ホテルローヤル (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 2080
レビュー : 273
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087453256

作品紹介・あらすじ

北国のラブホテルの一室で、心をも裸にして生々しく抱き合う男と女。互いの孤独を重ねる中に見えてくるそれぞれの人生の大切な断片を切り取る。第149回直木賞受賞作の文庫化。(解説/川本三郎)

感想・レビュー・書評

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  • 現代小説を読んだのはいつぶりか。表紙の陰気なイラストになんとも惹かれるものがあって手にとった。文学賞の話題には疎いので、直木賞受賞作と知ったのは読み終えてからのこと。わたしは女という性に育ったためか、女性作家の書いた小説を特別贔屓目にみてしまう傾向にあるが、そのエゴを引いてみたとしても、『ホテルローヤル』に描かれた物語には妙なリアリティがあって、登場人物たちが重ねる身体の熱とつたる汗が紙面からわたしを捉え、エロスのもつ無欲な欲望に嫌悪感と羨望とをおぼえる。人は抗えない。どんなにとりすましてみても、みな欲望のはけ口を探して生きている。露骨な描写が、読者に潜む野生性を暴く。

    第1話、「シャッターチャンス」。撮影者と被写体は、絶対的な主従関係にある。視線とは暴力である。物語の主人公である美幸が感じた寒気は、サルトル『水いらず』のリリュが感じたそれに似ている。長くなるが、以下に一節を抜きだそう。

    ー男がひたすら写し続けている亀裂の内側に、どうあがいても埋められない空洞がある。美幸はそこに何が潜んでいるのかを確かめたくて、自分の指先を沈めた。すべての音が消えて、男の喉仏が上下する。空洞は、男の欲望のかたちをただ忠実に内側に向かって広げているだけだった。ー

    この1話が、全体を通してもっとも芸術的で美しく恐ろしい。物語の軸となるモルタルでできた安っぽいラブホテルが、男女の偽善を露呈させる。女に穿たれた穴と、まるでその穴をもとは埋めていたような男のそれは、互いに空虚を埋めようと無意味に求め合う。それでも人は、愛などという掴めない幸福を馬鹿正直に信じて、身体でなく心が繋がることを夢みている。

    どこかにこのホテルはあって、登場人物たちもどこかで生きているのではないか。そう思わせる筆致の繊細さが美しい。ページが呼吸する。これは素晴らしいという壮大さはないが、魅力のあるスタイルで、非常に好印象をもった。

  • 桜木紫乃さんを知るきっかけになった本を、ようやく読んだ。
    言うまでもなく物語の中心には、ホテルローヤルがある。
    北国の湿原を背に建つこのラブホテルの、建てられた時から廃業して廃墟になった時までを、様々な組み合わせの男女を通じて描いている。
    7編の短編の時系列はバラバラで行ったり来たりするし、ホテルローヤルとの関わりは薄い人物も出てくる。だけどやはりその中心にはホテルローヤルがあって、こことここが繋がっている、と気づくのがとても面白い。

    桜木さんの短編集はこれまでもいくつか読んでいて、1人の人間が中心になっている連作短編集は数冊読んだけれど、中心に建物があってそれを取り巻く人々を描く、というのは興味深かった。
    その建物が活用され生きていた頃と、時が過ぎて使われなくなり死んでしまった後と。
    建てられた頃のお話が最後に収録されているから、最後の最後に胸が切なくなる。そこには明るい未来が見えていたはずなのに、って。

    男女の関係はいずれも何だか淋しい。
    愛情の見えない欲望があったり、しかしそれを果たしきれなかったり。
    打算とか妥協とか、本物の愛だと思っていたものがいつしか消えてしまうこととか。
    舞台がどこか後ろ暗い場所だから、淋しさが増すのかもしれない。

    解説に「桜木紫乃の文章は的確で、冗長なところがない」とあるのだけど、それはまさしくそうだと思う。
    無駄や回りくどいところはないのに、人の心理をずばっと突くような描写に溢れている。
    貧しい夫婦がとあることで浮いた5千円をラブホテル代に遣うくだりとか、浮いた理由が理由だけに罪深さもあって凄まじいと思ってしまった。

    今のところ、桜木さんの小説は、外れだと感じたことがない。全部面白いっていうのも、すごいことだと思う。

  • 直木賞受賞の連作短編集。そして、デビュー以来、ずっと読み続けて来た桜木紫乃の作品である。それだけに期待は高かったのだが、肩透かしを食らったような感じだった。

    これまで桜木紫乃の作品の多くを読んで来たが、どうにもすっきりしない消化不良気味の読後感だった。ホテルローヤルという名前のラブホテルを巡り、現在から過去に遡る形で短編が綴られるのだが、読者の想像力に頼るところが多く、一つ一つの短編が明確に完結している訳でもなく、短編同士の関連性も希薄な事が原因だろうか。

    『シャッターチャンス』『本日開店』『えっち屋』『バブルバス』『せんせぇ』『星を見ていた』『ギフト』の7編を収録。

  • 読みやすくてよかった。

    ホテルローヤルという今はなきラブホテルを舞台にした過去と今の話。
    全てのストーリーに繋がりがあって最後はちょっとうるっとくるような人間味のあるお話ばかりでした。

  • 2018/11/12読了


    国道から離れ、ひっそりとたたずむラブホテル
    そこにかかわるあらゆる人たちの人生と、今に至るまでの歴史と
    七つの短編はつながっている。
    今や廃墟となってしまった城にて交わる物語が素敵。


    【シャッターチャンス】
    最も「未来」となる話。
    ラブホテルは古びていて、シチュエーションのひとつとなるしかない。
    作中で最も迷いを抱く女性が印象的。

    【本日開店】
    ホテルローヤルオーナーの最期。耐え忍ぶ住職の妻
    このあたりは、裏の世界にじかに触れているような感じ。

    【えっち屋】
    オーナーの娘で、ホテルにとらわれ続けた人間が解放される時が来る話。
    アダルトアイテムのセールスマンと本当の意味で解放に挑む雅代
    ある意味、不幸この上ない生き方だと読者としては思ってしまう。
    結局性を商売にしている二人の解放はされず、囚われ続けてしまうのかもしれないが
    そこではないどこかへと、「逃避」するための亀裂が入る。
    ホテルとしてのローヤルは、ここで息を止める。

    【バブルバス】
    本作で一番好きな話。
    まさしくラブホテルを使用する男女の話だけど
    共に長く歩いた夫婦にとっては「非日常」
    家のこと、お金のこと、夫婦であって、多分レスな夫に
    愛はあるけど寂しさ堪えられない嫁が
    声を出して男女となって、でも、かつてみたいな解放感とは程遠く。
    とてもリアルだし切なげだけど好きだなあ。かつてラブホテルを
    愛用した者たちの、希望のような姿だと感じる。

    【せんせぇ】
    結末は記されていないけど、通して読めばわかる二人の最期
    ホテルローヤルの終末はこの二人から始まっただろう。
    行く当てのない女子高生と、裏切られた教師の終わりの始まり。
    甘くない甘い言葉、さみしげ

    【星を見ていた】
    ラブホテルを管理する側のことって、そういえばあまり意識したことはなかったな
    「八日目の蝉」でもあったけど、ある種の「どんな人でも受け入れてくれる職場」
    として、人情味があるのかもしれない。
    しかし老いてもなお盛んな夫婦。事件により揺らぐも夫がちゃんとそばにいる。
    純愛と言えば、純愛か

    【ギフト】
    夢と希望にあふれた愚かな男。
    全ての始まりの話。
    何かを始めたときは未来なんてわからない。その終末点を読者の目として知っているので
    分かっていても切ないなあ。大吉が居なければ何も始まらないわけで。


    幸も不幸も抱いた城の盛衰を、遡って読んでいくという面白い作り
    そしてラブホテルという舞台。
    エロティシズムより人間模様が面白い小説でした。

  • うーん……
    私の好みではないかな。
    1つの場所を基点にした短編小説って他にもあるし、物悲しさや空虚感もわかるんだけど、残念ながら、そこまで引き込まれることはなかった。
    まぁ、読みやすい文体ではあると思う

  • チェーンストーリーになっているのは面白い。ついこの前、同じような構図の小説を読んだばかりだったので驚いた。
    物語全体に、人間の哀しさ、暗さが散りばめられているのだが、それだけで終わらないところが直木賞受賞たる所以か?なぜか、読まなきゃいけないと思わされた作品ではあった。

  • ずっと読みたいと思っていた本。
    こういう構成の本は好きです。
    単なる短編集は少し苦手ですが、ストーリーが少しずつ繋がっている本書のようなのが好みです。

    人は人を愛することで
    生きていられるんだな、と。

    周りがどう評価しようと、
    自分が正しいと思うことを

    正々堂々とやっていく

    そんな風に生きたいと
    思いました。

  • 釧路の湿原を見下ろす場所にひっそりと佇むラブホテルを舞台にした、連作短編集。
    少しずつ物語を交差させながら、時間を遡ってゆく見事な構成。

    読後もかなしいような、やさしいような、不思議な余韻がつづく。
    川本三郎の解説で、より一層この小説の深みを感じられた。

  • まず、タイトルがいい、『ホテルローヤル』。老舗ホテルとも、街中の安ホテルとも、ラブホテルとも、ペンションとも、何とでもとれる。そしてその想像の背後には、「ホテル」という一つの場所に集う人々の姿がある。どんなホテルに、どんな人々が集い、どんな人生の一場面を見せてくれるのか…そんなことに思いを馳せた時点で、読者は既にこの作品に惹きつけられている。(実は、表紙の絵もとても良い。この作品にふさわしい空気を漂わせていると思う。)

    短編集、ではあるけれども、それぞれが密やかにつながっている。大きな起伏はない、のだけれども、淡々としたなかにキラリと光る人間味がある。読みながら、こちらも、自分の日常をふと振り返ったり、また、例えば今喫茶店でとなりの席に座っている男性にはどんな日常があるのだろうか、などと想像の翼を広げてみたりして、珈琲を楽しむような気持ちで「現実」とか「日常」を振り返ってかみしめることができる。

    面白いのは、読み進めるにつれて、時間が遡っていくということ。今はもう廃墟と化したラブホテル。でも、もちろん、廃墟となる前にはきらきら輝いていた時期もあったはずだし、それなりのドラマもあったはずだ。その、儚い煌めきの部分を逆に辿っていくというスタイルが、寂しさや哀しさ、人々の想いのせつなさをノスタルジックに際立たせてくれる。過去に遡るのだから、良い意味で、生々しさはない。設定にはやや無理を感じる部分もあるのだが、まぁ、許容範囲内かな。

    性と生は切っても切り離せないもので、でも、どちらも真正面からぶつかる話題ではなくて、普段はあまり考えないように過ごしがちだ。だから、ラブホテル、は、なんとなく敬遠される。でも、そこにこそ、本質的な何かが隠されていたりもする。それを、大仰にではなく、さらりと優しく書ききったのは、まさに作者の感性の賜物なのだろう。

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著者プロフィール

1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年、同作を収録した『氷平線』で単行本デビュー。13年、『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、『ホテルローヤル』で第149回直木三十五賞を受賞。『氷の轍』『裸の華』『霧(ウラル)』『それを愛とは呼ばず』『起終点駅(ターミナル)』『ブルース』『星々たち』『蛇行する月』『ワン・モア』『誰もいない夜に咲く』等、著書多数。

「2017年 『砂上』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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