- Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087451832
作品紹介・あらすじ
パリ帰りのユキが経営する高級洋装店で働く隆子。「この店を自分のものにしたい」と憧れ以上の野心を抱き、ユキの再渡仏をチャンスと──デザイナーとして頂点を目指す女たちの闘い。(解説/森英恵)
感想・レビュー・書評
-
古さを感じさせない作品でした。
当時のファッション業界でたくましく生きる女性をリアルに感じることができました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
時代を感じさせる描写もあった(作中で、ハチャトゥリアンが指揮をしていた!)のですが、女と女の闘いや、男女の関係など現代でも十分通用する面白さでした。
松平先生、強かで、鮮やかで、ずるい。
主人公は真っ直ぐで上昇志向が強く、挫折しても跳ね返そうとする強さが良かった。
この先、ズルさを身に付けて、業界でのし上がっていくのを予感させるようキャラでした。
この作品が自分が生まれる前に書かれたなんて……古くてもいい作品に当たると、人間の本質なんてそう変わらないものなのだなと、改めて感じました。 -
1963年初出の作品。
翌年の東京オリンピック以降、日本人は豊かさを手にし始め、「上昇」が人々の共通かつ暗黙の了解の言葉だったように記憶する。
当時ごくごく僅かな特権階級しか纏うことができなかったオートクチュール(注文、オーダーメイド)専門の高級洋装店が舞台。
一流デザイナーの座に野心を持つお針子の清家隆子が主人公。
あとがきによると有吉さんご自身が森英恵さんの洋服を好んで纏っていたそうで、そうした志向が現れているのかもしれない。
上流階級社会の女性たちが身に着ける超高級ドレスを作り上げる日陰のお針子部屋で女性同士の徒弟関係が細やかに描かれ、正体不明の優男たちが複雑な人間関係に色を添える。
主人公隆子の前へ前へ、上へ上へという意志や覇気、野心が心地よい。潔い。
「優しさ」や「思いやり」、或いは「寛容」が殊更偏重されると感じる世の風潮。
それはそれとしてとても大切な価値観だが、他者から見て「善き人」であることばかりが強調されている息苦しさ。
人が本来持つ信念や心情、もっと深堀すれば、野望や野心という欲のようなものが有吉さんの筆によってテンポよく描かれる。エネルギーに満ち溢れていて気持ちが良い。
林真理子さんも欲を持つ女性を描くけれど、有吉さんの作品のなかの女性たちが好み。すっと背筋が伸びる女性像。
言葉遣いは時代を感じさせるものの、子どもの頃によく観ていたドラマを思い起こす。
私だったら山本陽子さんが主人公隆子役かな。
師匠のデザイナー松平ユキは若尾文子さん。
デザイナーの弟役は田宮二郎さんで、などと考えているとワクワクが止まらない。
昔のドラマはもっと品があったよなあと。
今はほとんど外出や知人との食事等もなく、ユニクロや無印の洋服で送る日常。
洗濯が楽で誰もが手が届く量販日常着。デフレの産物だが日本はいいものを作っているよなあ。
オートクチュールもプレタポルテも全く無縁だけれども、私は稲葉賀恵さんや芦田淳さんの柔らかさを持つ洋服が今でも憧れ。 -
洋裁学院の学生であった清家隆子は、デザイナーの松平ユキにスカウトされ、高級洋装店パルファンに就職する。オートクチュールの世界に魅了され、必死で技術を修得しながら野心を燃やす隆子。
発表されたのは1963年だが、そんな古さを感じさせない女達の心理描写が生々しい!(それが読みたくて買ったわけだが)そして、きらびやかなオートクチュールのファッションに魅了される。こんな手間をかけて、美しい服が生み出されるのかと…若い隆子がユキや先輩スタッフの玄人技術に圧倒されるのも納得。発奮し、並々ならぬ努力でめきめきと頭角を現す隆子の成長過程もまた読みごたえあり。ユキの弟?と呼ばれる美しいドアボーイ信彦、画廊を経営するユキの恋人相島も絡み、隆子の上昇志向はますます上向きに…。
ガツガツでグイグイの隆子のエネルギーが凄まじい。時々引くものの、嫌悪感をさほど感じないのは、きっちり努力していることと、たまに顔を出す若さゆえの正直さが気持ちよいからだ。しかし後半、明らかに隆子の能力を越えたポジション・仕事量に、ハラハラさせられる。仕事小説として読むなら、もっと突っ込んだ描写が欲しいところもあるが、際立つのは女のしたたかさ。クライマックスは度肝を抜かれる展開で、読み終えた今もまだ動揺している。タイトルの「仮縫」の意味をすごく噛み締めることとなり、ただただ脱帽!
森英恵さんによる解説もとてもよかった。森さん仰るように、「現実にこんなことはあり得ない」という展開は若干あるのだが、それを凌駕してしまうストーリーの力!色褪せない名作の素晴らしさをひしひしと感じた。 -
結末へ向けての心のざわざわ感と終盤の展開が読んでいる私も冷や汗をかいてしまうほどの緊張感だった。相手の方が一枚、何枚も上手で経験値が違ったのだろうけど、隆子の気付きや前を向ける力が描かれていて救われた。好きな一冊です。
-
2023.2.9 読了。
1960年代、日本で唯一のオートクチュールを仕立てる「パルファン」に洋裁学校から松平ユキに抜擢された清家隆子。服飾業界でお針子として働くうちに隆子は野心を燃やしユキを追い抜こうと必死に働いていく。
先日、映画「ミセス・ハリス、パリへ行く」を鑑賞した。こちらが陽気に服飾業界の問題を描き解決していく作品だとしたら「仮縫」は陰の部分を多めに拾い描く作品に感じた。大雑把に言うと前者は服飾業界を陽で描き後者は陰で描かれている感覚を持った。
解説で森英恵さんが言うようにこの作品もフィクションなのだけれど1960年代の情景や男女や同僚との駆け引きはリアルに描かれていて50年以上前の作品とは思えないほどグイグイと引き込まれて読んだ。途中はドキドキゾクゾクとする感覚があった。
ラストで達観する隆子の言う「仮縫」という意味が服飾としても人生としても巧く表現する言葉になり唸ってしまう題名だと思った。 -
1963年に単行本で発売されたようで、実に60年弱も昔の作品。
読む前にこのことを知り、失敗したかなぁ…なんて思ってたけど、ストーリーもテンポもかなりよく、気が付けば読み終わってました。
野心家な主人公にも好感が持てるし、何より「仮縫」というタイトルの回収はお見事。いい作品ってのはいつの時代でも人を夢中にさせるんだな、と。
長いこと社会に揉まれ、仕事に対する意欲が喪失してきた自分にとっては、ただただ主人公が輝いて見えました。
こんなに一生懸命に働いていた時代が俺にもあったのかな…。 -
反面教師!なぜ!ならない!みたいな…。
やればできる子な主人公なのに、うまーく手のひらで転がされちゃいましたね。
惜しいけど、これはこれでしょうがないのかなぁとも思ったり。
でもラストは好きだなぁ。懲りなさ加減が。
ドラマと映画にもなってるんですよね。
ちょっと見てみたいかも。