泣くな道真 大宰府の詩 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087452051

作品紹介・あらすじ

京から大宰府に左遷され泣き暮らす道真だが、美術品の目利きの才が認められる。大宰大弐・小野の窮地を救う為、奇策に乗り出すが……。朝廷への意趣返しなるか! 書き下ろし歴史小説。(解説/縄田一男)

感想・レビュー・書評

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  • 初めての作家。文庫書き下ろしではあるが、ラノベに近い時代小説が多い中で、しっかり時代考証をしていて好感を持った。ただ、キャラは現代によせている。そのせいか、十分エンタメ小説になっていた。買ったのは、ナツイチのブックバンドが欲しかったタメ。

    菅原道真が左遷された太宰府での赴任先半年の日々がテーマ。 「半沢直樹」ではないけど、まるで社会人小説のように「左遷からどう立ち直るか」がテーマ。

    思うに、奈良・平安時代は、まだまだ小説化されていない時代・人物・地域の宝庫だろう。さすれば、10世紀初頭失意のうちに太宰府で歿(なくな)ったと云われる道真を、実はそうではなく、その才能を活かして、密かに政敵の藤原時平に倍返しまでは行かずとも意趣返しをしていた、と作り替える本書は、充分に「スカッと」する平安時代版「半沢直樹」だろう。

    江戸時代の東京はたかだか400-150年前の舞台に過ぎない。千年の都・京都も長いかもしれないが、実は福岡は更に1700年前から都だった。ということは、あまり知られていない。実は博多津の発掘が次々となされて、更には周辺地域の遺跡がどんどん掘られて、当然莫大な量の遺物が出てきて、最近になってやっと分かりかけてきていることが多い。澤田瞳子はよく読み込んでいると思う。博多津や太宰府東北の水城の景観などをよく説明している。私の興味はあくまでも弥生時代ではあるが、発掘成果を小説に反映させるという視点では、面白い。

    小野恬子(てんこ)という名前が出てきた時点で、あの有名歌人と思い出さないのは、私の不徳の致すところ。彼女の出没地域は全国に及んでいて、岡山県総社市には墓まである。生涯は不明である。太宰府にいたとしても、全然不思議じゃなかった。

    あと一作は、読んでみたい。

    • しずくさん
      好きな作家さんで好きな本でした! 
      道真を平安時代版「半沢直樹」と称されたのは斬新というか発想がなかなかですね。
      読後に大宰府を訪ね、観...
      好きな作家さんで好きな本でした! 
      道真を平安時代版「半沢直樹」と称されたのは斬新というか発想がなかなかですね。
      読後に大宰府を訪ね、観光地だけではなく史跡巡りも2回に分けて行きました。私は「若冲 」でハマっていますが、「火定」は真面目すぎて好みではありませんでした・・・。
      2020/07/31
    • kuma0504さん
      しずくさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
      福岡に行ったんですね。正確に言えば、2000年前から貿易国だったとは思ったのですが、...
      しずくさん、こんにちは。コメントありがとうございます。
      福岡に行ったんですね。正確に言えば、2000年前から貿易国だったとは思ったのですが、その時から都だというと大袈裟な気がして1700年前にしました。
      実は次には「火定」を読もうと思っています。ともかく平安時代読もうと思っているからです。どのように古代を小説化するのか、興味あります。
      2020/07/31
  • 歴史小説の醍醐味の一つに、史実では証明されていない同時期の人物の邂逅があげられる。
    今回楽しんだのは道真と小野小町のやりとりだった。
    現代以上にもののけや闇を恐れた平安人に恐怖を感じさせた菅原道真が、こんな気さくなおじさんだったと知ったらさぞや驚いただろう。
    話は面白く読みやすいのでお薦めできる一冊と思う。

  • フォローしているレビュアーさんのレビューで知った本。
    ありがとうございます。

    太宰府に左遷された菅原道真を慰めるため、お相手役として派遣された怠け者役人・龍野保積。そこへ才色兼備なお騒がせ女房で歌人の小野恬子(しずこ)が加わり博多津の唐物商へ連れていったことから道真は少しずつ変わっていく。

    博多は昔から外国との交易が盛んで栄えた場所。しかし京の都と比べれば生活も文化も政治も何もかもが違うし、やはり都落ちという言葉通り、とんでもない田舎に来てしまったもうお仕舞いだという気分になるのだろう。
    保積の道真との初対面シーンは正にそれを象徴している。
    太宰府庁長官から道真を慰めるために預かった貴重な書物にも墨の入った硯をぶつけ滅茶苦茶に、保積の服も滅茶苦茶にされる。
    嘆き悲しむというよりは、人間不信になって怒り狂う猛獣のようだ。

    しかし恬子をきっかけに何故か唐物屋の目利きとして働くことになったことから道真に変化が起こり始める。
    実は恬子も都を嫌になって自ら太宰府へと流れてきた似たような状況。そして保積は出世が望めないと分かってから一気に仕事へのやる気をなくした。
    そんな三人が出会って道真にやっと生気が戻って来たのだが、何と道真の幼い息子が事故死するという悲しい出来事が起こる。
    どうなる、道真。

    左遷されたことを嘆き悲しみ、失意のまま亡くなって怨霊になるほど怨み辛みを募らせたという菅原道真公。
    しかしちょっとは楽しい日々もあったのでは?という想像は面白い。
    その地の日々、その時の日々をどう過ごすかはその人の気持ちの持ち方次第。
    中盤までの道真はその生き甲斐を書画の目利きに求め様々な逸品を探すことを楽しみにしていたのだが、逸品の価値が分かる者が蔵の奥深くに仕舞いこむことが良いこととは限らないことを知り、明日生きて行く糧もなく人間扱いもされない最下層の人々の苦しさも知る。
    終盤はそんな道真に保積を通じて太宰府庁の窮地を救うミッションが課せられる。

    軽すぎず重すぎず、ちょっと痛快さもあって楽しめた。
    道真とあの人が実際出会っていたのかは分からないが、こんな想像もあって良い。
    それぞれが自分の立ち位置で出来ることを探り、プライドを持って前に進んでいく。良い話だった。

    • goya626さん
      こんなふうだったら、怨霊にならずに済んだかもしれないですね。
      こんなふうだったら、怨霊にならずに済んだかもしれないですね。
      2020/08/19
    • fuku ※たまにレビューします さん
      goya626さん
      そうですね。やりがいと楽しみを見つけて健康的になっていく道真が新鮮で面白かったです。
      goya626さん
      そうですね。やりがいと楽しみを見つけて健康的になっていく道真が新鮮で面白かったです。
      2020/08/20
  •  ものすごく楽しかったです。

     唐物商で都で培った目で目利きをして、柳公権の書欲しさにちゃっかり菅三道という名前で目利きをすることを承諾してしまう道長。

     おーい! 大宰府についてから食事もろくに食べず、着替えもせず、いじけて毎日恨みつらみを書いていたんじゃないんかい!? と思わず思ってしまった(笑)

     そこから、いきなり保積に十貫(約百万)の銭を用意しろと言ったりして、唐物を買いあさる道真が可笑しい

     そして、ひょんなことから民草の本当の貧しさをしり、大宰府まで連れてきた愛息を失ってしまい、再び引きこもる道真。

     だが、ここでうたた寝殿と呼ばれていた保積が彼のために苦言を呈するのがいいのです。

     そして、横領されていた税の問題に取り掛かる道真達。それが己を左遷させる原因を作ったものに一泡吹かせるものだったのが、最高でした。

     菅原道真が大宰府でどのように生活していたか、わからない部分が多いと思うのですが、私はこの本を読んで、こうだったらいいなと思いながら本を閉じました。

     本当に面白かったです。そして恬子が誰なのか、最後にわかるのがとっても粋だなぁって思ったんですね。

     楽しい時間でした。

  • 初読みの作者さんが続く。
    こちらは少し前のkuma0504さんの「吼えろ道真 大宰府の詩」のレビューを見て、最初の巻から買ってみた次第。

    菅原道真公が左遷された太宰府に着いたところから始まる物語。

    太宰府やその近辺には、小学生の頃に遠足やら宝満山や天拝山への登山やらでよく行っていたが、その頃は歴史的な価値は知る由もなく、もはや記憶もおぼろ。
    この本を読めば、博多津の賑わいも含めて堂々たる西の都といった風情で描かれており、こんなことなら近くに住んでいる間に都府楼跡や水城跡などきちんと行っておけば良かったなという心持ち。

    物語はと言えば、左遷で悲嘆にくれる道真だが、その相手をするように命じられた中級官人・龍野保積と乱入してきた美貌の歌人・恬子が絡んできて、そこからは生気を取り戻したり、また落ち込んだり、まあ忙しいこと。
    昔、天満宮で「道真公のご生涯」みたいな展示も見たが、今もホームページを覗けば『太宰府では、衣食もままならぬ厳しい生活を強いられながらも、皇室のご安泰と国家の平安、またご自身の潔白をひたすら天にお祈りされ、誠を尽くされました』と載っていて、そんな人物像と異なった姿は新鮮と言えば新鮮。
    確かに菅公くらいの才があれば、自分を貶めた都の政敵に対して一矢報いるためにあれくらいはやるであろうな。

    太宰府から博多津まで歩くのは結構大変だと思っていたけど、案外近かったのね。(とは言え、この本に書いているように2時間ほどで行けるとは思えないけど)

    • kuma0504さん
      ニセ人事課長さん、こんばんは♪
      マイレビュー見て読みたくなったというのは大変嬉しいです。

      お近くにお住まいだったんですね。
      そうか、太宰府...
      ニセ人事課長さん、こんばんは♪
      マイレビュー見て読みたくなったというのは大変嬉しいです。

      お近くにお住まいだったんですね。
      そうか、太宰府から博多津まで2時間は無理かぁ。
      この作家さんは、割と歴史資料を読み込んでいると思っているので、その辺りは残念ですね。
      でも、福岡市はホントに遺跡が多くて、「歩きがい」があるんですよ。博多津も、近年続々と遺物がでてきていて、道真ならばあんなふうにお宝発見は容易だったろうな、とつくづく思いました。

      そういえば、私も福岡市を半日かけて歩きました。今記録をちょっと見たら、朝博多駅を出発して比恵遺跡、那珂八幡古墳、板付遺跡、福岡埋蔵文化財センター、と歩いています。そのあと時間が足りなくなって三沢駅まで電車で行って、九州歴史資料館(国立博物館じゃないですよ)にたどり着いたのが4時10分でした。この日は32000歩歩いています。太宰府から博多津まで歩くこと自体は不思議はなかったのかもしれません。
      2022/12/25
    • ニセ人事課長さん
      kuma0504さん

      コメントありがとうございます。
      いつもレビューを拝見していますが、今は大阪に住んでいるので、先日、お近くに来ら...
      kuma0504さん

      コメントありがとうございます。
      いつもレビューを拝見していますが、今は大阪に住んでいるので、先日、お近くに来られた時のレビューはとりわけ興味深く読ませていただきました。

      kuma0504さんが福岡で行かれたところ、私は全く行ったことがありませんでしたが、それを思えば、確かにその昔に太宰府から博多津まで歩くこと自体に不思議はないですね。

      博多津がどのあたりを指すのか正確には分かりかねたのですが、住んでいた頃の体感からは太宰府から鴻臚館の辺りまでとしても結構あると思われ、ルート検索をしても15~16kmと出たため、2時間では無理と思ったところでした。
      2022/12/25
  • 権帥さまのご無聊をお慰めせよ。
    雲上人のお相手を仰せつかったのは、〈うたたね殿〉と言われる龍野穂積だった。

    歴史小説。

    怒鳴りつけ、号泣する。
    年齢や、失意の左遷からくるイメージを覆す、エキセントリックな菅原道真のキャラクターが、新鮮。

    哀しみに溺れていた道真が、だんだんと変わっていく。

    道真を筆頭に、押しの強いキャラが多く、振り回されがちな主人公とのバランスが、ユーモラス。

    「ひたすら史料にあたって、論文を繰り返して読みこんでいく」筆者らしく、大宰府や当時の日本の描写はとても詳しい。
    その代り、古典そのもののような言葉の使い方もおおく、やや硬めの文章。

  • 澤田瞳子さん、はじめましての作家さん。

    ふだん歴史小説はあまり読まないのですが、
    和歌好きなのと、
    この『泣くな道真』という響きが良くて読んでみました。

    一番印象に残ったのは、道真公と僧侶、泰成の場面。

    行き倒れの老人の枕元に掛けられた如来画…。
    それを見て、仏様の画の本来置かれるべき場所を知る。
    そして、”何とかという貴族”が詠んだ詩として、
    道真作の「寒早十首」を批判され、自分の都での生き方を悔いる。

    ”日本史上、最も有名な左遷された男”
    言われてみればそうですね。
    右大臣にまで出世しながら左遷され、
    憤死の後、怨霊にまでされ、
    果ては神様だもの。

    でも、その大宰府での日々が
    悲嘆にくれるばかりでもなかったとしたら…?

    欲を言えばユーモア小説として、
    もっと道真公にはじけてほしかった気もしますが、
    楽しく読めました。

    著者の他の作品も読んでみたくなりました。

  • ナツイチのノベルティ欲しさで買った一冊でしたが、本当に面白かったです。
    徹底的に史料を読み込まれた裏付けによって書かれた物語は映像化して、もっと多くの人達に知って貰いたい位です。(道真は野村萬斎さんかな。ただ、平安時代はヒットしないか。)
    いつの時代にも通じるテーマで、読後感もすっきりでした。
    他の作品も読んでみます。

  • 鬱蒼と木々が生い茂る森の中を歩くのが好きだ。

    樹木、野の花、小鳥、小川、湧き水、風、木漏れ日…
    どこまでも変わらない景色。
    でも、好き。
    特に何か面白い事が起こるわけではない。
    でも、どこまでも歩ける。

    稀に
    腰を降ろすのには丁度良い石の上に
    誰かが座っている事がある。
    彼らと触れ合う事はないけれど
    幸運にも眼が合えば、
    その口元は静かに開き、語りかけてくれる時もある。

    森を歩いていると
    時々そんな光る人と出会う。

    澤田瞳子さんという方の
    『若沖』という本が面白そうなので読んでみたいなぁと、思った。
    すでに予約がいっぱいだったので
    初読となる著者の本を適当に一冊借りて、
    読んだこの本の中に<光る人>はいた。

    なんかもう胸がいっぱい…
    『若沖』はきっといい本だろうな、と確信した。

  •  太宰府へと貶遷された菅原道真の活躍を描く痛快歴史ロマン。シリーズ1作目。4章および終章からなる。再読。

         * * * * *

     澤田瞳子さんには珍しくコミカルで軽めの作品ですが、その分すべての主要人物が生き生きと描かれていました。

     まずは「うたたね殿」・龍野保積。出世の先が見えた中年地方官僚です。
     このトボけた味の狂言回しが道真の心情を刺激し、生きる意欲を引き出していきます。彼のみが実在の人物ではなさそうですが、あとのキャスティングが見事でした。
     
     主人公の菅原道真からして、真面目で堅い学者肌とは打って変わり喜怒哀楽の激しいガンコじじいに、小野恬子はこれがあの小町かと思うほどおきゃんでサバサバした女性に、それぞれ描かれています。実に思いきったイメージ変更だと思いました。
     なのに、読んでいて少しも不自然さがなくむしろ好もしく感じてしまうほどです。

     他にも大宰大弐の小野葛絃やその甥の葛根も十分過ぎるほどの存在感を放っていました。(名前だけ登場の道風兄弟の活躍も見たかった)

     再読だったのですが、前回読みとれなかった部分に気づけた分、面白さは初読を上回りました。さり気なく雷を絡めたラストの場面もよくできていてニクイほどです。
     まったく澤田氏の豊富な知識と作品構築の緻密さにはほとほと感心するばかりです。

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著者プロフィール

1977年京都府生まれ。2011年デビュー作『孤鷹の天』で中山義秀文学賞、’13年『満つる月の如し 仏師・定朝』で本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞、’16年『若冲』で親鸞賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、’20年『駆け入りの寺』で舟橋聖一文学賞、’21年『星落ちて、なお』で直木賞を受賞。近著に『漆花ひとつ』『恋ふらむ鳥は』『吼えろ道真 大宰府の詩』がある。

澤田瞳子の作品

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