ワーカーズ・ダイジェスト (集英社文庫)

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  • 集英社
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感想 : 118
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087452006

感想・レビュー・書評

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  • 勤め人の毎日ってこういうものだよなあと思う。
    世の中には緩急の激しい毎日を送っている人もいるだろうけど、私にとっては、特に目新しいことのない仕事をこなし、たまに嫌な気持ちになるようなこともあり、日常のこまごましたどうでもいいことをつらつら考えたりぼやいたりしながらも悪くはないという、派手な起承転結なんてないのが働く日々だという気がする。
    そんななんてことない話なのだ。
    でも仕事の打ち合わせに現れたニット帽姿の相手について、「自分にとって快適なやり方で防寒をすることは譲らん」とか、誰のものか分からない絵に関して「とりあえずラッセンではない」とか、絶妙に的を射た表現がツボにはまって面白かった。
    解説は益田ミリさんが「鑑賞」として漫画で内容を紹介していて、そうそうそんな話と頷いてしまい、うまいなあと思う。

  • 日常の機微の表現がいちいち好きだー。

  • 『ワーカーズ・ダイジェスト』というタイトルに納得。
    なるほど、うまい。

    のっけから共感の嵐だった。
    いや、まだここまで疲弊していない気もするのだけど、でもこの感覚は今の私のすぐお隣さんだろうなと思う。
    毎朝同じ時間に起きて、同じ行動をして、同じ人と笑い合って、同じ時間に寝ることは、惰性というか慣性というかそういう類のものだ。
    そんな毎日を悲惨と感じることなく淡々と働いているサラリーマンのための小説だと思う。(男性、女性問わず「サラリーマン」という単語がしっくりくると感じる人のための)

    私にとってこの本は「面白い!」と広めたくなる本ではないけれど、職場で交わす(なかなか真意が理解出来ない)会話よりもすんなりと頭に入ってきた。
    そして深層心理の深めのところ(いろいろ間違ってるけれど感覚として)で吸収出来た気がする。
    この本を読んだことでこれからの仕事の仕方は間違いなく変わる。
    私にとってこの本はそういう本だ。

    もしかしたら今こそ津村さんの本を読むタイミングなのかもしれない。

  • なんやこれ、私の生活見られてた!?って焦るぐらい自分のこととリンクする感じ。そして、自分に馴染みある梅田のとか地下鉄の描写とか大阪弁とか、そういうのもあってか、時々そうそう、ほんまや、と言いながら読み進めてました。

    つながり深めたいなーでもぶつかりたくないな、でもいい感じやねんなー、結婚とか考えたら気重いなーっていう間で堂々巡りになる異性がいるって、楽しいけどしっかりせーよ自分とカツ入れました、この本読んだあと。

  • この小説は、好きです。間違いなく好きですね。「こういうのが好きなんだよ俺は」というのが、ガッツーン詰まっておりました。良い!有り難い!ということで、津村さんに、抜群に感謝です。

    だが、この文庫本のこの表紙のイラスト。この絵。うーん。何なんだコレ?という表紙で、すげえ謎。うーん。謎です。謎のエロさがあります、この表紙には。でも、、、この作品の登場人物、うーん。謎のエロさを持つ人物、いたか?と思うと、まさに謎。何故にこのイラスト?女主人公側の奈加子の部屋なのか?コレは?このエロさを醸し出している脚の女性が、奈加子なのか?そうなのか?そんなキャラか?とか思うと、うーむ。マジで謎な表紙イラストだぜ。

    で、自分にとってはこの作品は、なんともオシャレな恋愛小説でした。この内容を、俺は、オシャレだと感じるのか?と思うと、それってどうなん?とか思うのですが、自分にとっては、オシャレな短編なのです、コレは。うむ。そう感じたのだから、しゃあない。仕方がない。

    作品の終盤で、奈加子が、タウン誌の出版社から、月に一回、旧作でいいので、肩の凝らないロマンチックコメディーを一本ずつ紹介して欲しい、って依頼を受けるやないですか。あの感じ。まさにあの感じが、この作品に対する、僕のイメージなんですよ。

    この作品、肩の凝らない筈はない内容なんですが、あの依頼のイメージが、まさにこの作品には、あるんだよ何故か。何故かなあ。何故にこの作品を、肩の凝らないロマンチックコメディーと認識してしまうんだ?俺は。という謎の自問自答です。でも、まさにあの依頼の感じが、この作品に対するイメージなんです。どうしても。

    もう、最後の最後の場面。中之島公園で、重信が鍵盤ハーモニカ吹いて、奈加子がそこに辿り着いてしまう場面。恋愛の神様か恋愛の女神様か、ニクいなあ~って、思うんですよね。オシャレ以外の何物でもないぜ、って思うんですよね。めちゃくちゃエエなあ、って思います。

    なんだか、やっぱ、洋画化して欲しいな、って気がするイメージが、あるんですよね。この作品。邦画、ではない、雰囲気を、勝手に感じてしまうんです。単館系のミニシアター系の、すごいちょっとしたオシャレな人間ドラマ的洋画。それがもう、抜群に似合う。津村さんの作品には、何故かそんなイメージを、抱いてしまうんですよねえ、、、

  • アラサーに読んでほしい。ただただ2人の日常を追っているだけなんだけど、主人公たちと年齢が近いからか共感できる部分が多かった。描写の仕方が好き。読書って、ビジネス書みたいになにかを得るためやミステリーみたいにどきどきわくわくするためだけじゃなくて、穏やかに人の生活の一部を見る楽しみ方もあるよねと思わせてくれる一冊。文庫版の表紙のイラストは中身のイメージと少し違った。

  • "通勤電車に乗る時に思い出すのは決まって、鮭の切り身や明太子という、海鮮系のやや色が生々しいものを詰め込んでいる時の映像だった。
    自分たちもあの鮭の切り身や明太子と同じだ、と奈加子は思いながら、必死の形相で吊り革に辿りつく。"
    "一人はどこで暮らしたって一人だと思う。"
    "後ろ暗いことはない。何も悪いことはしていない。白状することは何もない。それでどうしてこんなに立っているのがやっとなんだ。"
    "なんにしろ、自分を甘やかすことが少しは必要なのだと思う。そんなに自分に厳しくしている自覚もなかったけれど、本当は自分はどうしようもなく甘ったれた人間で、だから無理していることの綻びが出てきて、周囲の人とうまくやっていけなくなってしまうのだろう。"
    "「なんか、結局は社畜なんやねんけど、ときどきはうまいこと気遣われて、あーまあいいかって思ってしまう。二十代やったらそれでも、この会社でええんかとか、ステップアップしたいとかいろいろ考えたんやけど、今はもう出勤するだけで精一杯やわ」"
    "でももういいや、と奈加子は思う。もういいや、元に戻らなくても。何でもいいや。
    去年と比べて、ますます体は重くなったように感じるけれども、少しだけ落ち着いたような感触もある。良くもないけど、悪くもない。特に幸せではないけど、不幸でもない。"


    読んでいて「あ〜分かる」と何回思ったことか…。
    頭の中では思っていても、上手く言葉には表現できない気持ちを、見事に小説に表してくれた。

    辛いことや報われないことがあっても、美味しいご飯に出会って満たされたり、友達と話して楽しくなったり…。
    もっと良い人生があったんじゃないか?と思いながらも、でも今のままでいいやと思うこともある。
    幸せを感じること、辛いと思うこと、人生はその繰り返しなのだろう。

  • ワーカーズ・ダイジェスト、オノウエさんの不在、の2篇。どちらも社会で働く上での理不尽との付き合い方に奮闘する等身大の社会人が描かれている。
    突然トゲトゲしくなる同僚、クレームを楽しむようなクレーマー、自分のせいじゃないのに謝罪してまわること、結婚してないことに焦りだす友人、ふと入った店のスパカツがおいしいこと、仕事で出会った人をふとした瞬間にいいなと思って思い出すこと…些細な社会人・会社人の日常が、一年分テンポよく語られる。そして生年月日も苗字も同じ佐藤奈加子と佐藤重信が一年越しに偶然の再会を果たしたところで終わる。その後が想像されつつ、安易な恋愛小説にならないところがとてもよい。
    オノウエさんの不在は、学閥の理不尽な会社の中で具体的にどう対処していけばいいかを教えてくれた先輩のオノウエさんを主人公が引き継いでいく話。有給の消化しすぎを口実に干されて辞職していくオノウエさんだが、主人公サカマキが彼の教えを胸に有給三日申請をする最後のシーンが、理不尽への戦いの始まりのようで頼もしかった。

  • うまく生きられない、男女の主人公が入れ替わりで立ち回るお話。男女は同じ名字で、運命的な出会いをする。ただ、これは2人の恋愛についてではなく、主に仕事上での人間関係や仕事の話である。

    心の廃棄物を捨てるのは、誰に対しても良くないと思う。すごいなぁと思う反面、「ああはなりたくない」と反面教師のように思っている主人公がよく描かれている。

    男女は2人とも不器用なんだけど、どこかしたたかで何とか生きている。私も含め誰だって何とか生きている状態なのかもしれないけど。生きづらい世の中だもの、悩みがない人なんていないよね…

    そして私的にオススメは、益田ミリさんの巻末の漫画。益田ミリさん大好きなので、知らずに読んでいて最後ビックリ!!益田ミリさんが本で津村さんのことをオススメしていたので、コラボにびっくり。この小説、10年以上前なのだけど、全然古くない。


    以下は気になった文の引用です。

    「いいかげん、いつでも人に話を聞いてもらえる状況ではないのだということに馴染まなくてはいけない。誰かに何かを伝えたい衝動を、ちゃんと管理できるようにならなければならない。」
    「関係が穏やかな時の凪より、もう争わなくてすむという安寧を選んだ。」
    「「意味がわからない」とすぐに言うやつにろくな人間はいない」
    「富田さんは自分より一枚上手だと思う。どこで誰に心の廃棄物を捨てれば適切か、よくわかっている。」
    「誰かて自分のことは自分が見られたいように話すよ」
    「音楽が鳴り始める。何の根拠もないけれども、自分は自由だと感じた。」

  • たまたまついていたTVで、同姓同名のことをやっていて、それを見た父がこの話を思い出して私に貸してくれた1冊。
    読んでいて、社会人として生活したことのある人は、共感できるところが一つはあるのではないか、と思いながら読み進めました。
    描写がとてもリアルで、主人公たちがふとした時に考えるとんちんかんなことや、ちょっとしたことで荒みがちな思考、つい言ってしまった言葉などがあ、これ私にもあるな、と思わざるを得ないことだらけでした。

    最初に出会った時の二人の、読者からすればお!出会った!!!と思うけど全く赤の他人で本当に仕事で1回しか会わない、関係が進む感じがしない描写にいじらしさを感じました。最後、この二人がまた再会したところで話は終わりますが、最初あった時からあっていない、連絡も取っていないのに、ふとしたとことでお互いを思い出していたので、ぐっと距離が縮まっているように感じられるのがとても嬉しく?感じました。メインでなくていいのでこの二人の続きが読みたいな~。

    オノウエさんの不在では、ミステリーが好きな私は、結構続きが気になってハイペースで読み進めました。だんだんと3人の距離が縮まってきているのが伝わるのもうれしかったですし、このお話でもまた、働くことの大変さを感じられました。

著者プロフィール

1978年大阪市生まれ。2005年「マンイーター」(のちに『君は永遠にそいつらより若い』に改題)で第21回太宰治賞。2009年「ポトスライムの舟」で第140回芥川賞、2016年『この世にたやすい仕事はない』で芸術選奨新人賞、2019年『ディス・イズ・ザ・デイ』でサッカー本大賞など。他著作に『ミュージック・ブレス・ユー!!』『ワーカーズ・ダイジェスト』『サキの忘れ物』『つまらない住宅地のすべての家』『現代生活独習ノート』『やりなおし世界文学』『水車小屋のネネ』などがある。

「2023年 『うどん陣営の受難』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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