リアルワールド (集英社文庫(日本))

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087460100

感想・レビュー・書評

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  • 桐野作品を読むと具合が悪くなることもしばしばなんですが、この作品はむしろ切ないし悲しいものでした。
    もちろん書いている桐野さんは大人なので実際に高校生がこんな感じなのかどうかはわからないのですが、年齢特有の生きづらさは痛いほど伝わってきました。
    ものすごく簡単に書くとある事件に女子高生のグループ4人がかかわっていって、悲劇的な結末の末に残った者が大人になっていくという感じのストーリーです。
    桐野作品は読むたびに自分がきちんと理解しているかあまり自信が持てないのですが、これはかなり読みやすい作品だったと思う。

  • 登場人物が全員アホで虫唾が走る。
    しかし、この本で大きく救われる人はいると思う。
    それが「救う」と言う言葉で合っているのかはわからないが。そうであって欲しいと思う。

  • 覗きを咎められた18歳の少年は母親を金属バットで殴り殺した。盗んだ自転車のカゴのなかにあった携帯電話を使い、同い年の女子高生たちとつながる少年。

    それぞれに悩みを持って生活していた女子高生たちは親殺しの少年に大いに興味を持つ。
    電話で話して自分と重ねてみたり、逃亡用の自転車と携帯電話を買い与えてみたり、会いに行ってみて同調した挙句、一緒にタクシー強盗を行って死んでしまったり、嫌悪感を抱いて通報したあと飛び降り自殺したりする。

    ---------------------------------------

    「岡山金属バット母親殺害事件」を元に書かれた作品とのことだったので期待して読んだ。けれども母親を殺した少年の心理描写は少なくて、少年に影響を受ける四人の女子高生の視点がメインだったので勝手にガッカリしてしまった。

    ”進学校の落ちこぼれの自分には女子との接点なんか今まで全然なかったけど、親を殺して逃げてることで女の子たちから興味を持ってもらえてラッキーっす!”みたいな少年の思考も理解しがたかった。なんなんだお前は。
    あの娘ぼくが母親を殺して逃げたらどんな顔するだろう、とでも言いたかったのか。
    もっと悩んで苦しむべきだろう。その苦悩っぷりを堪能したかったんだよ。

    畳みかけるように登場人物たちが皆「自分のせいで……」と言い出す終盤は、全員思考回路どうかしてるなっていう感じだった。勝手に負い目を感じて、何かを悟ったような気分に酔っている彼女たちが哀れだった。

    自分には彼女たちの言うリアルワールドは理解できない。何かを悟ったような気になったりもしたくない。
    今日もご飯を食べて寝る。リアルフードを食べる。

  • 隣に住む同級生が、ある日母親殺しの犯人として逃亡。逃亡中に主人公の友人たちにコンタクトをとり、少しずつ交わっていく。

  • 一夏でこんなに状況が変わってしまうとは…てくらいな展開。読みやすかった。

  • 高校生特有の青臭かったり、悲観的で、大人を軽蔑するような気持ち。
    それをとっくに手放してしまった大人が読むと、なんとも言えない気持ちになる。
    結局は大きな社会の中のちっぽけな存在であり、何にも抗えないんだよな…と、なんだか高校生の時の感情が懐かしくなる。

    事件自体は大きく扱っておらず、とくにどんでん返しもない。
    最後はかなりスピーディに終わる。取り残された主人公の行く末が気になる。

  • ある夏の日、隣家の少年「ミミズ」が母親を殺した。あたし、女子高生・十四子と友人達は唐突に事件に関わり、思いもかけない事態に…。

  • 「確かに、人の死には軽重があった」「テラウチの自殺は、ものすごい力で、あたしの心の中にあったものを強固にしたり、空っぽにした。」 言い得て妙、トシちゃんにとってテラウチは恐らく人生で最も重要な存在だったのだろう。 テラウチが最終盤に死んでしまったことでトシちゃんのその後の心の動きはあっさりとしか描かれていないが、 私は自分にとって最も大切な存在が消えてしまうことを考えて、暗澹たる気持ちにしかならなかった。
    また、きっと私は 悲しさとか、哀れみとかそんなことよりも自分を置いて逝ったことへの怒りとかこの先の人生への絶望などを強く感じるだろうとも思った。 トシちゃんは、果たして本当に受け入れることができるのだろうか。

    時々、私はこのように小説を読んでいる最中に感情移入?のし過ぎで小説から手を離す瞬間がある。それは、興奮し過ぎて我を忘れてページを捲る瞬間 とか驚き過ぎてこれまた小説を放り出す瞬間と並んで、物語と作者に最高の敬意を示す瞬間だ。こういう場面が「リアルワールド」では私の元を何度も訪れ、 その度私を大きく変えた。だから「リアルワールド」は私の中で最高傑作だ。桐野夏生に「冒険の国」で出逢い、「今後より進化していくであろう彼女 の物語を想像」したことはやはり間違っていなかった。

    「私は唇を尖らせて拗ねた顔をした。男の前で媚びる私。なんとか手玉に取りたいけど、オトコと会ってる時の私は受け身になる。」これは衝撃だ。 感情には千差万別あろうが、今まで私がこの感情を抱いたことは一度もない。
    しかし、だからと言って、この感情に対して全くの無知と言うわけではない。 何故なら、感情は他人のそれからも感じ取ることができるからだ。 つまり、私は男として口に出すことを憚られるタブーが、鮮やかに詳らかにされていることに衝撃を受けたのである。
    また、主役パートが始まってこの表現まで10ページ足らずにも関わらず、既にキラリンに好意を抱いてしまっている自分と、容易に抱かせてしまう作者の 文才にも驚愕し、唯々感嘆していた。では、一体この部分が、私を実際にどのように変えたのか。
    それは、現段階ではわからない。私を大きく変えたと偉そうに言ったものの、変わったというのは後から気づくもので、その瞬間には分からない。 だから、変わったは変わったがどのように変わったのかはわからないと曖昧にしているわけだが、しかし、恐らくキラリンは私を変えた。

    ということで、話題を本作最大の課題(私にとっての)に移す。それは、トシちゃん、ユウザン、ミミズ、キラリンと来て最後に残ったラスボス的存在、 テラウチである。彼女はその他の登場人物たちのミミズへの扱いを心配&傍観(トシちゃん)、[同情(ユウザン)、幻想(キラリン)-利用]と評して 自らを批判と位置づけた。
    その実は、「あたしの大好きな、ぐるぐる巡る想念がなさ過ぎるんだもの。考えることを忌避しているんだもの。 わかりやす過ぎるんだもの。そういうわかりやすさで自分の懊悩を単純化するな、と怒りを感じた。」
    ラスボスだけあって測りかねるところもあるが、恐らくこれがテラウチの正体だったのではないだろうか。 「ぐるぐる巡る想念」が足りないミミズらを軽蔑し、自身はそれを突き詰めた結果自殺したテラウチ。しかし、見逃してはならないのが彼女が 「ぐるぐる巡る想念」を大好きであったということだ。彼女がもし、その自身の矛盾に気づくことができていたとしたら、恐らく自殺を選ぶことは なかったのだろうと思う。それは、私が「ぐるぐる巡る想念」が楽しくて生きている節まであるような人間だから、強く思うのだ。

    私は勝手に、この4人の中で作者が自身を最も投影したのがテラウチなんだろうと思っている。何故なら、「ぐるぐる巡る想念」の虜のような人間でないと、 こんな物語は描きようがないだろうからだ。
    そんな作者の体現でもある「ぐるぐる巡る想念」の対比として、 作中でこれでもかというくらい貶められているのがミミズである。彼は♂としてもキラリンに徹底的に貶められるのだが、まあそれはそれとして 「あんた、K高の落ちこぼれなんでしょう。...ユウザンの話じゃ、東大受験も諦めなきゃな、とかまだアホなこと言ってたって聞いてるよ。... 母親殺して、追われて、何が楽しいのかねー」テラウチがミミズを痛烈に非難したこの瞬間、、物語内で巧妙?に創り上げられていたミミズの幻想は 跡形もなく崩れ去った。その後は、自身がそれまで見下してきたキラリンからも、「お母さんを殺して、あたしを手なずけて、テラウチに甘えて、 お父さんを殺しに行くとか言っちゃって。自分が頭いいと思ってるんでしょう。...この世には自分中心の世界しかないと思っているんだよね。 ほんとのバーカ」と言われる始末である。
    これは「ぐるぐる巡る想念」を信仰する私の感情そのものでもあるから、私はテラウチがミミズと 通話したあの時点で物語は決着したと言っても良いだろうと思う。先述したように、私はテラウチが高校生であったが故に未熟で、だからあのような 結末を辿ったのだろうと思っている。しかし、当然として私もまだ未熟なのだから、いつかこの物語を読み返した時にまた違った部分に 結末を持ってくることがあるのかもしれない。つまり、現段階ではこれが結末だということだ。

    p141 オトコと会ってる時の私は受け身になる。
    p168 東大受験も諦めなきゃな、とかまだアホなこと言ってたって聞いてるよ。
    p187 心配、同情、幻想、批判
    p214 この世には自分中心の世界しかないと思っているんだよね。
    p244 自分の懊悩を単純化するな
    p263 確かに、人の死には軽重があった

    http://nobuko.html.xdomain.jp/riaruworld.html

  • 【2023年78冊】
    桐野さんの小説はどこかどろどろとした人間の感情がとてもリアルに書かれていて、この作品も四人の少女と一人の少年の、不安定な心の揺れ動きを見事に書ききってるなと思いました。まるで山の天候のごとく、次々と変わりゆく心情を抱えながら、望まざるとも取り返しのつかない結末に向かって走っていく彼ら。やっぱり桐野さんの作品らしくすっきりとした読了感は得られないのですが、区切りがついた終わり方だったなと思いました。

  • 高校時代に読んだ。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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