広瀬正・小説全集・2 ツィス (集英社文庫)

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  • 集英社
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感想 : 37
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087463460

感想・レビュー・書評

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  • 著者のことを今まで全く知らず初読。リアリズムに基づいたSFという点で星新一や小松左京を連想とさせる切り口。果たしてツィス音はあったのか、なかったのか。面白かった。

  • 2022/10/19 再読。内容をすっかり忘れていたので、とても楽しめた。

  • 今だからこそぜひ読んでおくべき本。

    昔読んだことがあったけど思うところがあって再読。

    ある地方都市に起きた謎のツィス音。

    ごく一部の人にだけ聞こえたこの音が段々と広がっていき多くの人がツィス音に悩まされるようになっていく。

    これ、今世の中に起きていることに置き換えて読むと鳥肌が立つようなストーリです。

    あんまり内容を話すとネタバレになるのでとにかく読んでみて欲しい。

    どう受け取るかは人によって違うとは思うけど絶対今読むべき本の一つだと思います。

  • 「マイナス・ゼロ」(広瀬正小説全集1)が圧倒的におもしろかったので、つづく「ツィス」(小説全集2)も手に取りました。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    関東のある町で、絶え間なく「ツィス音」が聞こえる…。
    始まりはそんな小さな話であったが、やがて「ツィス音」は音量を増し、聞こえる範囲を広げながらついには首都圏へと波及していく。

    「ツィス音」第一人者の日比野教授、その教授と共同しながら「ツィス情報」という番組を流すテレビ局、そして耳の聞こえないイラストレーターである榊とその恋人・ダイアン稲田…。

    それらが絡み合い、ついには首都圏から地方への大移住政策がとられることとなる。

    はたして「ツィス音」の正体とは?
    そして待ちうけるものとは。
    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

    小説のタイトル「ツィス」が、印象的で神秘的な、不思議な響きをもっていて「なんだろう?」とひきこまれました。

    目次をみてもらうと、「イントロダクション」「レベル1」~「レベル6」、「レベル0」「エンディング」となっています。
    この小説が発表されたのは1971年ということなので、「イントロダクション」「エンディング」という名称にも、1971年を感じます。

    さて話をもとに戻しましょう。
    目次にある「レベル1~6」というのは、「ツィス音」がもたらす被害レベルをあらわしています。

    だんだんと「ツィス音」の被害レベルが上がっていくことが、すでに目次から示されているため、「人々の生活はどうなっていくのだろう?!」という追い立てられるような、ゾクゾクした怖さがあります。

    しかし同時に、最後には「レベル0」となり、ツィス音が消滅することも、はじめから示されています。

    原因がよく示されていないツィス音が、いったいどうやって「レベル0」になるのか?
    その仕組み、そしてどんな「おわり」がくるのかを知りたくて、読み進めてしまった感じでした。

    読み終えたあと、世の中で「正しいとされていること」「正しくないとされていること」が、本当にそうなのだろうか…と不安になりました。
    stayhomeの中、この小説を読むことは正直、一種の賭かもしれません。
    ある人は不安に更なるガソリンを入れることになるかもしれません。
    しかし一方では、こうした可能性をも冷静に受けとめつつ、世の中の情報を一方的ひいたところから客観的に考えられるようになるかもしれません。
    そして自分がどの方向にわかれるのかは、読み終えた瞬間まで、誰にもわからないのです。

    エンディングでツィス音問題に対しての1つの見解が示される一方、413ページ~415ページのラスト1行により、読者のなかに1つの解釈の余地を残しつつ物語は終わります。
    わたしはそのラストに、底知れぬ恐怖を感じました。

    ツィス音が公害として広がっていくさまや、それに対する人々の生活の変化、とられる政策の変化がとてもリアルです。
    また、耳の聞こえないイラストレーター・榊を後半の主軸におくことで、世の中がどう変わるかで、人の暮らしやすさはこんなにも違ってくることが示されています。

    そう考えると、いかにこの現代社会が「なに不自由なく労働できるオトナ」を主軸とした世界に作り上げられているかを、ひしひしと感じます。
    子育てもしにくく、年を経るにつれて暮らしにくくなるのも道理だなと、納得すらしてしまいます。

    そしてこの小説が1971年に発表されていた、という事実に驚くとともに、著者の想像力とそれを読者に納得させてしまうだけの論理的で落ち着いた文章に、ただただ脱帽です。

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
    なお、この小説が発表されたのは1971年であり、今の時代では使われなくなった疾患名や障がいに対する差別用語が使用されています。
    すでに著者が故人であることと、著者も差別助長の意図では使用していないことから、原則として全集刊行時のまま収録されています。(解説後のページに記載あり)

    そうした意図を知りつつ読んでも、やはりそうした言葉への違和感はぬぐいきれなかったため、☆4つとさせていただきましたが、気持ち的には☆4.9といったところです。
    これから「ツィス」を読まれる方は、この注意書きを念頭におきつつ読まれることを、強くオススメいたします。

  • SFとしてはなぜか解説している司馬遼せんせのおっしゃるように
    奇妙な味わいある作品だが
    ミステリとして書かれている構成と描写に違和感ありまくりな
    気持ち悪い作品
    神奈川県民の扱いが適当過ぎでは
    耳が聞こえなくても自分の口笛が聴こえないということはない

  • 年齢とともに可聴域が狭まるために聞こえづらい「モスキート音」というものがあるのを何年か前に知りましたが、それよりもずっと前にこのような作品が書かれていたことに驚き、SF作家の想像力にまたもやうっとりするわけでした。

  • ほれは初めて読んだ。
    面白かった。オイネ可愛い。

  •  広瀬正のSFシリーズ。これはお得意のタイムトラベルものではなく、パニックものというのかなこういうのは。ツィスとは何かと思ったら、Cis音程すなわちC#音のことだった。神奈川県のある都市でどこからともなく聞こえ始めたこのツィス音がしだいに大きくなって日常生活に支障をきたすようになり、それが東京まで拡大しで大問題となるというお話。騒音公害というのがあるが、ある特定の音階の音がキーンと鳴ったらそれは不快どころではないだろう。東京都民を全員地方に疎開させるという壮大な対策がとられたがさてその結末は。こういうのはどう結末をつけるかが難しいのだろうが、また思いきったエンディングだなこれは。そしてまた音が主題だけに最後に示唆される思わせぶりな余韻がまた不気味だ。

  •  「死ね、死ね」という声が聞こえるという精神病患者が、神奈川県C市の病院に入っていくところから説き起こし、視点を精神科医・秋葉に移していくあたり、非常に映画的というか、見事な導入。そして象徴的でもある。聞こえるとか聞こえないとかがテーマの小説なのだから。

     秋葉のかつての患者の娘がツィス、嬰ハ音あるいは♯ドの音が小さく持続的に聞こえていると彼に相談し、さあ話はもう止まらない。音に敏感そうな精神病の入院患者に訊くと彼らも聞こえるというので、音響学の専門家・日比野教授に相談。ツィス音測定器が製作され、C市での測定が始まる。話を聞きつけてやってくる新聞社。小さな記事。調査に動く市役所。テレビの取材。そして徐々に大きくなって首都圏を巻き込んでいくツィス音。

     『ツィス』が発表されたのは1971年。『ゴジラ対ヘドラ』公開の年、社会的に公害がクローズアップされていた。『ツィス』で猛威を振るうのはヘドロでも怪獣でもなく、音である。ミュージシャンでもあった広瀬正ならではというべきか、主役はある意味でツィス音なのである。中盤では、“耳が不自由”とか“聴力を失った”という遠回しな表現が大嫌いな、つんぼの絵描き・榊が主人公格になるのだが、ツィス音の増大で都民は耳栓なく生活できなくなり、にわかつんぼの中で榊は健常者になってしまう。聞こえるとか聞こえないとかどうでもよくなってしまうのだ。「パニック小説」と謳われているが、実はツィス音によってパニックは生じず、人々は耳栓をして整然と行動する。しかしながら、「パニック小説」のフォーマットを用いていることも確か。他方、ツィス音の猛威の中、そんな音は聞こえないと言い張るおかしな人たちもおり、やはり話は聞こえるとか聞こえないとかいう点を巡る。

     ツィス音がどのような顛末をたどるかはネタバレに属するので伏せるが、純音公害という一つのアイディアをもとに論理的にストーリーを組み立てていくいかにもSFらしい小説ながら、人物描写に下町人情話的な肌合いが残るのがまたいい。この本もまたほとんど一気に読んでしまった。

  • 東京近郊で聴こえだした謎の音、ツィス。次第に音は大きくなり、首都圏での平穏な日常は脅かされていく。
    パニック小説だけど、「マイナスゼロ」「エロス」と同じように日常がリアルに描かれているので、ハラハラするというよりは淡々と、でもユーモアを織り交ぜながら話は展開する。
    エンディングには唸らされます。さすが。
    この三部作、手元に置いておきたい。

    解説が司馬遼太郎というのも嬉しい。おもしろかった!

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