無戸籍の日本人 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087456929

作品紹介・あらすじ

1万人はいると言われる戸籍を持たない日本人。なぜ無戸籍になるのか? なぜこの状況は変わらないのか? 無戸籍者の厳しい現実を浮き彫りにし、大きな反響を集めた話題作。(巻末対談/是枝裕和)

感想・レビュー・書評

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  • ねほりんぱほりんという番組で知った、
    無戸籍者の実態をもっと知りたくて手に取った。

    読んでみると、さまざまな事例が挙げられていた。
    育児放棄や貧困が主な原因なんだろうと、無知な私が持っていたイメージよりもずっと根が深く、親や祖父母の代まで原因が遡るケースも。
    そのせいで、親子で無戸籍の連鎖が怒るケースも少なくないということに衝撃を受けた。

    一番ショックだったのが、本来ならば彼らを救うためにあるはずの日本の法律が、無戸籍者が戸籍を取得することを拒否する壁となっているということ。

    離婚後300日問題、
    日本人である証明がないから取得が困難で、それを証明したくても親が亡くなっている、
    学校に通っていないはずなのにコミュニケーション能力や文章力が高いのは疑わしい等、

    なぜここまで何の罪もなく生まれてきた彼らが苦しみを持たなければいけないのか、あまりに理不尽だと感じた。

    確かに生きているのに、制度上「存在しない者」として生活している人たちの声が届いてほしい。

  • 難しい内容ですが、整理されていて大変読みやすかったです。
    これは年齢、性別問わず多くの人に読んでもらいたい本だと思いました。

  • 書いてあることが全て事実だと受け入れたくない。「市子」の何倍も現実は壮絶で、現代社会に絶望を感じる。ただこの本は厳しい現実を提示するだけではなく、度重なる取材と当事者との対話の記録、そして戸籍取得にはどういう障害があるのかなど、無戸籍の人たちが少しでも生きやすくなるように著者が奔走し、その軌跡を辿っていく。全て著者の経験、取材、対話、記録で構成された、まさに血と汗の結晶。当事者たちが勇気を出して、告白した辛い過去に、我々がどうあるべきなのかを問われている気がした。苦しんでいる人が今もいる為、ありがとうございますとは簡単に言えないけど、感謝してます

  • 久々のノンフィクション。

    とても重く深いテーマを、読みやすい文章で
    分かりやすく伝えてくれる一冊。
    様々な理由で「戸籍がない」まま生きてきた人々の、
    理不尽に苦労をせざるを得ない暮らしぶりに泣ける。

    役所も政治家も「世間様」も、基本は「親が悪い」と。
    だが、明治に制定された民法の規定が、
    百年以上経った今も変わらず「生きている」異常さに、
    気づかぬ(振りをしている)インサイダーの責任は重い。

    著者は、自身の子供が一時期「無戸籍」になった経験から、
    無戸籍者の「人生を取り戻す」手伝いを精力的に続ける。
    その視線はあくまで優しく、「誰も悪者にしたくない」と。
    一冊通してそのスタンスは変わらないので、
    かなり悲惨な話でも何とか読み進められる。

    いや、読みにくい文章だ、という話でもないし、
    テーマが重すぎて疲れるという訳でもない。
    不謹慎を承知で言えば、とても「興味深い」テーマ。
    「こんな、まるで昭和の小説のような」と、
    読中何度も思ってしまった。

    だが、これが現実に起こっていることである。
    諸般の事情により、無戸籍者は毎年何千人も
    生まれ続けているのだ。

    役所や政治家が、この問題に対して「後ろ向き」なのも
    ある一面では分からなくもない。
    「某国のスパイが、無戸籍者の振りをして申請し、
     日本人として登録されてしまったら一大事だ」
    という公安的な危惧もあるのだろう。

    が、その問題は、分けて考えるべきだ。

    日本人の子として日本で生まれ育ち、
    「DV夫から逃げてきたが、離婚してもらえない」
    などの理由で、出生届の出されない子供は増え続ける。

    義務教育も受けず、保険もなく、住民票も取れない。
    当然「真っ当な職」に就くわけにも行かず、
    常に貧困と隣り合わせの暮らしを強いられる。
    この状況は、容易に「犯罪」の魔の手に狙われる。
    弱者を食い物にする輩に狙われることもあれば、
    自身が「生きるため」に犯罪に手を染める者も。
    すると、「無戸籍者 = 犯罪予備軍」みたいな
    分かりやすいレッテルを貼られる悪循環。

    もはやどこから手を付けて良いのか分からないほど、
    問題はこんがらかっている。

    幸い、もの凄くゆっくりではあるが、動きはある。
    NHKが「クローズアップ現代」で取り上げ、
    大きな反響を呼んだことも後押しして、
    世間にも国会にも「無戸籍問題」は意識づけられた。
    まだまだ先は長いが...歩みを止めるわけにはいかない。
    著者と、そのお仲間の献身的な活動には
    頭が下がるばかりである。

    ...で、「読み物」として純粋に評価すると...
    正直な感想は「ちょっと長い」(^ ^;

    もの凄く興味深い内容で、作者の熱意も伝わるが、
    正直、後半ちょっとダレてくる...と言うか、飽きる(^ ^;
    さらに尻上がりに「作者の自画自賛」が目につく(^ ^;
    ような気がしてくる(^ ^;

    作者と、登場人物たちの熱量は充分評価するが、
    もうちょっと情報を取捨選択し、ブラッシュアップし、
    この問題に明るくない読者でも、最後まで
    緊張感をキープしながら読めるようになれば、
    より大きい反響を呼べるのでは...と思いました(^ ^;

    私は、「読書脳」の持久力が足らんかった(^ ^;

  • 自分の周りに無戸籍の人はいない。幼馴染みにも、学生時代の友人にも、職場にも。なぜ断言できるかと言うと、戸籍のない人は小学校にも通えないし、働くにしてもマイナンバーカードとかの提出を求めない、雇用契約がしっかりしていないような職場でしか働けないから。まあまあ普通の人生をドロップアウトせずに歩いてきた自分には関わることのない世界だ。無戸籍の子どもは小学校行けないって時点で、ほぼ世間との関係を閉ざしてしまっているのと同じ。  

     だからこの本の中に書かれているような、戸籍のない人がいるなんてことは、レアケースなんでしょ?と思ってた。それが全然違った。いとも簡単に無戸籍になってしまうのだ。 

     そもそも著者が無戸籍に関心を持ったのも、自分の生まれたばかりの子どもが、無戸籍になってしまいそうになったからだ。
     
     著者は再婚だ。前夫とは別居期間を経て調停が長引いたものの正式に離婚は成立する。その後、実際に生活をともにしている現夫と籍に入り、現夫との間の子を妊娠、出産した。離婚成立から265日後のことだった。

     役所に出生届を出しに行くと、この子は現夫との間の子と認められない、民法上は前夫との間の子どもになるから、前夫の名前に書き直してもらわないとこれは受理できない、と断られる。  

     はぁ?
     何それ?  

     民法772条に「離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定する」という、いわゆる「300日ルール」があることを著者は知る。この法律、明治にできて百数十年間変わってない。
     
     この場合、生まれた子どもの戸籍を作るには、前夫が「嫡出否認」の訴えを起こすか、母子や実父が前夫に対して「親子関係不存在確認」の訴えを起こすしかない(2002年時)
     どちらにしろ前夫の協力が不可欠である。  

     ちゃんと協力してくれる人も多いと思うが、例えば、DVが原因で離婚した人などは、居場所を知られることを恐れて、連絡をしない。そもそもDVから逃げたなら離婚が成立していない場合も多い。しかし、そんなことは考慮されず、出生届は上に上げた条件をクリアしないと受けてもらえない。
     
     こうしていとも簡単に、無戸籍児が生まれてしまうのだ。

     著者の経験によると役所の窓口の人も不勉強で、面倒臭いのか窓口をたらい回しにする。著者は政治家を目指しており、同じ政治塾出身の現職議員なども動かして、役所に圧力をかけるなどして、子どもが無戸籍になる事態を避けることはできたが、役所の冷たい対応に心身疲れて諦めてしまう人は多いだろう。  
     
     支援してくれる団体がないと、難しいと思う。 
     著者は念願かなって民主党の国会議員になり、さあやっとこれで無戸籍問題の解決に議員として取り組めるぞ、と勇んでいたら、時の民主党政権で小沢一郎が、一年生議員が地域の陳情をあっさり受けないようにとの配慮?で、そういった陳情を小沢一郎直轄にしてしまったため(無戸籍問題なんか取り組んだって票になんかならないため)取り上げてもらえないまま、政権交代してしまった。その後の改選で彼女も落選した。

     じゃ、いまの政権に働きかけてみればいいとも思うが、同じような理由で取り上げないのか、はたまたNPOとかで動いたほうがやりやすいのか。  

     その後の活動を見てみると、後者のような気がする。
     巻末に支援団体の連絡先が書いてあるので、こな問題で困っている人と接点を持つことがあってら、この本の存在を教えてあげたい。

  • あまりにも自分の生きてきた世界と違いすぎて唖然とした
    そんな多種多様な地獄ある?というエピソードばかり
    政治家の本音を知れたりやり口も学べるし色んな「世界」が覗けて有意義でした
    複数人のケースをザッピングしながら話が進むので少し読書の間をあけると記憶容量が極小の私は この人どのケースの方だったっけ?? となってしまい中盤あやふやなまま読み終わりましたけどそれでも十二分に学びがありました
    終盤は歴史の話になっちゃうからちょっと退屈だったかな
    あーしかし「留守中に夫(35)が母親(70)と肉体関係を結んでいた」の下りは本当に気分が滅入った
    イミフ、どういうことだよ…

  • 無戸籍で苦労している方々が少なくない事実は知らなかったし、大変驚いた。
    ストーリー性があってとても読みやすく、法律問題の説明もわかりやすい。
    法や政治に関する様々な本が、この本くらい読みやすければ、もっと色んな人(自分も含め)に政治に触れるきっかけができそうなんだがなあ。

  • 小説かのようなストーリー性があり、とても読みやすかった。
    さらに内容に関しても小説、フィクションではないかと疑うようなものばかりで自身の無知さを実感した。
    無戸籍は遠いようで身近。そして身近であってはならない。そのための法制度や、戸籍の目的を今一度考え見直さなければいけない。
    誰しも生まれたくて生まれてきたわけではないのだから、当たり前の人権くらい与えてよ!

  • なるほどな、民法772条か。特に貧困やら親がいい加減だったりしなくても、現夫の名前では出生届が受理されずに無戸籍になるパターンがあるんだ。よくわかってなかった。俺みたいな素人が考えても、誰かが生まれた時に戸籍の無いままで放置しておくことと、整合性の取られた出生届と、どっちが大事なんだよバカか?と思うような問題なので早急に法改正しろよ、思うけどな。無戸籍は離婚のペナルティ、ってのはすげえと思った。いやいや、19世紀の法律なんだってよ?しかし無戸籍の人の母親の元夫がその母親と肉体関係があったとか、鎌投げられたとか、この辺りはダラダラと冗長だったなあ。

  • 一口に無戸籍といっても様々な事情を抱えている様子が描かれている。解説はわかりやすいものの、Aの場合1、Bの場合1、Aの場合2……というように同じ人物の様子がとびとびで書かれており(おそらく時系列順なのだと思うのだけれど)まとまった読書時間がとれない私としては、この人はどんな事情の人だったっけ……?と混乱することも多かった。ただ、それぐらい特殊で複雑な事情を抱えている方が多いと言うことでもあると思う。少しずつ法律が変わっていっているようだが、それでもまだ少しずつでしかない。法律の改正は、どうしても問題が起こった後になってしまうことが多いこともまた難しいところだなと思った。人々の意識が変わるのに合わせ、もしくは人々の意識を変えるためにも、時代に即していない前衛的な法律は変えていく必要があると思った。

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著者プロフィール

井戸 まさえ(イド マサエ)
政治家、元民主党議員
1965年、仙台市生まれ。東京女子大学文理学部史学科卒業。松下政経塾9期生。5児の母。
東洋経済新報社勤務を経て、経済ジャーナリストとして独立。2005年より兵庫県議会議員を2期務め、2009年、衆議院議員に初当選。無戸籍問題をはじめ「法の狭間」で苦しむ人々の支援を行う。民主党東京第4区総支部総支部長。
「戸籍のない日本人」で第13回開高健ノンフィクション賞最終候補作品に残る(『無戸籍の日本人』と改題して2016年1月刊行予定)。「『クローズアップ現代』“戸籍のない子どもたち”など無戸籍者に関する一連の報道」で2015年貧困ジャーナリズム賞受賞。
佐藤優氏との共著に『子どもの教養の育て方』がある。

「2015年 『小学校社会科の教科書で、政治の基礎知識をいっきに身につける』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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