欲望する「ことば」 「社会記号」とマーケティング (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087210118

作品紹介・あらすじ

加齢臭、女子力、おひとりさま…。著者が「社会記号」と呼ぶこれらのことばは、我々の思考や生活、また市場を変える力があるという。人々の潜在的欲望を映す「社会記号」のダイナミクスを解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 社会記号、面白い。
    世の中に広がっていく言葉は、社会的に需要がある言葉。言葉を通じて、理解されるようになる事象。
    世の中の違和感に気づき、言葉にできるようになりたい。

  • 女子力,美魔女,おひとりさま,加齢臭のような「社会記号」を研究者の視点,博報堂出身のマーケターの再戦前から見た視点の両方から説く.

    ・社会記号はサラリーマンが作っている。
    ・社会記号は欲望の権化である

    ・兆候,言語化,発進,共感・拡散,市場形成,応用

    ・ネット書店とリアル書店の違い
     統計学者 vs 哲学者,夢想家

    ・定量は過去、定性は現在、予兆は未来
    「マーケティングの神話」
    「脱常識の社会学」

    情報爆発→物事を二分する社会記号が誕生。→リア充と非リア→思考の節約

    AIは夏にコンビニでおでんを売ろうというインサイトは持てない

    社会記号はコピライターや広告代理店が生み出せるモノではない。消費者のニーズがあるところに、社会記号が生まれる。

    「欲望は自覚できない.だから言語化もできない.でも文句は言える.文句は欲望の裏返しのことが多い.本当にしたいことがあるから,人は文句をいう」
    「もし,同じような文句を言う人が10人いたら,そこにはビジネスチャンスがあると考えて良いでしょう.あとはその欲望,つまりインサイトを受け止める装置を作ってあげれば良いわけです.」

    ことばが変われば現実も変わる.
    サピア=ウォーフ仮説,言語決定論:
    「われわれは,生まれつき身につけた言語の規定する線にそって自然を分割する」

    ======================

    ”「リア充」ということばが広く人口に膾炙すると,それを気にし出す,あるいはそれを気に止む人が増える.”

    「リア充とか加齢臭について気にすることを,社会学ではフレーミングと呼んでいます

    負け犬→エッセイイストの酒井順子がひろめた社会記号

    「ハリトシス・スタイル」「ハリトシス・アピール」→医学的な病気に見える名称を使って不安を煽って市場を作ろうとする広告活動を指す専門用語,ハリトシス=口臭.リステリンは口臭の問題を医学用語を用いて下品さを軽減させた上で伝達することで莫大な広告効果を得る

    加齢臭もハリトシス・スタイル型の社会記号
    加齢臭の原因は科学的に証明済みで指摘の現象が実害することは真実.ただ,それよりも「加齢臭」というラベルを与えてことが,世間の関心を集めた.

    撞着語法,形容矛盾…聖なる愚者,小さな巨人
    論理的に矛盾する複数の言葉をかけ合わせることで、人の目や興味をひく表現となり、謎めき・意表・皮肉・深意などの印象

    「物を売るには,言葉もまた売らなければならない」


    社会記号が生まれる背景には人々の暗黙知な欲望が存在する.(こうなりたい,こうなりたくない)
    欲望の発見=生活者インサイトの発見
    「おひとりさま」「草食系男子」「加齢臭」

    求人に頭を悩ませていたGoogle
    →数学の難問を学生に見せて,解かせることでGoogleのリクルートサイトへ誘導.
    →難問を解きたいという優秀な理工学生へリーチ
    →学生の難問を解きたいという”潜在的欲求”を見事に突いた奇策

    羊たちの沈黙,ハンニバル・レクター博士
    「われわれは日頃目にするものを欲求する.それが始まりなのさ」
    内田樹
    「欲望というものは「それを満たすものが目の前に出現したとき」に発動するもの
    →ウォークマンが発売されるまで,人は「歩きながら音楽が聴きたい」という欲望に気づいていなかった.

    雑誌(オールドメディア)はもともと社会記号を作るのが得意なメディア媒体.ちょい悪親父,エビちゃんOL等…
    なぜ?→ターゲットが特定の年齢や社会的属性に絞られているから.

    社会記号ができると…
    ・メディアに取り上げられる
    ・その記号が自分の欲望を捉えていると認識した人がファンになる.
    ・コミュニティが生まれる
    ・市場が生まれる
    →雑誌編集者は社会記号の誕生すなわち読者の潜在的欲望の発見を望んでいる.だから読者調査に手を抜かない.→「シロガネーゼ」,「公園デビュー」の発見

    テレビやネットニュースは不特定多数の読者を想定しているため,刺さる言葉を使いにくい.


    検索エンジン,ネット書店
    →言語化された欲望を叶えるには強力なインフラ

    リアル書店
    →暗黙知な欲望を発見・叶えることができるインフラ.

    ”人は,すでに言語化した欲望を叶えてくれるプレイヤーには,あまり感謝をしない”

    ”文句”は宝石の原石→
    本屋大賞誕生のきっかけ→「なんであの本が直木賞?」という書店員の”文句”

    ”日常の違和感”がインサイトの種

    コンビニでおにぎりを売り始めたのはセブンイレブンが最初

    商品・サービスの提供者がインサイトの掌握に迷走するケースが多々.
    →技術オリエンテッド,その機能はあれば便利だけど,現場でワークするかどうかは別…
    →どん兵衛ファンのタレントが「10分待って食べる」という日清が想定しない食べ方を発見,拡散

    社会記号の機能:
    自己認識 自分はコギャルだった.コギャルでよかった
    同化 コギャルになりたい
    寛容 コギャルだからしょうがない
    報道 コギャルの生態はこうだ
    市場 コギャル向け製品を作ろう
    拒絶 コギャルはけしからん
    規範 コギャルはこうあるべし
    課題 コギャルは社会問題だ

    ことばが変われば現実も変わる.
    サピア=ウォーフ仮説:
    「われわれは,生まれつき身につけた言語の規定する線にそって自然を分割する」
    →日本人は虹を7色に捉える.ドイツでは5色,アフリカでは8色


    社会記号の累計:
    ・呼称
    ・行為
    ・脅威
    ・カテゴリ

    クラフトビール→大手ではない業者が作ったビールのこと.クラフトビールというカテゴリが与えられることで市場に受け入れやすくなった.

    社会記号を創り,拡散すればそれは世間を変えうる力になる.ただし,生き残れる社会記号はごくわずか
    →ブラックスワンにおける「果ての国」の世界.

    メディアは常に新しい現象を報じたいと思い、その裏付けとなる具体例を探している。
    →メディアは"現象"を報じたい
    →現象のファクトとして具体例を探す。たとえその具体例が現象に乗っかることを意味していなかったとしても。("お一人様"ブームにおける一蘭 )

    具体例の寡占
    →メディアはめんどくさがり屋。"ハイブリッドカーといえばプリウス"→プリウス以外の商品がたくさんあるはずなのに、プリウスしか登場しない。
    →◯◯といえばこれ、とポジションを獲得するとメディアで複数取り上げられる。強い。
    →★社会記号を代表する商品の席は一つか二つ。

    自社サービスだけでなく社会記号を語れる広報パーソンは、その社会記号の有識者ということで取り上げられて結果として自社製品の宣伝につながる。
    →自社商品ではなく現象を語れる広報パーソンを目指すべき。

    メディアの現象発見欲

  • ビッグデータでインサイトはつかめない
    雑誌は読者のインサイトを発見して言語化し、社会記号として提案する。美STは「美魔女」という言葉で、読者が心の奥底では望みながらもうまく言語化できなかった欲望を新しい価値観として提案した。ビッグデータは顕在化している欲望(夏になるとダイエットで検索する人が増える、等)を答えることができても、言語化、社会記号化はいまのところできない。
    グーグルのチーフエコノミストは「21世紀の最もセクシーな職業は欲望と欲望を結び付ける統計学者だ」と言ったが、統計データから社会記号を見つけることができる人こそセクシー。
    社会記号は誰かが仕掛けてコントロールできるものではない。北朝鮮やナチスドイツでは、皮下注射モデル的に国営メディアによってコントロールしやすいが、日本は右向け右ではなく、企業やメディア、生活者の相互作用で生まれる。作りたいけど作れないから社会記号は面白い。
    シニアがゲームセンターに増えていることを「定年退職しても仲間に会いたいから来ているんだ」なんて、自身の行動の目的を合理的に他人に説明できる人なんてめったにいない。
    「定量は過去」すでにデータとしてあるものを調べても「過去はこうだった」と分かるだけ。「ママチャリがおしゃれになってほしい」などは、そのもののデータがあるわけではなく、複数のデータに表れていたとしても、その事実をどう捉えるかは人間しだい。
    未知の欲望を発見する能力のある人は「欲望ハンター」と言える。小池百合子の「都民ファースト」や小泉純一郎の「郵政選挙」みたいに、複雑な社会情勢を一つのキーワードいn収れんさせていくのは問題がすり替えられている可能性が多々ある。それだけシンプルな言葉で世の中を切り取った背景では、何かが見えなくなっているんだろうと意識することは、社会記号との付き合い方として大事。
    本書では「カロリー0」を例に挙げていたが、最近なら「糖質オフ」ブームになると世の中が二分化され、「リア充」に対する「非リア充」、「負け犬」に対する「勝ち組」。日本は社会記号が発生しやすい国。NHKと5つの民放キー局テレビ番組がほぼ全国で放送され、新聞も1位の全国紙は1000万部が読まれている。これだけ効率よく多くの人に情報を届けられる国は珍しく、多くの人が同じ概念を共有することが起こりやすい。

  • 社会記号とつく本の中で、初めて理解できた。言葉の効果を掘り下げているので、言葉に関わる人は読んでおくべきと感じる。

  • とりあえず一周読んだった〜!
    社会記号となった言葉たちがどのように生まれてきたか、具体例も交えて丁寧に書いてあって読みやすかった。
    社会記号を作りたいとしたら、人を観察するしかない。欲望のありかを探し続けるしかない。と考えた。「欲望を持つ人」に憑依するために自分が何かの欲望を持ってるのが大事だろうなと思った。

  • 「加齢臭」「女子力」「イクメン」「草食男子」「ロハス」「おひとりさま」「コギャル」「エビちゃんOL」「シロガネーゼ」「美魔女」「できちゃった婚」「朝活」「リア充」「ハリトシス」「ブロモドシス」「アシドシス」「ホモトシス」「臭活」「スメハラ」「癒し」「イケダン」「ちょいワルおやじ」「カエルコール」「朝シャン」「マスオさん」「オタク」「既読スルー」「インスタ映え」「マイルドヤンキー」「モボ・モガ」「セクハラ」「森ガール」「スキゾ・パラノ」「しょうゆ顔・ソース顔」「草食男子・肉食女子」「カメラ女子」「ラーメン女子」「カープ女子」「山ガール」「歴女」「干物女」「断捨離」「ダブルハッピー婚」「おめでた婚」「授かり婚」「クールビズ」「パワハラ」「アカハラ」「モラハラ」「家事ハラ」「マタハラ」「婚活」「美活」「恋活」「終活」「妊活」「離活」「温活」「公園デビュー」「メタボ」「SST」「アラ更」「クラフトビール」「第三のビール」「エナジードリンク」「食べるラー油」「ハイボール」「シュガーレスチョコレート」「デパ地下」「駅ナカ」「ゆるキャラ」「いやげ物」「ルーズソックス」「ジロリアン」「ファストファッション」「ハイビリッドカー」「シックスポケット」「ニアウォーター」「プレミアムビール」「サードウェーブコーヒー」「カリスマ店員」「バツイチ」「カップヌードルごはん」「渋谷系」「都民ファースト」「郵政選挙」「負け犬」「萌え」「コマダム」「モテかわ」「リケジョ」…本書に登場する社会記号なるものの数々。タルコット・パーソンズの「概念はサーチライトである」との言葉通り、これらの新しい言葉は見えなかった欲望を可視化してくます。同時に影もつくり、逆に見えない部分もつくります。企業とメディアのサラリーマンたちが次々に見えない物を見せてくれる時代、影も次々生まれているのだな、と思いました。ネットの世界になって加速される直感的欲望が、もしかしたらポピュリズムの根っこなのかもしれないと思いました。

  • ・メディアは企業の宣伝ではなくあくまでと世の中の変化を伝えるニュースを報じたい
    ・モノを売るには言葉もまた売らなければならない
    ・社会記号の裏には「人々の欲望の暗黙知」が反映されている→インサイトの発見と同義
    ・欲望というものは自存するのではなく「それを満たすものが目の前に出現した時」発動する。さらに人間は自らの欲望をそう簡単に言語化できない→そして人間の欲望は都合がいい。さも前から欲しかったかのように振る舞い出す
    ・大衆から分衆の時代へ
    ・「黄金のひとこと」ふとした時に漏れる本音のことば
    ・「文句」は欲望の裏返し
    ・広報やマーケティング担当者は自社商品を語るのではなく現象を語ることのできる広報パーソンを目指すべき→社会記号とブランドが結びつく
    ・笑笑の女子会プランは実態をつかんでいたからこそ成功した→どうやって実態をつかむのか?→憑依するしかない
    ・メディアの現象発見欲求と企業側のマーケティング戦略のせめぎ合いの中で社会記号とそれを代表する事象が決まって行く
    ・消費者ニーズがない言葉は社会15にはならない
    ・例外事例として見るか新しい欲望の萌芽、予兆として見るか。そこの違いは大きい。
    ・ 欲望つまりインサイトの発見はAI AIにはできないだろう
    ・少数の事例から通底する欲望を見出ししかもそこに名前を与えることで現象を社会記号と言う上位概念で表現することができる人が優れたマーケッター

  • 熱中して読めた興味深い本。スメハラということばを初めて知った。

  • 加齢臭、イクメン、草食男子、女子力、ロハス、おひとりさま、コギャル、第三のビール...

    生まれたときには辞書に載っていないのに、いつのまにか社会的に広く知られるようになり使われるようになる流行語を「社会記号」と名づけ、マーケティングのプロと研究者が考察する

    《「そうそう、これが欲しかったんだ!」》の謎を解く

    マーケター、広報担当者、商品開発者は世の中の「ちょっと先」が見えるようになるために、生活者、消費者としては世の中を見通しクリティカルに洞察できるようになるために

  • 「加齢臭」「でき婚」「癒し系」「リケジョ」「リア充」など、新しく生まれた言葉が、消費者の隠れたニーズや本音をうまく表現し、その本質的な特徴を的確に表現することで、社会現象になったりビジネスを生み出したりする。この本質を理解できれば、「コミュニケーション」や「コミュニティ」や「価値」を生み出せるのではないか、ちょっと先の未来を見通せるのではないかと思い読了。「欲望はそれが目の前に発言した時に発動する」「自覚できない欲望の暗黙知を反映させ、言語化する」「商品ではなく現象を語る」「例外ではなく、予兆と捉える」

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著者プロフィール

博報堂ケトル共同CEO/クリエイティブディレクター・編集者。
1993年、博報堂入社。企業の広報戦略に関わる。
2001年、朝日新聞社に出向し、若者向け新聞「SEVEN」の編集ディレクター。
2003~05年、雑誌「広告」(博報堂)編集長。
2012年、東京・下北沢に本屋B&Bを開業。
著書に『なぜ本屋に行くとアイデアが生まれるのか』(祥伝社新書)などがある。

「2014年 『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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