中国共産党帝国とウイグル (集英社新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087211849

作品紹介・あらすじ

大量収容、監視社会、思想改造、強制労働…
新疆ウイグルから香港、台湾へと広がる世界的危機

民族弾圧から読み解く中国リスクの本質

◆内容説明◆
「中国夢」「一帯一路」のスローガンの下、習近平体制以降ウルトラ・ナショナリズムに傾斜する中華人民共和国。
急速な経済発展の陰では、ウイグル人をはじめとした異民族に対する弾圧が強化されていた。
中国共産党はなぜ異民族弾圧、自国民監視を徹底し、さらに香港・台湾支配を目指すのか?
そもそも中国共産党は法的根拠のない、憲法よりも上の任意団体にすぎない。
その共産党がなぜこれほど力を持つのか?
本書はウイグル問題を切り口に、異形の帝国の本質とリスクを社会学者とイスラーム学者が縦横に解析する。
日本はこの「帝国」にどう対するべきか?

第一章 中国新疆でのウイグル人弾圧
第二章 中国共産党のウイグル人大弾圧
第三章 中国的ナショナリズムとは何なのか
第四章 専制君主、習近平
第五章 中国とどう向き合うか
第六章 日本に何ができるのか

◆主なトピック◆
◎ウイグルの惨状はどう報じられている?
◎問題だらけのイスラーム世界
◎これは宗教対立ではない
◎犠牲になったモンゴル、チベット……
◎帝国は多様性を包括する
◎中国共産党は国家機関でない
◎文化大革命から改革開放へ
◎一党支配はまだ必要なのか
◎一党支配とナショナリズム
◎伝統と西洋のキメラ
◎膨らむ中華イデオロギー
◎宗教としてのナショナリズム
◎米バイデン政権は対決を堅持する
◎在外華人のネットワーク
◎「一帯一路」は何を目指す
◎上海協力機構の手の内
◎二者択一を迫られる日本

◆著者略歴◆
橋爪大三郎(はしづめ だいさぶろう)
一九四八年生。社会学者。大学院大学至善館教授。
著書に『おどろきの中国』(大澤真幸、宮台真司との共著、講談社現代新書)、『一神教と戦争』(中田考との共著、集英社新書)、『戦争の社会学』(光文社新書)等。

中田考(なかた こう)
一九六〇年生。イスラーム学者。イブン・ハルドゥーン大学(トルコ)客員フェロー。
著書に『イスラーム 生と死と聖戦』『イスラーム入門』『一神教と国家』(内田樹との共著、集英社新書)、『カリフ制再興』(書肆心水)等。

感想・レビュー・書評

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  • ウイグルで何が起こっているのか、それほど興味があるわけでもなかった。だから、刊行当時はスルーしていた。新聞記事だったかで、本書を読むことで、ウイグルのこと、中国のことだけではなく世界の情勢がつかめる、というようなことが載っていた。それで、少し遅れて購入した。ときどき中断しながら読んでいるので、大して頭に残っていない。印象的なのは、橋爪先生は中国人女性と結婚されていて、日本の中では、かなり中国について詳しい知識人であるということ。「おどろきの中国」の中にも、そのような話が書かれていたのだろうか。全く覚えていない。まあ、中国はあれだけ大きくて、あれだけ少数民族を抱えていながら、一つにまとめようとしている。そこに無理があるのだろうということはわかる。そこに、ひどい人権侵害があるということ(人権ということば自体もよく分からなくなったが)なのだから、国際的な判断で何とかならないものだろうか。内政干渉だ、などと言われて引き下がっているわけにもいかないように思うが。それと、どうやら僕は大きな間違いを1つしていた。中国国内の標準時刻の設定についてである。本書のどこかにあったが、どうやら1つの設定しかないようだ。しかも北京あたりを中心にしている。そうすると、西の方に住んでいる人々は、太陽が南中するのが午後のかなり遅い時間になるということだろう。まあ、始業時刻12時、終業時刻20時、とかにすれば何の問題もないのかもしれないが、どうしているんだろう。まあ、こういうところにも、大国を一つに治めようとする姿勢が見えるのかもしれない。ということで、僕は長年、理科の授業でウソを言っていたことになる。すみませんでした。(ちょっと調べると、ロシアは11の標準時があるとのこと。これはまたやっかいなことだ。)

  • 覚えておきたいこと。日本語はウラル・アルタイ語族でトルコと言語が同系統。
    深い影響を知らないところで大陸からうけているそのことを、大陸をもう少し身近に感じて、同胞という感覚を持って問題を考えていただければと思っている〔橋爪)
    日本も韓国もトルコと同じ連なりにあり繋がっていく。〔中田)

    中田さんの、おわりに、のところで
    カリフが納めるダール・アル=イスラーム イスラーム圏にムスリムは住むべきである。という下りが面白くて少し目から鱗である。その文章の最後は、
    ウイグルが移住すべきダール・アル=イスラームはどこにも存在しないのである。となっている。

    モンゴル人もチベット人もウイグル人も全て中華民族という雑な整理をして、歴史上の数々の帝国のように包摂、多様性包括という統治ではなく、多民族、漢民族以外の多様な人々の同化、人の中身を入れ替えるというやり方、という論説は実際の今の習近平体制について合理的な説明と思われる。
    突き詰めれば、そういうことをやらなければ、共産党不要論、共産党は国家機関ではない単なる任意団体という公共性のなさ、そのよるべなさからの統治システムというのも興味深い。

  • 知の巨人たちによる対談。中国共産党"帝国"の成り立ちやその性格、そして周辺との関係性がよくわかる。
    どうしても西洋的な価値観で考えてしまう我々日本人にとって新鮮でありつつ、分解すれば理解できる中華の思想。それは東的(共産主義的)なものもあれば、広く東アジア的価値観も通底しており、宗教・イデオロギーの対立で浮き彫りになるものもある。
    終盤で説明されていた近代の日本の動きも、長く東アジア中国文化圏で行われていた征服王朝の概念で整理すると納得がいった。
    そして後書きが非常に濃厚で、面白かった。

  • 切り口が良。

  • 中国人を妻に持つ中国通の社会学者・橋爪大三郎と、イスラム教に入信したイスラム学者・中田考による、ウイグル問題を端緒とした中国共産党体制をめぐる対談。

    中田氏がカリフ制復興を提唱していること、ヨーロッパ・キリスト教に端を発する価値観やアメリカに対して(歴史的経緯を踏まえたうえで)批判的なのが印象的(特に「あとがき」で爆発している)。


    以下、印象に残った点。

    なぜイスラム諸国がウイグル問題に介入しないのかというのは、イスラム諸国同士で対立していてまとまることができないから。トルコはアメリカやEUとの関係が悪化し、経済状況も厳しくなって、中国への依存が強まっている。そして、現在のムスリムはイスラムの教えから逸脱している。また、ムスリム世界ではパレスチナ問題ほど関心を引かないとも。
    (自分は今まで思い至らなかったが、ムスリムは横のつながりが強いことを考えると介入しても不思議ではない)

    イスラム学者から見ると、マルクス・レーニン主義もアメリカの自由主義も、どちらも広い意味でヨーロッパ・キリスト教の思想であるというふうに見える。

    中国共産党の目的は抹殺でなく思想改造である。新疆ウイグルがウイグル人の土地で、ウイグル人が中国人だから、新疆ウイグルが中国であるという主張を正当化するために絶滅することはせず、生かしたまま言語・思想・信仰を抜き取る同化政策を採っている。このようなプロジェクトは内モンゴルでも並行して行われている。このプロジェクトは台湾の解放でピリオドを打つ。

    中田氏は、多民族・多宗教が共存し、仁政・徳治による本来の中華帝国に中国を戻すことを解決策として挙げている。

    「ここが肝心なのですが、この国家安全維持法がうまく施行されているということは、共産党の一党支配が正当であることの証明に成功していないということなのです。成功しているなら、香港もウイグルも、弾圧する必要がない。論争すればいいわけだから。論争しないで弾圧しているということは、その正当性に問題があるということ。それを中国共産党自身が自覚しているという意味です。」(橋爪 p.102)

    改革開放以後、中国共産党は経済成長を自身の正当性の根拠にしてきたが、成長を続けるのが難しくなるとその正当性が揺らいでしまう。そこで中国共産党は、漢民族に各少数民族も含めた「中華民族」というナショナリズムを創り出し、その根拠に加えようとしている。(共産主義は普遍主義なので、ナショナリズムとは真逆)

    「政府のほかに中国共産党がある。そして中国共産党が政府を指導している。どこにその根拠があるのか。階級闘争も革命もないのに、なぜ中国共産党が存在するのか。ちゃんと答えられないからこそ、共産党は腕ずくで、文句あるかと脅すしかないのですね。それが国家安全維持法の正体です。」(橋爪 p.141)

    アメリカやヨーロッパ諸国が自分たちの都合で人権概念を第三世界に問答無用で力ずくで押し付けることは、ある意味では自分たちだけが真理を独占しているので独裁が許されると考える中国共産党と同じであり、人権問題で中国を攻撃することに疑問を呈する中田氏。それに対して橋爪氏は、あくまでも国際社会のルールとして人権概念以外に有効な方法はなく、国際社会が団結して中国と対峙すべきだと考える。

    「本来、中国文明が非常に優れていたのに、世界の国々はどこもそう思ってくれていない。つまり、この偉大な国に、それ相応の尊敬が与えられていないと思っている。そしてこの状態を、これは相手が悪いんだ、自分は悪くないんだと思い続けることによって、非常に尊大なプライドが形成されてくるのです。それを他者に理解させる唯一の方法は、中国が世界でいちばんだということをみんなが認めること。それが『中国の夢』だと思う。」(橋爪 p.205)

    日本にはまともな中国研究機関はおろか、アメリカの研究機関すらない。まず日本はアメリカ研究、中国研究を早急に始めるべき。

    香港、チベット、内モンゴル、新疆ウイグルについては、具体的にとれる行動は限られている。まだ選択肢が多い台湾を守ることで、それらの地域によい影響があるかもしれない。

  • 東2法経図・6F開架:312.22A/H38c//K

  • 社会学者の橋爪大三郎とイスラム学者の中田考の対談。
    共産党支配は実は科挙・官僚政治の相似形であるとか、共産党支配の正統性担保のために中華民族を作り出したら今度は非漢民族を中華民族化しなくてはいけなくなってチベット・東トルキスタン・内モンゴルなどなどで民族浄化せざるを得ないとか、なるほどと腑に落ちる分析であった。
    著者はどちらも学術の泰斗であり世俗の嫌中・媚中などは超絶した方々と見受けたが、今の共産党の政策は中国的伝統に照らしてさえ異端ないしは畸形であり危ういと見ている。中国の良いところをたくさん知り愛する方々から見てさえ、である。
    現代中国情勢に興味のある方なら読むべき本。

  • 俺に何ができるのかは、とどのつまり俺は如何にして生き延びたいのかでもある。自分のための利他である。でもまぁ…それしかないと今は思っている。
    碩学と言える橋爪先生の鋭く深い(無意識にまで踏み込む)中国共産党やアメリカの現状の分析とともに中田先生のイスラームから見た世界という視点が加わることで真にグローバルな世界観が得られる。
    アナーキストを自称する俺としては途方もなく為になった。今の現状に不服や不満のある異分子であるアナーキストの卵たちに是非も読んでもらいたい!特に中田先生のあとがき…

  • <目次>
    はじめに
    第1章中国新疆でのウイグル人弾圧
    第2章中国共産党のウイグル人大弾圧
    第3章中国的ナショナリズムとは何なのか
    第4章専制君主、習近平
    第5章中国とどう向きあうか
    第6章日本に何ができるのか
    おわりに

    もっとこの本は、宣伝をして売るべきであろう。
    ウイグル問題は、単に園田家の問題ではなくて
    歴史観、地政学、政治、経済、米中、日中、イスラム、
    世界はどう中国を見ているのかなど、全部が絡む。
    お互いに対応を間違えれば、ドミノ式に全部が倒れて
    しまう。

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著者プロフィール

橋爪大三郎(はしづめ・だいさぶろう):1948年生まれ。社会学者。大学院大学至善館教授。東京大学大学院社会学部究科博士課程単位取得退学。1989-2013年、東京工業大学で勤務。著書に『はじめての構造主義』(講談社現代新書)、『教養としての聖書』(光文社新書)、『死の講義』(ダイヤモンド社)、『中国 vs アメリカ』(河出新書)、『人間にとって教養とはなにか』(SB新書)、『世界がわかる宗教社会学入門』(ちくま文庫)など、共著に『ふしぎなキリスト教』『おどろきの中国』『おどろきのウクライナ』(以上、講談社現代新書)、『中国共産党帝国とウイグル』(集英社新書)などがある。

「2023年 『核戦争、どうする日本?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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