狭小邸宅 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 131
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087452839

作品紹介・あらすじ

第36回すばる文学賞受賞作。学歴も経験もいらず、特別な能力や技術もいらない。全ての評価はどれだけ家を売ったか。何も残らない仕事。なぜ僕は辞めずに続けているのだろう──。(解説/城 繁幸)

感想・レビュー・書評

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  • 不動産に関するストーリーが読みたくて、試しに手に取ってみた。

    帯には「不動産営業、絶賛の共感!」みたいな文言が。これは期待できるかもしれない…。と思い読み進めたものの、途中までの内容はよくあるビジネスサクセス系のストーリーだった。

    主人公はちょっとした学歴を持つ、不動産営業担当。しかし、在籍する企業は大手でもなんでもなく、上司が部下を罵倒したり、(文字通り)蹴りを入れるような環境。

    まったく物件を売ることができなかった主人公は、別の支店に左遷となる。伝説の営業担当が上司となるが、「お前は売れない」と単刀直入に言われてしまう。

    しかし主人公は、全社的に課題となっていた売れ残り物件に注力。1ヶ月以内に売れなければ辞める…!と覚悟を決める。(これ、絶対に売れる流れじゃん)

    案の定、物件は売れる。たまたま物件を探していた高属性の夫婦がやってきて、たまたまお節介な友人も一緒についてきて、主人公が、というよりもその友人が買うように後押ししてくれるという…。

    そして伝説の上司が助言をしてくれるようになり、主人公はまた物件を売れるようになるという…。

    いやぁ、これ系のお話にありがちなストーリーw

    不正融資の話とか、不動産バブルの話とか、そういう社会問題やマクロな話が読めたらもっと面白かったな〜と思ってしまった。事前の期待が大きすぎた。

    ただ、終わり方は良かった。

    大学時代の同窓会にたまたま参加してしまった主人公。大企業のサラリーマンたちの仕事の愚痴大会。「世田谷の家ってどれくらいで買えるの?」という不躾な質問。「お前らみたいなカスは世田谷の1億の家は買えない」と言い放つ主人公。いやぁ、すっかり業界に染まってしまった。

    それから、担当している購入希望者は、条件を下げずに予算は上げない。現実を伝えるも、逆上されて罵倒される。

    なんとも後味が悪いのだけど、でもそれが良い。さすが、すばる文学賞を受賞しているだけあって面白かった。

    (書評ブログもよろしくお願いします)

    https://www.everyday-book-reviews.com/entry/2022/04/16/%E3%80%90%E4%B8%8D%E5%8B%95%E7%94%A3%E5%96%B6%E6%A5%AD%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E3%80%91%E7%8B%AD%E5%B0%8F%E9%82%B8%E5%AE%85_%E2%88%92_%E6%96%B0%E5%BA%84%E8%80%95

  • 不動産業界ではないが、4月から新卒で働く身であるため、働くことの恐ろしさが鮮明に伝わってきた。主人公ははじめは全く売ることができなかったが、運が味方したことや課長にテクニックを教えてもらったことで売れる人に変わっていった。売れる人に変わったことで、自分が大物になった気になって傲りが見えてきたが、本当は中身は何も変わっていないのではないか。これは、サラリーマン全員に言えることだと思うが、謙虚でいることが1番大切なのではないか。そんなことを考えさせられた。売れなくなった時に謙虚さを持っていなければ、周りから人がいなくなってしまいそうな気がした。

    もし自分が少し仕事で成功することがあっても謙虚さは忘れずにいたい。この本はそう思わせてくれた作品。でも、謙虚で居続けることは難しいことなんだろう。

  • とても読みやすい。しつこい不動産営業が大嫌いだが、その内情を垣間見れた気がして読んで良かった。
    営業トークや"まわし"の技術は参考になった。
    あと、20坪未満の敷地でペンシルハウスが成り立ってるわけがわかった。

  • ブラック会社の実態を、まざまざと描く。
    この筆力は大したものだ。
    パワハラあり、暴力もありの上司に、
    ただひたすら耐えて、ついていく。
    なぜ不動産会社の社員になったのか、はっきりしない。
    でも、なかなか売れない。
    お前は、能力がなく、売れないから、やめろと言われる。
    それでも、続ける 大学卒の松尾。
    同期の同僚は、多くはやめてしまった。
    そして、本社から、移動させられる。
    その上司は、前と違って、実に冷静で、
    やめたほうがいいと言われるだけだった。
    「自意識が強く、観念的で、理想や言い訳ばかり並べ立てる。
    それでいて、肝心の目の前にある現実を舐める。
    腹のなかでは、拝金主義だなんだと言って不動産屋を見下している。
    家一つまともに売れないくせに、不動産屋のことを
    わかったような気になってそれらしい顔をする。
    お前、自分のこと特別だと思ってるだろ。
    自分には大きな可能性が残されていて、
    いつかは何者かになるとどこかで、思っている。」
    と上司は、ズバリと言ってのける。

    蒲田の売れないペンシルハウスを売ることで、
    やっと、松尾は変わる。
    上司は、的確なアドバイスをする。
    そして、売ろうとする家を決めさせるテクニックも使えるようになる。
    一人前の 不動産屋になるのだった。

  • むかし、友達のコンサートのために降りた駅前で、何の気なしに不動産のサンドイッチマンからチラシを貰ったら、ものすごい勢いで追い縋られたのを思い出した。
    家なんて一生に一回の買い物だけど、ちょっとした小技や営業のトークなので判断力を失わせて、あっという間に買わせる、お客にとっても不幸だけれど、それを商売にしている人にとっても、なかなか辛く厳しい業界なのだなと思った。

  • 某東証一部上場ハウスビルダーがモデルと思われる小説。超絶ブラックな住宅営業のディティールは必見。ひとつの成功体験から徐々に自信を深めていく描写も上手い。

  • 同じ営業をしている者として、感情移入して一気に読めてしまった。

    不動産の営業の世界の過酷さと、営業としてやるべきことまで学べる小説。

    特にエース課長の淡々としたキャラクターが、的を得た営業アドバイスをズバズバ主人公に指摘するシーンは爽快。

    ただ、最後の終わり方が呆気ない…
    三部作の一部目のような終わり方だったのが残念。もっと主人公が活躍する姿が見たかった。

  • 迫力がある。

  • 住宅営業のノルマやプレッシャーによる過酷さと、苦労の果てにやっとの思いで契約が成立した際の高揚感が臨場感のある描写で描かれていると感じた。
    主人公が住宅営業を通して成長していく展開かと思いきや、途中、仕事への情熱により邁進するも徐々に精神が蝕まれていく様子に恐怖を覚えた。ラストは唐突だが、契約の成約と破綻のイメージに生活が支配されていく様子がとてもリアル。

  • 「お前、自分のこと特別だと思ってるだろう。
    いや、お前は思ってる。自分は特別な存在だと思ってる。自分には大きな可能性が残されていて、いつか自分は何者かになるとどこかで思ってる。俺はお前のことが嫌いでも憎いわけでもない、事実を事実として言う。お前は特別でも何でもない、何かを成し遂げることはないし、何者にもならない。」(P97)

    この部分が全てかな。
    少し面白いけど、この本を紹介していた「窓際三等兵」さんのtweetの方が、面白いかな。

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著者プロフィール

1983年、京都市生まれ。神奈川県在住。慶應義塾大学環境情報学部卒業。2012年「狭小邸宅」で第36回すばる文学賞を受賞しデビュー。著書に『狭小邸宅』『ニューカルマ』、近刊に『カトク 過重労働撲滅特別対策班』がある。

「2018年 『サーラレーオ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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