- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784087458299
感想・レビュー・書評
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短編集で読みやすく、ファンタジー感のある話や人間のドラマが読める
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真っ先に抱いた感想は「メンヘラっぽい」。
この短編集の登場人物たちも、作者も、この本を気に入る読者たちも。
これは馬鹿にしているわけではない。
人間の心を描写する必要のある小説というものにおいて、「メンヘラ」というのはとても現代らしい扱うべき対象だと思う。
「メンヘラ」というネットスラングは最近では大分世間にもなじんできたと思うが、はっきりと説明するのは難しい。
一言でいえば「心の健康を損なっている人」を指すが、多くの場合、その病状が著しく重い人は含まれない。
希死念慮が中途半端に強いものの実行には移さない、いわゆる「かまってちゃん」のような人を揶揄する意味合いを含めて呼称することが多い。
ただ、重度にしろ軽度にしろ心が健康でないのは明らかで、現代の日本にはそういう人たちが一定数いる。
男女は問わないが、若者に多いイメージ。
彼らにとって、この短編集は少しの救いになるかもしれない。
メンヘラがメンヘラなりに納得できる一歩を踏み出した作品が揃っていて、過度な期待を持たせるような現実離れしたハッピーエンドではなくて、妥協点を見せてくれる。
もしかすると、自分を客観視するきっかけにもなるかもしれない。
「ラスト・デイ」
「さて、私は死にたい。」の一文から始まる本作の主人公は、強い希死念慮を抱いているものの、「一度しか死ねないからもったいない」とのたまう。
そんな主人公が、精神病院の退院日を最後の日と決めた。
自分の不安定な精神のせいで周囲の人間を振り回すわかりやすいメンヘラなのだが、終盤にかけて真意が見えてくると、清々しい物語に変わるのが面白い。
「ロボット・アーム」
不運な事故から右手が義手となった主人公は、力への憧れを刺激されて、その欲望がエスカレートしていく。
力を望むこと、力を手に入れること、その力を行使できることのそれぞれの間には大きな隔たりがあるな。
「夏の眠り」
主人公は幼馴染との出来事がトラウマになっていて、その記憶から逃れるために明晰夢を見ようとする。
悩みは人それぞれだとは思うが、悩み込みすぎておかしな方向にいってしまうのも病みがちな人の特徴か。
「彼女の中の絵」
絵の技術はあるのに絵を創造するセンスはないと悩む主人公のもとに、夢の中で見た絵を探しているという女性が現れ、主人公はその絵を再現することにする。
人それぞれにできることとできないことがあり、協力し合うという正しい人間の営みを見た。
この短編集の中で一番気に入った。
「虫の眠り」
学校でいじめられていた少女が、同級生をボールペンで刺す事件が起こった。
しかし、刺されたのはいじめの主犯格の生徒ではなく、いじめ被害者の少女に寄り添っていた生徒だった……。
「藪の中」のようでもありつつ、「人は自分が見たいように物事を見る」ということによりフォーカスした作品。
おもしろかったが、本当に病んでしまった人間は怖いなという感想が上回ってしまった。
「サメの話」
自分自身のコントロールもままならず、ぐちゃぐちゃな人生を歩みながらも、「サメを飼うこと」だけを目標に生きている主人公の物語。
強烈な欲望があっても、人生それだけではない、というか、環境が変われば望むものも変わる……。
「水槽を出たサメ」
サメ視点で語られる「サメの話」の後編。
「サメの話」の物語としてはすこし蛇足だったようにも感じるが、この短編集全体の総括のような位置づけでもあるので、不要とまでは言えないか。 -
以前読んだアンソロジーの「行きたくない」を読んで気になった渡辺優さんの短編集。
社会で上手く生きられず、どこか歪んだ人たちの願望が凝縮されている。妄想、空想と現実が交わる日々から少しずつ現実で自己を取り戻すまでの描写が良かった。 -
夢がテーマの短編集ですがどの切り口も今まで読んだどの本にも属さない斬新さを感じました。当初は巻頭の「ラスト・デイ」の毒気に当てられて読み進めてよいかどうか迷いましたが杞憂でした。「彼女の中の絵」のほっこり感、とても心地よかったです。
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人生のベストエンドに詰んでる人達がグッドエンドかもしれないルートを進んでいく様を見守るようなお話でした。どうしようもないけれど確かに救いがあると感じました。自分の事をゴミ屑だと思っているような人間ほど突き刺さる話であるような気がします。全てのお話に共感ポイントがあって1冊まるごと好きにならざるを得ませんでした。
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最後のサメの話が好き。
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サメだ…!
帯に納得である。
短編集ではあったけど、その数の分だけの人生と、彼らの追う夢を見た気がした。あとサメ生も。 -
文通友達さんとの読書会の課題本としていただいた本です。初めましての作家さん。
面白かったです。始めに収録されている「ラスト・デイ」の最初の一文から惹き付けられました。
消えたかったり、現実から逃避していたり、という、なんだか近しい病んだ人々…と思ってしまいましたが、「サメの話」「水槽を出たサメ」がとても好きでした。
「水槽を出たサメ」は、これがこの本の締めくくりのお話で良かった、と思いました。エーテルのサメが空中を泳ぐ様が綺麗で。そして涼香が前を向くのも。涼香も少女もサメを「サメ!」と呼んでいるのも好きです。
この作家さんの他の本も読みたくなりました。大森靖子さんの帯も良いです。
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