- 本 ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087453270
作品紹介・あらすじ
モネ、マティス、ドガ、セザンヌ。19世紀から20世紀にかけて活躍した美の巨匠たちは何と闘い、何を夢見たのか。彼らとともに生きた女性たちの視点から色鮮やかに描き出す短編集。(解説/馬渕明子)
感想・レビュー・書評
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四人の印象派の画家、マティス、ドガ、セザンヌ、モネの創作活動に関連した4編の短編集。
原田マハを読むようになってから、美術・芸術の世界が広がりました。
本作も、ここで語られている絵画をググりながら、こういう絵画なのね。これの事かって確認しながら読み進ました。なので、この手の物語は、なかなかページが進みません(笑)
しかし、原田マハさんの書との出会いは、間違いなく、私の人生観、興味、視野を大きく広げてくれました。
これだから、読書って面白いですよね。
■うつくしい墓
マティスにかかわる物語。
ピカソも出てきます。
マグノリアのマダムとマティスの関係が、マティスに気に入られた家政婦マリアを通して、語られます。
マティスの死後のマリアの決意。
■エトワール
ドガにかかわる物語。
あの、踊り子たちは当時はそういう立場の娘たちだったんですね。知らなかった。
同じ時代を生きたメアリー・カサットの視点から語られています。
■タンギー爺さん
セザンヌにかかわる物語というより、タンギー爺さんの果たした役割が読みとれます。
タンギー爺さんの娘の視点から語られています。
タンギー爺さんがゴッホの作品というのは知っていましたが、タンギー爺さんの店では様々な芸術家たちがお世話になっていたんですね。
■ジウェルニーの食卓
モネにかかわる物語。
モネの義理の娘ブランシュの視点から語られます。
貧困のなか、同居していた二つの家族。
モネの創作活動を支えるブランシュ。
それぞれの画家が世にでるところの裏側の世界。
芸術家たちの想い、それを支える人たちの姿を感じました。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「この花をこの花瓶に活ければ、先生が恋をなさるのではないかと」
アンリ・マティスの家にマグノリアのマダムからマグノリアの花を届けるよう、使いに出された家政婦のマリアはマティスに好きな花瓶に活けるよう言われた。目に止まった翡翠色の花瓶に活けてマティスの前に置いたところ、「君はどうしてその花瓶を選んだのかね?」と質問されたのだ。言ってしまってからマリアはおかしな事を口にしたと恥ずかしくなった。けれど、マチスは微笑み、その場でマリアを自分の家政婦に決めたのだ。
マティスは一目惚れする人だったのだ。窓辺の風景に、そこに佇む女性に、テーブルの上に置かれたオレンジに、花瓶から重たく頭を下げるあじさいに。ふとした瞬間にそのもの、その構図を好きになってしまい、その一瞬の気持ちを消える前にカンヴァスにコンテで書き写し、構図を考え、じっくりと配色を決め、それからゆっくりと、慎重に、絵の具を載せていく。まるで、恋を育み、やがて変わらぬ愛情に塗り替えていくように。
そして、マティスの側に家政婦として使えたマリアもそんなマティスの手から生まれる作品に恋をして、マチスの死後はマチスが作ったヴァンスのロザリオ礼拝堂で修道女になった。
「芸術作品に恋をする」という経験は美術作品では私はまだない。けれど、音楽なら、しょっちゅう経験している。ハイティンク指揮のオーケストラの演奏だと、その音の中にふんわりと抱かれている気持ちになる。ローリング・ストーンズの演奏にはずっと寄り添っていたくなる。
恋愛と同じように芸術作品を好きになる気持ちを原田マハさんは表現されている。原田さん自身が恋するように美術作品を好きになられるからだと思う。
画家エドガー・ドガとメアリー・カサットはお互いの才能を認め合っていた。パリの美術界の登龍門である「官展」の絵はどれもこれもつまらなく見え、「印象派」と当時の画壇からはけなされる自分達の新しい画風を武器にこれからの美術界を渡っていこうとする二人は良き戦友だった。けれど、ドガがたった14歳の踊り子に裸でポーズをとらせ、大作「十四歳の小さな踊り子」のためのスケッチをしているのを目にしたとき、メアリーは複雑な気持ちになった。
何のために少女はドガのためにヌードモデルになることを承諾したのか。「僕の作品はきっと売れるから、モデルの君はエトワール(星)になれるよ」とドガが言ったのだ。その頃、貧しい家族を助けるために踊り子になり、エトワールを目指す少女は沢山いた。いつしかバレエよりもドガの前でポーズを取ることに熱中してしまった少女にドガは、「明日からはもう来なくていい」と言った。作品がほぼ出来たから、「君はレッスンに戻りなさい。本気でバレエに打ち込みなさい。私も闘い続けるから、この命のある限り」と。
ドガはメアリーからも踊り子の少女からも遠い所に行ってしまったようだった。けれど、ドガにとっては初めから二人とも戦友だった。
「印象派」とけなされる新しい作風で堂々と美術界を渡っていくため、作品作りはドガにとって遊びではなく「闘い」だったのだ。
世の中の逆風と闘ってものづくりをする同士にふっと愛を感じる瞬間はあるのだと思う。だけどそこにとどまらず、涙を拭いて各々の道を突き進んだ先に「芸術」が花開くのだろう。そこには「切なさ」を含んだ愛ある芸術が生まれるのだと思う。
今は売れないがきっと花開くと信じる若い画家たちを応援したくて画材屋になったタンギー爺さん。絵の具代金が払えず代わりに絵を置いていく画家が多いので、いつしか画材屋兼画商になってしまった。絵の具の代金が入らないことと、画家たちの絵が売れないことで店が潰れかけているのに、ちっとも気にせず、画家たちと芸術談義に花をさかせ、応援し続けるタンギー爺さんは生き方が彼独自の作品のようなもの。画家だけではなく、理解ある画商も画材屋も画家と二人三脚で新しい芸術を作っていったのだ。
美術界で成功し、ジヴェルニーに睡蓮のある庭のある邸宅に住むモネ。家族の度重なる死を経験し、波乱万丈の人生でありながら、庭を愛し、食事を愛し、太陽の下の「アトリエ」で光溢れる絵を描き続けてきたモネ。その傍らには、助手であり、義理の娘であるブランシュがいた。モネは妻と息子、ブランシュは母と夫と死別するという悲しみを乗り越えて、「絵」という絆で結ばれた二人。ブランシュの作る料理もモネの丹精した庭も生き生きとしていた。
社会的にも怒涛の19世紀末。芸術が市民のものになり、それまでのサロンでもてはやされた形式的な暗い、よそよそしい絵から脱却して、自分達が生きている「今」の瞬間を切り取った作品を作ろうと闘っていた印象派の画家たち。裕福な家庭に生まれていても、親の理解も世間の理解も得られず貧しい生活を強いられた者もいた。彼らの作品には命が感じられ、力があり、愛があった。彼らを支えた人々に血が通い、愛があったように。
この本で、メアリー・カサットという今まで知らなかった画家やマティスの「ロザリオ礼拝堂」という建築作品のことを知った。Googleで調べてみると不思議なくらい魅力的だ。
カサットの作品もロザリオ礼拝堂も観に行きたい。美術に初恋するかもしれない。
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マティス、ドガ、セザンヌ、モネ。
印象派の巨匠たちの物語を身近な人物からの視点で進められた四篇。
この作品を読みながらモネ展へ訪れました。
クロード・モネの人生を実際の絵画を観て感じ取り、尚且つ今作によって絵画の裏のエピソードを辿る楽しみ方をしました。
モネの穏やかな人柄と画家を見守る語り手の儚さも素敵だった。
実際に鑑賞した作品はどれも光の捉え方が繊細で淡くて、いろんな角度と距離で表情が変わる。
常々思うのが、元となる実際の風景より絵画の方がずっと観ていられるのは何故だろう。
画家の魂が宿って表現がプラスされて惹かれるものがあるのかな。
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原田マハさんの本の中でも、自分にとってはちょっと難しかった本…
アートが好きで、『楽園のカンヴァス』や『たゆたえども沈まず』、『暗幕のゲルニカ』など、原田さんのアートミステリーや美術をテーマにした人情小説を読んできて、そのどれもが良かったから今回も期待していたけど、なんか急に専門的になって登場人物も多くて、あまり感情移入できなかった。
ところどころ好きな言葉、刺さるフレーズ、そして学びがあった。
メアリー・カサットという女性の存在なくして、印象派がこんなにも広まることはなかったこと。
芸術家とパトロンの切っても切れない関係性の現実。
ゴッホの時代の官展に出される絵のつまらなさ、それを覆した印象派。
「印象派」というのはそもそも評論家たちが揶揄してつけた言葉だということ。
そして何より…
芸術家は特別な存在であり、われわれ一般人とは異なった価値観と感性で生きていて、交わることはないように思えるけど、彼らにも我々と同じように家族があり、作品を売って生活をし、そのための駆け引きをし、悩み、趣味に興じたり、楽しいことや嫌なことも経験し、病も患う。
普通の人々と同じような生活をし、同じように喜び、同じように悩み、同じように涙する。
そのことに想いを馳せられたのは貴重な時間でした -
マティス、ドガ、セザンヌ、モネ。これらの巨匠たちの主に晩年の日常生活について、第三者の目線で描いた原田マハさんの作品。全体的に「静謐」な雰囲気と「光」の明るさが漂う作品集。
新たな描き方の試みが感じられました。第三者の視点を通じて巨匠たちの生活感を滲ませながら、その作品の味わいを静かに物語っています。また、当時の印象派の人々の日常が様々な視点で描かれておりとても面白かった。
まずはマティス。最晩年のマティスに仕えた家政婦の語りによって作品が描かれている。この最初の作品が短篇集全体の雰囲気を醸し出していると言っても過言ではないでしょう。とにかく静かなのです。透明で冷え切った空気に満たされている。
次はドガ。ドガの画風に大きな影響を受けた女性画家の目線で描かれています。ドガが踊り子たちを描き続けた背景について、彼女が記憶をたどりながら物語る。ドガが踊り子たちへ込めた思いが切なくなります。
そしてセザンヌ。この小編には直接セザンヌは登場せず、タンギー爺さん(作品の中では「タンギー親父」)の娘がセザンヌに宛てた4通の手紙によって、印象派の絵が少しずつパリの画壇に広まっていく様子がよくわかるように描かれている。そしてその当時の印象派の人々の中におけるセザンヌの位置付けもよくわかりました。もちろんゴッホのタンギー爺さんの肖像画も登場。
この作品集に収められている4篇の中では、個人的に「タンギー爺さん」が一番面白かった様に思います。
最後に作品集の表題となっている「ジヴェルニーの食卓」。すでにモネは画壇でも有名人になっており、ジヴェルニーの自宅の庭で「睡蓮」の連作を描いているところ。義理の娘の目線で眩しいくらいの光と共にしっとりと描かれています。モネと義理の娘の過去の出来事に少し無理矢理感を感じましたが、それでも私は「睡蓮」の見方が少し変わった様に思います。
やはり、原田さんの作品を読むと様々な芸術作品の見方が変わってきますね。それぞれの作品の裏に隠れた物語を感じることができる様になるのでしょう。 -
『美しい墓』
『エトワール』
『タンギー爺さん』
『ジヴェルニーの食卓』 の四篇
マティス、ドガ、セザンヌ、モネの四人の芸術家にそれぞれまつわるお話し。
『うつくしい墓』に描かれた、アンリ・マティスとパブロ・ピカソとの交流の話がとてもよかったです。
年老いた修道女のマリアによる思い出話です。
慈父のようなマティスの人柄がよく出ていたように思いました。
マティスという画家は実はその作品をあまり見たことがなかったのですが、マティスの人となりを読むうちに、マティスの描いた明るい色彩に輝く絵が見えるような気がしました。
語り手のマリアも、素晴らしい感性をもった娘さんだったと思いました。
「この花をこの花瓶に活ければ、先生が、恋をなさるのではないかと」という言葉が印象的でした。
ラストも素晴らしいとしみじみ思いました。-
yyさん。
こちらこそ、いいね!ありがとうございます。
原田マハさんは、ほとんど全部の作品をブクログで読みました。
アート系であれば、...yyさん。
こちらこそ、いいね!ありがとうございます。
原田マハさんは、ほとんど全部の作品をブクログで読みました。
アート系であれば、私はちょっとライトな『アノニム』京都が舞台の『異邦人』直木賞候補になった『美しき愚かものたちのタブロー』あとちょっと不思議な『ユニコーン』。小説ではありませんが『原田マハの印象派物語』もよかったです。アート系以外でも『サロメ』『奇跡の人』。漫画原作の『星守る犬』は泣けます。
yyさんは、フォローはされていらっしゃらないみたいですが、これからマハさんのレビューなど読ませていただきたいので、勝手にこちらからフォローさせていただきますね。2021/04/05 -
まことさん、ワクワクするようなお返事ありがとうございます。楽しみが増えました。ゆっくりになると思いますが、読み進めていきます。人生、楽しい!...まことさん、ワクワクするようなお返事ありがとうございます。楽しみが増えました。ゆっくりになると思いますが、読み進めていきます。人生、楽しい!
フォローありがとうございます。私はタイムラインが入ってくると ”あわあわ” してしまうので、あえてどなたのフォローもしていません。よろしくお願いします。
2021/04/05 -
yyさん。
いいね!をたくさんありがとうございます。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします!
これからも、マハさんの作品を楽しま...yyさん。
いいね!をたくさんありがとうございます。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします!
これからも、マハさんの作品を楽しまれてください。(ちょっと羨ましいです)
私もこの5月に出る、マハさんの新作のゴッホを楽しみにしています。
2021/04/05
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絵画に詳しくない人にも、画家たちの人物像を知れるので、是非お勧めしたい一冊。
ドガの躍動感のある構図が生まれた秘話や、ゴッホの絵で有名なタンギー爺さんの話を知った上で名画を観ると、絵からドラマティクな人間模様が語られてくる気がする。マティスの話では、マグノリアの彩りと南仏の煌びやかな日差しが感じられた。
モネの話が個人的に1番衝撃的だった。
美術館を訪れた際、名画の描かれた背景を想像しながら鑑賞する楽しみができた。 -
学生時代、気合を入れて勉強しても通知表に"5"がつくことのなかった美術。
それ以来なんとなく絵画、芸術に苦手意識があり、敷居が高い世界だと敬遠していました。
ですが、この本を読んで画家も自分と同じ人間で、一枚の絵にもストーリーがあると分かると途端に絵画に興味が湧いてきました。
次は「美しき愚か者たちのタブロー」を読みたいです。
著者プロフィール
原田マハの作品





