櫛挽道守 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087455137

作品紹介・あらすじ

幕末、木曽山中の小さな宿場町。年頃になれば女は嫁すもの、とされていた時代、父の背を追い、櫛挽職人をひたむきに目指す女性を描く。中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞受賞作。(解説/佐久間文子)

感想・レビュー・書評

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  • 大作で良作の一冊。

    時代を追いながら一人の女性の歩む姿を細やかに追う大作は良作の一言。

    時は幕末。
    揺れる世の中の傍らで木曽の櫛職人を目指す主人公 登瀬の心も揺れに揺れる。

    ただ父のようになりたい。
    その一途な思いに待ち受ける困難。

    まるで大小の岩に阻まれ思うように歩めないもどかしさが丁寧に綴られ、その都度登瀬の胸の内がじっくり心に沁み渡るほどだった。

    弟 直助の草紙が次第に重みを増す終盤は秀逸。
    登瀬の心の雪解けを感じた。

    そして父の言葉。

    幅の広い平行線のような心が次第に距離を狭めて寄り添う様を思い浮かべ、思わず落涙。

  • 「くしひきちもり」そうそう、これがあった!
    いいに決まっているので、とっておいたのです。と思って読んだのがもう2年前。
    今さらですが~おすすめなので、ご紹介しましょう。

    幕末の中山道、宿場町。
    木曽山中で、一心に櫛を作る名人の父親を手伝う娘の登勢。
    父の腕に憧れ、あとを継ぎたいと願いますが、娘には他所へ嫁ぐ縁談が来るだけ。
    外の世界へ出るのが夢の妹、周りを気にする母親、才能ある優しい弟。
    やがて訪れる、いくつかの別れ。
    弟の友人は、幕末の空気を吸って、村を出ていきます。
    父の腕を慕って弟子入りしてきた男とは、登勢は気が合わないが…?

    神業と言われる父親の仕事ぶり、一生懸命ついて行こうとする娘はやがて弟子となっていく。
    時代に取り残されたような暮らしでも、思わぬ揺れ動きがふいに起こる生々しさ。
    地道な生活感と、真剣な緊迫感。
    なんでこんなにいいんだろう?と感嘆します。
    こちらの表現力が間に合わないけれど~
    すべて目に浮かぶようで、味わい深い。読みごたえがありました。

  • 幕末、大きくうねる時代の片隅で、夢を追って強く強く生きた女性の物語。
    親が決めた家に嫁ぎ、子を産み、家族のために生きる。それが当たり前で、疑問を持つことすらなかったこの頃、きっと多くの女性が夢をあきらめてきた。その前に、夢を持つことすらできなかった。
    女性も自由に職業を選べる現代とはなんて違うんだろう、最初はそう思って読んでいた。だけど、本当にそうだろうか?
    今だって、結婚や出産、育児に振り回されて働きたくても働けない女性、働き方を制限されて悔しい思いをしている女性、仕事以外でも、好きなことを手放す女性、たくさんたくさんいる。現代でも、女性が自分の夢を追い続けて生きようとするのは男性よりもずっと難しい。。時代は変わったようで変わってない。まだまだ途上だと思った。
    生きにくい道を、「好き」の一心で歯をくいしばって一歩一歩進み続けた登勢の情熱に心打たれた。

    自分も思うところがあって女性の生き方にばかりクローズアップしてレビューを書いてしまったけど、多くの登場人物が、男性も女性も、社会や家のルール、時代の常識にとらわれて、抗って、あるいは受け入れて、必死に生きていた。幸せを求める姿は今も昔も変わらないのだと思った。

    すべての人が自分の生きたいように生きられる、それが認められる世の中が訪れますように、と強く願う。

  • この時代(幕末の木曽街道)に
    「一人の職人」として生きることを
    貫いた一人の女性が描かれる

    少し前に観た
    16世紀のベネチアを舞台とする
    実在した高級娼婦「ベロニカ」をモデルとした映画の
    主人公に重ね合わせてしまった

    もちろん
    時代も、お国柄も、設定も
    なにもかも違うのだけれど
    一人の女性が一人の人間として
    生きていくことを選んだがゆえに
    その当時の社会通念と闘うことになり
    その当時としては革新的な生き方に
    なってしまうという共通点に
    思えてしまった

    もし映画で撮るなら
    モノクロの映像で
    今村昌平監督タッチが似合うのでしょう

  • 第9回中央公論文芸賞、第27回柴田錬三郎賞、第8回親鸞賞を受賞作 評価の高い本がやっと来たので、読みかけのものを置いて読んでみた。
    まず作者が女性と言うのを知った。
    作品は、女性の生き方が主なストーリーになっている。

    中仙道、木曽の山中にある藪原宿の集落が舞台。名人といわれる櫛挽職人の父を持つお登瀬の、櫛作りにかけた一途な半生が感動的に描かれている。

    女の人生のが、より不自由に決められ、それに縛られていた幕末の頃、世間並みの生き方を捨ててでも、尊敬する父親の背を見て、櫛引の技を極めるために生ていくお登瀬の成長物語になっている。

    頼みの弟が早逝し、て家族の絆が破綻してくる。そんな中で、お登瀬は年頃になって、世話人が持ってきた条件のいい結婚も断り、人々から阻害され始める。

    無骨な父親に弟子入りを志願してきた若者とともに、家業を継いで、櫛挽きの技を受け継いでいく。
    激動の時代を背景に、人の往来からわずかな文化が入り込んでくるような集落で、村の行事や風物を織りこみ、お登瀬の人生が、爽やかに力強く描かれている。

    自分で作った物語を絵にしてひそかに売っていた弟。窮屈な暮らしから逃げ出したが、やはり逃げ切れなかった妹、名人の技を慕ってきた弟子、出自を嫌って動いていく時代に飲み込まれた弟の幼馴染。

    登場人物も夫々面白くお登瀬に絡んでいく。
       
    読みやすいが力のこもった作品だった。  

  • タイトル「櫛挽道守」と書いて「くしひきちもり」と読む本作。幕末を舞台に、櫛職人を父に持つ主人公登瀬が、限られた自由の中で懸命に自身の生き方を模索する姿を丁寧に描いた作品です。
    時代としてはペリーが浦賀に来航したあたりからになるので、日本史の一大転換期ともいえる頃にあたるのですが、源次を除いて登場人物の多くは不穏さを増す社会情勢から一歩引いたところで日々の生活を営んでおり、よくある波乱万丈の展開があるわけではないです。なので筋だけ読むと正直地味な小説の部類に含まれてしまうのですが、逆にそういった喧騒からの適度な距離感が、登瀬の素朴で純粋な姿を引き立たせているように感じられました。
    実は私、読んでいる間は非合理な登瀬の考え方よりも、合理的で実利を重んじる実幸の考え方のほうに共感していたのですが、終盤で実幸が藪原に来た真意を知るに至り、彼の根っこの想いは登瀬と同じ類のものであり、さらに言うと彼自身が合理主義に侵された現代の読者の思考を映しだす合わせ鏡のような存在だったと考えるに至りました。よくよく考えると一見非合理に思える事や異端なものに対して寛容でない姿勢は、現代でもあまり変わらないように思われ、深読みしすぎかもしれませんが、時代小説の外見をまとった現代社会批評であるようにも感じられたのでした。
    なお、上記は本作の魅力のほんの一端にすぎません。主人公の父、母、妹、早世した弟、そして源次と、登場人物それぞれの思いが交錯する様は、幸せとは何か、家族とは何かを深く考えさせてくれます。その詳細はぜひ読んで確かめていただければと思います。

  • 女の生きる道が、嫁して子をなし家を守ることあたりまえだった時代、女の道を外れて櫛挽きの業を極める登勢。黙して語らず、櫛挽く姿ですべてを教える父吾助。古い伝統を守ることにとどまらず、広い視野で次の世を見据え櫛挽きの道に新しい風を入れる実幸。誰もが生き生きと描かれている。
    数々の障壁をものともせず、櫛挽きの道を邁進する登勢の強さには恐れ入るが、実幸に対する醜いまでの反発心を見るにつけ、そうまで頑迷にならなくてもと辟易。さらに、源次への心の揺れまでも心にストンとは降りてこず、ますます実幸ひいきになりながら読み進める。
    主人公の登勢に肩入れできなかったことが、この作品を読む上での敗因だった。
    それでも、反発し合った妹喜和との互いを思いやるシーンやラストの直助の絵草紙を朗読するあたりは心に染みて、ここまで読んできてよかった!と思った。
    ただ、幕末のあたりの歴史的背景に全く不案内なので、その辺は読み飛ばしていたのが、もったいなかったかな~。。。

  • ただただ凄い。凛とした清々しい物語でした。
    あらすじ(背表紙より)
    幕末の木曽山中。神業と呼ばれるほどの腕を持つ父に憧れ、櫛挽職人を目指す登瀬。しかし女は嫁して子をなし、家を守ることが当たり前の時代、世間は珍妙なものを見るように登瀬の一家と接していた。才がありながら早世した弟、その哀しみを抱えながら、周囲の目に振り回される母親、閉鎖的な土地や家から逃れたい妹、愚直すぎる父親。家族とは、幸せとは…。文学賞3冠の傑作がついに文庫化!

  • 木内昇『櫛挽道守』集英社文庫。第8回親鸞賞 、第27回柴田錬三郎賞 、第9回中央公論文芸賞の三冠受賞作。

    それほど素晴らしい小説とは思わなかったのは、エンターテイメントの要素が全く無い時代小説のためだろうか。時代に逆らいながらも自らの道を進む女性の姿を描いた小説に高田郁の『みをつくし料理帖』があるが、それに比べれば物足りなさを感じた。勿論、各種文学賞の受賞と面白さは決して比例するものではないということは承知しているのだが。

    幕末の木曽山中を舞台に描かれる家族の物語。寡黙で愚直な櫛挽職人の父親、古い習慣の奴隷であり続ける母親、才能を開花させる前に急逝した弟、古い習慣から逃れることを夢見る妹…父親の背中を見詰めてきた主人公の登瀬はいつしか父親と同じ櫛挽職人の道を目指す。

  • 初めて読む作家さん
    てっきり名前から男性だと思ってました。女性だと知って女心というか、まだこの時代、女性は子を産み家を守るのが当たり前の時代に頑なに自分の志を曲げない登瀬の心理描写が丁寧で、女性作家さんならではと感服。
    他の作品も必ず読みます

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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