アイドル 地下にうごめく星 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087440874

感想・レビュー・書評

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  • 「リフト」
    「リミット」
    「リアル」
    「天使」
    「アイドル」
    「リピート」

    「リミット」の楓のエピソードがよかった。強烈に追い求めるものがあって、でも絶対に届かないとわかっている。それでも夢を見続けるのだけど、強烈な感情の反動なのか、燃料が尽きてしまうのか、ある時突然どうでもよくなったりする。
    それまでの文脈をぶった切ったように見える「あ、なんか、もういいや」は幼児の喜怒哀楽の変化のようだが、本当にそんな感じにふっと力が抜けてしまうことがある。理解できる人にはさみしく切ない心の動きに見えると思う。
    それでも心の隅には燃えカスが残っている。もともとかなりのエネルギーを持った感情だから、塵ですら大きなパワーを持っていて、きっかけさえあればまた再燃してしまうのだ。
    「夢を追いかけるアイドル」のリアルさとエンタメのバランスが取れた比較的正統派な作品。

    一方翼と天使ちゃんのエピソードは、どうしてもアイドルにこだわっているわけではなくて、自分が抱える問題を解決するためのきっかけが必要だった。彼女たちのようにアイドルに触れて変化していく人がアイドル側にもファン側にもいるのだろう。入れ替わりの激しい地下アイドル業界のリアルさでもあるはずだ。

    結末はあっけないと最初は感じたが、それがリアルなのかもと思った。目指しているものが違い、考え方がころころ変わる若者が一つの目標を目指すというのはとても難しい。それでも著者の作品は最終的に前向きに進みだす作品ばかりだから嫌いになれない。

  • タイトル通り、いわゆる地下アイドルをテーマにした小説。アイドルにのめり込む人、アイドルを辞められない人、アイドルを志す人。身近になったとは言え、アイドルという存在は何か人を巻き込んでいく力があるのかな。
    こういった視点でアイドルをとらえている小説は珍しいかも。アイドルに興味のある人はぜひ。

  • OLから脱サラして、アイドルを育てる話。
    朝井リョウの武道館と同じ様に、人を楽しませたいと真っ直ぐに努力する姿が感じられた。

  • 私は普通の女の子がアイドルになっていく過程を見ることが好きなので、この作品はかなりハマった。
    アイドルは見ている人に実世界とは別の世界を作ってしまうから、本当にすごいと思うし好き〜

  • 地下を応援したことはないながらもアイドルのオタクではあるので、オタク側の心情に共感できる部分がちらほらあった。
    鮮烈に恋に落ちていく感覚、疾走感、ままならなさ。口では大層なこと言いながらも結局ちがう道に逸れる志の弱さ、諦めると言いながらもやっぱりまた志してしまう諦めの悪さ。登場人物みんな違うベクトルにしょうもなくて、読んでいて気持ちよかった。
    メインキャラクター誰一人として幸せになれそうな未来が見えないんだけど、果たして成功する人はいるのかな。その後が気になる。

    「なにを考えているんだろう。綺麗な人って、なにを考えて生きているんだろう。私が自分の醜さに嘆いたり、他人の美しさに憧れることに費やしている時間を、美しい人はどんな素敵なことを考えるのに使っているんだろう。その頭の中を覗きたい。」

  • アイドル側の視点でアイドルを見たことが無かったので新鮮。アイドルを目指す女の子達の心理が、地下アイドル飽和の裏側を説明してくれるようだった。

  • 地下アイドルがテーマ。
    女装アイドルや天使を名乗るアイドルなど、登場人物の思考や背景が少しぶっ飛んでいて面白い。
    けど、ストーリーは真面目で夢見ることの大変さ、好きなだけじゃ駄目なことを思い知らされる。

  • だいすき。ものすごくすき。

    元々この手の題材は、ファンではなくアイドル当人の心持ち、打ち込み方、熱狂の仕方にとても共感をするからすきだ。
    華やかな世界を覗き見ることが楽しいのはもちろんのこと、他の青春的題材よりも感覚としてかなり頭抜けて自分を重ねられるので、贔屓してしまう。
    卓越した技術云々よりも自分の身を使った全身全霊の体当たり感が、ある意味では近しく感じられる隙で、でも気持ちは物凄く熱くて、その燃え盛り様が良い。
    すきなことって、そういうものだ。

    とはいえ本書では四十代半ばにして電撃的に地下アイドルにハマってその日のうちにプロデューサーに乗り出す夏美の視点に一番親近感を抱いてしまって、自分でもちょっとおかしかった。
    そうかわたしそちら側か。
    夏美もめちゃくちゃ燃え盛っていたからな。

    見切り発車でも、儚くても、夏美の行動が若者たちにとってちゃんと意味の、意義の、あることで、しっかりと作用していて、現実的なのにとても希望があって、噛み締める気持ちになった。
    儚いなあ、の末の最後の最後の着地があんまりで、仕方がないなあ沼だなあと嬉しくなって笑った。

    天使ちゃんがとてもインパクトがあってすきだけど、いちばんはやっぱり断然夏美だった。
    慎ましくあっさりとしか書かれない楓との関係も、もしかしたらその分余計に、でもあくまでおまけ的に、そそられてしまった。

  • 昔読んだ作品。

    初めて行ったアイドルのライブで、メンバーの1人である楓に一目惚れした夏海は彼女をプロディースすることに決める。
    グループの電撃解散後、夏海のアイドルユニットに入る楓、女装好きの男子でアイドルになりたい翼、訳あって天界から人の世界に来たと思っている瑞穂、容姿にコンプレックスがある愛梨。
    それぞれの内面を鮮烈に描く長編小説。あなたの"推し"が必ず見つかる!!

    このお話は、様々な人物の内面を知ることができ、こういう人もいるんだな、と思える以上に、地下アイドルの裏事情も知ることができて、とても面白いお話です。
    いくらメディアの露出が少ない地下アイドルでも、若しくは地下アイドルだからこそのデコボコが生まれます。
    そしてそのデコボコの中、様々な人物達は自分の夢のためにどう動くのか、ここが見所です。
    そしてわたしの推しは、自分を「天使」だと名乗る不思議少女の瑞穂、通称天使ちゃんです。
    この子は、天使故に人間達と上手く関係を築けず、自分の居場所を求め地下アイドルになることを決意。
    果たして私の推しは無事居場所を見つけることができるのか。
    気になる方は是非読んでみてください。

  • 地下アイドルの状況がリアルに描かれていて、生き生きとした素晴らしい作品。解説の引用によると作者が昔からアイドル好きだったわけでは無いようで、そこから取材してここまでのものを作り上げたのは凄い。

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著者プロフィール

1981年静岡県生まれ。天理大学人間学部宗教学科講師。東京大学文学部卒業,東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了,博士(文学)。2011-2013年,フランス政府給費留学生としてパリ・イエズス会神学部(Centre Sèvres),社会科学高等研究院(EHESS)に留学。2014年4月より現職。専門は宗教学,とくに近世西欧神秘主義研究,現代神学・教学研究。訳書に,『キリスト教の歴史 ―― 現代をよりよく理解するために』(共訳,藤原書店,2010年),論文に「もうひとつのエクスタシー ―― 「神秘主義」再考のために」(『ロザリウム・ミュスティクム:女性神秘思想研究』第1号,2013年),「教祖の身体 ―― 中山みき考」(『共生学』第10号,2015年)など。

「2016年 『ジャン=ジョゼフ・スュラン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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