大人は泣かないと思っていた (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 5505
感想 : 283
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087442342

作品紹介・あらすじ

時田翼32歳。九州の田舎町で、大酒呑みで不機嫌な父と暮らしている。母は11年前に出奔。翼は農協に勤め、休日の菓子作りを一番の楽しみにしてきた。ある朝、隣人の老婆が庭のゆずを盗む現場を押さえろと父から命じられる。小学校からの同級生・鉄腕が協力を買って出て、見事にゆず泥棒を捕まえるが、犯人は予想外の人物で――(「大人は泣かないと思っていた」)。
小柳レモン22歳。バイト先のファミリーレストランで店長を頭突きしてクビになった。理由は言いたくない。偶然居合わせた時田翼に車で送ってもらう途中、義父の小柳さんから母が倒れたと連絡が入って……(「小柳さんと小柳さん」)ほか全7編収録。
恋愛や結婚、家族の「あるべき形」に傷つけられてきた大人たちが、もう一度、自分の足で歩き出す姿を描きだす。人生が愛おしくなる、始まりの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 九州の田舎町に住む、生真面目な男と呑んだくれの父、出て行った母、親友、職場仲間、ご近所さんなど、日常の中で関わる人々たちの独白によって綴られた7つの連作短編集。

    ブクログアプリの話題文庫ランキングで、本作品の表題名が目にとまり、そのまま手に取った。

    『大人は泣かないと思っていた』
    なるほど。言われてみれば確かになと。

    各章ごとに主人公が変わり、年代も幅広く性別も違うそれぞれの生き様が語られていく。

    兎角、主人公である翼という青年の発する人情味が心地よい。

    総じて、何か大きなドラマがある作品ではない。
    ただただ、各登場人物たちの思い想いが徒然に描かれている。地味とまでは言わないが、派手さは一切ない。

    何よりそれが、この作品の見どころだ。

    各登場人物の中に、少しずつ自分がいた。
    幼き頃からおじさんとなった私自身の、あらゆる感情のパーツが点在していて、独白ごとに胸に沁みる言葉があった。

    私も思っていた。大人は泣かないと。

    子どもの頃の私は大人然り、男は泣いてはいけないのだと思い込んで育った。

    そして時は経て、おじさんになった今の私はどうだ。
    ことあるごとに泣く虫のようになった。

    そうだ。大人だって泣くのだ。
    何かおかしいだろうか。大人だって泣くのだよ。

  • フォロワーの皆さんの評価が高かったのでポチった一冊。
    先日読んだ 川のほとりに立つ者は がなかなか好みだったこともあり、即決。


    時田翼、32歳、農協勤務、九州の田舎町に住む。趣味はお菓子作りのなよなよした男。
    酒飲み、周囲とうまくやれない我儘な父と二人で暮らしている。母親は父親と離婚し、家を出ていた。

    ある日父が、庭にゆず泥棒が現れると言う。
    しかも、隣の婆さんだと。

    翼は偶然にも、そのゆず泥棒に遭遇する。
    そこから翼の日常に少しずつ変化が。。。

    一つ一つの物語は短編なのだが、翼が軸になって繋がっていく。
    どの話も、女性目線でかなり頷けるところが多い。

    最後にはしっかり着地点があり、ほっこり(^^)

    すぐに内容は忘れてしまうかもしれないが、このほっこりした気持ちは忘れないだろうと思った(^-^)

    • ポプラ並木さん
      bmakiさん、おはよう!
      うわー、たくさん既読でしたね。
      とてもうれしいです!
      bmakiさんも宮部作品相当読んでいますね。
      クロ...
      bmakiさん、おはよう!
      うわー、たくさん既読でしたね。
      とてもうれしいです!
      bmakiさんも宮部作品相当読んでいますね。
      クロスファイアが既読というのはなかなかですね!
      ポアロシリーズは毎月1回、文字だけの感想会を別読書サイトで実施しています。もう3年目であと3冊でコンプリートします。
      「そして誰もいなくなった」はまだ読んでいません。早く読みたいな!
      時代物は苦手で読まないんだけど、蝉しぐれ、蜩ノ記、壬生義士伝、天地明察は面白かったです!
      誉田さんの武士道シリーズはまた読みたいです!!
      2023/07/03
    • ポプラ並木さん
      bmakiさん、おはよう!
      うわー、たくさん既読でしたね。
      とてもうれしいです!
      bmakiさんも宮部作品相当読んでいますね。
      クロ...
      bmakiさん、おはよう!
      うわー、たくさん既読でしたね。
      とてもうれしいです!
      bmakiさんも宮部作品相当読んでいますね。
      クロスファイアが既読というのはなかなかですね!
      ポアロシリーズは毎月1回、文字だけの感想会を別読書サイトで実施しています。もう3年目であと3冊でコンプリートします。
      「そして誰もいなくなった」はまだ読んでいません。早く読みたいな!
      時代物は苦手で読まないんだけど、蝉しぐれ、蜩ノ記、壬生義士伝、天地明察は面白かったです!
      誉田さんの武士道シリーズはまた読みたいです!!
      2023/07/03
    • bmakiさん
      ポプラ並木さん

      はい。多分20代後半から、30代前半にかけて、宮部作品その時に出ていた長編で時代物以外は全部読んだ筈です。

      私は...
      ポプラ並木さん

      はい。多分20代後半から、30代前半にかけて、宮部作品その時に出ていた長編で時代物以外は全部読んだ筈です。

      私は、魔術はささやくだったかな?その本が当時は一番好きな本でした。

      藤沢周平は、会社のおじさんが好きらしく、頼んでもいないのに沢山貸して頂いた時期がありました。
      あのおじさんも転勤になってしまったなぁ。。。

      ポアロ、あと3冊でコンプリートですか。凄いですね!

      私コンプリートしてる作家さんいるのかなぁ??東野圭吾先生はかなり読んでいるつもりですが、短編が嫌いなのでなかなかコンプリートできません(笑)
      短編ってわかっていたら、絶対買わないですもん(笑)

      あ、それから、タイムマシンでは行けない明日 昨日調べてAmazonでポチりました!ブクログでも凄く評価が高そうなので楽しみです(^^)
      2023/07/03
  • 排他的な狭い町の七人の物語。
    古くから住む一族が偉く、人の家のことに興味津々で根掘り葉掘り。
    住む世界が狭すぎて想像力が乏しくデリカシーのない人達が、無遠慮に人を傷付ける。
    なんだか今、私が住んでいる土地にまあまあ似ている。
    この、オオサンショウウオめっ‼︎
    と、わなわなする事もたまにあったけど、コロナの影響でそんなことも二、三年忘れていた。
    (注・オオサンショウウオさん達への悪口ではありません)

    そんな息が詰まるような世界で踠きながら頑張って生きている人達、みんな色々あるよね…
    人からは簡単に好き勝手に言われちゃうけど、その人にはその人の物語がある。
    何にこだわって誰を想うのか、合わせたくない人達とどこから距離をとるのか。
    そんな自分に合わない人にも、その人の物語がある…

    読んで良かった。
    読み終わる時には、登場人物ほぼ全員を応援したい気持ちになっていた。
    そして、本書の表紙のように砂浜を散歩してみたい。
    一章のなかに、とても簡単な柚子シロップの作り方が出てくる。
    一晩で作れる柚子シロップは初めて知りました、これは作ってみたいʕ•ᴥ•ʔ

    • あゆみりんさん
      ほん3さん、こんばんは。

      一晩で作れる柚子シロップの作り方

      柚子の皮を剥く
      実をざく切りにして瓶に入れる
      上から蜂蜜を注ぐ
      フォークで潰...
      ほん3さん、こんばんは。

      一晩で作れる柚子シロップの作り方

      柚子の皮を剥く
      実をざく切りにして瓶に入れる
      上から蜂蜜を注ぐ
      フォークで潰す
      一晩置いたら出来上がり
      水かお湯で割って飲む

      まさかの皮を使わない、です。
      今まで皮をメインに使い、果汁の消費に困ってたから私には嬉しいレシピ‼︎
      ざく切りらしいけど、種多いし甘皮と種をよけちゃってから蜂蜜注ぐと、飲む時ラクかなって思いました。
      白いホワホワもえぐみがあるし、無い方が美味しそう〜

      私は今夜、試しに安い蜂蜜で作ってみる予定です、ほん3さんもぜひぜひ(о´∀`о)
      2022/11/19
  • マジカルランドに続いて寺地さん2冊目。この本は「普通」「一般的」「妥当」な人生からの脱却というのがテーマだったと思う。日本にまだ残る男尊女卑の世界、余生としては不条理だが、男性からしたら女性を守るためにそうせざるを得ないという考えもある。しかし、それは単に相手のために生きているという、ある意味押しつけ。複雑だけど単純な男女関係の難しさを感じる。この本の教訓は、今の自分に正直に生きること、それによってさらに自分の高みを目指せる。即ちこれが幸せであり、人生の価値なんだということが伝わった。小柳レモン、好き!⑤

  • 登場人物全てが美化されず、人間味溢れている物語り。連作短編で、つぎは誰が主人公になるのかと思い巡らせて読む楽しみも味わえた。それにしても、田舎って、こんなに面倒なものなんだろうか。

  • 毎月一冊だけ文庫本を買っているのですが、今月は何にしよう?と悩んで、フォローしている方の感想から、このカッコイイ女性をみてみたい!それに好きな作家さんだし!と思い購入しました。

    うん!カッコ良かったです。

    主人公時田翼は農協に勤めています。
    わたしも田舎に住んでいるので、共感できる部分が多かったです。

    この翼は周りからいつも遠くをみている。といわれますが、人がこうだからとあわせるのではなく、自分の意見をちゃんと持っているところを、すぐ登場人物を好きになってしまうわたしは今回の翼も好きになってしまいました。

    この翼とレモンが可愛くてキュンキュンしました。

    買って良かったです。

    • raindropsさん
      よみこさん、こんにちわ。

      かっこいいですよね。
      共感してくれる方がいると嬉しいです。
      よみこさん、こんにちわ。

      かっこいいですよね。
      共感してくれる方がいると嬉しいです。
      2021/07/16
    • よみこさん
      raindropsさん、こんにちは☘

      料理をこぼした女性をかばってはなった言葉もカッコ良かったです。

      この本を読んでみたい!て気持ちにさ...
      raindropsさん、こんにちは☘

      料理をこぼした女性をかばってはなった言葉もカッコ良かったです。

      この本を読んでみたい!て気持ちにさせて頂いて、ありがとうございました。
      2021/07/16
  • 「寺地はるな」さん、初読みです。
    登場人物が、それぞれ語り手となって綴らた7篇の連作小説です。
    一度は皆も悩んだであろう「らしさ」という言葉。男らしさ、女らしさ、
    日常のよくある風景。これらの言葉や風習に囚われて揺れ動く心情が、わかり易く丁寧に表現されている。おかしいと感じながら、抵抗せずなんとなくやり過ごしてきた古い価値観に対し、大きな変化ではなくても小さな波紋は起こせる。自分らしく生きる人々を応援する、そして自身のおかしな価値観を脱ぐことで楽になれる。
    大変共感し、楽しく読むことが出来ました。

  • 面白かった♪
    寺地さんの作品はさらっと読みやすい。
    けど何気にスパっと爽快なセリフが出てくる。

    「大人は泣かないと思っていた」
    あ〜そんな事考えたことなかったなぁ

    うちも星一徹みたいな父親で卓袱台ひっくり返すような家で…凄く嫌だったことを思いだした笑

    祭りの時の玲子さんの啖呵は気持ち良かったな(^ ^)

  • 寺地はるなさんは、今回初読みの作家さんだった。

    『大人は泣かないと思っていた』
    九州の架空の田舎町、耳中市肘差を舞台にした7編の短編集で登場人物は全編で繋がっている構成

    「大人は泣かないと思っていた」
    「小柳さんと小柳さん」
    「翼が無いなら跳ぶまでだ」
    「あの子は花を摘まない」
    「妥当じゃない」
    「おれは外套を脱げない」
    「君のために生まれてきたわけじゃない」

    特に「翼が無いなら跳ぶまでだ」と「君のために生まれてきたわけじゃない」は印象的だった。

    女らしさや男らしさ、長男だからとか家柄とか、古い慣習や教えに拘って逆らえずに生きる人や、それでよしとする人、或いはそこから抜け出したり、抜け出さなくとも変わろうとする人の物語

    本作は、短編毎に主人公を変え様々な目線で読み手に語りかけている様な構成だった。また、それぞれの主人公に肩入れせずフェアな立場を保ち、その目線や立場での思いや葛藤が丁寧に綴られているため、読み手の思考が良い意味ですごく揺さぶられる。

    個人的には鉄腕と玲子のカップルが好きだなぁと思った。
    2人からは田舎町に住む上での前向きなヒントや希望が感じられた。こういう人が増えると田舎町も変わっていくだろう。
    また、22歳という若さながら、田舎町で様々な思いをして暮らして来た知恵と勇気から、確固たる信念と拘りを持って逞しく生きる小柳レモンにもエールを送りたい。

    そして、時田翼…
    レモンと幸せになって欲しいなぁと心から思う。
    人の痛みが分かる一方で、臆病で繊細で傷付きやすい。
    母の広海のためと父の入院を知らせずにいるが、たとえ大酒呑みで頑固な別れた夫であっても、病床に伏していると聞けば広海は駆けつけると思う。
    生き方と人の心は、そう器用に割り切れるものじゃないのだから。

    人が決めた○○らしくよりも、自分らしくいられる道を探す方が、何より幸せで、自分を解放し、受け入れることが出来る近道だと思う。

    寺地はるなさんは初めて読んだ作家さんだが、是非他の作品も読んでみたいと思える作品だった。

  • 時田翼の父と母は離婚した。
    母は、自分の新たな可能性を信じて出て行った。
    父は、何も言わず、泣いていた。

    この三人の関係が、最後まで動かない。
    そして、それぞれに自分の生き方に忠実で、でもふっと誰かを思い出し、チクリと胸を痛ませる。

    幸せなのは、いつもじゃない。瞬間だ。
    人と人とが一緒に暮らすなんて、そんなものだ。
    言い切る時田翼は、不思議な魅力で満ちている。
    なんというか、誠実であろうとする、とはこういうことを言うのかな、と思う。

    そんな誠実は、どんどん小柳レモンに伝染する。

    寝たきりのおばあちゃんを助けるために。
    母と新しい父の仲を自身が壊さないために。
    最初は、柚を盗んだり、店長に頭突きしたりと、上手く表せないことの方が多かったのに。

    ちゃんと相手と向き合い、必要な対峙が出来る様になる。

    この小説を読んでいると、それっておかしくない?と思った瞬間、誰かが声をあげている。
    そして、それは分かって欲しいよね、と思った瞬間、そっと描写がスローに静かになる。

    具体的に挙げても、ただのあらすじにしかならないのに、一つ一つの台詞や描写には温度と時間がある。

    だから、気になっている方は読んでみて欲しい。

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著者プロフィール

1977年佐賀県生まれ。大阪府在住。2014年『ビオレタ』で第4回ポプラ社小説新人賞を受賞しデビュー。他の著書に『わたしの良い子』、『大人は泣かないと思っていた』、『正しい愛と理想の息子』、『夜が暗いとはかぎらない』、『架空の犬と嘘をつく猫』などがある。

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