バブルの死角 日本人が損するカラクリ (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
4.07
  • (12)
  • (8)
  • (10)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 130
感想 : 19
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087206906

作品紹介・あらすじ

バブルには死角がある! 実は日本人の富が強者に流れていくカラクリが、さまざまな制度に埋め込まれてしまっている。消費税、新会計基準、為替介入、金融緩和……。その裏の仕掛けを解き明かす!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 先日(2013.5.24)少し下落しましたが、昨年末の自民党が総選挙で勝利して以来、日本の株は上がり続けています。この状態が続くのは、消費税増税の判断根拠となる4-6月のGDP速報値が出て、参議院選挙が終わるころ迄と思っています。

    消費税は、晴れて社会人となった平成元年4月に導入されたのですが、なぜ導入時に見られた大きな反対が今は起きないのか、欧州と比較して比率が低い理由を探してきましたが、この本を読むことで理解できました。

    特に、輸出をする大企業に有利な「輸出還付金」は問題がある制度と思いましたが、CM媒体に多くの費用を投じている彼等を敵に回すようなことは今のマスコミには無理でしょうね。さらに、「益金不算入」という、子会社等からの配当金は法人税の対象外(p116)というのも驚きでした。

    また円高対策として日本を守るためにされてきた為替介入も、実は日本の富が流出していたという指摘は私の認識を新たにしました。さらに、米国企業が欧州や日本企業比較で競争力を失っていったのは、税制の違いも一因がある(p42)ということは私にとっては発見でした。

    具体的な数字(23年間のデータ)により、消費税総額=法人税減税分+高額所得者(2000万円)の所得税減税分がほぼ一致する(p88)紹介は印象に残りました。

    以下は気になったポイントです。

    ・輸出還元金が認められる理由は、企業がモノを輸出販売しても、海外の消費者から日本の税制の定める消費税をもらうことはできない、製品を仕上げるにあたって購入時に消費税を払っているという建て前(p25)

    ・2012年度の輸出還付金総額は 2.5兆円、その約半分の1.2兆円ほどが上位20社に還元されている(p26)

    ・過去の経緯では消費税率引き上げが国の歳入増につながる可能性は低い、法人税や所得税が下げられたため、その中で輸出還付金は確実に増える(p27)

    ・所轄地域に輸出大企業がある税務署において、消費税収が1000億円を超える赤字になっているが、これは税収として受け取るよりも還付金の支払が大幅に上回っているから(p29)

    ・消費税は税収額としては全体の25%だが、滞納額では5割を占める(p34)

    ・アメリカは付加価値税ではなく、商品購入者(消費者)が払う小売売上税である(p39)

    ・1950-60年代にかけて、アメリカは対仏や対独貿易で大きな貿易赤字を背負った(原因は付加価値税による輸出企業への還付金の存在)、その結果としてアメリカからの金流出があり、その延長線にニクソンショックがある(p51)

    ・太平洋戦争突入と直前の1941時点で1ドル=4円、敗戦直後の1945.9の軍用交換相場が、1ドル=15円、その後インフレにより円は暴落したが、それも数年で収まったことを踏まえれば、1949年に決まった1ドル=360円はかなり円安と考えられる(p54)

    ・アメリカ上院で付加価値税導入が否決された際(2010.4)に、財政難を解決することはなく、中間層や低所得者層への打撃だけがおまりにも大きいことがその理由とされた(p66)

    ・EU諸国ではEC法令により標準税率を15%以上にするように義務付けられている(p72)

    ・グローバル企業は円建て、ドル建てを上手に使い分けていて、為替変動による深刻な影響は受けていない(p85)

    ・消費税導入の1989-2012年度までの23年間で総額は202兆円、法人税は295兆円、もし1989年当時の40%を維持していれば、456兆円、差し引きの161兆円が減少額、年間所得2000万円以上の所得税減税額は23年間で46兆円、合計すると消費税総額とほぼ重なる(p88)

    ・リーマンショック以降、債券の場合は、満期保有目的ということで市場売買を目的をしなければ時価会計による評価損は不要になる、途中から満期目的に変更することを認めろとアメリカが国際会計基準審議会に言いだしてそれが通った(p113)

    ・1938年にアメリカはルーズベルト大統領のもとで、時価会計を禁止し原価会計へ戻している(p114)

    ・輸出大企業の受取配当金は、「益金不参入」という法人税の規定によって、子会社や孫会社からの配当金であればほぼ全額が法人税の課税対象外となる(p116)

    ・2011年末の政府債務残高は960兆円、そのうち117兆円が政府短期証券で、これが「ドル買い円売り」の為替介入をしたときの借金(p161)

    ・ドル買い介入は、1)目減りするだけの米国債を購入、2)2000年以降に資産価値が上がっても売る気配がない、3)円高是正に限界があるにも拘らず大量ドル買いを続けた、という意味で国益に背く(p181)

    ・米国貿易収支は、赤字幅ピークだった2006年の7533億ドルから5395億ドルへと28%減少、石油輸出入は、2006年には輸出が 255→674億ドル、輸入は 2486→1958億ドルへ2割減少(p197)

    ・アメリカはドル安からドル高政策へ舵を切った、その狼煙がシェール革命だろう(p208)

    ・日本政府の借金は、2012年末で91%が自国民によって賄われている(p233)

    ・2016年頃にくる最悪の世界恐慌に備えて内需日本を作り上げることが大事(p239)

    2013年5月26日作成

  • レビュー省略

  • 日本政府の為替介入は、2000年までの累積が40兆円、小泉政権の間に42.2兆円、民主党政権の間に16.4兆円の規模で実施された。

    2012年秋以降のドル高の動きは、アメリカの新たな投資先が現れたと考える方が妥当であるとして、それはシェール・オイルであると推測する。

    レーガン、クリントン、ブッシュの2期務めた大統領在任期間では、1期目と2期目で為替政策が反転している。このパターンがオバマ政権でも起こるならば、2013〜2015年にバブルが形成され、2016年の任期終了前後に破裂する可能性がある。

  • [ 内容 ]
    消費税・新会計基準・為替介入・量的緩和の陰で国富は奪われ国益が損なわれる。
    消費税も新会計基準も表の顔と違う側面がある。
    為替介入でも国富はアメリカに流出していく。
    日本国民が必死に働いて生み出してきた富を掠めとっていく裏の仕掛けとはなにか。
    1%のグローバル強者に対抗して、99%の我々が知的武装をするための必読書。

    [ 目次 ]
    第1章 消費税というカラクリ
    第2章 税制の裏に見え隠れするアメリカ
    第3章 時価会計導入で消えた賃金
    第4章 失われた雇用と分配を求めて
    第5章 為替介入で流出した国富
    第6章 バブルの死角

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 日本政府は、経済音痴?金融音痴?はたまた、日本は、米国の植民地?
    そんな印象を持った。

  • 物事は新聞に書いている表のことだけみてても分からないものなんだなぁ、と思いました。

  • ボクが岩本沙弓さんを知ったのはいつだったろうか。記憶が定かではないけど、経済一辺倒の世の中に違和感を感じて、でも、TVや新聞のニュースで言っていることが分からず、いろんな本を読んで自分なりにもがいていたときに出会ったと思う。そのとき読んだ本は、確か、『経済は「お金の流れ」でよくわかる』。この本は、自分なりに腑に落ちた。

    岩本沙弓さんは、ボクの中では信用できる経済分野の一人。結局、巷にはいろいろな情報が溢れているけど、信用できる人を自分なりに選んでいくということが大切だというのがボクなりの実感。もちろん、100%信用しきってはいけないのだけど、やはり手すりは必要。その手すりを助けに、自分の理解を深めることが生きる知恵。

    本書では、最後の部分に岩本さんの現行経済に対する主張がある。

    ・日本は「世界一のお金持ち」でありながら、それを大多数の国民が実感していない、享受できていないという滑稽さがある。

    ・つまるところ、2001年から2011年に掛けての11年間で、日本は58.6兆円ものドル買い介入を実施したことになる。この使い道の内訳は公表されていないが、ほとんどは米国債の購入に当てられていると考えられている。2001年以降、平均すれば日本は毎年5兆円を越える米国債を買っていることになり、これは消費税1年間の税収の半分以上に当たる金額だ。

    ・アメリカの場合、中間層は凋落どころか消滅しかかっている。そして、日本でも景気停滞と物価上昇が同時に起こるスタグフレーションの恐れはもちろんのこと、中間層が没落するスクリューフレーションが進行しつつある。日本人の平均給与は、1997年は467万円だったのが、2011年は409万円まで低下している。

    ・残念ながらペーパーマネーだけに支えられた資本主義システムは、もはや限界に達しようとしているのではないか。これ以上、どれだけ紙幣を印刷したところで、劣化してしまった市場経済や資本主義経済の本質的な修復は不可能なのではないか。

    ・しかしながら、先進各国は金融緩和を続け、これでもかというぐらいの余剰資金を市中に流し続けている。アメリカを胴元としたカジノ資本主義の最後の最後のゲームが今まさに繰り広げられようとしている。

    ・節操の無い史上最大の資金供給を背景として、おそらく2013年から3年ほどは日本が牽引役となり、世界経済は未曾有のバブル期に突入するのではないか、たぶんそれが「資本主義最後のバブル」となるのではなかろうか。

    ・目先のバブル景気に浮かれるのではなく、おそらく2016年ころを契機として以降に訪れるであろう最悪の世界恐慌に備えて、内需ニッポンを作り上げる。今がそのラストチャンスであり、我々一人ひとりの考え方や選択にかかっている。

  • 大いに啓発された。
    図書館で借りて読んだのだが,購入したい。

    消費税の輸出還付金については,下請けいじめ的な問題として認識していたのだが,本書では,そもそも輸出補助金的役割が期待されていたのでは? という問題提起がなされており,そう考えると非常に納得がいく。

    ほかにも,なんとなく「おかしいよなぁ」と感じていたことが,著者の為替ディーラーとしての経験や統計の分析に基づく記述によって「やはり,そうか!」と膝を打つ思いになること再々。

    印象的な指摘のメモ

    消費税の税率だけを見ると日本は低いが,税収に占める割合を見ると1/4に近く,国際的にみると高い。(←この点に関しては,地方税もトータルで見ないとわからない気もするが・・・どうなんだろう?)

    「益金不算入制度」により,赤字企業として法人税を負担せず株主配当を行っている企業もある。

    ゆるやかなドル高誘導と急激なドル安の繰り返しによって,日本の富は流出し続けている。

  • 景気対策も一部の人が恩恵を受けるだけでは国民生活は向上しない。とはいえ、日本が沈没しないためにも今の対策が必要だ。消費税率の引き上げも慎重に見極めなくては。

  • Every man has his own reason.(人は皆それぞれの理屈を持っているものだ)Give the devil his due.(悪魔にも権利は与えよ)
    付加価値(消費)税、輸出還付金を採らないアメリカ。グローバル展開する日本企業は円/ドル建てを上手に使い分ける。為替介入はアメリカファイナンスの補助。日本の低金利が海外バブルの遠因。トリクルダウン理論(trickle-down theory)は、「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透(トリクルダウン)する」とする経済理論。日本の輸出依存度は40位くらい。シンガポール、香港(いずれも150%オーバー)、マレーシア(95%)などが高い。

全19件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

大阪経済大学経営学部客員教授。91年より外資金融機関にて外国為替を中心にトレーディング業務に従事。金融専門誌『ユーロマネー』誌で為替予想部門の優秀ディーラーに選出。為替のプロとして、いま大注目の経済評論家。『新・マネー敗戦』『世界のお金は日本を目指す』など著書多数。

「2013年 『経済は「お金の流れ」でよくわかる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岩本沙弓の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×