一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087207255

感想・レビュー・書評

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  • 宿無しムスリムの中田考氏と内田樹氏が、イスラームを中心とした一神教と国家の相性の悪さ、遊牧民のイスラーム、農耕民のキリスト教、そもそも国家って何?(これは「おどろきの中国」とかいう新書にも出てきた問いだ)などをすごくわかりやすく対談している形式の本。
    内田氏がいろいろな本に書いている「資本主義の最終形態」の恐ろしさ、これがこのような本に出てきてよかった。これがイスラームに何の関係が?と思うかもしれないけれど、そういう恐ろしい世界を回避するのに役に立つ考え方がイスラームには多く含まれていますよ、ということ。
    あと国家や宗教を考える時に、漠然とまず国家という枠組みを思い描いて、その中にどのような民族がどれほどいて、そのうちのどれほどの人間が○○教徒であるという国家を上位に置いたトップダウン的な考え方をする人が特に日本人では多いと思うのですが、そういう考え方ではいつまでたってもあの中東のごたごたは片付かないのだと知った。話はほとんど真逆だったのだ。
    第一章は「イスラームとは何か」で、年表的な解釈ではなく中田氏の生き方を紹介するような形で語られているので、とっつきやすかった。

  • 内田樹さんと、ムスリムでイスラム学者の中田考さんの対談本。
    イスラーム文化圏のことは高校・大学でも習ったし、すでに聞き覚えのあることも少しはあったけど、中田さんご自身がムスリムというのがよかったのだろうな、新鮮でした。

    相手の人格や内面云々じゃなく、砂漠で飢えている人がいたらとにかく食べ物あげるでしょ、という感覚が面白かった。すごく生命と直結してる、生きていくための法なんだなぁ、イスラームの教えって。この人たちは政治も学問も経済も、全部神様との約束がベースなんだから、政教分離や国民国家なんてのは押しつけても仕方ないように思う。それにしても、現地の人にしてみればタリバンのが米軍よりはよかったかもしれないなんて、ただニュース見てるだけじゃ思いつきもしなかった(もちろん、どちらも見方のひとつでしかないけれど)。
    お金に利子がつかないとか、ケチ(吝嗇)と強欲は違うとか、いろいろと目から鱗でした。砂漠の遊牧民の感覚っていうのは、我々日本人にはなかなか知りがたきもの。

  • 中田さんと内田樹さんの対談で、内田さんがうまいこと中田さんの考えを引き出してると思う。中田さんの考えは他の著書でも書かれてるようなことなんだけど、例えばカリフ制に至る道としてEUのようにまずは人と資本と移動を自由にしましょうってこととか具体的な話があった。

  • すばらしくわかりやすく、目からウロコのイスラム解説!

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「目からウロコ」
      中田考のブっ飛び具合が凄いと思った。内田樹と対談させる集英社も慧眼(これは内田センセの受け売り)。
      「目からウロコ」
      中田考のブっ飛び具合が凄いと思った。内田樹と対談させる集英社も慧眼(これは内田センセの受け売り)。
      2014/04/22
  • ユダヤ哲学の内田先生と、カリフ制再興を目論むハサン中田先生のゆるゆる対談。
    丁々発止の対談じゃなくて、縁側で日向ぼっこしつつ好々爺二人が大風呂敷を広げる、といった風情のほのぼの対談。
    でも中身はめっちゃ刺激的で脳みそを刺激される本やったよ。うん。なかなかこれまで想像もしたことのないような世界観。

  • 読み進める中で霧が晴れていくかのように「なるほど」が連発。
    イスラーム学者の中田先生と思想家・武道家の内田先生の対談によって、話が立体となり立ち上がるような感覚になった。
    内容もそうだが、おふたりの対話に対話のあるべき姿を見たように思う。

  • 大学時代に中世ヨーロッパ史を専門としていて、キリスト教の考え方や歴史はある程度勉強していた。その中で、現代日本においてイスラームを信仰する人というのはどのような感覚・価値観を持っているのか非常に興味を持っていた。そのため、本書を通してムスリムの考え方の一端を窺い知ることができて良い体験ができたと思う。内田氏中田氏の考え方や主張は極端だなと感じる部分もあったが、中東情勢を西洋的日本価値観で見ていた自分にとって、新たな知見を与えてくれた。中東情勢は非常にややこしく腑に落ちないな〜と言う人は読んでみると理解の助けになるかもしれない。自分がどの考えを選択するかは置いておいて、自分にない知見を得ると言うのは良いものだなあと思わせてくれる一冊だった。
    2021年3月

  • https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0725-c/
    イスラーム学の第一人者と内田樹の一神教問答
    何が世界を動かしているのか?
     「ユダヤ教、キリスト教、イスラームの神は同じ」「戒律を重んじるユダヤ教とイスラームのコミュニティは驚くほど似ている」「千年以上にわたって中東ではユダヤ教、キリスト教がイスラームのルールに則って共存してきた」。なのに、どうして近現代史において衝突が絶えないのか?
     本書は、日本ではなじみが薄い一神教の基礎知識を思想家内田樹とイスラーム学者中田考がイスラームを主軸に解説。そして、イスラームと国民国家、アメリカ式のグローバリズムの間にある問題を浮き彫りにし、今後の展望を探る。

    [著者情報]
    内田 樹(うちだ たつる)
    一九五〇年東京都生まれ。思想家・武道家。神戸女学院大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論等。著書に『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)等多数。

    中田 考(なかた こう)
    一九六〇年岡山県生まれ。イスラーム学者。同志社大学神学部元教授。専門はイスラーム法学・神学。哲学博士。著書に『イスラームのロジック』(講談社)他。

  • 内田:
     ユダヤ教、イスラム教、キリスト教は互を相互参照しながら体型を築いていったkという気がしますね。(略)進行の深さを魂の純良さを持って示すのか、学識の豊かさでし召すのかというあたりの力点の置き方がこの3つの宗教では微妙に違う気がします。
    キリスト教⇒人間の魂の清らかさ
    ユダヤ教⇒知性的な成熟
    イスラム教⇒両方

    イスラム教はもともと遊牧民の宗教。つまり、国境自体を意識しない。クロスボーダーな集団だった。これは国土、国民を絶対とし、国境を死守する、現在の「国民国家」とは折り合いが悪い。

     いま「グローバリズム」が叫ばれているが実態は「汎アメリカ化(アメリカン・グローバリズム)」。だが、その勢力を伸ばし、世界を「フラット化」するにはイスラム教は邪魔。
     なぜなら、イスラム教は同一の儀礼、儀礼の言語、同一のコスモロジーを共有しているので「汎アメリカ」の強力な対抗勢力となりうる。
     だが、そのイスラム圏を分断するために、欧米の宗主国はそれぞれの支配層へエージェントを残していった。彼らは国家の利権の名のもと、自らの権益を守るため、イスラム圏の分裂を固定化している。
     アメリカはダブルスタンダード。
     日本や韓国の非イスラム圏は自由貿易によって市場を解放させ、食料自給率を低め、英語公用化か勧め、固有の文化や商習慣を廃絶し、国民国家としての自立性・主体性をなし崩し的に無化していく。
     逆にイスラム圏には正当性の乏しい独裁国家を応援して、境界線を厳しく分断し、内部の連帯が取られないようにする。
     イスラーム的に正しい政府をつくろうとすると、国を超えてムスリムが選ぶカリフが必要となるが、それは国民国家に縛られたままでは難しい。
     だが、イスラム圏の分裂を修正するために著者のひとりである中田氏は「カリフ制復興」を掲げている。そのため、アメリカには目をつけられている。

    <感想>
     イスラム圏が国民国家と折り合いが悪く、下手をすると『不倶戴天』になってしまう道筋は、内藤 正典著「イスラームから世界を見る」からでもぼんやりとはうかがい知れた。
     が、本書では内田氏と中田氏では「国民国家」の是非について対談を通して、その点がもっとはっきりと指摘されている。
     特にアメリカのアレルギーとも言うべき激しい拒絶反応の理由がよりはっきりした。
     が、いくら「カワユイ」が相手の攻撃衝動を削ぐための戦略だと言われても、「みんなのカワユイ(^◇^)カリフ道」のネーミングセンスはどうかとおもう(笑)

  • 才気煥発というか、様々な思いつき・アイデアを展開する内田に対し、イスラームの立場から具体的かつ穏当に応じる中田。しかしその中田の主張が「カリフ制」という、ややアナーキズム的なユートピア思想であるところがおもしろい。そうした視点からながめた、現在のアラブ世界の政治状況が自分には目新しく興味深かった。

著者プロフィール

1950年東京生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。神戸女学院大学を2011年3月に退官、同大学名誉教授。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。著書に、『街場の教育論』『増補版 街場の中国論』『街場の文体論』『街場の戦争論』『日本習合論』(以上、ミシマ社)、『私家版・ユダヤ文化論』『日本辺境論』など多数。現在、神戸市で武道と哲学のための学塾「凱風館」を主宰している。

「2023年 『日本宗教のクセ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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