「文系学部廃止」の衝撃 (集英社新書)

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  • 集英社
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本棚登録 : 300
レビュー : 38
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087208238

作品紹介・あらすじ

「文系学部廃止」の報に沸き立つわが国の教育界。理系偏重の学部再編を推し進める「官僚の暴走」により、近代日本の教養の精神はここに潰えてしまうのか? 大学論の第一人者が驚愕の舞台裏を語る。

感想・レビュー・書評

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  • いい意味でタイトルに裏切られる内容になっていた。最近の文系学部廃止というニュースを入り口として、文理系の学問とは何か、その歴史はいったいどこから遡るべきなのかに触れ、戦時中と現代における文理系の価値観の違い、現代社会における学生へのニーズと大学のあり方、さらにはその裏に潜む日本の大学運営の問題点にまで述べられていた。

    理系の就職率が〜、文系は役に〜とあちらこちらで叫ばれる中で、文系大学生は自らの専門からどのような価値を見出すべきなのかを指南してくれる。文系学生はこの本を読むことで、自らの大学生活の中で学問の意味を問い直すことができるだろうと思う。

  • たとえが用いられていて一読してわかりやすいと思うのだが、たとえに止まってしまうと具体的に実際の社会でどうしていくべきかということを見失ってしまいがちになる。
    素晴らしい教育の実践を行っている事例を大学から広く発信していくことが大切ではないかと思う。大学自身による積極的な広報を進めていただきたい。

  • 本書の内容を大きく分けると前半の文系学部廃止議論をトレースした第1・2章と、後半の文系以外の大学全般に対する考察をまとめた第3・4・終章がある。前半はあとがきにあるように、既に雑誌で公表済みのものでその意味では新規性に欠ける。出版社からは、予約購入前にこの点について説明があるとよかった。この点についてはあとがきに控えめに言及があった。同著者の前作からの接続を考慮すれば、第3章から読み始めるとスムーズだろう。逆に言えば、第2章と第3章の連関が十分といえず、それらの間にもう1章あると読みやすいと感じた。新書なので許容範囲とは思うが。

    前著でも力説していたように、本書でも「国民国家」と大学の関係で、その成り立ちと今日の存在意義を確かめている。グローバル化時代の今日の社会に在る大学を、種々の視点で表現し形作ろうとしている姿勢がこの本からもうかがえる。以下にいくつか引用したインパクトを与えるジャーナリスティックな記述は、読者を一種の急迫した気持ちにさせる。結果的に読み手に問題意識を植え付けることに成功している。

    ただ、全ての提案に実現可能性があるのではない印象を持った。例えば、「学年の壁」を低くしたら、著者も引用している「学校基本調査」の各種調査ではどのように人数をカウントするかとか、カリキュラムの構造化は科目の履修順序性だけで担保できるか、といった素朴な疑問が湧いてくる。また「宮本武蔵を育成する現場」(p.169)としての授業を改革する処方箋では、教員数の減には触れず、科目数減を示している。「科目編成の少数精鋭」(同)という科目の統廃合は、教員の少数精鋭と表裏一体であり、私学はまだしも、はたして国立大学において、そうした文字どおり身を切るような痛みを味わうような施策を実施できるのだろうか。しかし、一たび国立大学がこうした改革を実行すれば、教育の質は向上し、私学と国立大学の教育内容の格差の拡大はさらに開くことも頭によぎった。

    最後に、文系学部において”全て”の学生が、著者が述べる「論文を書くこと」と「ゼミ」に取り組むことができる大学は、日本でいくつあるのだろうかと思った。これらが「文系の学びの根幹」(p.222)だとすると、その根幹が存在しない大学や学部は決して少なくない。その理由は複数あるが、やりたくてもやれない私立大学もあるだろう。第3章以降、節々で一般的な大学論を展開しているように読めてしまったが、本書における「大学」の表記は、全体を通じて「国立大学」と読み替えたほうが理解しやすいだろう。そういえば、そもそも今般の通知は国立大学法人対象だったこともある。

  • 「文系は役に立たないからいらない」「文系は役に立たないけれども価値がある」という議論を批判している。「文系は必ず役に立つ」らしい。「価値の軸を創造する力」「既存の価値を相対する力」が文系の知にはあるようだ。
    私は文系人間だが、べつに価値がなくてもいいし、役に立たなくてもいいと思っている。でも、下り坂の日本でこれからの時代を生きていく子どもたちが今までと同じ感覚で安易に文系を選択することはあまりよいことだとは思えない。
    いろいろな考え方があると思うが、大学に関する議論はそこに勤める人間の食い扶持ではなくて日本の将来や学生のことを第一に考えてほしい。

  • 理系と文系の「役に立つ」の違いは分かったが、じゃあ文系が理系のように稼ぐには(キャリアを作るには)どうしたら?たしかに理系の研究するなら若い方がいいのかもしれないが、最初に理系を学んで、社会人経験積んでから文系、というのがなんだかな。周りにも大学生(18~20歳に入学した、一般的な意味の)の時には文系だったけど、看護学校入り直したり会社で勉強してSEなってる文→理の進路を行く人も存在する。文系でも「短期的に」役に立てることがないとなかなか就職が厳しいのだよ。神の役に立つ、地球社会の未来に役に立つ、立派なお題目だけど、まず自分が自立できるだけの金を稼ぐのに役に立つ学問を学びたい。
    でも、「経済成長や新成長戦略といった自明化している目的と価値を疑い、そういった自明性から飛び出す視点がなければ、新しい創造性が出てこない」には納得。常識を疑う訓練をする、ことが大学進学を決めた大きな理由だったから。

    理系…目的が既に設定されていて、その目的を実現するために最も優れた方法を見つけていく目的遂行型、短期的に答えを出すことを求められる
    文系…「役に立つ」ための価値や目的自体を想像する価値創造型、長期的に変化する多元的な価値の尺度を視野に入れる

    18歳~20歳、30代前半、定年後60代で大学で学ぶ。理想的だけど、先立つものが・・・とくに30代前半なんて、4年も行くのはかなりの時間的ロスな気も。仕事はブランクなるし、子育てとかぶると大分厳しい。大学1,2回生のような大人数一方講義だとビデオやオンラインでいいわ。課題や同級生との交流があるからその場に言って学ぶ意味があるのであって。

    <参考文献>
    ・マックス・ウェーバー『プロ倫』『職業としての学問』
    ・坂口安吾『堕落論・日本文化私観』
    ・ホイジンガ『ホモ・ルーデンス』

  • 文理分けの始まりとか、一度読んでおきたい。
    そのうちKindleになるのではないかと期待。

  • 2015年の文科省通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」が出て、「文科省は文系学部廃止を企んでいる」という解釈が瞬く間に広がった。2013年の国立大学改革プランで示された文言の焼き直しに過ぎなかったにも拘らず、である。
    この原因は、この「通知」の文脈的な理解ができずに文章の字面だけで記事を書いて平気なマスコミ記者たち、あるいは関連資料に当たることも記事を系統的に検証することもなく、マスコミ情報を前提に議論を始める一部の大学人やメディア言論人の劣化に一因がある。もう一つ「文系は役に立たない」という認識が広まっていたことも大きい。

    「文系は役に立つ」が本書の主眼である。
    この点では広田照幸氏の発言が印象的である。「哲学なんかこそ、実は新しいアイディアの宝庫なんです。現象の本質を抽象的な概念で論理的に考える訳ですから。長い目で見れば、そうした思索こそが、あたらしいアイディアを生み出す。そういう意味では、『経済効果』から見ても、ちゃんと意味はある」。つまり、目的遂行的には理系的な知が役立つが、「価値創造的」には、文系の知こそが、長く広い未来のために役立つといのが、著者の主張である。

    ただ、昨今の新自由主義的経済の中では、結果がすぐに、しかも成果を数値化して示すことが求められるなかで、文系的な知の重要性が評価されにくいのは事実かもしれない。さらに、数ある大学の中・下位校、特に多数を占める文系の学部教育のお粗末さが、「文系不要論」に拍車をかけているように思われるのである。

    この著書では、大学人やマスコミなどが混同(誤解)している用語を整理していることも重要だ。人文社会系、教養、一般教育、リベラルアーツの定義がされないために、大学教育改革の論点が定まらないことが多いからだ。

    ○リベラルアーツ(Liberal Arts):
    11、12世紀に誕生した中世の大学教育における言語系の三学(文法学、修辞学、論理学)と数学系四科(代数学、幾何学、天文学、音楽)を指す(著者は「音楽」を芸術系に分類しているが、ここでの音楽は現在でいう物理学と解すべきである)。リベラルアーツは、リベラルに思考する技法、つまり、私利・私欲、因習、社会通念、偏見、迷信、先入観、そして功利性から解放された(liberal)、普遍妥当性のある価値や概念(真理)を見出し、理性的で論理的な思考でもって正しい問題解決策を導く技法(arts)を身につけるための科目群と考えるべきであろう。
    ○教養(Culture):19世紀以降の「国民国家」の形成(ナショナリズム高揚)が背景。近代産業文明のなかで、国民の人格の陶冶・涵養をするために過去の伝統との結びつきを強調。「文化=教養」を通じた国民主体と国家の一致という考え方がある(p.83)。
    ○一般教育(General Education):大学教育のユニバーサル化とともに、一般大衆に向けて機能する基礎教育の必要性とともに登場。異なる専門分野を総合する力を身につけ、未来的な課題に立ち向かう能動的な知性を具えた市民の育成を目指す。アメリカにおける大学院の発展が背景。
    ○共通教育:1990年代以降の大学改革の流れの中で登場。従来の一般教育に加えて、スキル科目(コンピュータ・リテラシーや実践的英語能力)が含まれる。グローバル化社会や情報社会を生き抜くスキルを身につけることを目的とする。

    第四章「人生で3回、大学に入る」では、あまりにも理想的すぎるはと思われる記述が散見された。大学で学ぶ費用が高くなっている中で、その費用を投資しても、少なくとも2回目、3回目の入学では回収できる期待がほとんどない。そもそも今の日本の社会では、大学入学のため退職しようものなら、再就職のときにより良い条件で雇用される可能性は低い。単に趣味で学びたいという人もいるかもしれないが、あまりにもコストがかかる趣味である。知識を得るのであれば、書物や学会、インターネットでも十分可能である。そもそも、大学のレベルでは一方的な講義形式が主流であるし、数少ないゼミでも、中身の深い議論が期待できないからだ。

    東京大学の教授の著書だけに、中身が濃く読み読み応えがある章(1~3章)と少し現実離れしているのではないか思われる章(4章)が併存している、そんな印象であった。

  • 2015年6月の文科省による「国立大学法人等の組織・業務全般の見直し」通知から始まったメディア報道の騒動から解き明かし、「理系」偏重と「文系」軽視の傾向がこの時に始まったものでないことを分かり易くひも解いてくれる。遠く岸内閣時代の松田文部大臣の説明にさえ、そのことがでてくるという。文系は大学にとってはお金がかからず、学生を集められるということから私学がそれを歓迎していたというおまけには、苦笑いまでしてしまう。つまり大学とは何かそのものが問われるテーマであるとの説明。「文系は役に立たないが、価値がある」という議論ではなく、「文系は必ず役に立つ。それは今後の経済成長に貢献するという手段的な有用性に限定しない。価値の軸の変化を予見したり、先導したりする価値創造を可能にし、長く役立つ教育」をアピールする。長期的には理系以上に役立つ、ことの主張である。しかし、国立大学の教員人数の8割を理系が占め、その結果、学長も理系が多いとの現状はお寒い次第である。もう一度、大学は「国家や企業社会に奉仕するのではなく、人類的な価値に奉仕する」ことを確認し直す必要があるだろう。12世紀から始まる中世の大学に始まる「リベラルアーツ」と19世紀の欧州の国民国家から始まる「教養教育」、20世紀の半ばからの米国の大学のユニバーサル化に淵源がある「一般教育」の3つの比較は分かり易い。

  • タイトルがキャッチーすぎて、コアな人文系の人々が敬遠するのではないかと心配してしまうけれど、とても読みごたえのある良い本だった。

    教養とリベラルアーツの違い、文・理の区別の歴史的背景、文系は社会にとって長期的に役に立つということ、未来の大学像などなど、文学部の学生としては興味深い話題ばかり。

    日本の文系軽視の問題だけでなく、現代において「学ぶこと」の価値とは何かというところまで深く掘り下げているので、文系や大学関係者だけでなく、あらゆる人に読んでほしい。

  • 文系学部云々以前に、
    大学とはどういうものだったのか、
    どういうものなのか、等々、
    今まで深く考えずに述べていたことの中で
    実はこういうことだったのかと気づかされることも多く、
    大変勉強になりました。

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著者プロフィール

一九五七年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は社会学・文化研究。著書『夢の原子力』(ちくま新書)、『ポスト戦後社会』『親米と反米』『大学とは何か』『トランプのアメリカに住む』(以上、岩波新書)、『「文系学部廃止」の衝撃』『大予言』『戦後と災後の間』(以上、集英社新書)、『天皇とアメリカ』(集英社新書、テッサ・モーリス‐スズキとの共著)など多数。

「2019年 『平成史講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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