新たな絵の鑑賞法を学んだ。 -
面白い!
失礼ながら、テレビでよく見かける
気難しそうなコメンテーターに、
まさか、こんなにも分かりやすく、
そして、感動的に、
芸術の解説をしていただけるとは!
そもそも私は芸術に無知無関心だったのに、
このタイトルに吸い寄せられました。
少しだけ人間の幅が広がった気がします。
感謝です。
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こういう美術鑑賞の仕方もあるんだな.でもこのような深読みは自分には難しい.様々な視点があり,それを文章化できるのは凄い.
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レビュー省略
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NHK「日曜美術館」の司会をしていた著者が、当時出会った絵画や美術品について書いている。
政治学者である著者は、芸術の専門家ではないので解説書ではなくあくまで著者自身の感想といったところ。
冒頭と末尾に出てくるアルブレヒト・デュラーの作品は、とても印象的だった。
最初と最後に持ってくるあたり、著者自身もこの絵画に大きな影響を受けたと思われる。
絵画は、語る。
それは、鑑賞者に向けてだけではなく、いやむしろ画家自身に向けてのメッセージなのかもしれない。
そんな風にも思った。