自由なサメと人間たちの夢 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087458299

感想・レビュー・書評

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  • 色々なお話が入った短編集。
    ちょっと物悲しいような雰囲気が全体的に漂ってるテイストが多め。
    ややヤンデレな感じもあるけど、そこからゾッとしたりちょっぴり前向きに頑張ろうと思える1冊。
    最後の連作短編に出てくるサメがイケメンだった。
    古いビルの一室を借り切って、サメを飼うというのはなんだかロマンがあっていいなと思った。

  • ずいぶん前に読みました。
    サメの話が好きでした。スタンド・バイ・ミーのエンドロールと同じくらい泣きました。個人的な体験なので、その程度がどれほどかが誰かに伝わるかは、わからないですけど。
    記憶もおぼろげです。自分にもサメがいれば良いなと思ったはずです。色々順応していくことに疲れたときに、何がダメで何が良いかもわからなくなったような人間をぺちんと叩いて顔を向かせて、話を聞いてやる姿勢を見せてくれるような感じがしました。
    学校帰りに時間を潰している時、古本屋で背表紙に惹かれて手に取りました。この題名が気にかかるような人の多くはそもそもきっとこの本に特別な思い入れを持てるような性質をしているんだろうと思います。

    • れふぃさん
      今日学校帰りにBOOK・OFFで買って大切な1冊になりました泣
      今日学校帰りにBOOK・OFFで買って大切な1冊になりました泣
      2024/02/07
  • 真っ先に抱いた感想は「メンヘラっぽい」。
    この短編集の登場人物たちも、作者も、この本を気に入る読者たちも。
    これは馬鹿にしているわけではない。
    人間の心を描写する必要のある小説というものにおいて、「メンヘラ」というのはとても現代らしい扱うべき対象だと思う。

    「メンヘラ」というネットスラングは最近では大分世間にもなじんできたと思うが、はっきりと説明するのは難しい。
    一言でいえば「心の健康を損なっている人」を指すが、多くの場合、その病状が著しく重い人は含まれない。
    希死念慮が中途半端に強いものの実行には移さない、いわゆる「かまってちゃん」のような人を揶揄する意味合いを含めて呼称することが多い。

    ただ、重度にしろ軽度にしろ心が健康でないのは明らかで、現代の日本にはそういう人たちが一定数いる。
    男女は問わないが、若者に多いイメージ。

    彼らにとって、この短編集は少しの救いになるかもしれない。
    メンヘラがメンヘラなりに納得できる一歩を踏み出した作品が揃っていて、過度な期待を持たせるような現実離れしたハッピーエンドではなくて、妥協点を見せてくれる。
    もしかすると、自分を客観視するきっかけにもなるかもしれない。

    「ラスト・デイ」
    「さて、私は死にたい。」の一文から始まる本作の主人公は、強い希死念慮を抱いているものの、「一度しか死ねないからもったいない」とのたまう。
    そんな主人公が、精神病院の退院日を最後の日と決めた。
    自分の不安定な精神のせいで周囲の人間を振り回すわかりやすいメンヘラなのだが、終盤にかけて真意が見えてくると、清々しい物語に変わるのが面白い。

    「ロボット・アーム」
    不運な事故から右手が義手となった主人公は、力への憧れを刺激されて、その欲望がエスカレートしていく。
    力を望むこと、力を手に入れること、その力を行使できることのそれぞれの間には大きな隔たりがあるな。

    「夏の眠り」
    主人公は幼馴染との出来事がトラウマになっていて、その記憶から逃れるために明晰夢を見ようとする。
    悩みは人それぞれだとは思うが、悩み込みすぎておかしな方向にいってしまうのも病みがちな人の特徴か。

    「彼女の中の絵」
    絵の技術はあるのに絵を創造するセンスはないと悩む主人公のもとに、夢の中で見た絵を探しているという女性が現れ、主人公はその絵を再現することにする。
    人それぞれにできることとできないことがあり、協力し合うという正しい人間の営みを見た。
    この短編集の中で一番気に入った。

    「虫の眠り」
    学校でいじめられていた少女が、同級生をボールペンで刺す事件が起こった。
    しかし、刺されたのはいじめの主犯格の生徒ではなく、いじめ被害者の少女に寄り添っていた生徒だった……。
    「藪の中」のようでもありつつ、「人は自分が見たいように物事を見る」ということによりフォーカスした作品。
    おもしろかったが、本当に病んでしまった人間は怖いなという感想が上回ってしまった。

    「サメの話」
    自分自身のコントロールもままならず、ぐちゃぐちゃな人生を歩みながらも、「サメを飼うこと」だけを目標に生きている主人公の物語。
    強烈な欲望があっても、人生それだけではない、というか、環境が変われば望むものも変わる……。

    「水槽を出たサメ」
    サメ視点で語られる「サメの話」の後編。
    「サメの話」の物語としてはすこし蛇足だったようにも感じるが、この短編集全体の総括のような位置づけでもあるので、不要とまでは言えないか。

  • 人生のベストエンドに詰んでる人達がグッドエンドかもしれないルートを進んでいく様を見守るようなお話でした。どうしようもないけれど確かに救いがあると感じました。自分の事をゴミ屑だと思っているような人間ほど突き刺さる話であるような気がします。全てのお話に共感ポイントがあって1冊まるごと好きにならざるを得ませんでした。

  • 最後のサメの話が好き。

  • ラスト、デイ1年前の友達も家族も上手くいかなくて自分のお葬式のセットリストを考えてた厨二病の自分を思い出して切なくなった。
    ロボットアームは、まつパ、眉毛ワックスを終わったあと、なにかの戦いに勝ったような気持ちとなんか似てるなって思った。
    虫の眠りが1番好きだった。自分がどう見られるか、その判断は、価値は、そばにいる人で計られるそういうところが共感でグサッときた。最後の1文の
    皆、各々が信じる夢の中で、生きているのだから
    を4回読んだ。
    サメの話は、自己肯定感が低くなった時に、自分は、そう思わないように人間力を上げろとか、実力をつけろとか言われたいんじゃなくて、ただただ話を聞いてほしい、そんなことないよって生あたたかい言葉をかけて欲しいだけなんだなって思った。

  • 渡辺優さん初めてだったけど超好みの文体だった。

  • 第一話の語り手が死にたがりの厨二病だったので一度積んだ。そこを越した先は読みやすい。やはり一番良かったのはタイトルのサメが登場する第6話と7話。喋るサメの一人称が「吾輩」という発想がいい。


  • ファンタジーな独特な世界観。
    個性的な作品だと思った。
    どの話も少し前向きな気持ちになれる。

  • 自殺未遂を繰り返す女が決意する「最後の日」の顚末とは…。「ラスト・デイ」をはじめ、サメを飼うことを人生の目標にしているキャバクラ嬢を描いた「サメの話」など、全7話を収録。痛快な毒気が炸裂する短編集。

    宮城出身ということで借りてみた。
    ちょっと苦手かも。

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著者プロフィール

1981年静岡県生まれ。天理大学人間学部宗教学科講師。東京大学文学部卒業,東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了,博士(文学)。2011-2013年,フランス政府給費留学生としてパリ・イエズス会神学部(Centre Sèvres),社会科学高等研究院(EHESS)に留学。2014年4月より現職。専門は宗教学,とくに近世西欧神秘主義研究,現代神学・教学研究。訳書に,『キリスト教の歴史 ―― 現代をよりよく理解するために』(共訳,藤原書店,2010年),論文に「もうひとつのエクスタシー ―― 「神秘主義」再考のために」(『ロザリウム・ミュスティクム:女性神秘思想研究』第1号,2013年),「教祖の身体 ―― 中山みき考」(『共生学』第10号,2015年)など。

「2016年 『ジャン=ジョゼフ・スュラン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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