なくしたものたちの国 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • / ISBN・EAN: 9784087451016

作品紹介・あらすじ

松尾たいこの色鮮やかなイラストから、角田光代が5編の小説を創作。なくした恋も、友だちも、思い出も、いつかまたきっと会える──。なつかしく大切な一瞬を詰め込んだ、宝石箱のような一冊。

感想・レビュー・書評

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  • あなたの宝物はなんですか?
    ー はい、家族です。
    さすが!カッコいい回答ですね。他にはありますか?
    ー はい、元気な体です。
    上手いですね、そうですよね、それが一番ですよね。

    では、今から十年、二十年、三十年前のあなたの宝物はなんだったでしょうか?十代の頃、さらにもっと前の幼少期のあなたは今と同じ回答はしないはずです。思い出してみてください。あの時、あの頃、大切に枕元に置いて一緒に寝たぬいぐるみ、どこへいくときも大切に胸に抱いて放さなかったおもちゃ。その時代のあなたが大切にしていたものがそこにはきっとあったはずです。十代の頃の宝物、もっと前の幼少期の頃の宝物。では、その大切にしていた宝物をあなたは今も手元に持っているでしょうか?恐らく多くの方にとって、それらは既に手元にないものではないでしょうか?あんなに大切にしていたものだったにもかかわらず今は手元にはないかつての宝物たち。では、そんなものたちは今どこにあるのでしょうか?どこに行ってしまったのでしょうか?もう、二度と会うこと、手にすることはないのでしょうか?なんだか、そんな風に考え出すととても切なくなりますよね?でも大丈夫。そんなものたちが向かう国、そんなものたちが、今も変わらずそこにある、そんな国があるのだそうです。そして、そんな国のことを「なくしたものたちの国」と言うのだそうです。これは、そんな国にまつわる物語。角田光代さんが優しさの限りを込めてあなたに送るファンタジーの世界です。

    小学生だった主人公が大人の女性になっていくまでを五つの短編が織りなす連作短編の形式を取るこの作品。ふわふわとした夢心地の世界に誘う、角田さんのファンタジーの世界。そんな中でも子ども時代の主人公が登場する一編目と二編目が絶品だと思いました。そう、そんな一編目〈晴れた日のデートと、ゆきちゃんのこと〉は、もう冒頭の一行目からあなたを一気にファンタジーの世界へと誘います。

    『うそだと言われると思うけれど、わたしは八歳まで、いろんなものと話ができた。すべて、ではない、言葉がわかるものと、わからないものがあった』という主人公。『飼っていた猫のミケの言葉はわからなかったのに、毎朝庭にくるトカゲの言葉はわかった』という幼少期の主人公。『何が話しかけてきてだれの言葉が理解できないか、まったく予測がつかない』ことに戸惑う主人公。『そうっとドアノブをまわさないと、そのノブが「いてえな!」と叫ぶかも』と不安がり、『よく注意して聞かないとバスの運転手が言っていることがわからない』と不安がる日々に『わたしはびくびくした子どもだった』という主人公。そんな主人公は『ほかの人と違うということを知られてはいけないと思』いつつ幼い時代を過ごします。そして、小学校の『入学式の日、父と母に連れられ』た主人公は『幼稚園の数十倍の子どもたちがいるのを見てこわくなって、逃げだし』ます。校庭の裏に『動物舎があったのだった。鳥舎と。山羊舎と、うさぎ舎』を見つけて近寄る主人公。『あたし、ゆき』と突然山羊が喋ります。『雉田成子です』と山羊をまねて名乗る主人公・成子。『ナリちゃんさあ、そこにある枝を放ってくれなあい』という山羊に枝をとってあげると『歯がゆくって!』と枝をかじる山羊。『学校ってどんなところ』と訊く成子に『騒々しいところだわよ。でもまあ、悪いところじゃないと思う。毎日毎日、ずいぶん大勢がくるみたいだもの』と答える山羊。そんな山羊と会話する日々を送る成子に、ある日山羊は『ひみつがあるんだけどー』と話しかけます。『あたし恋をしているの。それがびっくりしないでね、相手は学生さんじゃなくて先生なの先生。音楽の先生』と耳元で声を潜める山羊。『恋』というものがよく理解できない成子は『あのさあ、恋ってどんな感じ?』『あのさあ、恋ってどんなふう』といろんなものに訊いて回ります。そして、夏休みに入って山羊舎に行くことのなくなった成子。やがて、そんな夏休みが明けた初日、ふと、周囲が『静か』だと感じる成子。昨日まで成子に話しかけてきたものたちが『話しかけてこなかった』と気づきます。そして、『八歳だった夏休みが終わったあと、わたしは、いろんなものと話すことができなくなった』ことを知ります。そんな成子は山羊舎へと向かいます。そして…というこの短編。冒頭から一気に連れて行かれるいきなりのファンタジー世界には、とても愛くるしい、そして素直で優しい主人公・成子の幼少時代の『いろんなものと話ができた』という不思議な体験が丁寧に描かれていました。まるで夢を見ているかのようなその物語。そして、この印象がその後に続く大人になっていく成子の世界観に深みを与え、印象深く物語を繋いでいきます。

    「なくしたものたちの国」というとても不思議な書名のこの作品。あなたは『なくしたものはありますか?』と聞かれた時、なんと答えるでしょうか?いや、落とし物なんてしたことはないし、なくしたものなんて思い浮かばない、そんな風におっしゃる方もいるかもしれません。でも、本当にそうでしょうか?『なくなったのに気づかないものってたくさんある』のではないでしょうか。二編目の〈キスとミケ、それから海のこと〉では、そんな問いに銃一郎の言葉を通して角田さんはこんな風に答えます。『昔の写真を見るとすごくよくわかる』。そう、子どもの頃の写真。『ぬいぐるみとか、帽子とか。ああ、これ好きだった、とか、これ持っていた、とかいうものがたくさん写ってる』という確かにその時代を共に過ごしたはずなのに、今はない『なくしたものたち』がそこに写っていることに気づきます。大切なものだからこそ、いつも一緒に過ごしていたからこそ、一緒に写真に残ったそれらの宝物たち。確かにそんな風に言われて思い出すと、小学校の頃毎晩枕元に置いて寝たあの図鑑。おばあちゃんに買ってもらったあのおもちゃ。あの時あんなに大切にしていたのに、こうして写真にも一緒に写っているのに、一体どうしたんだっけ?、と思い浮かんでくるものが私にもたくさんあります。生きてきた時間の長さに比例して、物凄い数のものと出会い、そのものを愛し、そして意識にさえ残らず消えていった宝物たち。そんな『なくしたもの』に焦点を当てるのがこの作品でした。そして、『なくしたもの』たちが今もある・いる国。『なくしたものたちの国っていうのがあるんじゃないかな』と銃一郎の語りを通して角田さんはそんな国のことを読者に問いかけます。『子どものころからなくしものが多い』と語る角田さん。『あったものは、もしかして、無になったのではなく、どこかに在り続けているのではないか』と『あとがき』で問いかけます。かつて一度は身近にあったものたち、それはかつて一度は私たちが愛情を注いだことがあるものだったはずです。そんなものたちが『ひっそりと。息をひそめて。わたしの見る世界とは、決して交わらない場所に、でも、確固として今も在るのではないか』と続ける角田さん。今はもう手元にないものたちを思い、こうして物語として描きあげる角田さんの深い愛情と、かつて時を共にしたものたちへの優しい眼差しを、五編通して強く感じました。

    この作品を通して、かつて大切なものをなくしてしまっていることに気づく私たち。それらは、かつての自分自身のその時代を彩り、その時代を生きる支えになってくれたものだったのだと思います。私たち人間は、思った以上に移り気だと思います。成長すれば、人生のステージが変われば、かつて大切にしたものたちにとって変わって、新しいものたちとの時間が始まります。それが成長するということだとも思います。でも、ふと、かつての時代を共にしたものたちのことを思う時、それらは『なくしたものたちの国。村でも星でもいい。なくしたものたちの場所があって、みんな、そこに移動している』。そんな考え方ができることを教えてくれたのがこの作品でした。

    なくなったもののことを思いやり、それは「なくしたものたちの国」にあるんだという気持ち。そんな気持ちは、そんなあの日の宝物たちにきっとまた会える日が来る。いつかどこかで巡り合える日が来る。だってそれはそこにあるのだから、というとても前向きな気持ちに繋がっていきました。そんな角田さんが描くこの物語。なんて優しい気持ちに包まれる物語なんだろう、そんな風に感じた作品でした。

    • sinsekaiさん
      コメントありがとうございます
      本当に素晴らしい作品でした
      たしかに、この作品はしばらくしたらまた読み直したくなりそうですね!

      角田光代の作...
      コメントありがとうございます
      本当に素晴らしい作品でした
      たしかに、この作品はしばらくしたらまた読み直したくなりそうですね!

      角田光代の作品は本当に心に残る作品が多くて大好きです
      2020/10/23
  • 眠れない夜に時々ふと思う。

    そういえば
    昔大切にしていた
    文房具やお気に入りの本やCD、Zippoライターにハンチングの帽子、手編みのマフラー、
    みんなどこへいったんだろうと…。


    人は失って初めて
    大切なモノの大きさに気づく。

    どんなに愛していたモノも
    その去る時の瞬間は、
    まるで記憶を消す魔法をかけられたかのように
    一度も覚えてないし、

    まるで始めから
    そこになかったかのように
    見事に消失する。
    (特に消しゴムやライターの見事なまでの消え去り方には脱帽するし、まるで自ら意思を持って失踪したかに思わせる)


    そんな忘れられたモノたちが暮らす世界が
    どこかにあったとしたら…



    瀬尾まいこさんと同じく
    小説家の中でも
    最も人間力のある人格者だと
    個人的に思っている(笑)
    角田さんだからこその
    暖かい眼差しで描かれた
    失われたモノたちへの愛と鎮魂。


    お母さんが大事にしていたお姫様のかんむり、
    ホットケーキが焼けるおもちゃの機械、
    叶わなかった超ド級の恋。

    動物や植物や果物と話し、生き霊にまでなってしまう(笑)
    主人公のナリコが
    幼少期から母親になるまでの
    長い年月の間に失ってきたもののエピソードの数々は
    誰もが自分と照らし合わせて
    共感できるものばかりで、

    大切なものを失ってきた人であればあるほど
    どこまでも感情移入してしまうハズ。



    その中でも
    小学校に入学したばかりのナリコと
    山羊のゆきちゃんとの甘酸っぱい思い出の話と

    高校生のナリコと去っていった飼い猫との
    奇妙な再会の話、

    そして相手を想うあまり
    生き霊になってしまうナリコの
    三十三歳の切ない恋を描いた話は
    本当に秀逸。


    特に飼い猫のミケと主人公の母親とのエピソードは
    動物を飼ったことのある人なら
    号泣必至なのでご注意を…。
    (そういう自分も、角田さんお得意のあざとさを感じさせない抑制された展開と会話の妙に、静かに静かに嗚咽が溢れてきてホンマヤバかった!汗)


    人は無くすことを繰り返しながら
    それでも生きていく。

    まったく別々の道を歩んできたモノ(人)たちが
    ほんの一瞬、同じ時を共有して、
    そして別れていく。

    なくしものをしても、
    見つかるまでじっとそこで待っていることは許されない。

    さよならだけの人生だと誰かが昔言ったけど、
    さよならだけでは終わらないのが
    人生の妙味だ。

    いつか失くしたものや人たちと
    遠いいつか、もう一度出会うために
    人は生きているということを
    この小説は優しく甘やかに教えてくれる。

    なくすことはコワくない。
    なくすことは出会うこと。


    そう思わせてくれただけでも
    自分にとっては価値ある小説だった。



    最後に、
    7年の短い生涯を終えた我が愛猫ヤミクロに最大の感謝を!!

    この小説にどんなに励まされたかわかりません。

    主人公のもとに愛猫が帰ってくるエピソードは
    さすがに何度も読めなくなったけど、
    今はこの小説に出会えて
    本当に良かったって思えます。

    • tc0611さん
      円軌道の外さんみ〜つけた(^-^)
      覚えてないかもやけどアメブロやってたつばさです
      コメントしたらあかんかなって思ったけど、ヤミクロちゃ...
      円軌道の外さんみ〜つけた(^-^)
      覚えてないかもやけどアメブロやってたつばさです
      コメントしたらあかんかなって思ったけど、ヤミクロちゃんが天国にいったっていうのを読んで( ; ; )うちも夏ごろ実家の猫が亡くなりました( ; ; )いっばいありがとういいました
      ヤミクロちゃんも円軌道さんに可愛がられて幸せだったでしょうね ☻
      私も円軌道さんにめっちゃ感謝しています!
      突然すいません
      身体に気をつけて夢をかなえてくださいね✨
      2013/12/12
    • 円軌道の外さん

      おおーっ!
      つばささん覚えてますよ(笑)
      いつも沢山のコメントくれてましたもん(笑)(^O^)

      春から仕事が変わり
      兵庫か...

      おおーっ!
      つばささん覚えてますよ(笑)
      いつも沢山のコメントくれてましたもん(笑)(^O^)

      春から仕事が変わり
      兵庫から大阪に転居して
      ジムとのゴタゴタがあったりで、
      ず~っとブログが書けなかったんです(^_^;)


      ここは好きなものを
      好きに紹介してるので(笑)
      気楽なんスよね(笑)

      またアメブロも
      復活する予定なんで
      気軽に遊びに来てくださいね(^_^)v


      2013/12/12
  • さてさてさんのレビューを見て読み始めました!
     
    ちょっとファンタジー要素がある不思議な内容の話でいつの間にか引き込まれて一気に読んでしまいました。

    特に好きなのは三章「なくした恋と、歩道橋のこと」タイトルも素敵です!
    生き霊仲間で、超弩級の恋愛の話をするのですが、
    その中の1人の権堂君が言うセリフで
    「自分が好きだと思うのとおなじだけを、
    相手がかえしてくれなくて、あるいは返してくれてるようには思えなくて、それで、どんどんどんどん、好きが吸い取られていって、気づいたらとんでもないくらいの好きになってるんじゃないかな」
    おお!すごく納得いきました。

    一番最後のところもすごく好きな言葉なので抜粋します!
    「どこからここにきたか、ここからどこにいくか。
    それはまったく等しい事のように、わたしは思える。
    忘れないようにしようと、ひとつひとつのものや景色や人に触れてわたしは思う。
    別の場所で、違う場所で、違う姿で、違うかたちで、違う命のありようで出会ったときに、思い出せるように、忘れないようにしよう。
    愛した人たち、愛したものたち、どうか忘れませんよに。

    素晴らしい小説でした。挿絵も可愛いです。

    • さてさてさん
      sinsekaiさん、こんにちは!
      この作品は「なくしたものたちの国」というその書名からしてなんとも魅力的ですよね。挙げられている三章、お...
      sinsekaiさん、こんにちは!
      この作品は「なくしたものたちの国」というその書名からしてなんとも魅力的ですよね。挙げられている三章、おっしゃる通り『高校生のとき、そうとは気づかず、わたしは恋をしていた』、という冒頭から引きこまれる超弩級の恋愛の話ですよね。独特なふわふわとした世界観がとても魅力的だと思います。
      そして、この表紙がまた世界観に合っていてとてもいいと改めて思いました。
      素晴らしい作品だったと改めて思いました。sinsekaiさんのレビューを見て三章を読み返す機会をいただきました。ありがとうございました!
      2020/10/23
  • 出会えて良かった本。読んだ後、ああよかったと思った。物語だけど、分かる、と思うことばかりだった。

    過去に無くして後悔したときの記憶やこれから無くすだろう、無くなるかもしれない、という私自身の不安が、本に触れている間だけでもなぐさめられたように思う。

    不思議な出来事が起こるんだけど、騒ぎ立てず、静かに受け入れているところとか、最悪のタイミングだった時の心情とか、黒い気持ちでいっぱいになって自己嫌悪するところとか、作り話だとしても分かり合える人と出会えたようで嬉しかった。

    ヤギのゆきちゃんと会話できなくなった場面では、そういえば、私も飼ってた犬とそういうことがあったのを思い出した。言っても信じてもらえないと思うし犬は犬だし、と押し留めていた思い出が不意に肯定されたようで嬉しいような、最期の時を思い出してしまってすごく悲しいような気持ちになった。話の中で、ゆきちゃんがずっと優しいことも余計に寂しさを誘った。
    一瞬ジブリの黒猫が浮かんだけどそれはかき消した。





    〜〜↓すごくネタバレ・あらすじ↓〜〜

    主人公の小さい頃〜死ぬまでの5つの話。嫌な人は出てこない。

    小学生の時、ヤギのゆきちゃんと友達になってお母さんのティアラを持ち出して無くしてしまった話、

    高校生の時、昔飼ってた猫のミケの記憶がある男の子と知り合って、初めて終電で帰った日におばあちゃんが亡くなってた話、

    33才の時、不倫をして生き霊になってしまった話、

    生き霊卒業後、結婚して子供もできたけど電車に娘を忘れてきて管理庫に探しに行く話、

    最後に、今までの色々と繋がって人生の終わりに向かう話。でもそれには怖さとか暗さは全く無くて、ゆきちゃんにもまた会えたし無くしたものも見つかった。
    あぁこれかぁーとか、よかった、安心した、と思えるようなハッピーエンドだった。

    • ba2chiさん
      先日、談話室でおすすめしていただいてありがとうございました!
      読んでみました~!
      2話目あと1ページで終わるというところで駅についてしま...
      先日、談話室でおすすめしていただいてありがとうございました!
      読んでみました~!
      2話目あと1ページで終わるというところで駅についてしまったので、
      そのままホームで泣きながら読んで出勤しました(笑)

      「なくしたものたちの国」という素敵な考え方に出会えてよかったです^^
      ゆきちゃんの「なつかしくなる日がくる」という言葉もいいですね^^
      2023/04/27
    • hiroさん
      おぉ!あなたでしたか〜、見たことあるアイコンとお名前だなーと思っておりました。わざわざ、コメントありがとうございます。オススメ本、読んでもら...
      おぉ!あなたでしたか〜、見たことあるアイコンとお名前だなーと思っておりました。わざわざ、コメントありがとうございます。オススメ本、読んでもらえたのも嬉しいです。

      その部分泣ける、わかる、良い話だった、と思ったのを共有できてよかったです(*´∀`*)
      2023/04/27
  • とっても良かった。過去作にpresentsという短編集を出されているが、同じぐらいに好きだ。

    presentsと同じように、人が生まれてから死ぬまでに得るもの・無くすものが描かれている。もちろん、タイトル通り、無くしたものにウェイトが置かれている。

    主人公は雉田成子さんという名前で、生き物の声が聞こえたり、亡くなった飼い猫の生まれ変わりにであったり、生き霊になれたり不思議な出来事に出会ってはその現象に遭うことが無くなる。それをきっかけに、物ではないが得るものがあるということは、無くしたものが得たものに姿・形を変えて成子さんのもとに巡ってきたのだろうと思った。

    そして成子さんが「なくしたものたちの場所」に来たということは───??
    人でも物でも、今ここで一緒に存在していることが不思議に思える。人や物、何でも大切にしたくなる、そんな一冊だった。

    • hotaruさん
      綴さん、こんにちは。はじめまして。
      私があまり読まないジャンルの本をよく読んでいらっしゃるようなので、楽しく参考にさせていただきますね。
      フ...
      綴さん、こんにちは。はじめまして。
      私があまり読まないジャンルの本をよく読んでいらっしゃるようなので、楽しく参考にさせていただきますね。
      フォローもありがとうございます。
      これからよろしくお願いします。
      2018/05/27
  • 「なくす」にまつわる、とても不思議な短編連作。

    ナリちゃんは大人になるに従い、その時々で色々なモノをなくし、その度に不思議な経験をし考えていく。
    小さな頃、黙って持ち出したお母さんの大切なかんむりをなくしたり、男の人を好きになりすぎて自分自身をなくしたり……。

    でもそれはなくしたのではない。
    ただ別の場所に移動しただけ。
    なくして初めてそれが「あった」ことを思い知る。
    なくしたモノはどこかにあって、またいつか出会えるはず。
    いつかは出会えるのだから、安心して歩いて行こう!と静かに背中を押してくれるステキな物語だった。

  • 知らないことが怖かった。
    だから小さいころ、死ぬことがすごく怖かった。

    なくすことが怖かった。
    大事なものがなくなってしまうのは悲しかったし、どんなに大事にしていても忘れてしまうから。

    だけどこういう風に、最後に、そして始まりの時に、再び出会うことができるなら、怖くなんてない。
    待っていてくれるなら、きっと大丈夫。

    「忘れてもいいのよ、忘れていたって出会えばまた、どうしたって愛してしまうのだから。いいえ、どうしたって出会ってしまうのだから。」

    ***

    『キネマの神様』に続き、飛行機の中で恥も外聞もなく泣いてしまった本。
    大阪から帰る飛行機で、本を読んでえぐえぐ泣くのがなんだかお決まりのパターンになりつつある。
    それはきっと、別れ際に堪えた涙、泣きたい気持ちがまだどっかに残っているせいもあるんだろうな。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「死ぬことがすごく怖かった。」
      死ぬコトは、多少恐いと思っている方が良い、平気になったら向こうへ行きたくなるかも知れないから。。。
      「死ぬことがすごく怖かった。」
      死ぬコトは、多少恐いと思っている方が良い、平気になったら向こうへ行きたくなるかも知れないから。。。
      2014/03/14
  • 以前も角田光代さんと松尾たいこさんのコラボの作品を手にしてすごく良かったのを思い出し、今回もきっと良いに違いないと思って購入。

    なんだか読み終わったあと号泣してた。せつなくてあたたかくて、自分が今まで知らず知らずなくしてきたものに気付かされたというか。
    私も自分がなくしたものたちの国にいきたい。忘れてたことを謝りたいような、でもそんなこと必要ないのもわかってる。
    ただ、なくしたものをぎゅっと抱きしめて、また会えた喜びをかみしめたい。そしてまた違う形で会うことを約束したい。
    いや、約束なんていらないんだよね、どうしたって出会ってしまうんだから。

    うん、ほんと、いい作品。
    なくしたものは私を待っててくれてる。だからなくしたことを悲しまなくていいんだ。

    待っててくれてるし、また会える。

    さよならは別れじゃない。

  • あったかいお話なのにちょっぴり怖かった。
    あーあるある!っていう心情と、そうだったらいいなぁが絶妙にマッチしている角田さんの文章。お話どれもおもしろかった。
    小さい時の思い出、ふと大人になって思い出すと子どもに戻れる。なくしたものたちの国があるのってすてきだな。
    ゆきちゃんの話がわからなくなるってのと隣の席の男の子の話がわかるようになるってのがなんとも言えなくていいー!!

  • 不思議な連作短編集。

    「なくしたものたちの国」という発想が素敵です。考えたことはなかったけど、ものをなくすことについて、無意識に絶望的なことのように感じていました。
    なくしたものが在り続けることのできる場所があると思ったら、(本編でも書かれていたように)安心します。なくしてもどこかでいつか出会えると思ったら嬉しいです。
    優しい発想だと思いました。

    静かで、不気味だったり狂気じみてたり、でもどこかやさしい、各編読み終わる毎になにかジワーっと心にくるお話でした。

    きれいな色使いのイラストなのに、静けさに、満ちていて物悲しく感じます。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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