静かなる大恐慌 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087206586

作品紹介・あらすじ

世界は「静かなる大恐慌」に突入した。危機的なのは経済だけではない。国際政治は、一九二九年の世界大恐慌をはさんだ、ふたつの世界大戦の時代と同じコースを歩み始めた。グローバル化が必然的に招く、社会の不安定化と経済の脆弱化。これに耐えるシステムは、通説とは逆に「大きな政府」の復活しかない、という歴史の趨勢に我々は逆らうことはできないのだ。このグローバル化の行きづまり、急反転というショックを日本はいかに生き抜くか。経済思想、国際関係論、政治・経済史の知見を総動員して、新進気鋭の思想家が危機の本質と明日の世界を精緻に描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 柴山さんは難しいことをとてもわかりやすく解説してくれる人なのですが、あまりにわかりやすいため「議論が薄っぺらい」とかいう人がいるのに、私は胸を痛めています。そんなことはないと私は思います。
    「経済の専門家」として発言することを避け、あくまでも政治・経済・社会を織り交ぜて総合的に議論を展開しようとするのは、お師匠譲りだと思います。

    <扱われているテーマ>
    一連の経済危機は、グローバル化が足りないから起きたのではなく、グローバル化が進んだために起きている。にもかかわらず、グローバル化を進めるべきかどうかという議論についてのマスコミや有識者の意見には、「No」という論調はほとんどない。本書ではリスクシナリオとしてのグローバル化について論じている。

    考えねばならない点が3点ある
    ①現在の経済危機は単なる景気循環の一局面として捉えられているが本当にそうか?
    ②グローバル化は過去何度も起きてきたが、歴史に触れて考える必要があるのではないか?
    ③単なる経済危機として扱われているが、国内政治へのインパクトをきちんと取り上げるべきではないか?

    以上3点を丁寧に解説している・・・のだと思う(まだ読み途中)

  • リーマンショック後の世界は20世紀初頭の頃に似ている。行き過ぎた自由主義とグローバル化がやがて経済だけではなく、社会、政治にもマイナスの影響を及ぼす。20世紀のその後は大恐慌、ブロック経済、世界大戦へとつながった。
    少し前に読んだ「つながりすぎた世界」とも共通点が多い。

  • [ 内容 ]
    世界は「静かなる大恐慌」に突入した。
    危機的なのは経済だけではない。
    国際政治は、一九二九年の世界大恐慌をはさんだ、ふたつの世界大戦の時代と同じコースを歩み始めた。
    グローバル化が必然的に招く、社会の不安定化と経済の脆弱化。
    これに耐えるシステムは、通説とは逆に「大きな政府」の復活しかない、という歴史の趨勢に我々は逆らうことはできないのだ。
    このグローバル化の行きづまり、急反転というショックを日本はいかに生き抜くか。
    経済思想、国際関係論、政治・経済史の知見を総動員して、新進気鋭の思想家が危機の本質と明日の世界を精緻に描き出す。

    [ 目次 ]
    第1章 「静かなる大恐慌」に突入した
    第2章 グローバル化は平和と繁栄をもたらすのか?
    第3章 経済戦争のはてに
    第4章 行きすぎたグローバル化が連れてくる保護主義
    第5章 国家と資本主義、その不可分の関係
    第6章 日本経済の病理を診断する
    第7章 恐慌以降の世界を生き抜く

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • グローバル化と民主政治と国家主権の間には齟齬が存在するため、同時に実現することはできないという。著者は、民主政治と国家主権を選択してグローバル化を断念する選択が望ましいと考えている。戦後のブレトンウッズ体制がそれにあたるが、現在は覇権的地位にある国がなく、経済の発展段階や政治体制が異なる新興国も台頭しているため、きわめて難しい。したがって、今後しばらくは、グローバル化と国家主権を選択して民主政治を犠牲にする路線を進むが、失業対策や福祉政策のための財政が限界に達した時にグローバル化が反転すると予測している。

    ・世界経済の結びつきが強くなった結果、国家は簡単に戦争に訴えることはできないという主張は、第一次グローバル化の時代にもあったが、第一次世界大戦が起きた。
    ・1929年の大恐慌によって急激な落ち込みを体験した各国は、通貨切り下げ競争に走り、関税引き上げなどの輸入制限を行ってブロック化を進めた。この結果、有力な海外市場や植民地を持たない日本やドイツは最も打撃を受け、戦争の序曲になった。
    ・イアン・ブレマーは、ロシアや中国の政府指導の資本主義を国家資本主義と呼ぶ。17〜18世紀の西欧の重商主義、韓国やシンガポールの開発独裁と似ているが、民主化が進んだこれらの国とは違い、ロシアや中国の体制が変わるとは想像しにくい。
    ・重商主義では、特権を得た一部の商人だけが儲かる仕組みだった。アダム・スミスは国内分業を進めて国民全体が繁栄を分かち合う仕組みに変えることを提唱した。
    ・ロシアや中国のGDPに占める輸出の割合は30%を超えており、グローバル経済が不調になったときに脆い。
    ・グローバル化の下で生活が不安定になった労働者の不満を抑えるために、政府の規模は大きくなる傾向にある。域内貿易が盛んな欧州でも政府支出の規模が大きい(デイヴィッド・キャメロン)。
    ・グローバル化と民主政治と国家主権の間には齟齬が存在する(ダニ・ロドリック)。
    ・日本の輸出依存度は1990年の10%程度から2007年の18%まで上昇した。1930年代は2割を超えていた。
    ・社会関係資本の概念では、共同体に存在する規範や互酬のネットワークを資本ととらえ、その維持と拡大のプロセスに注目する。

  • グローバル化が世界をリスクに貶める。
    それは今までの歴史が物語ってきた。

    過去の教訓は生かされなければならない。
    過去起きたものより大きな波がきている。
    それを断ち切らなければ、今まで以上に大きなショックが全世界を覆うことになるだろう。

    政治と経済が密接に関わっているからこそ、グローバル化は国境を越え、国境を塞ぐ大きな壁になる。

  • 2012/9初版の新書。2000年以降のグローバル化を批判する本は色々ありますが、淡々とした筆致が逆に好印象。
    引用されたケインズの文章に衝撃を受けた。やはり人間は100年経ても何も変わってない。死んでも判らん、てか。
    「ロンドンの住民は、ベッドで朝の紅茶をすすりながら、電話で全世界のさまざまな産物を、彼が適当と思う量だけ注文することができた。同じように、彼は自分の富を、世界の天然資源や新事業への投資に好きなように振り向けることができたし、少しも心を煩わせることなく、その果実や利益の分け前にあずかることができた。」
    追伸。
    最後に、ソーシャルキャピタルの概念と、その価値を定量的に捉えられていない学問の限界が語られている。

    正しく、国民総幸福度の議論そのものだ。これがまた、超難しい。
    が、ここを頑張らないと我々の未来もないと思う。

  • 柴山さんの本は『グローバル恐慌の真相』に続いて2冊目かな
    ――『グローバル恐慌の真相』は中野さんとの共著だけど。

    内容は『グローバル恐慌の真相』とあんまり変わらない。
    ゆえに,『グローバル恐慌の真相』を読んだ人は,
    敢えて本書を読まなくてもよいと思う。

  • 世界、日本経済の今とこれからを知る考える上で非常にわかりやすい。

  • グローバル化は永遠に続かない。100年前の1913年、イギリスを中心に電話が普及し、「全世界の様々な産物を、ロンドン市民はベッドで朝の紅茶をすすりながら電話で好きなだけ注文することができた」とケインズは述べている。英国発のグローバル化がバブルを生み、1930年代の大恐慌、40年代の第二次世界戦争に繋がった。 グローバル化で栄華を誇った英国が「文明国間での戦争は決闘のように時代遅れのもの」と戦争は有り得ないと信じていたのは1913年のこと。その1年後、第一次世界大戦が始まった。ソ連崩壊で始まった第2次グローバル化、インターネットによるバブルが、2008年の米国発の株の暴落、世界的な経済危機に繋がっている。 必ずグローバル化は反転し、保護主義が台頭する。そのとき、世界はまた戦争を繰り返すのか?

  •  安倍政権の「アベノミクス」が声高に叫ばれる日本の現状と、アルジェリアの事件をみて、本書を思い出し、昨年読んだ本書をもう一度読み直してみた。
     本書は昨年9月の発行であるから、夏には脱稿していただろから、今年の激動する世界を的確に予言しているようにも思えた。
     昨年本書を読後の「レビュー」は以下のとおり。
     『本書は、最近読んだ経済書の中で読後に一番印象に残った。
     「グローバル経済」が世界を覆っている現在において、マスコミでは「経済危機」という言葉が乱舞している。その対象はヨーロッパ、アメリカ、日本、中国と世界中が舞台だ。
     それぞれ「原因」と「対策」も語られているが、本書はその全体像を「そうかこういう視点で見るべきなのか」と教えてくれるように思えた。
     著者の専門は「経済思想」だそうだが、「マルクス」が神通力を失った現在において、本書の指し示す視点は説得力がある。
     本書は「グローバル化」を否定しているものではない。ただ「グローバル化」のもとでは、「事前に対策をとることは不可能」な構造のもとで「世界経済が脆弱に」なっているというのだ。
     そして過去の「グローバル化」を分析し、その帰結として「第一次世界大戦」が起きたことをその経済的背景から分析している。
     また現在の世界の情勢を「経済戦争のはてに」と経済と国家の視点から解析しているが、そこからの「グローバル化は大きな政府に帰結する」との結論には同感の思いをもった。
     「国家と資本主義、その不可分の関係」では、いかに資本主義が脆弱なシステムであり、「安定性を担保しているのは国家」という関係であるかがよくわかった。
     「日本経済の病理を診断する」における「グローバル化のもたらす社会対立を抑えるためには小さな政府ではなく大きな政府が必要」との結論には、思わず頷いてしまった。
     ただ、本書の「グローバル化」「大きな政府」「グローバル化は福祉国家に行き着く」との道のりは、現在の世界情勢を見ると、まるでロープの上の綱渡りのような極めて危うい細い道のようにも思える。
     本書は、末尾にケインズの言葉「将来に向かっての次の一歩は・・・思想から生じるに違いない」と引用しているが、たしかに本書は単なる経済書ではなく「経済思想書」であると思えた。
     本書を、現在の世界をどう捉えるのかという視点から多くの示唆を与えてくれる良書であると高く評価したい。本書を読んで今後の世界は決してバラ色ではないことを痛感した。』
     本書は、現在でも、まったく古さを感じないどころか、激動の現状を的確に分析しているようにも思える。
     だとしたならば、やはり世界は今後、さらなる激動に陥るのだろうか。 アメリカ経済もようやく上向きに向かっているようにも見えるし、欧州経済も小康状態で、一時の危機を脱出しているようにも思えるが、本書で明らかにされている世界の現状は、大状況では問題は全く解決の道に進んでいないことを示唆している。
     本書は世界の現状をするどく分析した良書であるとあらためて高く評価したい。

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著者プロフィール

【柴山桂太】1974年生まれ。京都大学経済学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程退学。現在、同研究科准教授。専門は政治経済思想。著書に『静かなる大恐慌』(集英社新書)、『グローバル恐慌の真相』(集英社新書、中野剛志と共著)ほか。訳書にロドリック『グローバリゼーション・パラドクス』(白水社、大川良文と共訳)シェーン『〈起業〉という幻想』(白水社、谷口功一・中野剛志と共訳)がある。【大川良文】1971年生まれ。神戸大学経済学部卒業。神戸大学大学院経済学研究科国際経済博士課程修了。現在、京都産業大学経済学部教授。専門は国際経済学。論文に“Innovation, Imitation, and Intellectual Property Rights with International Capital Movement” Review of International Economics などがある。

「2018年 『エコノミクス・ルール 憂鬱な科学の功罪』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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