心の力 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 303
感想 : 31
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087207224

作品紹介・あらすじ

刊行後100年。夏目漱石『こころ』を手掛かりに、過去を力に変え、心の実質を太くする生き方を考え抜いた一冊。漱石『こころ』とトーマス・マン『魔の山』の後日談を描いたオリジナル実験小説も収録。

感想・レビュー・書評

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  • このかたの文章は、不思議と落ち着く。心地いい。

  • 「はじめに」にこうある。

    すべてを投げ打って自らを告白する先生と、その告白を受け取る「私」。その「私」が過去をふり返りながら、亡き先生の秘密を語る「こころ」は、先生から「私」への、死者から生者への、心の相続でもあります。いまを生きる「私」は、いわば人生の謎に迫る「秘儀」を先生から授かり、それをしっかり受け継いで、次に語り継ぐため、先生について語り始めるのです。
    この意味で死んでいった人々は、みんな先生といえるかもしれません。私たちは、こうした「秘儀伝授(イニシエーション)」を通じて心の実質を太くし、「心の力」を自覚できるのかもしれません。
    ところが、これとは反対に、過去を見失い、「出会った人々」を見失い、ただひたすら未来を思い煩いながら現在という一瞬一瞬を生きている限り、心の力は見失われ、心は虚ろになっていくばかりではないでしょうか。
    なるほど、過去を振り返らず、未来に向けて前向きに生きろ、そうした励ましの言葉は、耳に心地よく、肯定的なイメージを与えてくれるかもしれません。しかし、その肝心の未来そのものが、どうなるのか、皆目見当つかないのですから、不安にならないのが、不思議なくらいです。まだ「ある」とも言えない未来をあれこれ予測し、株価の乱高下のようなものに自らを託すとすれば、片時も落ち着いてはいられないはずです。
    過去は意味がない、未来がすべてだ。
    こうした時間にまつわる現代的な意識を逆転させて、むしろ確実に「ある」過去に目を向けさせ、そこから心の力の源へと遡る物語が、これから取り上げる夏目漱石の「こころ」であり、ドイツの作家、トーマス・マンの「魔の山」です。(10p)

    ここに姜尚中の問題意識のすべてがある。著者がこの本を書く直接の動機は息子の「自死」をどう癒すか、ということだったと思うが、それを社会問題までに掘り下げようとしている処に特徴があるし、価値があると思う。著者は現代の右翼的潮流の中で第三の「戦後派」が台頭するのではないかと危惧する。第一のナチスの時と同じような右翼的若者の反乱である。

    著者はこんな時代だからこそ、魔の山或いは先生の家のような、モラトリアムを実現させてくれる処が必要だと説く。それは、生産性はないが、いつ果てることない議論が出来、生涯の友を得る処である。

    そしていつか「先生」という誰かを得て、決定的な一言「秘儀伝授」を受けるのである。不肖私には、その一言があったような気もするし、無かったような気もする。いや、いま現在がモラトリアムなのだから、これからあるのだと信じたい。

    この本は、私のようなモラトリアム人間には勧められない。むしろ、時代と共に生きて潰された人(例えは、自殺を考えているような人)、或いはその人生を観て来た人に勧めたい。きっと何かの「秘儀」があると思う。その意味でこの「心の力」とは、誰もが体験する心ではなくて、非常に特殊な心だと思う。
    2014年3月21日読了

  • 悩む力・続悩む力に続く第3弾的著作なのかなと。

    ターゲットは大学生くらいの年代でしょうか、今回は一段と若者に向ける先生の熱意が感じられるようでした。

    「心の力のようなものを探し続けることを、きっと『まじめ』というのだ」という第5章にあった言葉が響きました。
    その通りだなぁとしみじみ思いました。

    平易な言葉で現状の社会の空気とは違う生き方を提案されていますが、これもその通りと思いつつ、やはり若い人たちにはそのように生きようとするのは困難なことではないかなぁとも考えました。
    それだけに先生の、若い人たちに潰れて欲しくないという願いのようなものが伝わってきます。
    一番訴えたいのもこの章なのではないかと感じました。

    創作が加わったことで独特のスタイルになっていますが、
    先生が一番読んでほしいと願う年齢層はしかし、これを手に取るだろうか…とちょっと気になります。

  • 著者自身の創作部分が結構ボリュームがあって、思い入れの深さをかんじます。それがなくても、地の部分にキーワードとなるところがたくさんあって、心に響きました。すぐに読めちゃいましたが、心がへたったときにまた引っ張りだして、読み返したいです。

  • 漱石[こころ]とトーマス・マン[魔の山]の後日譚を描いた実験小説がよくできていて面白い。後日談を自作するって発想がまず面白いし、読み物としても普通に面白い。
    が、内容はなかなか難しい。
    モラトリアム(充電期間)があってもよいのだ、むしろ大切なのだ、と本書は語る。なんだか今の自分を肯定されたよう。
    二つの作品を改めて読みたくなってしまった。

  • 2016/10/18

  • トーマス・マン 「魔の山」
    夏目漱石 「こころ」
    同じ時代に書かれた2つの小説の姜尚中的な、その後の物語。

    幅のある選択肢の中から、もっとも最適なものを選択する。(本文より)


    世間で言われている方程式に従ってたった一つの高い理想を描き、そこからはずれたらおしまいだなどと震え上がらないでくださいと。まずは自分自身がいいと思う道を進んで、それがダメだったらいくらでも図太く方向転換すればいいのです。心の豊かさとは、けっきょく自分の中に選択の幅を持っていることなのですから。(本文より)

  • 心の力とは?

    →心は人生に意味を与える物語においてのみ理解可能
    人生に目標が見つからなくて立ち往生してるとき、時間を無駄にしているように感じるが、最終的には無駄ではない
    心の豊かさとは、自分の中に選択の幅を持っていること

  • グローバリゼーションが進み、多様化が進むどころか、むしろ人びととの価値観が画一化し、「代替案(オルタナティヴ)」というものを考えられなくなった。どのような生き方が賢くて、どのような働き方が尊敬されて、どのような生活スタイルがカッコいいのか。そうしたことについての価値観が異様なくらい画一的になっていて、それ以外のものを思いめぐらす想像力がないのです。一つの価値観しか持っていないと、それが崩れたときに逃げ場がないという恐ろしさがあります。
    心の豊かさとは、究極のところ複数の選択肢を考えられる柔軟性があるということなのです。現実はいま目の前にあるものだけではないとして、もう一つの現実を思い浮かべることのできる想像力のことなのです。
    まずは自分自身がいいと思う道を進んで、それがダメだったらいくらでも図太く方向転換すればいいのです。心の豊かさとは、けっきょく自分中に選択の幅を持っていることなのですから。

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著者プロフィール

1950年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。東京大学大学院教授、聖学院大学学長などを歴任。東京大学名誉教授。専攻は、政治学・政治思想史。主な著書に、『マックス・ウェーバーと近代』、『オリエンタリズムの彼方へ』、『母 -オモニ-』、『漱石のことば』ほか。

「2018年 『ナショナリズム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

姜尚中の作品

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