最悪の将軍 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.71
  • (10)
  • (34)
  • (16)
  • (5)
  • (1)
本棚登録 : 311
感想 : 26
  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087440348

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 第五代将軍徳川綱吉、と聞くと思い浮かぶのは生類憐みの令。
    歴史の授業でしか知識がなかったのだが、この作品で、悩み、決意し、様々な思いを抱きながら、ただひたすらに政に邁進した姿を見せてもらえたように感じる。
    武士が、戦のない世を続けていくことの難しさ、いびつさを、改めて思う。
    武ではなく文で治めることを目指したこと、犬にフォーカスされがちだが、慈悲の心、命を大切にしたいという強い思いから令を発したことなど、新しい視点で綱吉を見て感情移入してしまった。

  • 徳川幕府の将軍で、評判の悪い筆頭に挙げられるのが「犬公方」と称される五代将軍綱吉だろう。
    その綱吉を主人公にした歴史長編。
    心ならずも将軍となった綱吉は、己の理想を実現せんと、「武」ではなく「文」で治める世の中にと、改革を断行する。
    赤穂浪士の討ち入りも、彼にしてみれば暴挙としか見做しえない。
    時代は大地震や富士山の噴火が相次ぎ、綱吉は民の安寧を一身に祈る。
    正室の信子は、「断じて、最悪の将軍にあらず」と断言する。彼女との仲睦まじい関係は、良き家庭人として、現代の理想の夫婦像にも匹敵。
    そんな綱吉の姿勢は、「我に邪無」という言葉に集約される。
    綱吉の死後、彼の政の評価について問う信子に対して、側用人の吉保が答える。
    「それを判ずるには時を要します。・・・5年、10年。あるいは、100年かかるやもしれませぬ」。
    視点を変えれば、人物評価も変わる。
    読者にとって、従来の評価を一変する鮮烈な魅力にあふれる綱吉を、著者は生み出してくれた。

  • 歴史というものは、人々が見たいものが積み重なり、出来上がるのかもしれない。

    ここで描かれているのは、心ならずも将軍になってしまった男の生き様であろう。

    戦国の世はすでに遠く、何を持って、この国を治めるのか、彼が出した答えに、家臣も民も理解が及ばない。

    正室の信子だけが真意を理解して、その背を押す。

    その繋がりが愛おしい。

    最悪とは、最善を尽くしても、報われる事のない綱吉の墓碑銘なのかもしれない。

  • 徳川綱吉、徳川五代将軍、生類憐みの令、犬公方……
    単語でしか知らなかった一人の将軍の生き様を見せてもらった。
    こんな人だったかもしれない、こんな人だったらいいなと思える。そして 側近の二人は仕事上の、妻 信子は心を支えてくれる強力な味方だったのだろう。
    特に 姑や側室にも気持ちを寄せながら夫との気持の繋がりを豊かにしている信子の在り様に惹かれた。

  • 学校で習った歴史上の人物で、その後大きく評価が変わったのが田沼意次とこの徳川綱吉だと思う。
    人間より犬の方を大事にする法律を作った暗愚な将軍、と習いましたが、それは当時の江戸の庶民レベルの評価だったようです。

    戦国時代はすでに過去のものとなり、太平の時代を迎えているはずなのに、武士の意識だけが変わらずにいる。
    そんな世の中を変えようと、武よりも文(法律)で世の中を統べようとする綱吉。
    しかし、世間はそんな綱吉の思いを一向に理解することはなかった。

    学校で習ったのは暗愚な将軍。
    その後、将軍になった当初は善政を布いたが、その後民衆を顧みることなく「生類憐みの令」を発して庶民を苦しめた、とした説も聞いたことがある。
    けれど、この本に書かれる綱吉は最後まで誠実で、最後まで清廉で、最後まで公正だった。

    堀田正俊や柳沢吉保のように、綱吉を理解し支えてくれる家臣がいなかったわけではない。
    けれど、前将軍の直系ではなく、将軍就任直後の強権的な治世の方針転換に反発するものも多く、在位が長かったにもかかわらず逝去後にあっという間に綱吉の政策は撤回または停止となった。
    つまり全然浸透していなかったということだ。

    将軍として無能だったわけではないと思う。
    しかし綱吉の時代、地震が頻発し、富士山が噴火するなどの自然災害が多発したというのは、当時、将軍の治世に問題があるからだとみられてしまったのはしょうがない。

    にしても、だ。
    元禄文化を謳歌できたのは、綱吉が太平の世を創り維持してきたからではないの?
    確かに極端な政策は庶民を混乱させただろう。
    命は等しく大事であるというのは理想だけど、人間と野良犬が飢えていたら、野良犬を見捨てるのはしょうがない、くらいの余裕がなかったのが敗因なのではないかとも思う。
    だけど将軍と身近に接する幕臣たちの多くが、綱吉の政策を支持しなかった理由は、今後の研究をもう少し待ちたいと思う。

    「我に邪無し」
    最期にそう言ったのは、自身を誇っていたのか無念だったのか。
    ほかの作家が綱吉を書いたら、また読んでみたいと思う、興味深い人物。

  • 2021/7/3
    史実に基づいた話はあんまり好きじゃないのに、まかてさんだからつい手を出した。
    切なくて悔しくてつらい。やるせない。
    富士山まで噴火しなくてもええやん。意地悪やなぁ。
    犬公方とか言ってごめんやで。
    本人だけが賢くてもアカンねやな。
    教育か。教育なのか。肝は。
    でも無理じゃない?全員は無理じゃない?
    しんどいです。
    嘘でも真実味がなくてもいいからスカッとしたのが読みたいです。
    異世界に逃避します。
    綱吉様も異世界に生まれ変わって無双すればいい。
    そんなことを思うくらいの落ち込み。
    どう頑張っても尽くしてもうまくいかないのは現実味がありすぎてしんどいよ。

  • 最悪の将軍(集英社文庫)
    著作者:朝井まかて
    生類憐れみの令によって「犬公方」の悪名が今に語り継がれる五代将軍・徳川綱吉。その真の人間像、将軍夫婦の覚悟と真髄に迫る。
    タイムライン
    https://booklog.jp/timeline/users/collabo39698

  • 文治の観点で評価が見直されてもいる徳川綱吉。
    最悪の将軍というタイトルでどのように描くのか。
    目指したもの、為政者としての覚悟。
    一番の理解者である正室とのやりとり。
    老中刺殺、大地震、富士山噴火、赤穂浪士、疫病。
    これほど乗り切れる為政者が今いるだろうか。
    だが、為政者としての悩みも垣間見える。

    とても面白い本でした。

    ※評価はすべて3にしています

  • 生類憐れみの令で人々の心に養いたかったもの。
    戦国の世から、泰平の世にするのに必要だったもの。

    文を以て、真に泰平の世を開き申す。

  • 政治を志す人に一読してほしい施政者の難しさが、描写されている一冊。
    元禄時代、徳川綱吉、その教科書的なイメージとはかけ離れた、苦悩の連続であった将軍の姿、そして当時の民衆の困難具合が手に取るように伝わる作品。
    経済、社会的に混迷を極める現代に、読まれる歴史小説ではないか。泣ける。

全26件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

作家

「2023年 『明治神宮100年の森で未来を語る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

朝井まかての作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×