野蛮な読書 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087452372

作品紹介・あらすじ

一冊の書物から導かれるように読書の世界へ分け入っていく。野蛮なる読書の真髄と快楽を余すことなく綴った1年間、怒涛の103冊。食や暮らしのエッセイで人気の著者初の読書エッセイ。(解説/嵐山光三郎)

感想・レビュー・書評

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  • 10年前のエッセイだけど、とても共感出き、引用されている本や写真集などにも興味津々。古い映画などは見るのが難しそうですが。
    特に池部良さんのエッセイは私も昔から大好きで嬉しかった。佐野洋子さん、山田風太郎さんに触れた「すがれる」の章、我が意を得たりという感じでした。

  • おもしろくも真実
    固有名詞だけの会話はつまらない。何が起きたか、何を見たか、それだけじゃつまらない。何を思ってどんな気持ちになったか、あなたがどんな人なのか知りたいいつでも。
    エッセイはそういう要求が満たされるから好き!
    何歳になってもドタバタと新しい発見があっていい。歳をとることが楽しくなる

  • 野蛮な読書とは何か。
    丁寧に作られた食事を楽しんだ後、頂きものの「カステイラ」の包みを開けて、箸でそのまま食べるような読書だそうです。

    ”野蛮を許しあえる関係は、余裕のないガチンコ勝負とはちがう。もちろん、ただの粗野ともちがう。いってみれば、おたがいを知ったうえでの懐のふかさの競い合い(化かし合い、含む)。”

    分かるような分からないような。

    とにかく著者は、他分野に渡って造詣が深い。
    そして基本的に丁寧な人なのであろう、本の読み方も非常に丁寧。
    新刊本ではない、何度も読みこんだ本を、丁寧に、深いところまで読み取って紹介する。

    だからタイトルに騙された、と私は思った。
    こういう文章を書く人だと知っていたら、このような書き方をするのであれば、明治の文豪の文章を読むような、ちょっと力の入った読み方をしたと思う。
    けれど「野蛮な」読書というので、全く無防備にこの本を手に取ってしまった。

    う~わ~。
    野蛮なんてとんでもない。
    次から次へとするすると紡がれる、本や絵画や映画に関するあれこれが、気がつくと見事に織りあわされて差し出される。

    「春昼」というタイトルで書かれたエッセイ、いや随筆と言ってしまおう、で、泉鏡花に辿り着くまで16ページも費やしている。
    全部で18ページなので、実質1ページ程度しか「春昼」という作品には触れていない。
    室生犀星からの、小川のような文章のたゆたいが、既に「春」なのである。
    んむむむ。

    ”書店の棚のあいだを巡りながらほしい本を何冊も腕のなかに重ねてゆくとき、私はそっと神様に問うてみる。
    (贅沢してもいいですか)”

    これだけは、私にもわかる!

  • 著者のことを、食べ物エッセイを書く方という認識しかなかったことを、読み出してすぐ後悔した。
    非常に面白い。軽快な達文にたちまち惹きこまれる。
    エッセイの中にはもちろん食べ物も登場するが、それよりも、本。
    自宅は言うに及ばず、散歩で立ち寄ったハンバーガーショップ、電車内、旅先の宿(ホテルではない)、喫茶店、伊豆の断食道場、更には子どもの頃蒲団にもぐって読んだ思い出まで出て来て、もうありとあらゆる場所で読みまくる。
    そして、次から次へと「本が本を連れてくる」。
    13編のエッセイの中に、実に103冊もの本だ。

    「野蛮」と「読書」の結びつきは、最初のエッセイで登場する。
    食事の後、頂き物のカステラをお箸で切り分けながら食べる。
    行儀の悪い野蛮な感じだが、カステラは動揺も見せず泰然としてる。
    あら、野蛮ていいわね、と続く。
    ちょっと(かなり)大胆で自由自在。思うがまま。繊細にしてまっすぐ。
    そんなアバンギャルドな平松さんは、本から本へと野蛮なほどに紹介してくれる。
    それも、ほぼ100%小説というとんでもない偏り方だ。
    おまけに新刊ではない。昭和の香気漂う旧刊揃い。
    既読のものは半分くらいしかないが、それでも頁をめくる手は止まらない。

    コロコロと連鎖していく本の記憶。
    「こんな書き方もあるのか」と驚くような、めくるめく世界だ。
    嵐山光三郎さんの後書きによれば、亡くなる直前まで寺山修二さんと親しくしていたらしく、「天井桟敷」の中でこの「技」は鍛えられたのではと推測している。
    しかし、「技アリ」だけではない。
    第三章の「春昼」での、現世から遊離してしまうそうなほどの本の繋がり方。
    全然脈絡などないかのように見えて、思いがけない野放図な地図が描けている。
    続く「夏のしっぽ」では、早朝の散歩で偶然ラジオ体操に紛れ込んだところから連想が始まる。
    過去に向かって手招きする本として池内紀の「祭りの季節」。
    そして山田太一の「異人たちの夏」である。もう脳髄が痺れそう。これ、映画も良かったよね。
    「雪国ではね」では、亡くなった猫のぬくもりから、三浦哲郎の「忍ぶ川」へと繋がり、更に「短編集モザイク」へと向かうのだ。ここはほとんど嬉し泣きだ。

    「書を捨てずに町へ出た」行動派のアバンギャルドは、こちらの「読みたい」気持ちを猛烈にかきたてる。平松さん、しばらくついて参りますね。
    第28回講談社エッセイ賞受賞作。(これは読後に知った。)

  • 日常的に読書をしている人の生活に関するエッセイ。
    無理して読書をしているのではなく、自然と読書が入ってきている感じが好ましいです。
    逆に、読書案内的に読むと物足りないかもしれませんね。
    日常エッセイとしてはいつも通り高品質なので、読書が趣味じゃない人にもお薦め。

  • 著作きちんと読むの初めてだったけど、すごく好きだったので、遡っていこうと思う。食べるように読んで、読むように食べる。そのうちどっちがどっちだかわかんなくなってくる。
    そうだ私も本読むの好きだった。もっと熱狂して、本から顔を上げたらぽかんとなるような、体験をずっとずっとしてたいんだったと思い出した。
    伊豆断食道場が気になった。自分の身体の事だけ考える時間。いつか行きたいなぁ。

  • 優れた本読みの人。
    食欲旺盛な人がもりもりと食べているのを見るのは、とても楽しい。著者の読書の仕方もそれと似ていて、すっきりする。
    紹介された本のみならず、写真や映画、俳優に興味を抱いた。

  • この本は著者の日常を綴りつつ同時に、思わず読んでみたくなる珠玉本103冊の一番美味しいところを我々読む人に対して、さらりと小皿にとりわけてくれるみたいな感覚の、なんとも素敵な読書エッセイです。

    著者は根っから本が好きみたいです。

    「こどもの頃、布団にもぐりこんで本を読むのが好きだった」
    というところからスタートの本好き。

    だからなのか、愛書家とか名著をありがたがる、というスタンスではないですね。
    批評でも敬服でもなくて、こんな面白い人がいたんだよ、びっくりするような人がいたよ、みたいな感じで、いろんなジャンルの本の事を教えてくれます。

    たくさんの美味しい引用もありますが、メインは著者の日常と、本からもらった多くの言葉に助けられたという、著者自身の気づきでしょうか。それはとても温かく謙虚な人生観です。

    若い頃に読んで衝撃を受けたという三浦哲郎のある言葉を、23年間一緒に暮らした猫との死別の際に思い出し、その言葉の本当の意味を自分自身で体感するという一編「雪国ではね。」と名付けられたエッセイには、芯からやられました私は。

    そしてラスト近くのこんな言葉も印象に残りました。
    以下引用

    「生きるというのは、いつも宙ぶらりんなのだ。いつだって宙ぶらりんの状態だから、なにごとか勃発すればあたふたおたおた、そこをなけなしの経験やら知恵やら動員してどうにか波間を渡ってゆくのが人生というものだろう。あわてず騒がずスイスイ泳いでゆく人生の達人などといものはどこにもいないのだ。いなくていい。
    人生の達人などどこにもいない。いないのに
    そんなものになろうとするから人間ややこしくなる。」
    2017/01/04 13:07

  • このひとは面白い。

    (久しぶりに静かに読書する一日だった)

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著者プロフィール

平松洋子=1958年、倉敷生まれ。東京女子大学卒業。エッセイスト。食文化、暮らし、本のことをテーマに執筆をしている。『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞受賞。著書に『夜中にジャムを煮る』『平松洋子の台所』『食べる私』『忘れない味』『下着の捨どき』など。

「2021年 『東海林さだおアンソロジー 人間は哀れである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

平松洋子の作品

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