リーチ先生 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (600ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087458855

感想・レビュー・書評

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  • 抑揚があるわけではないが、いつのまにか読み終わっていました。焼物の話です。

  • 日英の文化交流の架け橋になるべく勇み来日した若き英国人、バーナード・リーチ。通訳兼お世話係としてリーチ先生に寄り添う沖亀之介(架空の人物)。芸術と師弟愛に生きた2人を軸とした大河小説。

    リーチと白樺派の同人達が日々闘わせる熱き芸術論。そして、「太古の昔から、この世に存在する土と火。そのふたつを、人間の手が結合させ、新しい形として創造する」伝統工芸、美しくて実用的な作品を生む "陶芸" とリーチとの運命的な出会い。登り窯での焼成に試行錯誤する日々。日本で高みに達した陶芸技術を、今度は英国最西端の地、セント・アイヴスに芽吹かせようとするリーチ。

    リーチと亀之介、柳宗悦、富本憲吉、濱田庄司、高村光太郎らの芸術を通した熱い交流に、読んでいて鳥肌が立った。

    文章もとても良かった。例えば、「窓を開け放つと、五月の薫風がレースのカーテンを揺らしてやさしく吹き込み、庭で咲き乱れる花々の芳香が流れ込んでくる。カーテン越しの陽光は、濡れたようにやわらかく、心地よい日だまりを床の木目の上にこしらえていた」。"濡れたようにやわらかく" 、なんてビビッドな表現なんだろう。

    著者の美術・芸術史を題材とした作品は、絶品ばかりだ!

  • 1954年4月、大分県小鹿田の窯元をイギリスの有名な陶芸家、バーナード・リーチ先生が訪ねてくることになり、見習いの高市は師匠から急遽お世話係を言いつかる。
    世話をしながらリーチの技術を学ぼうとする高市に、リーチはある意外な質問を投げかける。「君のお父さんは、オキ・カメノスケ、という名前ではありませんか」
    父の名前を告げられ、驚く高市。そして話は1909年、リーチと沖亀乃介との出会いに遡る。

    この話は、日本で陶芸を学び、日本とイギリスの文化の懸け橋になろうとしたバーナード・リーチの生涯を、彼と親交を深めた柳宗悦、富本憲吉、濱田庄司といった民芸運動の立役者たちの活動とからめながら、沖亀乃介という陶芸家の目線で語る。

    時代は第二次世界大戦をはさみ、経済的にも政治的にも芸術を極めることが困難な時代もあったと思うが、本書では戦時中のことはバッサリと省き、あくまでも芸術に身をささげた若者たちの熱い情熱を中心に描く。
    意見の相違はあれど、芸術への取り組みの真剣さは皆同じで、言葉の違いや文化の違いを超えて、本気でぶつかり合いながらより良いものを目指していく。各々の真っすぐな想いに、芸術の力こそ世界を平和にすることができるのではないか、と信じたくなる。

    また、物語の中心となる、リーチ先生と彼の活動を陰で支える「カメちゃん」こと沖亀乃介との交流にも心温まる。
    身寄りのない亀乃介は、高村光雲の家で書生として住み込みながら芸術を学ぼうとするが、無学の自分を引け目に感じ、自分の進みたい方向が見つけられずにいる。一方リーチは、日本の文化を学びたいという一心で、身一つでイギリスから光雲のもとを訪れる。生まれ育った環境が全く異なる二人だが、信頼で結ばれ、互いに影響を与えながら支え合っていく様子は微笑ましく、清々しい気持ちになる。

    リーチが亀乃介とともにはぐくんだものが、時代を超えて後の世代に受け継がれていく。芸術の力を信じる原田マハさんらしいストーリーで、読後感は爽やかである。

  • 史実ベースのフィクションらしく、「リーチ先生」他たくさんの名だたる芸術家が登場してきました。

    芸術関係は相変わらずからっきし、陶芸となるとなおさらですが、師を仰ぐ弟子の聡明な心、生き方をカメちゃんが教えてくれました。またもや、原田氏の作品に知らないことを教わり、少し興味まで持たせてもらいました。

    「民陶」「用の美」に看過され、日常で接している陶器にも目を向けてみました。

  • 面白かった。心に染みる物語。
    史実をもとにしたストーリ。
    陶芸の世界において、実在の人物バーナードリーチとフィクションの人物亀之介の子弟の物語。そして、亀之介と高市親子の物語。
    最後ぐっと来ます。

    ストーリとしては、
    1954年、大分の小鹿田を、有名なイギリス人陶芸家バーナード・リーチが訪問。そこで、リーチの世話をするため高市が指名されます。
    リーチと高市が話をしていく中で、亡父の亀之介がかつて、リーチに師事していたことを知ります。

    そして、時代がさかのぼり、1909年。
    日本の美を学ぶため来日したリーチを亀之介が師事することになり、二人の子弟関係が始まります。
    ここから、亀之介の視点からみたリーチとの二人の関係が語られていきます。
    そして、二人は陶芸の道へ..
    柳宗悦や濱田庄司との出会いと芸術への語らい。
    さらには、イギリスに戻って、イギリスで窯を構えることに。
    それをずーーと支える亀之介
    亀之介から語られるリーチの人物像
    暖かく、優しい。日英の懸け橋となるという熱い想い。
    そして、別れ..

    再び、エピローグで語られる高市とリーチとの会話。
    そして、初めて知る亡父の想い。
    熱いものがこみ上げます。

    「名もなき花」
    胸に刺さりました。

    これは、お勧め

  • 登場人物の描き方が生き生きしていて、当時の芸術家たちの空気が伝わってくるよう。

  • そういえば、セント・アイブスに“リーチ窯”が開かれて、今年2020年で丁度100年に当たる。
    記念の年にこの作品に出会えて幸いだった。

    1954年、大分県の小鹿田(おんた)焼の里を、バーナード・リーチが訪問する。
    高名な芸術家の滞在に、村を挙げての大歓迎。
    父の遺言で小鹿田の窯元に弟子入りしていた、沖高市(おき こういち)は、リーチのお世話係に任命される。
    そこで彼は、流れの陶工だと思っていた父・沖亀之介(おき かめのすけ)が昔、リーチに師事していたことを知る。

    時代は、リーチが高村光太郎の紹介で来日し、高村光雲を訪ねる場面、1909年に遡る。
    ここからは、『東京編 リーチと白樺派の芸術家たち』と言おうか。
    柳宗悦(やなぎ むねよし)、志賀直哉、武者小路実篤らという、後に大家となる芸術家たちとの出会い。
    若き日の彼らが芸術への熱意で繋がり合い、おおいに青春を謳歌している様子が眩しい。
    リーチは、そこで陶芸に出会う。

    1920年、日本で我がものとした陶芸のノウハウをイギリスに持ち帰り、根付かせるという夢のためにリーチは帰国する。
    日本からも後に人間国宝となる濱田庄司などが同行した、
    『イギリス編 リーチ窯の誕生』という感じ?

    この、リーチの来日からイギリスでの窯の完成まで、助手としてリーチに師事し、家族のように寄り添いながらその仕事を見つめ、ともに歩んだのが、高市の父・沖亀之介だった。
    この作品は、亀之介を通して、リーチの、物を作る人の大きな手、優しく見つめてくる鳶色の瞳、繰り返し語りかける「ものづくり」への情熱を感じられるようになっている。
    「リーチ先生」というタイトルは、亀之介の敬愛の気持ち。
    リーチとその周辺を描く物語であるが、評伝を読むだけでは得られない、“感動”というものを味わえるのは、この沖亀之介の存在のおかげなのだ。
    読み進むにつれて必ず陶芸をやりたくなってくるであろう読者が、弟子としてリーチ先生とともに歩み、導かれる、そうやって入り込むことのできる入れ物が亀之介なのだと思う。

    大成して世に名を残せる人は少ない。
    しかし、誰しも毎日何かを作り出している。
    それは誰かのためになっている。
    そして何かを創ろうとしている。
    好きなことがある、やりたいことがある…まだできていないけれど。
    そんな人たちもみんな「名もなき花」なのだ。
    その象徴が沖亀之介だろう。
    シンシアの存在も良かった。
    名前が月を現しているのも意味があるのだろう。

  • いい小説でした。原田マハさんの書く物語は、読み終えたときに気持ちが温かくなるから好きです。
    『リーチ先生』ことバーナード・リーチや柳宗悦、高村光太郎、岸田劉生、武者小路実篤…登場人物の豪華な顔ぶれに圧倒されます。白樺派を立ち上げる若い芸術家たちの、エネルギーに満ち溢れた様子や、リーチが陶芸に出会った場面の描写など、とても生き生きしていて、読んでいてワクワクしました。
    大分県出身の私にとって小鹿田焼の器は子供時代食卓に普通にあった懐かしいもの。祖母や母がしていたように、私も使ってみたくなりました。
    リーチの助手である亀之介は架空の人物ですが、解説で阿刀田高さんが書かれているように、この亀之介の存在感がものすごくリアルで、実在の人物にこれだけ上手くフィクションの人物を絡めて描けるマハさんのストーリーテリングは圧巻です。そして、リーチと亀之介の師弟関係の美しさに心打たれます。
    「名もなき花」という言葉が胸に響きました。

  • とってもよかった!感動的。。
    民藝の歴史などを調べると必ず出てくるイギリス人の陶芸家「バーナード・リーチ」の史実を基にした小説。
    器や陶芸に興味がある人におすすめ。

    解説にもあった通り、どこまでが史実でどこまでか創作なのか、読んでいると分からなくなった。その位、史実を徹底して研究し書いたことがよく分かり、そこに織り込むフィクションも違和感がなく良く馴染んで巧みだった。
    沖親子の存在はフィクションでも、そのきらりと光る存在感と受け継がれる精神は、この小説にはなくてはならないものだった。私も「名もなき花」として日本の陶芸を受け継いで来てくれた先人達に感謝したい。

    リーチの「欲望が創造を生む」という言葉が印象的だった。

  • 原田マハさんの小説が好きで無条件に読んでしまいます
    リーチ先生のことは知らなかったけど
    教科書や近代史に出てくるすごい方々が次々と出てくるのも面白かったです
    本当に皆さんそれぞれに交流があった当時の時代の寵児であり、その芸術の道は今に続いているような気がしました
    陶芸の世界は奥深いんですね
    読み終わるまでに少し時間がかかった本ですが読後感は良かった
    カメちゃん、コウちゃんは実在しないようですが素朴で実直でとても好き

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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