実存と構造 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087206104

作品紹介・あらすじ

二十世紀を代表する二つの思想-実存主義と構造主義。この「実存」と「構造」という概念は、実は表裏の関係にあり、人生に指針を与え、困難な時代を生きるための思考モデルでもある。同時代的に実存主義と構造主義の流れを体験してきた作家が、さまざまな具体例、文学作品等を示しつつ、今こそ必要な「実存」と「構造」という考え方について、新たな視点で論じていく。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀の思想界を席巻した実存主義と構造主義の考え方を平易に紹介するとともに、戦後の日本文学のなかでこれらの思想がどのように受容されているのかを論じた本です。

    著者は、実存の病に苦しんでいる人間にとって、みずからの抱えている問題がこれまでいくどとなく繰り返されてきた構造の反復であることが「救済」になりうると主張します。そのうえで、大江健三郎と中上健次の作品をとりあげ、彼らが戦後の日本文学にもたらしたものについて考察が展開されています。とくに著者は、大江の『万延元年のフットボール』や中上の『枯木灘』『千年の愉楽』に注目し、そこで反復する物語の構造を自覚的に作品のうちに取り入れることで、戦後の日本文学が直面していた「実存」という袋小路からの解放が示されていると論じています。

  • 実存主義や構造主義を論じた本ではなく、それらが文学作品の中でどのような役割を担っているか、分かりやすく解説した文学論。平易で読みやすく面白い。個人的な感想として、実存と構造の結合という点では、実存を包み込む構造という結論で終わらせるには少々物足りない感もあり、ひとつの疑問提起になった。

  • プロローグにて開口一番、本著は思想の解説書、あるいは文学評論でもないと断っており、ギリギリタイトル詐欺を回避しています。

    実際は、前半は人生とは何かという難問を解明するための思考モデルとして二者をカミュ,カフカやレヴィ=ストロースの紹介を交えながら解説し、後半は大江健三郎、中上健次作品を中心とした戦後日本文学を実存と構造という切り口で論じた文学論となっています。

    己の苦悩を誰とも分かち合うことのできない実存の病を、神話的構造の繰り返しにはめ込むことによってメタ視点から相対化し、孤独から救済するということが本著にコンセプトのようですが、これが人生という難問に対して本質的に有効かどうかはさておき、文学論の切り口としては面白かったです。

  • 実存と構造について説得的な解説がなされているというよりはどちらかというと文学の本で、前半は面白かったが、後半はノーベル賞作家の話ばかりぐだぐだしているいわゆる文学にありがちな権威主義の生き写しのような本だった。この本に限らず、「そろそろ、やめませんか。ノーベル賞の話するの。」と私はずっと思っている。この手の構造主義と実存主義に関する論考はもうほぼほぼ出尽くしていて、やり尽くされているので、ブッカー賞作家の話とか、もっと独特の権威主義の匂いのない文学観が読みたかったなぁ。文学や実存主義・構造主義の入門書としては申し分ないと思う。ただ、中世の農民受けしたファンタジー主流の文学観についてちらっと触れているので、こんにちのナーロッパ趨勢の文学観やトルーキンの存在などを絡めた包括的な話との関連で読むと、また新しい視点にはなると思う。そういう意味では「つまらない本」だが取りようによってはなろうと実存主義の歴史をも包括し得る可能性を秘めたポテンシャルのある本のように感じた。加えて、志賀直哉の『暗夜行路』に構造主義を見出していたのは面白いと思った。

  • これはなにも、実存主義、構造主義の哲学話解説書ではなく、実存と構造という文学上の思考モデルとなってる。実存主義的文学作品を通してその思考モデルを紹介している。例えば、大江健三郎の「見るまえに跳べ」や「性的人間」などだ。頭でっかじに考えて過ぎて、もじもじしてるのではなく、行動しなさいって言われてるようで魅了的じゃないですか。この実存主義って思想はその昔は時代を一世風靡していました。でもそのうちにその威力は段々落ちていくことになりました。次に構造主義という視点からみた行き詰まった実存に光を与えます。文学作品ではガブリエル・ガルシア=マルケスの「百年の孤独」である。実存と構造の文学的手法は表裏一体として双方に結びつけている。補完的役割をしている。

    この本はまあ、現代文学作品をある観点からみた、ガイドブックとしていると思ってください。

  • 終盤は様々な文学に実存と構造を説明しており、そのあたりの知識の乏しい自分としては実感は薄かった。
    この前提を持った上で色々な文学や歴史に触れてみると、楽しめるかもしれない。

  • 20世紀文学を実存と構造という概念で読み取いている。選ばれたのが大江健三郎と中上健次だ。大江健三郎は実存主義文学の旗手である。その彼が万延元年のフットボールでは構造主義を取り入れているという解説はなるほどと思えるほど鮮やかな解説だ。同時に中上健次の文学作品を解析して実はこういう構造となっているのだという論旨も鮮やかである。
    三田を見直した。その彼があとがきでこう書いている。
    「文学はただのひまつぶしでもなければ、気晴らしの娯楽でもない。時として文学は、読者を悲しませ、嘆かせ、思い課題を背負わせることもある。
     むしろ作者(および主人公)と読者とが、苦悩を共有するために、文学というものは存在しているのかもしれない」

  • 「実存主義と構造主義の話」に見せかけた文学論

  • 易しい。考え方のヒントになった気がします。

  • 構造主義と実存主義のからみについて。実存の”孤独”を断ち切る手段は構造によって孤独を一般化することである。
    ...であれば構造の”不毛さ”を脱却するのにも実存によって夢を与えることが効くのか?


    この二つの分け方ではちょっと納得いかないところもあるけど、面白い。そして今の自分の趣味としては....いや、昔からあまり実存の方が得意でない。どの自分以外の実存にも完全には共感しきれないからである。わかり合えない、というところのみがわかり合える部分というか...

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著者プロフィール

(みた・まさひろ)小説家、武蔵野大学名誉教授。1948年生まれ。1977年、「僕って何」で芥川賞受賞。主な作品に、『いちご同盟』、『釈迦と維摩 小説維摩経』『桓武天皇 平安の覇王』、『空海』、『日蓮』、『[新釈]罪と罰 スヴィドリガイロフの死』、『[新釈]白痴 書かれざる物語』、『[新釈]悪霊 神の姿をした人』、『親鸞』、『尼将軍』、『天海』などがある。日本文藝家協会副理事長、日本文藝著作権センター事務局長も務める。

「2022年 『小説集 徳川家康』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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