香港デモ戦記 (集英社新書)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211214

作品紹介・あらすじ

逃亡犯条例反対に端を発した香港デモは過激さを窮め、選挙での民主派勝利、コロナウィルス騒動を経てなお、混迷の度合いを深めている。
お気に入りのアイドルソングで気持ちを高める「勇武派」のオタク青年、ノースリーブの腕にサランラップを巻いて催涙ガスから「お肌を守る」少女たち……。
リーダーは存在せずネットで繋がり、誰かのアイデアをフラッシュモブ的に実行する香港デモ。
ブルース・リーの言葉「水になれ」を合い言葉に形を変え続ける、21世紀最大の市民運動の現場を活写する。

◆目次◆
序章 水になれ 香港人たちの新しいデモの形
第一章 二〇一四年『雨傘運動』の高揚と終息
第二章 未来のために戦う香港 二〇一九年デモ
第三章 デモの主力・学生たちの戦い
第四章 市民たちの総力戦
第五章 オタクたちの戦い
第六章 敵たちの実相
終章 周庭(アグネス・チョウ)の二〇一九年香港デモ
あとがき

◆著者略歴◆
小川 善照(おがわ よしあき)
1969年、佐賀県生まれ。東洋大学大学院博士前期課程修了。社会学修士。1997年から週刊ポスト記者として、事件取材などを担当。
『我思うゆえに我あり』で、第15回小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。
社会の病理としての犯罪に興味を持ち続けている一方、雨傘運動以来、香港へ精力的に足を運び「Forbes」「日刊ゲンダイ」などの連載でその様子を綴っている。

感想・レビュー・書評

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  • 【書評】香港人の涙はいつ止まるのか:小川善照著『香港デモ戦記』 | nippon.com
    https://www.nippon.com/ja/japan-topics/bg900172/

    つながる/ひろがる/フェミ・ジャーナル -ふぇみん-|ふぇみんの書評
    https://www.jca.apc.org/femin/book/20200905.html#c

    香港デモ戦記 – 集英社新書
    https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1021-b/

  • 日本のニュースでも度々取り上げられた香港のデモ映像。座り込みや時には警官との激しい乱闘シーンも流れ、背景を理解しない人から見たら、中国の体制に組み込まれる事への反発なんだろうな、程度にしか考えていなかった。歴史で学んだように香港はアヘン戦争でのイギリスの勝利により同国植民地となった後、太平洋戦争では日本が統治下に置いた場所だ。戦後も中国には返還されず元通りイギリスが植民地としたものの、1898年の展拓香港界址専条によって99年間の租借が決まった。現在、その期限切れとなった1997年以降、「一国二制度」の下で香港には50年間の自治権が許されている状況だ。よって2047年には領土のみならず、制度を含め完全に中国の一部となる。
    それまでは表向き自治権(自分たちのことは自分たちで決める)があるはずの香港だが、実質的な行政庁官職は最低得票率の親中国派が当選し、中国大陸からの旅行者や不動産投機マネーの流入で、じわじわと赤化が進みつつある。危機感を抱く香港住民、特に若い世代は自由のない中国化を避けるべく様々な手法を用いてデモを繰り広げている。またその様な若者達を純粋な香港在住の市民が支援している形になっている。
    筆者は2014年に発生した普通選挙を求めた雨傘運動から現地で取材を重ね、若者のリアルな姿を記録してきた。日本でも有名な女性活動家の周庭(アグネス・チョウ)や黄之鋒(ジョシュア・ウォン)等へのインタビューも含んでおり、実際はアニメや漫画、日本のアイドル達が好きな普通の若者と一緒である事がわかる。香港のそうした若者達は日本でも話題になった「ゆとり教育」のような形で問題解決型の教育を中心に受けてきた。日本では失敗の代名詞となる教育手法だが、香港では小学生ですら国や政治のあり方から身近な問題まで、課題解決思考が育ったようである。若者の「香港のこれからのカタチ」に対する意識は日本人の日本に対する同じものと比べて遥かに高い水準にある。なお、中国側は面白くないと見ているため、当たり前だが北京式の愛国教育を導入しようと試みデモにより失敗に終わっている。
    2019年には記憶に新しい犯罪者引渡し条例の設置に対しても大規模なデモが発生した。雨傘運動は前面に出て市民を率いたリーダー達が次々と逮捕・拘禁されるなどして瓦解、目的未達に終わった教訓を活かし、定まったリーダーをおかずスマホ上で隠語などで情報共有する形に変わった。ツールを駆使して権力に闘いを挑むのは若者らしいし、彼らの自由を求める熱意は時を経ても変わらない。
    日本といえば選挙権が18歳へと引き下げられたものの、相変わらずの投票率と、政治への無関心が続く。一部危機感を抱く高校などでは投票年齢引き下げに際して、香港の学生のような政治や社会課題に関する討論を行なったと聞くが、ゆとりの反動からくる詰め込み型中心の教育は、さほど変わっていないように感じる。やはり自分たちの住む場所と自由の将来がかかっている状況との大きな差を感じざるを得ない。
    本書に登場する香港の若者達はみな大半が10代、中には中学生も勉強しながらオキュパイ(占領)に参加する子までいる。そうしたデモ参加者を医療班や情報班として支えるのも若者が中心だが、会社員やタクシー運転手なども自分たちができる形で何らか支援をしている。市民全体の政治意識が非常に高いと感じられる。しかしながら、皆普通に学校へ通って勉強し、会社員も普段は経理の事務員だったりと、日常と政治が上手く無理なく溶け込んでいるようだ。だから気軽に参加できるのも事実だ。近年は警察側の取り締まりも厳しくなりつつあるようで、低致死性の武器も平気で使用しており、それに対するデモ側も武闘派グループが合法的に集められる材料から武装化するなど危険な方向に進みつつある。暴力が暴力を呼ぶ流れになりつつもある。そういった事態で最も恐れるのは暴発であるが、デモ隊に若い子が多いことを考えると何とか踏みとどまってほしいところだ。天安門事件の悪夢が若干頭をよぎるが、中国政府も名実ともに大国意識があるなら、何とか話し合いで決着を付けて欲しい。民主的な解決が望めないのは苦しいが、そうした市民の若者の考え方を真に理解する官僚や政治家が居てくれる事を願う。
    私も若い頃から何度も香港やマカオを訪れた。洗練された都市にどこか懐かしい人々の雑踏の熱気と匂い。日本の都心のように高層ビルが立ち並ぶすぐ横には良い香りを漂わせる小さな屋台、行き交う人々の活気溢れる街が、次に訪れる際もそのままであって欲しい。
    民主活動家の言葉、今の腐敗した政治に浸かった香港を変えるなら、中国自体を変えなければならないといった意味の言葉が深く印象に残った。

  • どこまでも/逃げよ逃げのびよ/いつの日か/草、はびこり/砂、城を覆う//

    にぎわいし/かの別天地/今は無し/愚かな風に/港の香ぞ散る//

    『「獄」という字—両側は「犬」で 真ん中は「言葉」だ /中国の牢獄は人間ではなく言論を監禁するものなのだ』(陳 邁平、翰光著「亡命 遥かなり天安門」より)//

    テレビ観る/つかのま隅に/煙ふかし/邦捨つるほどの/思想はありや//

    香港人かく戦えり。では、翻って僕らはどうか?「亡命 遥かなり天安門」を読んだ後と同様、彼らの生き方は鋭くこちらの生き方を問うてくる。

    国家安全維持法の導入により、彼らの戦いは敗北に終わったように見える。だが、リベラルスタディーズで鍛えられ、200万人デモさえ現出させた彼らの民主への渇望と抵抗のしたたかさを僕は信じたい。

    以下は、雨傘運動の際の著者からジョシュア・ウォン(黄 之鋒)へのインタビューの一部だ。
    『—日本の若い世代にメッセージを。
    「日本には民主主義があるが香港にはない。だから、ぼくは、今ここにいて戦っている。日本の若者たちは、今ある民主主義を大事にしてほしい。民主主義はどんな間違った政治でも改善することができる。民主主義によって、政治は官僚たちだけのものでなく、若者のものにもできるのだから。」』

    『実は、雨傘運動後に来日した「民主の女神」こと周庭(アグネス・チョウ)に、こう言われたことがある。—中略—
    「日本のアニメやマンガは、自分たちを抑圧する大きな敵に対して、反抗する物語が多いのに、なぜ、日本では、社会運動が起こらないのですか?」』

    2018年の立法会議員補欠選挙における周庭の応援演説から:
    『「諦めないでください。手にしている一票を軽んじないでください。個人の力を軽んじないでください。生きている心は誰かを動かせるから。諦めないで努力し続けていけば、いつか必ず成果を得られると、私は信じています」』

  • ◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB30526266

  • 香港デモ戦記、という名前のまんま。自分自身香港にそこまで思い入れがなかったこともあり、2014年の雨傘運動はあまり追いかけていなかったが、そこまで遡っていたのはよかった。著者がつたない英語で必死にコミュニケーションをはかった的な表現が何度も出てくるのは一体なんなんだろう?と思わなくもなかった。自分自身が北京滞在を経た2019年にはかなり熱心に当時のメディアを追いかけていたのでいろいろとその頃の映像がフラッシュバックした。

    ただ何となく全体的な潮目が変わったとい思えるような出来事(救急隊の人が失明、転落して亡くなった最初の被害者、大学立て篭もり、飛行場でのたてこもり、拳銃で撃たれてしまったデモ隊、英国大使館勤務の人間が深圳で逮捕等)が触れてなかったり、それとなくさらりと書かれていたりというのが気になった。中国側で武装警官が訓練したりとかもしてた気がするし、特にイギリスやカナダにおいて現地の香港人と中国人の対立なんかも包括的になんかまとめてある読み物があったら読んでみたいものだ。

  • ●黒警、ヤクザ警察のこと。警察が暴力を振るう。
    ●デモの引き金は、犯罪者を外国に引き渡す「逃亡犯条例」の改正である。
    ●ブルースリーは香港が生んだ英雄である。カンフー映画で有名だが、彼はワシントン大学で哲学を学んで、多くの哲学的な言葉を残している。「水になれ」
    ●大陸から流れてくる金は、市民に行き渡るのではなく、香港の地下と物価を上げるだけになっている。
    ●香港警察は個別のID番号を表示している。しかしIDがない警察がいるんです。広東語で叫んでも全く反応がなく、理解できないみたいです。中国本土の武装警察が秘密裏に動員されたのではないか?
    ●「我々、香港人は自分たちを中国人だとは思っていない」
    ●勇武と言われる過激な活動がほとんどが、実は学生である。(リベラルスタディーズ)、香港型ゆとり教育がデモ隊を生んだ?


  • 若者が政治に関心を持たないのは、国政が上手くいっているからであって、問題とは思わない。こうしたニュアンスが我が国の党首討論で発言されたが、私も基本的には同感だ。民主主義を維持するために、若者が立ち上がる。しかし、実際には、若者は選挙にいかない。別に矛盾している訳ではない。いつでも政治を変えられるという前提の維持こそ重要だからだ。

    中国共産党が、香港の選挙に口出しし、体裁は保ちながらも内実は共産党の指定候補者しか立候補不可能。この選挙制度に抗ったのが2014年の雨傘運動で、催涙弾やペッパースプレーの噴射を防ぐ傘がデモの象徴となった。年月流れ、本著はその後の逃亡犯条例を巡るデモを取り上げる。

    デモ隊にも民主派、自決派、本土派など、微妙に主張やアイデンティティが異なる点は国外からは見え難い。彼らの敵、理想は何か。中国共産党は、一国二制度の体面を保ちながらも、民主主義を巧みに破壊する。怖いのは、これが台湾を含む党略の成功体験になる事だ。

    上海人や広東人は政治よりも商売に関心を向けている気がしてならない。中国共産党でも別に良い。党が司法、軍隊、警察権と分離独立されず、民衆を好き勝手に逮捕して思想教育できてしまうのが怖いのだ。こう言っていたのは私の友人だが、まさに。

  • 312-O
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  • 香港デモの実情

  • 香港という存在は、僕にとってはやはり映画でしょうか。ジャッキーチェンを始めとする香港の映画はとても面白かった。アクションが痛快で夢中になって見ていました。
    子供の頃、国の違い何て大した違いとは思っていなかったので、中国はなんて面白い映画を作る人たちなんだろうと思っていました。
    授業では教わっていたものの大して気にも掛けていなかったので、1997年の香港返還のニュースが流れるまで、香港が英国領であったことすら忘れていました。
    民主主義で育った人々が監視社会である中国に取り込まれた時にどうなるのだろうと思っていましたが、一国二制度という方針になって50年は元の状態が保たれる事になりました。
    50年後なんて遠い未来の話のようでしたが、2047年には完全に中国本国に完全に取り込まれることになります。
    既に今自由が失われつつ有り、中国本国からの土地の買占めなどで住宅事情も悪化して、自分たちの土地で有るのに高すぎて手が出ないという状況に陥っています。移住者もどんどん増え、体制自体が中国と同化する方向に向かっている事で、既にして中国の思うがまま香港が変貌しています。
    そんな中若者が悲壮な決意でデモを繰り返し、民主主義を守る為戦っています。
    この本は、そんな学生含む若者の素の姿を描いています。日本ではきっと60年代安保の時の姿と被るのかもしれませんが、彼らにとっては真実自分たちの未来を守る戦いです。
    あとわずか27年後には完全に民主主義が消え、社会主義の監視体制の中生きて行く事になる。これは自分たちに置き換えると本当に耐えがたいし、やりきれない事です。当然文化も消える事になるでしょう。本も映画も国にお伺を立てて許されたものだけになる事でしょう。
    デモに参加した事が分かるだけでも将来に影響が出るし、へたをすると連行されたまま帰って来られないなどの事も考えられます。出版社の人たちが軒並み失踪するなど不可解な事件も起こっているそうです。そんな非常に恐ろしい状態で戦い続ける彼らの精神力は物凄い・・・。
    これからの香港の情勢にも注目していきたいと思います。

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