ミャンマーの柳生一族 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087460230

作品紹介・あらすじ

探検部の先輩・船戸与一と取材旅行に出かけたミャンマーは武家社会だった!二人の南蛮人に疑いを抱いたミャンマー幕府は監視役にあの柳生一族を送り込んだ。しかし意外にも彼らは人懐こくて、へなちょこ。作家二人と怪しの一族が繰り広げる過激で牧歌的な戦いはどこへ…。手に汗握り、笑い炸裂。椎名誠氏が「快怪作」(解説)と唸り仰天した、辺境面白珍道中記。

感想・レビュー・書評

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  • 高野氏離れが続いていたけど、先日の『語学の天才まで1億光年』によって長い眠りから覚めた。
    自分への快気祝いにと今回手に取ったのは、世にもおどろおどろしいタイトルと表紙が特徴の本書。(相変わらず、刊行年順関係なしに読んでいくスタイルをキープ)
    いつものことながら、彼の文筆にかかれば恐怖は軽減され、寧ろ愉快な気分にさえなっていた。

    早大探検部の先輩で作家の船戸与一氏とミャンマーへ取材に出かけた著者。今回は珍しく観光に近い合法的な旅行なのかと思いきや、そんなはずはなく。題して「柳生一族と過ごすミャンマー辺境14日間」の旅だ。

    ここで早速、謎のワード「柳生一族」が登場。これは現地の軍情報部を徳川家の大目付であった柳生一族に準えた、高野氏による例えである。彼らの監視下で著者と船戸氏は取材をすることになったのだ。
    彼は事あるごとに人や事物の呼称を独自開発しており、例えば政治の実権を握るミャンマー国軍を「徳川家」。他にも「江戸ヤンゴン」「大坂マンダレー」と双方の第一・第二都市をくっ付けたり等しているが、それらが妙にイメージしやすい上にしっくりくるもんだから侮れない。

    内容よりも先に彼の秀逸なネーミングセンスに度肝を抜かれていたが、船戸氏の「(下調べや細かいことは気にしない)行けば何とかなる」マインドにも実は感心していた。
    特にツアーに同行した柳生一派とお酒を酌み交わすシーンは痛快だった。ある程度考えていらっしゃるとは思うが、後は成り行き任せで現地に溶け込むというのが本当にお上手。時には現地の人まで(意図せず)翻弄する。そのスキルの高さに何度も衝(笑)撃を覚えた。
    性格がほぼ真逆の高野氏とは抜群のバディだったんじゃないかな。この2人にかかれば柳生一派の監視役も大したことなく見える笑

    自分も抗議デモの勃発する数年前にミャンマーを訪れたことがある。
    しかし、料理は日本人の口に合うまろやかテイストのものが多く、国民性はどことなくおっとり穏やかというしょぼい感想しか持ち合わせていない…。
    そのせいか、昨今のデモや「柳生一族」・更に主君の「徳川家」に見られる不穏な影と実際目にしたミャンマーがなかなか結び付かずにいる。(本書の旅は色々と腑抜けて見えたが、後日談の「政変」にて一気に意識を持って行かれた。道中では味わうことのなかった胸のざわつきも感知したし)

    ミャンマーの国民性について自分にはおっとり穏やかだと映ったが、高野氏は対等な立場同士だと非常に社交性・国際性が高い人々だと書かれている。(事実、一派への緊張感も次第にではなく、急激に薄れていた)
    民族と宗教の多様性がそれらを養っているというのが何もかもを見てきた著者の推測であるが、それらもまた彼らの寛容さ・穏やかさに直結しているのかな。
    彼が実際目にしたミャンマーを自分も恋しがっている。

  • 今から20年近く前のミャンマー取材旅行記。
    ビザ取得から入国審査、ミャンマー国内での行動など、監視も付いてさぞかし厳しいのだろうと思いきやそうでもなかったりと、予想外だ。
    軍や政権については徳川幕府に例えて解説していて、分かりやすい上にちょっとコミカルでもあって、これまた面白い。

    ガイドには監視役の柳生一族。
    ずっと付きっきりでストレス溜まりそうだなと思うけれど、その柳生がへなちょこなおかげか割と楽しそうだ。ヨン様に嫉妬して意気投合したり。

    今がどうなのか知らないけれど、取材当時の政府は検閲や留学生の選別など、ものすごく外国を警戒していたらしい。
    全部チェックするなんて本当だろうか。勤勉なのか暇なのか分からないな。
    でも市民の様子は、軍事政権という言葉からイメージするピリピリした雰囲気とは違ってのんびりしていて、政治の話に気軽に応じてくれるのには驚いた。
    外国人を警戒していないし、とても親切で冗談がうまくて、そんなところが素敵だ。
    ミャンマーの中のことをちょっとだけ知ることが出来た。

  • いつものような、純粋に自分の探検道中記ではなく、探検部の先輩・船戸与一との取材旅行での記録。……というか、旅行中に出逢った現地の人たちとのやりとりをからめつつ、ミャンマーの政治や現状(2004年当時)を江戸時代に例えておもしろおかしく、かつ分かりやすく説明する内容でした。最近ではさらにクーデターが起こり、未だ激動の国であるミャンマー。その国の成り立ちを楽しく知る入門編として最適。

  • 高野さんの冒険はいつだってワクワクさせてもらえる。そして面白い視点と解釈、というか噛み砕き方と味わい方。
    どんな場所にいる人だって、どんな立場にいる人だって、袖触り合うも他生の縁。旅は道連れで、別れたあの人は今どうしているんだろうと遠くの空を思う。

  • 「高野秀行」の面白おかしいノンフィクション作品『ミャンマーの柳生一族』を読みました。

    紀行は、昨年11月に読んだ「村上春樹」の『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』以来ですね。

    -----story-------------
    旅行ガイドは軍情報部!?
    爆笑必至の珍道中記。

    探検部の先輩「船戸与一」と取材旅行に出かけたミャンマーは武家社会だった!
    二人の南蛮人に疑いを抱いたミャンマー幕府は監視役にあの「柳生一族」を送り込んだ。
    しかし意外にも彼らは人懐こくて、へなちょこ。
    作家二人と怪しの一族が繰り広げる過激で牧歌的な戦いはどこへ…。
    手に汗握り、笑い炸裂。
    「椎名誠」氏が「快怪作」(解説)と唸り仰天した、辺境面白珍道中記。
    -----------------------

    軽めの本が読みたくて本書を選択… ふざけたタイトルに目を奪われてフィクション作品だと思って買ったのですが、、、

    実はノンフィクション作品… こんなエンタテイメント性のある旅行記は初めて読みましたね。

     ■前口上
     ■序章 ミャンマーは江戸時代
      ・ミャンマー柳生、おそるべし
     ■第一章 アウン・サン家康の嫡子たち
      ・柳生、仕事すべし
      ・幕府にたてつく人々
      ・幕府の豆鉄砲狩り
      ・ミャンマー幕府成立とスー・チー千姫
     ■第二章 柳生三十兵衛、参上!
      ・柳生三十兵衛、参上
      ・謎の男は「裏柳生」
      ・柳生一族、懐柔作戦
      ・かけがえのない「元麻薬王」を大切に
      ・スーパー外様「ワ藩」別件
     ■第三章 たそがれのミャンマー幕府
      ・中国がアメリカに見えた日
      ・武家社会はつらいよ
      ・鎖国の中の国際人
     ■第四章 柳生十兵衛、敗れたり!
      ・アウン・サン家康の風呂場
      ・柳生と老中の死闘
      ・ミャンマーのシャーロック・ホームズ
      ・柳生十兵衛、敗れたり
     ■終章 柳生一族、最後の戦い
      ・キン・ニュン宗矩はタカノを知っていた!?
      ・柳生一族の没落
     ■あとがき
     ■解説 椎名誠

    2004年(平成16年)に著者の「高野秀行」が、冒険小説作家「船戸与一」の取材旅行に同行する形で、ミャンマーを旅行した際の様子を描いたノンフィクション… 解説の「椎名誠」が「快怪作」と表現したほどのユニークな辺境面白珍道中記です、、、

    本書では、当時、軍事政権だったミャンマー政権を、武家社会で鎖国政策を取っていた江戸(徳川)幕府に例え、軍情報部のミャンマー人たちを、「徳川家」の隠密になぞらえて「柳生一族」と称しています… そして、「アウン・サン」は「徳川家康」、「スー・チー」は「千姫」となるという奇抜な発想により、一見すると、バカバカしい旅行記のように思えてしまいますが、時折、吹き出しそうになる場面を盛り込みながらも、ミャンマーの国政や国民性について、丹念に書き込まれており、ミャンマー入門とも呼べるべき作品に仕上がっていましたね。

    識字率が高く読書大国であることや、都市部に住んでいても鎖国により外国人との交流機会はないし、他地域との交流がない辺境の少数民族が多いにも関わらず社交性に富んでいること等が、面白おかしい文書の中で、その理由等も含め鋭く考察されているのが印象的でした… こんな面白い紀行は初めてですね、、、

    これまで遠く感じていたミャンマーが、少し近くに感じられるようになりました… 行ってみたいな。

  • 以前はピンとこなかったので、評価が低かったが、クーデターで揺れている現在のミヤンマーについてためになった。

  • ーーアウン・サン・スー・チーをどう思う?オレは、彼女が政権をとっても国を運営することはできないと思うんだけど。(p.140)
    ーー民衆がスー・チー千姫を熱狂的に支持している理由は……彼女がアウン・サン家康の娘だからだ。……このように幕府対倒幕派は……「お家騒動」の側面もあるのだ。そして、そのいちばんの証拠は、スー・チー千姫が少数民族問題について、何一つ具体的な提案をしておらず、少数民族のリーダーたちとそのテーマで議論をすることすら拒んでいる現状だ。(p.66)

    なるほどねー、と思った。
    何の知識も先入観もなく(映画『ビルマの竪琴』を小学生の時に見たくらい)「なんかまたミャンマーがよくニュースに出てくるなぁ。よし、読んでみるか」くらいの感覚で読んでみた。結果、大変に面白く、勉強になった。
    かつて、スー・チー氏は自由の女神みたいに報道されていた。のに、国のトップに立つや否やロヒンギャ問題で叩かれるは、カレン族の動きは不穏だわで「わけわからん。何でそうなる?」と思っていた。そういう理由だったか。
    つまり、彼女にはアウン・サンの孫娘という血筋と西側の思想はあるけれど、ミャンマーの多民族国家を多様性を保ったままに舵取りするプランは最初からなかったわけね。本書は15年前に初版が出てるけれど、今の混乱ぶりを見ると、現在も冒頭の指摘とさほど変わらない感じなんだろう。
    大手新聞や国営放送は「民主主義の危機でござる‼︎」と喧伝するのに忙しそうだけれど、内幕のところは語ってくれない。セイギノミカタを演じることでお金もらってるのだから仕方ないけど。

  • 以前同著者の「アヘン王国潜入記」を読み。
    この本も読みたいと思ってました!
    今回は作家船戸与一氏と取材旅行で入国。
    高野氏自身に危ない事も特になく、旅行は進んでいきます。
    ミャンマーの軍事政権を日本の江戸幕府のようだと、独自の視点を用いて、ユーモアたっぷりの文章で書かれています。ミャンマーの人は鎖国のような国でありながら意外と国際的だったり、民族や宗教が多様であったり、読書家が多いとか、現地の人の暮らしが垣間見れるのも良いです。
    高野さんの冒険記は、謎の国が気になる私の好奇心を大いに満たしてくれます!

  • 日本が開国後諸外国と渡り合えたのは、幕藩体制で国際感覚が養われていたから、という考察が面白い。

  • 『世界の辺境とハードボイルド室町時代』の中で紹介されていたので読んでみた。テンポよくスルスルとあっという間に楽しく読め、ミャンマーの地理と民主化以前の国情をザックリ掴むのに役立つ。民主化が後退しつつある今、ミャンマーの今後について考えるために読んで損はない。

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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