- Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087452006
感想・レビュー・書評
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勤め人の毎日ってこういうものだよなあと思う。
世の中には緩急の激しい毎日を送っている人もいるだろうけど、私にとっては、特に目新しいことのない仕事をこなし、たまに嫌な気持ちになるようなこともあり、日常のこまごましたどうでもいいことをつらつら考えたりぼやいたりしながらも悪くはないという、派手な起承転結なんてないのが働く日々だという気がする。
そんななんてことない話なのだ。
でも仕事の打ち合わせに現れたニット帽姿の相手について、「自分にとって快適なやり方で防寒をすることは譲らん」とか、誰のものか分からない絵に関して「とりあえずラッセンではない」とか、絶妙に的を射た表現がツボにはまって面白かった。
解説は益田ミリさんが「鑑賞」として漫画で内容を紹介していて、そうそうそんな話と頷いてしまい、うまいなあと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日常の機微の表現がいちいち好きだー。
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『ワーカーズ・ダイジェスト』というタイトルに納得。
なるほど、うまい。
のっけから共感の嵐だった。
いや、まだここまで疲弊していない気もするのだけど、でもこの感覚は今の私のすぐお隣さんだろうなと思う。
毎朝同じ時間に起きて、同じ行動をして、同じ人と笑い合って、同じ時間に寝ることは、惰性というか慣性というかそういう類のものだ。
そんな毎日を悲惨と感じることなく淡々と働いているサラリーマンのための小説だと思う。(男性、女性問わず「サラリーマン」という単語がしっくりくると感じる人のための)
私にとってこの本は「面白い!」と広めたくなる本ではないけれど、職場で交わす(なかなか真意が理解出来ない)会話よりもすんなりと頭に入ってきた。
そして深層心理の深めのところ(いろいろ間違ってるけれど感覚として)で吸収出来た気がする。
この本を読んだことでこれからの仕事の仕方は間違いなく変わる。
私にとってこの本はそういう本だ。
もしかしたら今こそ津村さんの本を読むタイミングなのかもしれない。 -
なんやこれ、私の生活見られてた!?って焦るぐらい自分のこととリンクする感じ。そして、自分に馴染みある梅田のとか地下鉄の描写とか大阪弁とか、そういうのもあってか、時々そうそう、ほんまや、と言いながら読み進めてました。
つながり深めたいなーでもぶつかりたくないな、でもいい感じやねんなー、結婚とか考えたら気重いなーっていう間で堂々巡りになる異性がいるって、楽しいけどしっかりせーよ自分とカツ入れました、この本読んだあと。 -
アラサーに読んでほしい。ただただ2人の日常を追っているだけなんだけど、主人公たちと年齢が近いからか共感できる部分が多かった。描写の仕方が好き。読書って、ビジネス書みたいになにかを得るためやミステリーみたいにどきどきわくわくするためだけじゃなくて、穏やかに人の生活の一部を見る楽しみ方もあるよねと思わせてくれる一冊。文庫版の表紙のイラストは中身のイメージと少し違った。
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"通勤電車に乗る時に思い出すのは決まって、鮭の切り身や明太子という、海鮮系のやや色が生々しいものを詰め込んでいる時の映像だった。
自分たちもあの鮭の切り身や明太子と同じだ、と奈加子は思いながら、必死の形相で吊り革に辿りつく。"
"一人はどこで暮らしたって一人だと思う。"
"後ろ暗いことはない。何も悪いことはしていない。白状することは何もない。それでどうしてこんなに立っているのがやっとなんだ。"
"なんにしろ、自分を甘やかすことが少しは必要なのだと思う。そんなに自分に厳しくしている自覚もなかったけれど、本当は自分はどうしようもなく甘ったれた人間で、だから無理していることの綻びが出てきて、周囲の人とうまくやっていけなくなってしまうのだろう。"
"「なんか、結局は社畜なんやねんけど、ときどきはうまいこと気遣われて、あーまあいいかって思ってしまう。二十代やったらそれでも、この会社でええんかとか、ステップアップしたいとかいろいろ考えたんやけど、今はもう出勤するだけで精一杯やわ」"
"でももういいや、と奈加子は思う。もういいや、元に戻らなくても。何でもいいや。
去年と比べて、ますます体は重くなったように感じるけれども、少しだけ落ち着いたような感触もある。良くもないけど、悪くもない。特に幸せではないけど、不幸でもない。"
読んでいて「あ〜分かる」と何回思ったことか…。
頭の中では思っていても、上手く言葉には表現できない気持ちを、見事に小説に表してくれた。
辛いことや報われないことがあっても、美味しいご飯に出会って満たされたり、友達と話して楽しくなったり…。
もっと良い人生があったんじゃないか?と思いながらも、でも今のままでいいやと思うこともある。
幸せを感じること、辛いと思うこと、人生はその繰り返しなのだろう。