人新世の「資本論」 (集英社新書)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211351

作品紹介・あらすじ

人類の経済活動が地球を破壊する「人新世」=環境危機の時代。
気候変動を放置すれば、この社会は野蛮状態に陥るだろう。
それを阻止するためには資本主義の際限なき利潤追求を止めなければならないが、資本主義を捨てた文明に繁栄などありうるのか。
いや、危機の解決策はある。
ヒントは、著者が発掘した晩期マルクスの思想の中に眠っていた。
世界的に注目を浴びる俊英が、豊かな未来社会への道筋を具体的に描きだす!

【各界が絶賛!】
■松岡正剛氏(編集工学研究所所長)
気候、マルクス、人新世。 これらを横断する経済思想が、ついに出現したね。日本はそんな才能を待っていた!
■白井聡氏(政治学者)
「マルクスへ帰れ」と人は言う。だがマルクスからどこへ行く?斎藤幸平は、その答えに誰よりも早くたどり着いた。 理論と実践の、この見事な結合に刮目せよ。
■坂本龍一氏(音楽家)
気候危機をとめ、生活を豊かにし、余暇を増やし、格差もなくなる、そんな社会が可能だとしたら?
■水野和夫氏(経済学者)
資本主義を終わらせれば、豊かな社会がやってくる。だが、資本主義を止めなければ、歴史が終わる。常識を破る、衝撃の名著だ。

【おもな内容】
はじめに――SDGsは「大衆のアヘン」である!
第1章:気候変動と帝国的生活様式
気候変動が文明を危機に/フロンティアの消滅―市場と環境の二重の限界にぶつかる資本主義
第2章:気候ケインズ主義の限界
二酸化炭素排出と経済成長は切り離せない
第3章:資本主義システムでの脱成長を撃つ
なぜ資本主義では脱成長は不可能なのか
第4章:「人新世」のマルクス
地球を〈コモン〉として管理する/〈コモン〉を再建するためのコミュニズム/新解釈! 進歩史観を捨てた晩年のマルクス
第5章:加速主義という現実逃避
生産力至上主義が生んだ幻想/資本の「包摂」によって無力になる私たち
第6章:欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
貧しさの原因は資本主義
第7章:脱成長コミュニズムが世界を救う
コロナ禍も「人新世」の産物/脱成長コミュニズムとは何か
第8章 気候正義という「梃子」
グローバル・サウスから世界へ
おわりに――歴史を終わらせないために

【著者略歴】
斎藤幸平(さいとう こうへい)
1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。
Karl Marx's Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初歴代最年少で受賞。
編著に『未来への大分岐』など。

感想・レビュー・書評

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  • こちらを読むための準備運動として100分de名著「資本論」を読んだのだが、非常にわかりやすくまとめられており、資本論の概要がつかめた
    本書ではさらに資本主義の問題点の多さと、奥深さに、薄々気づいていたことを突き付けられたような衝撃を感じることとなった

    さてタイトルにもある「人新生(ひとしんせい)」とは何ぞや?
    人間たちの活動の痕跡が、地球の表面を覆い尽くした年代という意味
    なんだか恐ろしい符号を付けられた感じである

    改めて資本主義がどういう犠牲の上に成り立っており、その恩恵を受けているのが実は一部の人たちということが多くの調査とデータにより実に詳細に分析されている
    先進国を豊かにする大量生産・大量消費型社会
    この裏ではグローバル・サウスの地域や社会集団から収奪し、代償を押し付ける構造が成り立っているのだ
    グローバル・サウスで繰り返される人災
    あまり報道されず、どこか遠くの話し…と犠牲が不可視化されうやむやにされる

    少し例を上げたい
    インドネシアやマレーシアではパーム油の原料となるアブラヤシの栽培面積の増加による森林破壊が起きている
    熱帯雨林の生態系を狂わせ、土壌侵食が起き、肥料・農薬が河川に流出し、川魚が減少
    この地に暮らす人々のたんぱく質が激減し、お金が必要になる
    やむを得ず金銭目当てに絶滅危惧種の野生動物の違法取引に手を染める
    そう、労働搾取だけでなく、資源の収奪と環境負荷の押し付けをしているのだ
    気づいていただろうか?
    知らなかっただろうか?
    誰もが薄々わかっていたのではないだろうか…

    もう一つ例を上げたい
    テスラなどの電気自動車だ
    こちらはリチウムイオン電池が不可欠となる
    チリが最大の産出国であるが、塩湖の地下からリチウムを含んだ鹹水かんすいをくみあげ、その水を蒸発させることでリチウムが採取される
    これは地域の生態系に大きな影響を与える
    つまり地元住民の生活に皺寄せが行く
    いわゆるグリーン技術は生産過程まで目を向けるとそれほどグリーンではない

    自分たちの幸せは犠牲の上に成り立っているのに、知らないから知りたくないに変わってしまい、エコバッグを買ってSDGsを掲げてアリバイ作りをして見ないふりをする
    ドキッとする人がたくさんいるのではないだろうか

    また、個人的に違和感を感じる身近なこと…
    例えばアマ〇ン
    非常に便利で何度もお世話になっている
    当初、そこまで急いでないのにこんなに早く届くとは!
    と感激したものだが、それが当たり前になってくると、(不思議なもので)納期に時間がかかると
    あれ?遅いじゃないか…となるのが人間の心理

    便利な返品システムと各地に増え続けるアマ〇ンの倉庫
    システマチックに価格が変動し、そのせいでどれほどの物流や人が動いているか…
    (うちの会社もかなり振り回されております…)
    これって尋常じゃない…はずなのに
    ここまでの付加価値が本当に必要ですか?
    たぶん必要ではない
    このシステムで何が犠牲になっているか、きちんと知る必要がある
    が、この仕組みに慣れるということが恐ろしいことなのだと自覚する必要がある
    資本主義はどこかで利益や利便性が発揮されると必ず皺寄せがどこかにいくシステムなのだと改めて感じた


    さて斎藤氏はどうすればこれらの問題が解決すると考えるか…

    ○「脱成長」
    興味深い比較がある
    経済成長と幸福度に相関関係は存在するのか…というアメリカとヨーロッパの比較だ
    ヨーロッパ諸国はアメリカに比べGDPが低いが、福祉施設全般の水準は高く、医療や高等教育が無償で提供される国がいくつかある
    一方アメリカは無保険のせいで治療が受けられない人々がいる
    要は生産や分配をどのように組織するかで社会の繁栄は変わる
    一部が独占すれば多くは不幸になる
    公正な資源分配をすることで解決すると強く言う

    ○コモン
    コモンとは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと
    水、電力、住居、医療、教育などを自分たちで民主主義的に管理することを目指すのが資本主義でも社会主義でもない第三の道だという
    ここではバルセロナの具体例が紹介されており、少しずつ世界に広がり見せている模様


    つまり最終目指すところは
    「脱成長コミュニズム」という社会であり、相互扶助のネットワークを発展させていくこととする
    (我々の無関心さが1%の富裕層・エリート層が好き勝手をさせ社会の仕組みや利害を作り上げてしまったのだ ああ、無関心の罪深さよ…)

    本書はなるほどと思う部分と、まだ心のどこかでそんな社会は可能なのか、現実的にどうなのか…と疑問視する部分がある
    そして資本主義の恩恵を捨てられるのか…とも考えさせられる
    同時に果たして地球は誰のための者なのだろうか…
    いや、誰のものでもないはずだ
    資本のある人間が何かを独占していいなんて確かにおかしい
    住む土地、生きるための酸素、生活必需品の水…
    人間も動物もその他生物たちに平等なので共存すべきではないか
    もしかして…資本主義が進むと酸素や太陽の光や温度の恩恵さえ、お金を払わないと受けられなくなるのではないだろうか
    さらに地球の環境が激化し、これらが争奪戦になるとしたら…
    お金を持っている人間だけしか生き残ることができない
    ディストピアの恐ろしい世界である
    でももしかしたらそんな遠くない将来、それに近いことが起きるのかも…

    兎にも角にも深く考えさせられる書であったが、決して難しいことは書いていない
    具体例も多く、わかりやすい
    本書の売れ行きから考えても資本主義への疑問や不満を持つ人たちが増えているのは間違いないだろう

    そう、無意識ほど罪深いことはないのだ

    • アテナイエさん
      ハイジさん、こんにちは!

      たいへん素晴らしいレビューですね♪ 感激しながら拝読して、また自分のなかで復習しました!

      >自分たちの...
      ハイジさん、こんにちは!

      たいへん素晴らしいレビューですね♪ 感激しながら拝読して、また自分のなかで復習しました!

      >自分たちの幸せは犠牲の上に成り立っているのに、知らないから知りたくないに変わってしまい、エコバッグを買ってSDGsを掲げてアリバイ作りをして見ないふりをする

      うぅ~ほんとにそうなんですよね。環境にしても、原発や米軍基地や世界中で発生している貧困地帯の紛争・戦争にしても、都合の悪い真実には目をつぶりたくなるのが人間心理ですよね。
      べつに作者は読者を責めているわけでもないのですが、下手すると、なかば逆切れ状態になったり、絵空事だとうやむやにしたり……私も友人と話をしていると、こんな感じになってしまうことがあります(笑)。

      とにかく現状と問題点を知ることは大事だな~と思いました。ハイジさんのレビューをみて、かなり忘れていたこともあるので、また近く読んでみようと思いました。
      ありがとうございま~す(^^♪
      2022/05/18
    • ハイジさん
      アテナイエさん こんにちは(^ ^)
      コメントありがとうございます!

      本当に深く深く考えさせられました。
      読むこと自体は難しい本ではないで...
      アテナイエさん こんにちは(^ ^)
      コメントありがとうございます!

      本当に深く深く考えさせられました。
      読むこと自体は難しい本ではないですが、アウトプットするには難しいですね…

      そうなのです
      ヘタをすると綺麗事や偽善的になりそうですし、じゃあ何ができるのだろうと…
      読んだ後も後を引いて…
      マスメディアの環境保護とかSDGsにいちいち疑問を持つようになりました(^^;;

      でもまずはそういうことで良いのかなぁ
      と…
      一歩ずつ…ですね!
      2022/05/18
  • 「人新世」とは、人が原因で、経済成長が困難になり、経済格差が拡大し、環境問題も深刻化している時代のこと。

    どのように「脱成長」すべきかを論じた本だ。
    真剣に地球環境を守ることを最優先に活動せよ!という主張の本でもある。
    多くの人が読んで高評価し、ベストセラーになったことを嬉しく思う。

    私も長年「経済成長」ありきという思想から脱却すべきと考えていたので、本書の主張はすんなりと支持できる。

    著者の主張どおりに世の中が動けばかなりの改善が見込めると思うが、
    各地で戦争が起きたり、金にまみれた自己保身が最優先の政治や企業活動を目の当たりにしていると、
    人の思考や行動は簡単には変えられないという現実を身に染みて感じる。

    「脱成長」などとのたまう人は、貧困層の苦しみを知らない金持ちだからだという反応がある。
    では、資本主義のもと「経済成長」して先進国となった社会で過ごす大多数の人が依然として「貧しい」のはなぜなのか?

    「脱成長」が嫌われるのは、資本主義をベースに考えているからだ。
    資本主義の元では「脱成長」は「停滞」「衰退」という否定的なイメージがつきまとう。

    だが、資本主義の収奪の対象は、労働力と地球環境全体だ。
    資本主義のシステムで経済成長を目指せば、環境が危機的状況に陥るのは自明だ。

    気候変動対策をないがしろにすることを正当化するのが資本主義の経済理論だ。

    「環境に優しい恒久的な経済成長」というスローガンに酔いしれている政治家たちを批判しているグレタ・トゥーンベリさん。陰ながら応援している。
    有限な世界において、いつまでも成長が続くわけがない。

    急いで資本主義に代わるシステムを準備しなくてはならない。
    なのに目先の利益しか考えられず、「経済成長」を続けて豊かになることが正しい判断だと思い込んでいる。
    「災難は、我が亡き後に来たれ!」「自分さえ逃げきれればよい」という少数の政治家や資産家が世の中の悪化を推進している。

    SDGsですら「持続可能な経済成長」と結び付け、儲けるチャンスとして利用しようとしている。

    経済成長を目指す限り、気温上昇は止められない。
    地球環境の破壊を止めるには、成長を諦め経済規模を縮小するしかない。

    二酸化炭素の排出量を見ると、中国が突出している。
    現在の気温上昇の諸悪の根源は中国だと言う人は多い。
    だが、日本もアメリカも欧州も、中国に生産を依頼した製品を大量に消費している。

    再生可能エネルギーの利用も増えているが、化石燃料は減るどころか急激に増え続けている。

    世界の富裕層トップ10%が、二酸化炭素排出量の半分に責任があるという。
    けしからんと思うが、日本人のほとんどはトップ20%に入っており、大勢がトップ10%に入っている。
    我々自身が気候危機を作り出している当事者なので、生活様式を変えないと問題解決はしないということだ。

    「経済成長」を前提とした計画は、「豊かな暮らし」という善意が敷き詰められており気持ちいいが「絶滅への道」なのである。

    本書は「脱成長」を目指せという主張をしている。
    どのような「脱成長」がいいかを考えている。

    コロナ禍では、イザというときに政府に頼ろうとしても助けてくれないことを学んだ。
    儲けの薄いマスクや消毒液は、中国に作らせていたため、日本では手に入らなかった。

    必要とする時にマスクすら十分に作れない社会構造になっていた日本。
    贅沢品でなく"使用価値"を重視せよ。
    必要な物の自給率を高めよう。
    消費主義をやめよう。

    金儲けのためだけの意味のない仕事は減らすべきだ。
    資本主義の元での効率化は、「労働からの開放」をもたらさず「失業の脅威」となる。
    生産性向上のオートメーション化はエネルギー消費にも繋がっている。

    著者の主張するエッセンシャルワークの重視には大賛成だ。
    政治家の答弁書を作る官僚の仕事などは無くてもいい無駄な仕事だ。
    国会で答弁を聞いている政治家は無意味なので寝ているじゃないか。

    今の日本は、ケア労働や保育士や教師などの機械化が困難な労働は、生産性が低く高コストとみなされている。
    投資銀行やファイナンシャルプランナーなど、使用価値をほとんど生み出さない無くてもいい仕事が溢れている。
    労働に対する対価の基準がおかしいと感じる。

    現在の都市の姿も問題だらけだ。
    大量のエネルギーと資源を浪費する生活は持続可能ではない。
    恒常的な成長と利潤獲得のための競争を煽る経済システムからの脱却を目指さなくてはいけない。
    しかし、我々は資本主義が生み出した社会にどっぷりとつかって、それに慣れ切っている。

    政治家だけを責めてもしょうがない。
    政治家は次の選挙までのことしか考えられないからだ。
    だから、民主主義も変えていかなくてはいけない。

    よく、1%の超富裕層と99%のその他の人々なんて言われるが、
    99%側の我々の無関心さが、1%の富裕層が勝手にルールを変え、自分らの利害追求をしやすいような社会の仕組みを作ってしまった。

    だが、3.5%の人々が本気で取り組むと社会変革は可能だと言う。
    日本だと430万人が3.5%にあたる。
    私もこの3.5%に含まれる何かに貢献できるだろうか。

    まとまりのない、長文のレビューになってしまったが、うまく要約できないので勘弁してください。

  • 『ノストラダムスの大予言』を読んでいたときのような気持ちになりました。
    途中で止めようかと思ったけど
    新書大賞なんだから、きっと読んで良かったと思うはず…と頑張りました。
    佐藤優さんもヤマザキマリさんも絶賛しているそうだし。

    今まで読んできた本、たとえば『ファクトフルネス』では「世界は良い方に向かっている」と書かれていたし
    池上さんは「人類はさまざまな危機をのりこえてきたから、これからも」そして「ゆるやかなインフレが良い」と。
    出口さんも閉鎖的な江戸時代を批判し、グローバルでどんどん経済活動を進めるのが良いと。
    私はそう理解してきたのです。

    でもこの本では資本主義を批判。
    「資本の支配」
    「資本の専制」
    資本はサタンだったのか。

    私たちは…少なくとも私は考えを180度変えなければいけない。
    「脱成長」に納得しました。

    ただ、斎藤幸平さんの提案はあまりに壮大で、
    こんなこと実現できるのかと思います。
    他人の心を変えるのは、本当に大変なことです。
    私ももう少し他の方々の意見を聞いて、
    「3.5%」に入る決心がつくかもしれません。

  • マルクスの思想から、人新世における気候危機、格差社会、資本主義経済への根本的対処を考えるのが本書の営みである。
    個人的には以前から、資本主義の仕組みは既に限界で、脱成長経済が必要であると考えている。そこで出会った本書の考え方は、大いに示唆を与えてくれたものの、あまり現実的ではなく、理想論に過ぎない部分がまだ多いように思えた。

    富の考え方として、「私富」や「国富」に現れてこない「公富」=コモンズがあり、コモンズを軸にしたコミュニズムによって、希少性により価値を生み出す資本主義に対抗するというのは面白い。
    コロナ禍での各国における危機に際しても、コモンズが豊かな方がレジリエンスは高まるだろう。

    ただ、個人的に感じたのは、崇高な理念から始まったワーカーズ・コープ等の活動も、そのままでは資本主義に飲み込まれていってしまうのではないかという危惧である。
    本書で出てくる、本当に必要な仕事であるエッセンシャル・ワークの例として、ケア労働が挙げられている。確かに、ケアワークは社会に必要な仕事であるし、その仕事自体に価値がある。だが、ケア労働に付帯する作業の一切合切がすべて不要なものとして切り捨てることができるのか、疑問が生じる。
    確かに、経営者や管理職などで、不要な労働に付加価値を付けている例は枚挙にいとまがないだろう。しかし、人が集まり、組織ができてくると、組織として必要な管理業務が発生する。
    組織を形成せずに、すべてのエッセンシャル・ワークを個々人が行うことを想定しているのだろうか。だとすれば、それは現実不可能な理想論になってくる。

    本書に「石油メジャー、大銀行、そしてGAFAのようなデジタル・インフラの社会所有こそが必要」とある。確かに、デジタル・インフラもコモンズとして皆が使いたいときに平等に使うことができれば、それは理想的な社会だろう。
    だが、そのデジタル・インフラの運用は誰が行うのだろうか。それもエッセンシャル・ワークとして社会に必要な仕事になるだろうが、それこそ一人の個人でできるような作業ではない。幾人もの人間たちがチームを組んで事に当たる必要がある。そうなれば、本書で切り捨てられているコンサルティングのような仕事も必要になってくる。

    本書の最後の方にあるように、3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が変わるというのには、勇気付けられる。
    しかし、具体的な行動を実践できる人が果たしてどれだけいるだろうか。

    私のような、総論賛成、各論反対の個人たちをどう動かすか。
    無限の経済成長という虚妄との決別、持続可能で公正な社会に向けた跳躍というのは、理想論としては素晴らしいが、どうやって実現していくか。どうやって人間たちに一歩を踏み出させるか。
    ただ、理想がないと人間は動かないのも真理である。
    現実的なところは今後の議論が必要にしろ、理想論としては非常によく、今の社会に必要な一冊。

  • 所属しているオンラインのコミュニティで、ずいぶん話題になっているなあ、と思っていた本書。
    その矢先、母から
    「ねえ〇〇(私の本名)、斎藤幸平さんって人が、『SDGsは「大衆のアヘン」である』って言ってるそうだけど、あなた知ってる?!」
    というメールが唐突に届き(母からのメールはいつも唐突)、いよいよ読まねば!となって手にとりました。
    店頭で中身を見たとき、見出しがちょっと専門用語多め、ハードル高めに感じたので、同じタイミングで店頭にならんでいた『100分de名著 カール・マルクス『資本論』』(斎藤幸平)のテキストもあわせて購入。

    著者の斎藤幸平先生は、1987年生まれの経済思想、社会思想を専門とする研究者。
    耳慣れない「人新世(ひとしんせい)」という言葉は、地質学的な見地から、人類の経済活動の痕が地球を覆いつくした年代、のことを表すらしい。
    本書は、現在すすめられている新しい『マルクス・エンゲルス全集』の刊行プロジェクト(MEGA〔メガ〕)での成果に基づく『資本論』の新解釈の概略を示すとともに、地球規模で環境破壊が進む中での新しい社会システムのあり方を提言しています。

    とにかく、新書というよりは単行本と言ってもいいくらい、ぶ厚い読み応えがありました。
    とくに気候変動と経済をめぐる、学説や議論の変遷を解説している3章(資本主義システムでの脱成長を撃つ)、4章(「人新世」のマルクス)、5章(加速主義という現実逃避)が……ここだけの話……ざざっと流し読みしてしまおうかなという誘惑に途中かられるくらい……むずかしい、うわーん。
    『資本論』の骨子である労働、富、使用価値、価値といった概念については、『100分de名著』でわかりやすく解説されているので、私みたいにこのジャンルを読み慣れていない、という方は、少し遠回りですがそちらを読んでから本書を読むのがおすすめです。

    さて、ながながと泣き言を書きましたがね、私、読みましたよ。
    がっつり向き合いましたとも(謎のドヤ顔)。
    それは、新解釈を理解するためには、過去の議論を踏まえる必要性があるから、ということもありますが、それだけではなく。
    「人権、気候、ジェンダー、資本主義。すべての問題はつながっているのだ。」という本書の主張に、自分の体験として不思議とすんなり納得できたから。
    そして、本書で紹介されている、「コモン」(社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと)を取り戻そうとする、デトロイトでの都市農業のような試みを、自分が今暮らしている地域の中にも見つけることができるから、です。
    廃校を活用したカフェや、地元の生産者とつながって美味しい食材を紹介するパティスリーや、空き家をリノベーションしたゲストハウスなどなど。
    一つひとつの力は小さくても、いいなあと感じていた様々な活動が、地球規模で明日をよくしていくことにつながっているとしたら、すごく希望がもてると思います。

    本書では、最後に、3.5%の人々が非暴力的な方法で、本気で立ち上がると、社会が大きく変わるという研究成果が紹介されています。
    自分も、その3.5%に加わりたい、そのために何か具体的に行動してみたいし、自分自身の労働のあり方を変えていくことも諦めたくないなあ、と思わせてくれた1冊でした。

  • 筆者いわく、マルクスの説明する資本主義的生産様式は、剰余利益を生み出す複雑なシステムで、それらを資本に組み入れながら、さらに拡大していく際限のない利潤増殖システムだと。
    たしかに必要だから物を作っていた時代から、売るために買い、売るためにつくり、ひたすら増殖していきますものね。ユニクロやGAPのようなファストファッションは、息つく暇もなく新しい規格の服を大量に低価格で売り出します。靴や化粧品しかり、コンビニの開発商品にしても健康食品やサプリメント、家電や車、IT関連、スマホしかり。新商品、新モデル、バージョンアップと称して、鮮烈でおしゃれな広告やファッション雑誌やマーケティングで煽って売る。ひたすら消費のための成長? あとは野となれ山となれ?

    おそらくそういった利潤追求、増殖システムはもう限界になっているのでしょう。世界中の資本が延々それを続けてきたことによって、地球の二酸化炭素は増加し、あらゆる資源は枯渇し、破壊されています。それでも希少性をうたい囲い込む……ミネラルウオーターとして〇〇川を囲い込み、聞いたこともない石を掘り出して宝石にし、〇〇山の岩石を粉砕して化粧品をつくり、美しい海を囲って高級ホテルのプライベートビーチにする。農業丸ごと囲い込んで「種」を独占、農薬・化学肥料をセットで売りつける。土や海の自然恢復機能を破壊し、穀物や野菜や鶏も豚も価格や防疫調整のために安易に処分され――お~まるでスタインベックの『怒りの葡萄』のよう。最近はコンビニやドラッグストア、国まで白熱してやまないポイント制度――私たちの税金ばらまくマイナポイント――や独自のキャッシュレス決済……羊のように人間も囲い込まれてげんなりします。

    そのようななかで斎藤さんはマルクスの言説を敷衍しながら脱成長を力説します。「成長」というマジックワード、刷り込まれた固定観念を別の角度から見てみる時期にきているのかもしれません。なんとグリーンニューディールさえ危ういものだ、という斎藤さんの論調にはじめは驚きましたが、読んでみて納得です。

    なんだか政府はひどく悠長なことを言っていますが、2050年までこの地球がまともな状態で存在しているとはとても思えません。世界中でおこる異常な雨雪、巨大台風、メガハリケーンや竜巻、殺人的熱波、干ばつ、止まらない山林火災、氷河や氷床の溶解、とても様子がおかしい、きっと誰もが気づいているのです。

    となれば、この社会の脱成長とはどのようなものなのか? 先入観はひとまずおいて考えてみるのもいいと思います。真の成長や豊かさとはどのようなものかを、この本は考えさせてくれます。100年前に戻ってみんなで貧相になろう~というものではありません(笑)。現代科学や技術を踏まえながら、それらを資本ではなく国民がコントロールしていく必要がありそうなのです。

    くしくもコロナウィルスの世界的な蔓延によって、足るを知り、さいなまれる欠乏感と消費から脱却していく時期なんだろうなとつくづく思います。日本のみならず、世界各国の様子――とりわけ医療とリーダーの資質――を見ていると、GDPが数字の上では低くても、人間らしい働き方、医療の充実、子育てや教育に努力する北欧やドイツなどが参考になりそう(もちろんバラ色ではないけれど)。そして世界中が安心できる水や食料やエネルギーの自給や確保をどうすればいいのか、いろいろ考えるきっかけを与えてくれます。

    斎藤さんらのマルクス研究を踏まえながら、繋がり、広がる秀逸な本だと思います。あわせて筆者の『100分で名著・資本論』も面白いのでいっしょにのぞいてみてください(2021.4.26)。

  • 評価が別れる本だと思う。答え探しをする本だと思う人には抽象論・理想論だと感じるだろうし、考えるための本だと思えばそのためのヒントがたくさん書かれてある。
    マルクスや資本論の話は、右左の色眼鏡になるのでいったん忘れて読んで欲しい。政治の話ではなくて、持続可能な人類世界がどういうものかという本です。
    「外部化社会」「価値と使用価値の違い」「ブルシットジョブとエッセンシャルワーク」「労働時間を減らさなければならない理由」「フィアレス・シティ」「気候正義」「食料主権」など諸々のテーマが一つのまとまりとなって認識されるとき、我々一人一人ができる行動が見えてくるのではないかと思う。
    とはいえ資本主義の価値観(要は「稼ぐヤツが羨望を浴びる」「お金を出すヤツがエラい」)にどっぷり浸かった我々中高年には完全に抜け出すのは難しいのだろうが、我々の子供より下の世代は「脱成長コミュニズム」の方向に移行していくことは確実と思われる。
    我々が、かつての団塊の世代を「旧世代の遺物」「老害」と見えるように、我々も変わらなければ同様に子供の世代からは老害認定され排除されることになる。
    私は「経済力でマウンティングして、消費者として我が物顔するような環境負荷高めの老人」にはならないように時代に合わせた変化をしていきたいと感じた。
    オススメ☆5です!

  • どうしても「脱成長」的な社会主義というのは、クメール・ルージュや文化大革命のイメージがついてまわるが、本書で述べられている脱成長社会は技術や民主主義を両立させる第三の道である。基本的に今の政治も経済も背後に哲学がないので、本書のような哲学をベースにした社会を考える取り組みはとても興味深かった。多少無理のある主張も無くはなかったが、庶民の前にはほとんど出てこない左派の思想がそれなりの分量で登場する点と、晩期マルクスの紹介により、私のマルクス観を刷新してくれた点でここ数年読んだ新書の中では一番面白かった。

    率直に、本書で述べられる資本主義の問題点および晩期マルクスをベースとした脱成長コミュニズム社会は大部分で共感できた。それは、私の住む福島が「外部化」の典型例である原発事故で街が失われ、近年も自然災害が多発していることや、自治会の活動や消防団などの市民によるボランティアが盛んな風土であるということで、本書にあるような世界が想像しやすいからだと思う。私が住むところは都市部に比べ経済的には貧しいかもしれないが、「豊か」なところであるとは実感している。東京で学生生活を送った身としては、なぜあれほど多くの人が東京で(相対的に)貧困な生活を嬉々として営んでいるのか不思議に思うときもある。

    ただ、本書で述べられているような市民的な共同体というのは否応なくリアルな人との関わりが要求されそうな気がした。(「コモン」と謳っているだけあって)「豊かな」世界ではあるが、それ以上に、ただ同じ街に住んでいるだけの他の市民とつながりを持つことを煩わしく思うのではないだろうか。このような個人主義的な社会が成熟したのはここ半世紀程度のことなのかもしれないが、そのような社会の形態を巻き戻していくことが、実は生活水準を巻き戻すことよりも難しいように感じた。実際のところ、私たちは資本主義に対して「成長」も経済的な豊かさも求めてはいない。自分自身、もしくは心地の良い人とだけで成り立つ世界で生きるために、私たちは進んで資本の「奴隷」になったのではないか。

    読んでいてふと思ったが、『おかえりモネ』の宮城編の世界は割と脱成長コミュニズムに近いのではないだろうか。森林組合で働く人々(大資本に対抗するシーンもある)、コミュニティFM、海産物や農産物の地産地消など、労働が資本家から比較的取り戻されている世界になっている。加えて、森林と海の関係性を説くエコロジー的な要素もある。

  • 2021新書大賞受賞作。

    読んで衝撃を受けた。なるほど読ませる本である。

    気候危機を放置しているといずれ地球と人類は滅亡する。
    SDG’sやグリーンニューディールなどの取り組みではこの危機には全く対処できない。むしろ害毒ですらある。
    気候危機の真の原因は、資本主義にある。
    よって気候危機を解決するためには資本主義という社会システムを替える必要がある。
    唯一の解決可能な新たな社会システムは脱成長コミュニズムだ!
    そのためには民衆が草の根運動に立ち上がりつながろう!

    書かれているのはこんなこと。

  • 画期的な本。2021年新書大賞第1位受賞作。

    気候変動という人類存続に関わる地球の問題と、資本主義ではごく僅かな富裕層と多くの貧困層に分かれる社会問題と、仕事の多くがブルシット・ジョブ(クソくだらない仕事)であること、などの問題解決のために著者の提案する資本主義からコミュニズムへの移行に賛成で、どのようにこの大きなことが成し遂げられて行くかを考えるばかりである。マルクスが晩年考えた思想は将来へ望みを繋ぐ持続可能な脱成長社会を構想している。資本主義では貧しくなる。地球と人間が生き延びるためには現状のままではマズい。

    <要約>
    ◎気候変動と帝国的生活様式

    地質学的に人間の活動の痕跡が地球の表面を覆いつくした新たな年代「人新世」に突入。

    気候危機の原因は資本主義。なぜなら二酸化炭素の排出量が増えたのは、産業革命以降、つまり資本主義が本格的に始動して以来のこと。その直後資本について考え抜いた思想家がカール・マルクス。

    気候危機はすでに始まっていて、事実「100年に1度」の異常気象が毎年世界各地で起きている。以前の状態に戻れなくなる地点はもうすぐそこに迫っている。

    今こそ資本主義に挑むべき。資本主義の矛盾がグローバル・サウス(グローバル化によって被害を受ける領域ならびにその住民)に凝縮され、労働力の搾取と自然資源の収奪なしに、私たちの豊かな生活は不可能で、帝国的生活様式は維持できない。


    ◎脱成長

    脱成長とは、行きすぎた資本主義にブレーキをかけ、人間と自然を最優先にする経済を作り出そうとするプロジェクト。環境危機に立ち向かい、経済成長を抑制する唯一の方法は、私たちの手で資本主義を止めて、脱成長型のポスト資本主義に向けて大転換すること。

    資本主義がすでにこれほど発展しているのに、先進国で暮らす大多数の人々が依然として「貧しい」のはおかしくないだろうか。労働を抜本的に変革し、搾取と支配の階級的対立を乗り越え、自由、平等で、公正かつ持続可能な社会を打ち立てることが、新世代の脱成長論。


    ◎マルクスの復権

    資本主義の矛盾が深まるにつれて、「資本主義以外の選択肢は存在しない」という「常識」にヒビが入り始めている。

    マルクス再解釈の鍵となる概念のひとつが、<コモン>、あるいは<共>と呼ばれる考え。<コモン>とは、社会的に人々に共有され、管理されるべき富のこと。<コモン>は、アメリカ型新自由主義とソ連型国有化の両方に対峙する「第三の道」を切り拓く鍵。つまり、市場原理主義のように、あらゆるものを商品化するのでもなく、かといって、ソ連型社会主義のようにあらゆるものの国有化を目指すのでもない。第三の道としての<コモン>は、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、自分たちで民主主義的に管理することを目指す。地球全体を<コモン>として、みんなで管理しようというのである。

    コミュニズムとは、知識、自然環境、人権、社会といった資本主義で解体されてしまった<コモン>を意識的に再建する試み。マルクスが最晩年に目指したコミュニズムとは、平等で持続可能な脱成長型経済。

    脱成長コミュニズムこそ、誰も提唱したことがない、晩年マルクスの将来社会像の新解釈。マルクス主義は環境問題を資本主義の究極的矛盾として批判することができず、「人新世」の環境危機をここまで深刻化。

    気候危機の時代に、必要なのはコミュニズム。拡張を続ける経済活動が地球環境を破壊しつくそうとしている今、私たち自身の手で資本主義を止めなければ、人類の歴史が終わりを迎える。資本主義ではない社会システムを求めることが、気候危機の時代には重要。コミュニズムこそが「人新世」の時代に選択すべき未来である。


    ◎欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム

    資本主義が発展すればするほど、私たちは貧しくなる。資本主義は、絶えず欠乏を生み出すシステム。一方、一般に信じられているのとは反対に、コミュニズムは、ある種の潤沢さを整えてゆく。つまり、資本主義はその発端から現在に至るまで、人々の生活をより貧しくすることによって成長してきたのである。

    マルクスにとって、肝腎なのは、労働と生産の変革。労働の形を変えることが、環境危機を乗り越えるためには、決定的に重要なのである。ポイントは経済成長が減速する分だけ、脱成長コミュニズムは、持続可能な経済への移行を促進するということ。しかも、減速は、加速しかできない資本主義にとって天敵である。「加速主義」ではなく、「減速主義」こそが革命的なのである。

    世の中には、無意味な「ブルシット・ジョブ(クソくだらない仕事)」が溢れている。気候危機の時代には、政策の転換よりもさらにもう一歩進んで、社会システムの転換を志す必要がある。

    民主主義の刷新はかってないほど重要になっている。気候変動の対処には、国家の力を使うことが欠かせない。コミュニズムが唯一の選択肢なのである。

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著者プロフィール

1987年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marxʼs Ecosocialism:Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)によって権威ある「ドイッチャー記念賞」を日本人初歴代最年少で受賞。著書に『人新世の「資本論」 』(集英社新書)などがある。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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