- 集英社 (2024年1月17日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (408ページ) / ISBN・EAN: 9784087212983
作品紹介・あらすじ
岡本喜八は一九二四(大正十三)年生まれ。
『独立愚連隊』『日本のいちばん長い日』『江分利満氏の優雅な生活』など、戦中派の心情をそこかしこに込めた映画を撮り続けた職人肌の監督として知られる。
陸軍予備士官学校で終戦を迎え、戦後映画界に復帰すると、戦争、時代劇、SF、青春群像など、バリエーション豊かで喜劇性にあふれた作品をつくった。
喜八が生涯を通じてこだわり抜いた戦中派とは何なのか。
新たに発掘された若き日の日記をひも解きつつ、映画監督・岡本喜八の実像と戦中派の心情に迫るノンフィクション。
【目次】
はじめに
第一章 米子
第二章 なぜ死なねばならないのか
第三章 早生まれ
第四章 戦中派
おわりに
【著者略歴】
前田啓介(まえだ けいすけ)
一九八一年生まれ。
滋賀県出身。
上智大学大学院修了。
二〇〇八年、読売新聞東京本社入社。
長野支局、社会部などを経て、現在、文化部で近現代史や論壇を担当。
満蒙開拓や、ペリリュー・アンガウルの戦い、硫黄島の戦い、沖縄戦、特攻、シベリア抑留など戦争に関する取材に関わってきた。
著書に、『辻政信の真実 失踪60年──伝説の作戦参謀の謎を追う』(小学館新書)、『昭和の参謀』(講談社現代新書)がある。
感想・レビュー・書評
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山本七平『「空気」の研究』を読みながら、同世代の岡本喜八監督のことを思い出した。読み終わったその日にEテレで『生誕100年 映画監督 岡本喜八が遺したもの』の放映があって、びっくりした──という流れから、その番組の構成元である『おかしゅうて、やがてかなしき 映画監督・岡本喜八と戦中派の肖像』を手にとった。
※私にとってはこういう「流れ」、なぜその本を読むに至ったのかという「理由」が大切なので、毎回それを記しています。単なる「点」の知識がつながって、線や面、網の目、立体的に立ち上がってくるのね。そこを大事にしています。
この本、今年2024年の頭に出ることは知っていて買うか迷っているうちに忘れちゃってた。
岡本喜八監督の本、ご本人が書いたエッセイはかなり多いが、この本はそうではなく、他人である筆者が喜八監督の人生、戦中・戦後をたどったノンフィクション。
つまりタイトルの「岡本喜八」の方ではなくて「戦中派」の方がメイン。(前者を知りたいならご本人のエッセイが大変面白いのでそちらを読むと良いでしょう。もしくは映画評論の本。)
ひとことで言うと、とんでもない本でした。
取材の過程で岡本喜八監督、いやまだ東宝に就職する以前の、「まだ何者でもない頃」の岡本喜八郎(本名)の日記が発見され、それがこの本の核になっている。軍国主義で、自分も近いうちに召集され戦地に送られる。学生時代の喜八郎が、何を考え、どういう青春を送ったのか。これまでもエッセイでは語られてきたが、当時の「生の声」として知ることができる。
筆者は1981年生まれで、祖父が岡本喜八と同世代の1925年生まれなことから、彼ら戦中派世代に対しては強い拘りがあったそう。私は筆者より3歳上だが、私の祖父は岡本喜八よりも6歳上で、終戦時に27歳であったはず(もちろん召集されている。一度だったか、二度だったかは不明)。
この本の前にたまたま村上春樹を読んでいたが、本文中に村上春樹の話が出てくるので驚いた。私の父は村上春樹と同年同月生まれだが、村上春樹の父・村上千秋も私の祖父とひとつ違い。村上春樹は団塊世代。「世代間の感覚のズレ」、ジェネレーションギャップの例、そして息子世代がどう受け止めていたのか?という話。
2016年ぐらいだったと思うが、読書会でなぜか戦争の話になり、私が「当時は1歳違うだけで生死が分かれることがかなりあった」と発言した記憶がはっきりある。しかし、8年前の私がこの考えに至った根拠がまったく思い出せない。たぶん、戦争については年に2回は定期的に関連番組等を大量摂取していたから、その過程でそう思ったのかもしれない。
そして、この本にはその「1歳違いで生死が分かれる」ことの根拠がはっきりと書かれていた。理由は12月〆で喜八監督は早生まれだったこと。1923年生まれと、24年早生まれの喜八監督では、同学年でも戦死率が大きく変わってしまう。その点を今回しっかり検証しているのが、この本の大きなポイントのひとつ。
もうひとつ重要なのは、喜八監督が戦争体験の原点としてこれまでに何度も語っている「豊橋陸軍予備士官学校での爆撃の件」に関して、色々と情報を集めてしっかり検証している点。監督本人の口からは語られているが、第三者視点で客観的に検証されたのは初めてなのではと思う。
発見された日記の話に戻ると、学生時代の喜八監督本人の性格がわかること以外にも、戦中当時の若者の生活がよくわかる貴重な資料になっている。それは例えば中島京子・山田洋次監督の『小さいおうち』や、こうの史代・片渕須直監督の『この世界の片隅に』などに連なる内容とも言える。若き日の岡本喜八郎が、映画を観て感動し、その感想を書く。遊びとしてスケートに行く。天ぷらや寿司や甘いものを食う…等々。
と、さんざんこの本を褒めちぎってきたが、不満点がないわけではない。ひとつは筆者の文章が、微妙に面白くない点。だがこれはノンフィクション(映像ならドキュメンタリー)である以上仕方がない所でもある。よくある話だが、ドキュメンタリー作品は大概「面白くしようとして話を盛ったり編集する」ので、淡々と事実のみを書いていくスタイルは、逆に良い点でもある。
もうひとつ。先日NHKでも庭園の番組が作られるほど有名な足立美術館の創設者・足立全康が喜八監督の「年の離れた友人」だそうで驚いたが(足立全康の息子が喜八監督と同級生。短編映画『全康さんの一日』も喜八監督)、1919年に兵役についた足立全康と、太平洋戦争末期の岡本喜八のそれでは、軍隊観を単純比較できないのではないか。規律の厳しさは共通するかもしれないが、特に食糧については大きな差があると思う。筆者は他の部分は細かく検証しているので、この点だけ雑に感じられた。(165〜166頁。)
他に細かい点。
「シャン」という言葉について色々と書かれている。元はドイツ語(この本では書かれてなかったと思う)。私世代でも「バックシャン」など、子供の頃に知ったのは、80年代当時に古い言葉を使うのが面白いと自分より年上の若者が使ったりする風潮があったからかも。書かれてないことを補足するなら、例えば1939年の『鴛鴦歌合戦』の中で「凄いシャンだ見目好い鷹は掘り出し物だよ」と、歌詞にも出てくる。
他に、大きい収穫。
私は、喜八作品やその背後にある監督ご本人に対して、常々「優しさ」を感じていたが、その理由がこの本を読んで少しわかった。セックスやバイオレンスなシーンは、ある。しかし喜八監督のこだわりとして、レイプシーンは描かない。他にも、若い人たちに対する接し方からも、優しさがはっきりわかる。
まとめると、ひとりの映画監督を通じて、もはや半分歴史になってしまった戦争を知っていく「歴史書」であると思う。当時の概観を知りたい人には入門書としてもお薦めできる。 -
まさに、「戦中派」についての本である。
この本が興味深いものになったのは、岡本喜八の学生時代の日記が発見され、著者がそれを読むことができたことが大きいようだ。例えば、この日記により、ある映画を山田風太郎が同日同劇場で観ていたことが判明する。
この日記何とか書籍化されないものですかね。
個人的な事ですが、私の父は岡本喜八より一月前の生まれ、即ち同学年の同級生よりも一年遅れで徴兵検査だった。このため、海外の戦地に行かされることなく、千葉県で本土決戦要員として訓練中に終戦になったという経験だった。これにより、私もこの世に存在することができたという事らしい。 -
映画監督岡本喜八、戦中派の思いを発掘された日記から探る。
映画「江分利満氏の優雅な生活」や「肉弾」で描かれた昭和一桁、生き残りの思いのルーツを探る。 -
東2法経図・6F開架:778.21A/O42m//K
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https://news.yahoo.co.jp/articles/bbacd94bd9928d88bd35cb73faf770b6fda4a417
生誕100年 映画監督 岡本喜八が遺したもの
https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/EMXM874P3P/
シリーズ戦後70年 若者たちへ ~映画監督・岡本喜八のメッセージ~
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3724/
前田啓介の作品
