- 集英社 (2023年5月19日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784087445213
作品紹介・あらすじ
【第 9 回河合隼雄物語賞受賞作品】
松岡清澄、高校一年生。一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
学校で手芸好きをからかわれ、周囲から浮いている清澄は、かわいいものや華やかな場が苦手な姉のため、ウェディングドレスを手作りすると宣言するが――「みなも」
いつまでも父親になれない夫と離婚し、必死に生きてきたけれど、息子の清澄は扱いづらくなるばかり。そんな時、母が教えてくれた、子育てに大切な「失敗する権利」とは――「愛の泉」ほか全六章。
世の中の〈普通〉を踏み越えていく、清々しい家族小説。
【著者略歴】
寺地はるな(てらち・はるな)
1977 年佐賀県生まれ。大阪府在住。会社勤めと主婦業のかたわら小説を書き始め、2014 年『ビオレタ』でポプラ社新人賞を受賞しデビュー。20年咲くやこの花賞を、21年『水を縫う』で第9回河合隼雄物語賞を受賞。『大人は泣かないと思っていた』『ガラスの海を渡る舟』『タイムマシンに乗れないぼくたち』『カレーの時間』『川のほとりに立つ者は』『白ゆき紅ばら』など著書多数。
感想・レビュー・書評
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月初は仕事がら忙しく、休み時間に読書が出来ない為、読書量が極端に減る。
その上、ワンピースのアニメを魚人島からまた見始めた(笑)
子供が小さい頃、魚人島の辺りまでは一緒にちょこちょこ見ていたのたが、その後すっかり遠のいていた。
会社の人から、そこから色々伏線が回収されて面白くなるのに、見ないなんて勿体無いと言われ、今一生懸命時間が空くとアニメを見ている。一気に300話ほど(笑)
というわけで久々の読書。
リハビリには丁度良い柔らかさの本。
松岡清澄は高校一年生になった。
一歳の頃に父と母が離婚し、祖母と、市役所勤めの母と、結婚を控えた姉の水青との四人暮らし。
趣味は手芸。とくに刺繍が好きだ。
学校では手芸好きなことををからかわれ、周囲から浮いており、中学までは友達も居なかった。
姉の水青は、幼い頃の経験がトラウマになり、かわいいものや華やかな衣装が苦手だった。
そんな姉が結構することになり、清澄がウェディングドレスを作ることを決意する。
家族それぞれの立場からの短編連続小説。
家族それぞれが、裡に秘めた思いがある。
受け取り方は、読み手それぞれ違うだろうが、寺池さんの本は、男性だからとか、女性だからとか、性別によってこうでなくてはならない!みたいのが、そうじゃなくてもいいんだよ、好きなものは好きでいい。自分がやりたいと思うことを信じたらいいというようなメッセージが伝わってくる。
私にはこの清澄の母親の真面目が故の生きにくさのようなものも、共感できる部分が多かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
寝屋川(ご近所です)に住む松岡家の面々が順に語り手となる連作短編集。
刺繍している時が一番楽しそうという「女子力高過ぎ男子」の清澄。
かわいいや女の子らしい、ではなく「まじめそう」で武装する姉の水青。
仕事が忙しく「愛情を、手間の量で測らないでほしい」と言い張りながら、実は子育てに悔いを残している母・さつ子。
「らしさ」が求められる時代の中ですべてを飲みこみ続けて生きてきた祖母・文枝。
「男なのに」「女らしく」「母親だから」…、それぞれに抱えた屈託が各章が終わる時には少し薄らいでいく展開にホッとする。
清澄にとっての宮多やくるみ、水青にとっての紺野、文枝にとってのマキちゃん、ちょっとしか出てこないが、それぞれの存在があって良かった。
だが、一番良かったのは、この家族のパートではなく、この家族にかつて父親としていた男・全を拾って雇い続ける会社社長・黒田のパート。
全の面倒を見るだけでなく、全の給料から養育費を天引きし松岡家に毎月届け、全に見せるために清澄の写真を撮り、清澄が幼い時には運動会に応援に駆け付け、まるで本当の父親のような気持ちになっていた黒田。
かわいいものが嫌いだといつも言っている水青のために、彼女の望むシンプルなウエディングドレスを作り始めて行き詰った清澄から相談され、一緒にドレスを作るように全をけしかける。
ひとたびドレスを作り出せば生地とピンだけで次々と平面の布からドレスの形を作り出す、プロの手際を見せた全も場面をさらって格好良かったが、仮縫いを終えたドレスを着てすっくと立つ水青のところに駆け寄り全と言葉を交わす清澄を見る黒田の姿がなかなか切ない。
それぞれの意味で父親になれなかった全と黒田だが、『僕の家にはお父さんはおらんけど、外にはお父さんが二人おるような感じがしてたし、なんていうか、ちょっとお得感があったな』と清澄に言ってもらえて良かったよ。
プールに通うことにしてから溌剌としてきたおばあちゃんの姿が素敵。
『今からはじめたら、八十歳の時には水泳歴六年になるんや。なにもせんかったら、ゼロ年のままやけど』って、なんだか耳が痛い。 -
こうあるべきだ、これが普通だ、と勝手に決めつけてしまっていることって沢山あるなと改めて思いました。
年齢を重ねるとそれまでの経験も加わってよりその傾向は強くなるかもしれない。どうしても周りの目が気になってしまうし。
自分らしく自由に進み続けて停滞しない、好きなこと、やりたいことを大切にしている人は素敵だなと思います。自分らしくというのは意外と難しい。 -
ブグログのフォロワーさんの
感想を読んだことがきっかけで
初めて寺地はるなさんの本を読んだ♪
表紙の青色と水を縫うの題名も良き♪
昨年からずーーーっと仕事に追われている感じが続いていて、本の活字がなかなか頭に入らなかった(T ^ T)
でも休みの日にテレビも音楽も消して
やっとやっと本を開いた
最初は
読みにくいかな?誰のこと?
戸惑いながら読んでいくうちに引き込まれて
1時間ちょいで読了
一人ひとりの目線で物語が進んでいく
離婚した父親に
ウェディングドレスの製作を頼みに行き、
あらゆる生地を纏わせて出来上がっていく場面と
名前の由来が語られる場面は、
何度も読み返したがとても良い、好きな場面♪( ´▽`)
「普通」って何だろう?
「ジェンダー規範」
「無意識の偏見:アンコンシャスバイアス」
に捉われている日常、この社会に気づきをくれる作品だと感じた
優しくてまた読み返したくなる
次も寺地はるなさんの本を探して読んでみようかな
-
近年、多様性とかジェンダー問題が急速に取り上げられるようになったと思う。
本作もその類の作品だが他作品に比べると
盛り込む要素が幅広い作品だった。
『水を縫う』
全6章の連作短編集では
「女性らしさ」「男性らしさ」以外にも
「母親らしさ」や「父親らしさ」
或いは「家族ってこうあるべき」
「年齢的にこうするべき」といった
より広範囲な潜在意識を扱っている。
私も日常生活の様々な場面で知らず知らずのうちに性別や年齢で物事を判断していることがある。
こういう意識は相当深い所に根付いていそうだ。
この意識は生まれた年代や家庭や社会環境の影響も大きいが、時と場合により、それを好ましく思わない人がいることは、当然のこととして誰もが知っておく必要があるんだろうと思う。
本作からは、こうあるべきという強い主張ではなく、人それぞれの個性や考え方を大切にしようというメッセージが伝わってくる。
特に、母になり水着姿を封印させられたことで、大好きな水と戯れることを自制していた文枝の話は良妻賢母の日本文化が作った女性像と重なって胸にささった。
そういえば海外のビーチでは、ご年配の方がチャーミングな水着姿で開放感たっぷりに海水浴を満喫されている。初めて見た時は、その奔放なまでの高い露出度に驚いた。
日本ではあまり見られない光景だ。
大和撫子が女性の美の表現とされている日本では、なかなかこうはいかない。だからこそ、どこか羨ましくも感じるのだろう。
けれどどの国にいようと、個人の基準や精神に基づいて誰からも束縛されることなく行動できる姿が、最も美しくて尊重されるべきなのだと思う。(もちろん公序良俗に反するものは論外ですが)
何か大きな壁を乗り越えるということでは無く、自分の中の気付きや気持ちの変化で、少しだけ前に進む勇気を与えてくれるような温かい作品だった。
寺地はるなさんは『大人は泣かないと思っていた』に続き2作目だったが、どちらも固定概念にとらわれず、自分らしさを大切にという共通のメッセージが込められている。
本作の方がやや抽象的で読み手に解釈のバトンを託しているように感じた。
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寺地はるなさん、課題図書や入試問題に多く取り上げられたということもあって、初めて読みました。いきなり主人公の男子高校生が「手芸部に入るかもしれません」って、「普通」じゃない自己紹介から始まります。なるほど、微妙な感情の変化や個々の信念みたいなものが上手く描かれてました。
また、別の作品も読んでみようと思います。 -
この作品を読みながら思い出したことがある。
先日、髪を切って仕事に行ったら、子供たちに「髪、切ったね~」と言われた。ちょっぴり短く切り過ぎてしまった。
そんな中に「男みたいだね」と言ってきた子供がいた。
短い髪=男の人という考え。
ある男の子が表紙の絵が可愛らしい本を読んでいたら、
「なんで、そんな女が読むような本を読むん?」と言っていた上記の子供。
かわいい=女の人という考え方。
世の中の普通とされるものは、ときとして面倒くさいし、苦しくなることがある。
男も女も髪が短いだろうが長いだろうが本人が良ければよいだろう?
何を好むかも自由だろう?
「女性らしさ」「男なのに」「親だから」という世の中の普通の価値観を押し付けられるよりも、目の前の、見て話して感じたその人を知るようになれると良いと思う。
そして、この作品はこういうジェンダー絡みの「らしさ」ということを改めて考えさせられる物語でした。
普通は難しい。
また、普通に囚われたくない。普通で片付けられたくない。
登場人物たちは自分軸を持って精一杯頑張っていました。
私も強靭な自分軸をを持ちたいと思います。 -
ナツイチのしおり欲しさに読んでみました。
(今回も動機が不純…)
タイトルに「水」という単語が入っていると、それだけでなんとなく夏っぽく感じます。
あらすじを読んだ時は、手芸好きの男子高校生の話なのかな、と思っていたのですが――そうではありませんでした。
本作のテーマは、世代によって変化している「男女間の価値観」です。
物語には、祖母、市役所勤めの母、事務員の姉、そして高校男子の主人公と、世代の異なる人々が一つ屋根の下で暮らしています。(父は、ある理由で一緒に暮らしていません)
それぞれの視点から、男女の在り方や「ふつう」についての価値観が語られていきます。
世代ごとにこんなにも違うのか…と感じたのですが、それが「ジェネレーションギャップ」というものなのかもしれません。
一見、女性の社会的立場の変化が主題のようにも見えますが、実は父親と高校男子の間にも、世代間の価値観のズレが描かれており、「生きづらさ」を感じているのは女性だけではないことに気づかされます。
たとえば、母が若かった頃、「手芸が趣味」と男子が口にすることはできたでしょうか?
祖母の時代には、きっと絶対に無理だったはずです。
実際、主人公・清澄も手芸が趣味であることに後ろめたさを感じています。
けれど彼は、自分の感情にまっすぐ向き合い、自分に正直になることを決意するのです。
“でもさびしさをごまかすために、自分の好きなことを好きではないふりをするのは、好きではないことを好きなふりするのは、もっとさびしい”
この言葉に出会ったとき、学生時代の自分が蘇ってきました。
読書が好きだったのに、自分で「地味」と決めつけて誰にも言えず、派手に見えるものを好きなふりをして、適当なグループに入って苦笑いしていたあの頃。
あのとき、自分の「好き」をちゃんと口にしていたら、苦笑いしなくてもいい生活を送っていたかもしれません。
もちろん後悔したところで、時間は戻りません。
でも、もしあの頃、この本に出会っていたら。
「好きなものを好き」と言える、ほんの少しの勇気が持てていたかもしれない。そんな気がしています。
寺地はるなさんの作品には、無意識のうちに心の奥にしまっていた感情や、遠い昔に忘れていた記憶をそっと掘り起こしてくるような力があります。
それはときに痛みを伴い、悲しみや辛さ、後悔や情けなさなど、目を背けたくなる感情があふれてくることもあります。
それでも、不思議と「嫌な読後感」は残らないのです。
むしろ、彼女の紡ぐ物語が、そんな自分自身をやさしく受け止めてくれて、読後には「もうちょっと頑張ってみようかな」と前向きな気持ちにさせてくれます。
タイトルの「水を縫う」は、一体どこにかかっているのか。
ラストでその意味がわかったとき、静かな感動がありました。
「水」にはさまざまな思いが込められ、「縫う」には登場人物たちの想いが、丁寧に丁寧に重ねられています。
読み終えたあとにもう一度タイトルを見ると、最初とはまったく違う感情が湧いてくる。そんな素敵なタイトルの一冊です。 -
終始温かい。それぞれが周囲の固定観念から脱却していく。その中でも清澄の成長は目を見張るものがある。理解すること、受け入れることの大切がよくわかる。自分にとっての善は他人にとっても善とは限らないんだ。
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んー素敵な本だった。
家族っていうのはなんなのか。
ジェンダーと立場の縛りを絡めながら、
寺地さんの言葉が優しく見せてくれる。
可愛い洋服が苦手な姉の水青。
裁縫、刺繍が好きな弟の清澄。
形容が難しいけれど、一生懸命な母のさつ子。
女は◯◯の価値観で過ごさざるを得なかった祖母の文枝。
父、父の仕事仲間の黒田さん。
一人ひとりの目線で物語が進む。
可愛いドレスが苦手な姉のために、「僕がドレスつくったる」と弟が言うことから物語が始まっていく。
みんな必死で、だからこそ思いが伝わらない。
おばあちゃんの気持ちもお母さんの気持ちも、
全部じゃないけど、ところどころわかるから、
きゅーっとなる。
タイトルの意味がようやくわかり、とてもよかった。伝えるとことの大切さ、言葉を差し出すことの大切さ。
そして、時に言葉以上に布や刺繍がこの本では思いを伝えてもいて。
寺地さん2冊目もよかったー。 -
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本作は手芸が好きな主人公が近々結婚する姉のためにウェディングドレスを縫うことを決意し、悪戦苦闘する物語。構成としては連作短編で主人公とその家族が抱える思いが掘り下げられる形で物語が進みます。
寺地はるなさんの作品で記憶に新しいものといえば、本屋大賞候補にノミネートされた「川のほとりに立つものは」などが浮かびますが、本作も多様な価値観を肯定するような優しい作品でございました。
自分の好きなことを隠して、他人が好きなことに合わせる必要があるのか悩む主人公や、女性らしい服装が苦手で素直に自分の感情を表せない姉、子どもに苦労をかけたくないという思いが先行し、高圧的になってしまう母など、それぞれの登場人物が抱える悩みがとても、共感性の高い問題であるとともに、その悩みにそっと手を差し伸べるような展開で読んでて、心が洗われるようでした。 -
☆4.5
「女性らしい」とか「男なのに」といった言葉や価値観が私たちを型に押し込んでいる。(解説より)
私の母親がそのような価値観や偏見を持っており、自分の考えを押し付けてくるような人なので…子供の頃から何度も傷付いたことを思い出しました。
子供の頃に洋服やおもちゃを買いに行っても「それ、男の子っぽいから別のにしたら?」と言われたり、進路や就職を決める時にも自分の意見を押し通そうとしてきて言い合いになったことが何度もあったなぁと…。
そんな母親は今でも実家に帰ると、私の息子に対しても「女の子みたいなことして」とか相変わらずの発言が多くて、孫にも言うのか…と呆れてしまいます。
本作でも「あるべき姿」や「○○らしさ」に苦しむ登場人物たちが描かれており、共感出来る部分や心に響く言葉がたくさんありました。
そして物語全体を通じて描かれている刺繍に、とても興味が湧きました❁⃘*.゚ -
読んでいて何度も心がスっと浄化されて救われるような作品だった。「普通」って何だろう。性別にとらわれることなく自分の好きなことを追求する姿って眩しいんだな。自分の気持ちに素直になって、嫌なものは嫌だ、やりたいことはやっていいんだよって伝えてくれた1冊。
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バラバラだった家族の距離が清澄を通して少しずつ縮まっていく物語だった。
それを温かく見守る黒田さん…。いい人すぎる。
みんな一歩を踏み出すための葛藤が沢山あってやきもきしたけど、価値観や人目に左右されて世界を狭くするのはもったいない。それは現実も変わらないな。
とりわけおばちゃんの話がとても感動した。
最後にタイトルの意味がわかった。本当に物語通して水を縫うお話だった。 -
第9回河合隼雄物語賞
いい話だけど、感動しかけていたのに終わり方が唐突に感じて物足りなかった。
個人的にはその先を楽しみに読んでいたから、、、。
刺繍が好きな清澄と、可愛いものが苦手な水青という設定は多様性をテーマにした小説が多い中、そんなに特殊なことではないけどな?と思った。
母のさつ子は「やめとき」が口癖で、つい先回り育児をしてしまうのが、他人事とは思えず痛々しかった。
幼稚園の入園グッズの手作りや、冷凍食品のないお弁当を良しとする考えは私も反対。
手作りかどうかで愛情を量るのはおかしい。
できる人はやればいいし、苦手な人が苦痛な思いをしながらやる必要はないとあっさり清澄が言ってくれたことには拍手を送りたい。
一番よかったのは祖母の文枝がやりたいことをやろうと決めてプールに入った話。
やりたいことがあるなら、誰にどう思われてもやればいいよね、と思える小説だった。 -
寺地はるなさん2冊目。ひとつの家に暮らす家族が、それぞれ抱えるジェンダー差別に内から立ち向かっていく、心温まる物語でした。
ほんとに、ありふれていそうでいて、とてもリアルで、その分たくさん共感できる1冊でした。
特に、私は水青の私は怒っていいの一言に、とても共感。自分の生き方は自分でつかんでいくことを改めて教えて貰えました。 -
大阪に住む、ごく普通の家族をちょっと覗かせていただいた、という感じの本。普通だから、共感する部分が非常に多いです。
松岡家は、祖母、母、娘、息子の4人家族。離婚した父親は、離れて暮らしています。
日常のたくさんのエピソードが溢れています。うんうん、あるある、と頷きながら読みました。読み進めていくうちに、登場人物一人一人が、愛おしくなってきます。だって、それぞれの言動が、そのまま私にも当てはまるから。似たようなことで、悩み苦しんでいる。だから心に強く刺さります。私達の日常によくあることなのに、陳腐に感じないのは、寺地さんの勢いのある文章が、グイグイと読ませる力を持っているから。会話が大阪弁なのも、言葉がスーッと心に入ってきて良いです。心に残る素敵な言葉もたくさんありました。良い本に巡り会えました。 -
本を開き、見返しの遊び紙のきれいな水色がまず目を惹いた。読み終えたあと、『水を縫う』というタイトルがすごくいいと思った。
刺繍が好きな高校生の松岡清澄が、姉の水青(みお)のために、飾り気のないウェディングドレスを作ることになる。
男子が刺繍が好きだということに対する偏見、水青が飾り気のないウェディングドレスじゃないと嫌だという理由、母親が普通であることを求めること、祖母が夫に年齢によって否定されたことなどは世の中でありがちなことだ。しかしこれからは、清澄が刺繍が好きだということに対して、純粋にすごいなという、宮多くんみたいな人が増えていくのだろうと思う。性別や年齢で分けることないように意識を変えはじめたのが、今の時代だと思う。2人の名前に込められた意味、流れる水であってほしいというのが、その事を表しているように思えた。 -
頭の中でキラキラで流れるような刺繍を想像しながら読んでいて、すごくワクワクしました。
周りに流されることなく、好きな事に一生懸命になれるって素敵な事だなと思いました。 -
寺地さんの作品にはいつも心掴まれる。
読んでいる間中、あたたかく柔らかい毛布にくるまれているような、後ろから優しく抱きしめてもらっているような、そんな気持ちにさせられる。
特にこの作品には「自分らしく幸せに生きてほしい」という「祈り」がこめられている気がした。
最近テーマとして扱われることの多い「ジェンダー」がこの作品にもキーワードとして出てきて、一瞬、またかぁ…と思ってしまったけど、全く気にならない位に自然で静かで、うるさくなかった。
私もつい、女らしさとか母親らしさとか、役割を無意識に果たそうとしてしまっていたかも。
「普通」とか「周囲」と比べず、自分の気持ちや感覚を大切にしたいと思った。
そして、自分の「好き」を見つけたい!胸を張って好きなものを好きと言いたい!
「愛の泉」の章は、自分も似た所があるなぁと反省した。
子供から危ないものをなるべく遠ざけ、先回りして取り除いていた。「こうしないで」とか「こうしたほうがいいよ」と、子供が行動する前に口走っていることが多い。
『失敗する権利』『雨に濡れる自由』
心に残るフレーズにあふれた作品だったけど、この言葉が特に心に響いた。
「傷つかないように色んな痛みから守ってあげる」のではなく、「泣いたり傷ついたり悔しい思いをしても進み続ける姿をただ見ていてあげる」、そんな存在になりたいと思った。
ラストシーン、清澄が刺繍したウェディングドレスの描写がとても素敵で映像として浮かんでくるようだった。そこに込められた清澄の願い、姉の笑顔に涙が出た。
著者プロフィール
寺地はるなの作品
