本を読む女 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.84
  • (40)
  • (81)
  • (44)
  • (6)
  • (4)
本棚登録 : 1017
感想 : 62
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087453287

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 林真理子は『anego』がドラマ化されたときにミーハー気分で読んだきり、後にも先にも読むことはないだろうと思っていたのだけれど、これは自身のお母さんをモデルにしているそうで、ちょっと毛色が違うのかなとタイトルにも惹かれて読むことに。

    山梨の裕福な商家の1男四女の末っ子に生まれた万亀は、美人で華やかな姉たちに比べて容姿には恵まれず大柄なのがコンプレックスだけど、本を読むのが好きな少女。父が亡くなり、姑とは不仲ながらも、しっかりもので美人の母親が切り盛りする菓子屋は繁盛しており、当時としてはおそらく簡単ではなかったであろう、女学校を出て、東京の女専(今でいう短大くらいの感じ?)にも通わせてもらい、紆余曲折を経て教師になるも・・・

    結婚して苦労している姉たちを見て「結婚なんかしない。一生、本を読んで暮らしたい」という少女時代の万亀の心情は、かつて本好き少女だったことがあれば誰でも共感してしまうはず。ただ、そんな都合の良い夢はむろん叶うはずはなく、時代の波は容赦なく次々と彼女に襲い掛かってくる。

    全体的には、知らない時代を知る面白さもあり、ベースが実話のせいか都合よく進まないことも、淡々と事件が起こるだけで過剰な演出がないのも悪くはなかったし、小説としては十分面白かったのだけれど、私には万亀がちょっと薄情というか、かなり自己中心的な人間に思えて、同情や共感はあまりできなかったのが辛かった。

    親には逆らえなかった時代とはいえ、万亀の反抗はいつも中途半端で、夢想のみで実行は伴わず、結果流されて親の言いなりになりながらも、上手くいかなくなると、母のせい、家族のせいで、自分がその犠牲になっているという被害妄想、もしくは責任転嫁ばかりしている。逆に上手くいっていて幸せなときは、救いを求める家族を煩わしく感じて無視、若いうちは多少わかる部分もあるけれど、大人になってもむしろ悪化していくことにちょっと引きました。

    母親と確執があるのはわかるけど、にしても都合のよいときだけ頼り、嫌になったら自分だけ逃げようとする毎度のパターンはどうなのか。いちばん酷いと思ったのは大陸から帰国して子供産んでからの一連のエピソードで、兄嫁に対しても母親に対しても、なぜそこまで自己中心的にふるまえるのか理解できず。いくら戦時中で生きるのに必死とはいえ、他人ではなく、さんざん自分を守ってくれた家族ですよ?

    あげく戦後、自分だけ東京で再就職しようと画策、過去に世話になった末吉に連絡をとるも、軍部に協力した疑いで立場が危ういと聞かされるやいなや、話を最後まで聞かずに電話を切る。彼女が感じているのは、家から逃げたいのに当てがはずれた失望と、警察沙汰に巻き込まれたくないという保身のみ。あれほど世話になった末吉の、その身を案じるという言動が一切ないことに唖然。

    文学少女の激動の半生、自体は興味深く読めたのたけれど、人物の描き方がちょっと残念すぎて、万亀が、というより作者がこれを正当だと思って描いているのだとしたら、もうこの人の他の作品は読むことはないだろうな。

  • 主人公と重なる自分をみつけて一気読み。生き方を考えてしまう一冊。
    ともあれ、本と触れあう時間を大切にしていこう。

  • 良い子であろうとして、思い通りにいかないことは沢山あって、時代や環境に翻弄されて、それでも生きていく一人の女性の話。
    そこにはいつも身近に本があって、本に救われたところで終わる。

    舞台は現代ではないし、主人公の万亀の悩むところも自分が経験してないことばかりなのに、なんとなく共感してしまう。だから読んでいると万亀の姿にやきもきしたり、応援したくなったり。綺麗事ばかりでないのが好き。こんなに主人公の気持ちに入り込んで追いかけた物語はとても久しぶりだった。良い本に出会えたなあ。

  • 今まで大正時代から戦後が舞台の小説を読むことを避けてきた。けど、タイトルが気になってジャケ買い。読み始めて「しまった」と思ったのに、気づいたら寝る間を惜しんで読み続けてた。自分でも驚くほどストーリーに引き込まれていて、社会の波に逆らって生きていこうとする万亀を応援したり、なんて天邪鬼なんだといじらしくおもったり、と、読み終わった時の心情は疲れてた。
    万亀という読書好きの女の子が様々な困難を乗り越えて大人になっていく話。甲州弁が飛び交う田舎、お嬢様だらけの女大学、温かい空気の相馬での教師生活、満州に渡って味わう理想と程遠い現実。どんな時にも万亀の側には本があった。本に支えられ読むことの楽しさを忘れない万亀の力強い生涯は、響くものがあったと思う。
    林真理子さんの作品にはこれからも触れていきたい。

  • 面白い!林真理子さんはこの手の作品が上手いと思う。もちろんエッセイもいいけど。

  • 偶然にも新しいバージョンが発売したようだが、私が読んだのは古いバージョン。
    昔この本を原作にしたドラマがやっていてその時に買ったので、早10年は経過している。

    この人は林真理子のお母さんがモデル。
    裕福な家に育って、教育もしっかり受ける。
    教育も時代のせいで志望する学校に入れなかったり、やっと家を出られると思って教師になったら母に呼ばれて故郷に戻ったり、就職できたと思ったら戦争が始まるし、背丈や受けてきた教育とかで縁談が流れるわと結構苦労の絶えない人だが、最後は本屋を開業する、

    ここまで自分のことを結構不自由な時代に決めてきたのはすごいこと。だからこそ、今っていろいろなことができる機会がたくさんある。うまく生かしたいと思える。

  • 大正末期〜戦前を舞台にした小説が大好きです!
    半年分の朝ドラを見たような満足感がありました☺

    そして、周りからは優等生で完璧に見える主人公ですが、内面の葛藤が描かれていて一部感情移入しながら読めました!

  • これ林真理子さんのお母様がモデルになってるって最後に勘付いて解説読んで確信して鳥肌たった。すごすぎる、とんでもない人生。脚色はもちろんあると思うけどそれでもなんと主人公たるや。そう思わせる林真理子さんもすごい。

  • 「私は宿命的に放浪者である」  不意にこの言葉がうかんだ。そうだ、林芙美子の言葉だ。いまは痛いほど万亀の胸にしみた。自分もいま親にそむいて北へ向かう。

    しぶとい生命力を現すように、福の鼾はますます大きくなる。

     二人の慰めの言葉は、万亀に少女時代の日を思い出させる。「小川さんは優等生だから」「小川さんは何でも出来るから」。この二つの言葉で、人々は自分にたくさんの犠牲を求めてくる。

    ページを細かく裂きながら、「馬鹿やろー」と怒鳴ったらどれほど気持ちがいいだろうかと万亀は思う。けれど寝静まった階下を気にしている自分は、何をすることもできない。それはよくわかっていた。

     人はどうして少女のままで生きていけないのだろう。
    人はどうして大人になり、つらい苦役を背負わされるのだろう。  もう泣きはしない。腹立たしくもなかった。ただ純粋に不思議だと思う感情で、万亀はぼんやりしていた。

    大人ひとりでも生きていくのが精いっぱいの時代に、乳飲み子をかかえる苦労は並たいていのものではない。それでも男はやっきになって自分の生のこぼれ火を女に植えつけようとする。そんな男を浅ましいとも身勝手とも思わず、女たちはむしろ嬉々として子どもを生み育てようとするのだ。自分がそんな女の一人かわからないまま、万亀は重太郎を抱く。

    自分はそういう人間なのだ。勇気も決断力もない、人のために生きていく人間なのだ。あらためてそう思った。しかし他にどんな道があるのだろう。中央線の通路にしゃがみながら、万亀は同じことを繰り返しつぶやく。

    万亀が林真理子のお母さんのことなんだね。
    万亀の学生時代は、優等生と言われるのがプレッシャーとか、東京で遊び呆けるとか、自分っぽいなと思うところがあって、
    大人になって色々なもの失ってでも本屋を開く強さは、これから自分もそうなるのかなって、
    等身大で響いた本でした。

  • ☆3.5

全62件中 31 - 40件を表示

著者プロフィール

1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍する。1982年、エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』を刊行し、ベストセラーとなる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で「直木賞」を受賞。95年『白蓮れんれん』で「柴田錬三郎賞」、98年『みんなの秘密』で「吉川英治文学賞」、13年『アスクレピオスの愛人』で「島清恋愛文学賞」を受賞する。18年『西郷どん!』がNHK大河ドラマ原作となり、同年「紫綬褒章」を受章する。その他著書に、『葡萄が目にしみる』『不機嫌な果実』『美女入門』『下流の宴』『野心のすすめ』『愉楽にて』『小説8050』『李王家の縁談』『奇跡』等がある。

林真理子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×