今ここにいるぼくらは (集英社文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784087464351

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  • 作者は私と一つ違いの同世代だ。
    同じ時代を生きてきた人。
    ……あなたは幸せでしたか?


    『今ここにいるぼくらは』 川端裕人 (集英社文庫)


    主人公の博士(ひろし)の小学一年生から六年生までの出来事が、七つの章立てで描かれる。
    が、なぜか時系列はバラバラである。

    「ムルチと、川を遡る」は、一年生の話。
    年上のガキ大将たちと“川の始まり”を探す探検に出かける。

    「サンペイ君、夢を語る」は五年生。
    博士はクラスで浮いているサンペイ君と仲良くなり、釣りをし夢を語り合う。

    「オオカミ山、死を食べる虫を見る」は四年生。
    裏山に住む老婆・オニバと、犬・ルークに出会う。
    オニバの“死”を、博士と妹の絵美は見届けるのだ。

    「川に浮かぶ、星空に口笛を吹く」は六年生の話。
    宇宙に憧れる大学院生のコイケさんと博士たちは、学校の屋上でUFOを呼ぶ。

    「影法師の長さが、すこし違う」は三年生。
    関西から引っ越してきた博士は、クラスメイトたちに関西弁を笑われ心を閉ざす。
    影法師の長さが、前に住んでいたところと違うことで、自分の居るべき場所が分からなくなってしまうのだ。

    「山田さん、タイガー通りを行く」は六年生の秋。
    帰国子女の転校生・山田さんに、博士は淡い恋心を抱く。

    「王子様が還り、自由の旗を掲げる」は六年生の冬。
    サンペイ君のおじさんでもあり、かつて自分の居場所を見つけられずにいた博士を救ってくれた王子様・セイジさんが帰ってきた!


    時系列で並んでいないことの効果については解説でも触れられているが、レールに乗っかって運ばれていくだけのありきたりな成長譚にはしたくなかったのではないかと思う。
    大人から見た子供の成長と、子供自身が感じる自分の成長は違う。
    この物語は、子供たち自身がリアルタイムで感じるダイレクトな感情が描かれている。


    ところで、この話を読み終えたとき、作者に訊いてみたいことがあった。

    博士と絵美の目の前で、オニバの死体を虫に喰らわせたのはどうしてか。
    「王子様が還り、自由の旗を掲げる」という素敵なタイトルがつけられた締めくくりの一編が、子供たちの憧れの王子様の逮捕という形で幕を閉じるのはなぜか。

    オニバの死を美しく描いて、子供たちに“死”に対する尊厳の気持ちを持たせるということも、やろうとすればできただろうし、王子様だったセイジさんが王子様でなくなってしまったことの、彼らなりに納得できる理由を、子供たちに授けて終わることもできたはずだ。

    でも、あえてラストを汚すことで物語がよりリアルになり、読後感はあまりよくないけれど、それはそれでとてもよかったと思う。

    実際そうだと思うんだよね。
    子供のころの様々な出来事をきちんと消化しきれないまま、みんな大人になってないかな。
    しかたがない、で強制終了なんて、いっぱいあったもの。


    登場人物のキャラクターが漫画っぽすぎるのは気になるが、チキンラーメン大好きコイケさんは面白かった。


    もう一つ気になることは、一章と五章にだけ差し込まれている一人称の語りかけ文。
    この「ぼく」は、いつの博士なのだろう。


    「ぼくは今ではとっくにあの時のムルチの年齢を超え、結果的に遠く旅をした。もっと大きな川を見たし、飛行機に乗って別の国にも行った。そして、今はきみとこの場所にいるんだ。」

    「いつかきみが出会うものと、ぼくがこれまでに出会ったもの。それらはつながっているような気がする。」

    「だから、ぼくはお節介にもきみに囁きかけるんだよ。
    ぼくたちは一人ぼっちだ。それも悪くない。」


    ……これは大人になった博士なのかな。
    それとも少しだけ成長した博士なのかな。
    この語りかけはすごく重要な役割を担っているのに、一章と五章だけで、ラストにないのはどうしてなのだろう。


    「豊かな孤独」

    という言葉が、解説にあった。

    子供の物語なのに、孤独なんだ……
    うーんそうか……
    なんか妙に納得してしまう。
    博士は結局、自分の居場所を見つけたのかな。


    博士の子供時代は“川”とともにあった。
    水脈を辿れば過去へも未来へも繋がれることで、想像の世界は無限に広がった。
    川に浮かんで流されながら星を見るシーンは、どこか母体回帰を思わせる。

    泣かへん、と自分に言い聞かせながらムルチたちと川を遡ったあの日の博士は、今、大人になって私になっている。
    そんな気がした。

    少し苦くて切ない気持ちになる一冊でした。

  • 長男に

  • 小さい頃から冒険が好きだった主人公が大きくなっても宇宙人などの非現実的なものと仲良くなるところがすごいなと思い、感心した

  • 小説すばる2004年4,6,8,10,12月号,2005年2,4月号掲載の7話を2005年7月に刊行。2009年5月文庫化。引越してきた博士(ひろし)の小学生時代を親、兄弟、子供達、大人達との関係とともに、いじめや将来の夢、恋、死などの日常の出来事が興味深く語られます。いずれも、叙情豊かで、心に残ります。

  • ま、たまにはこういう本も読みたくなるわけで。

    自分が小学生の頃とは別の、こんな時代もあったのだなぁ、と、しみじみ。

    こういうこと、したかったな…

  • どっか既視感がある。昭和40~50年代のこどもの原風景だろうか。
    小さな冒険・体験を繰り返し大きくなっていく少年の姿が、うちの子にかさなります

    2011/12/31

  • 川端さんの本、今週二冊目。子供の成長関連で、すがすがしい。
    転校などにより、自分の居場所がわからなくなってしまった少年の成長をテンポよい、タッチで。かなり後半のセイジさんからの言葉、「自由になることだ。自分の頭で考え、信じる通りに行動することだ。そうすれば、きみがいる場所が、そのままきみの居場所になるのだよ。」を受けて、最後のほうで以下の記述となったのがほっとした。
    「充分だと思った。目頭が熱くなるぐらい、これでいいのだと思った。」中略「そして、ぼくはここにいるのだ、と思った。」
    すがすがしい。
    また、川端さんの本読もう。

  • 「ここは自分の居る場所じゃない」子どもの頃、確かにそんな違和感をもって日々過ごした気がする。自分も転校生だったから、主人公の気持ちもちょっとわかる。日常の中の小さな冒険が詰まってる小学校時代の物語、さわやかで良かった。

  •  昭和ノスタルジーという言葉があります。昭和と言っても60年以上ありますが、この十年ぐらいは昭和30~40年代頃を懐かしむ傾向を指す場合が多いようです。
     作者の川端裕人氏は昭和39年生まれ、本書の舞台である昭和40年代後半は、主人公博士と同じ小学生でした。
     その本書の特徴の一つは、連作短篇であるのに、時系列に沿って作品が並んでいないことです。第一話が小学一年生の夏で最も早く、第七話が小学校卒業で最も遅いと、最初と最後は時間と配列が合っているのですが、第二話から第六話は、五年生の秋→四年生の夏→六年生の夏、三年生の春→六年生の秋と並んでいます。池上冬樹氏は解説で、「博士が経験する事実を直接的に伝えたかったのだろう」とも、「自分の居場所探しというテーマ」のために、「まさに初めて立ち会ったかのように」「不安と充実感を思い出し、無垢なまま味わ」せることに主眼をおいたから、とも述べています。
     確かに、精緻な塑像を思わせるようなやや硬質感のある筆致で描き出される博士の想い出は、強く読者の中に、共振を引き起こさせるものがあります。それは、小学校三年生で関西から関東へ引っ越した博士と、兵庫県生まれの千葉県育ちである川端氏の境遇を考えても、恐らく作者の想いが大きく投影されているからです。
     というのも、第七話で博士が三年生の時は1973年と明らかなのですが、第一話の中で、小学一年生の博士が、ガキ大将を心の中で「ムルチ」と呼んでいる理由が、ウルトラマンの「怪獣使いと少年」(『帰ってきたウルトラマン』第33話)に登場した、巨大魚怪獣ムルチを念力で封じ込めていた老人(宇宙調査員メイツ星人が変身した姿。金山と名乗っている)にギョロリとした目が似ているから、と説明されるのです。博士は老人が少年を守ろうとして警官に射殺されるシーンが衝撃的で、見終わった後も口が利けなかった、とも書かれています。
     ところで、「怪獣使いと少年」は1971年11月19日放送です。博士が一年生の夏にはまだ放送されていません。やや回りくどく一見脱線とも取れる記述は、明らかに1972年の夏休み当時二年生であった川端氏自身の想いです。
     歴史小説ではないのですから、こんな些細な間違いは、本書の価値にとってはほとんど影響がありません。むしろ「怪獣使いと少年」の衝撃の強さをこそ物語っていると考えるべきでしょう。
     実際、名脚本家・上原正三の手になる「怪獣使いと少年」は、差別と人間の残虐性を扱った、シリーズきっての名作として知られ、後年「ウルトラマンメビウス」(2006-2007年)において続編「怪獣使いの遺産」(第32話)も作られたほどです。しかも脚本は、川端氏と同じく関西生まれ関東育ちで同年代の、昭和30~40年代を舞台としたノスタルジーホラーを多く手がけている作家・朱川湊人氏でした。
     「怪獣使いと少年」は当時の子供たちにとって共通の衝撃、ある種の原体験となったのでしょう。

  • 川端裕人も最近よく読んでいる作家です。
    いろんなジャンルの作品書いておりますが、やはりこの人は子供を主役にした作品が一番しっくりくるような気がします。

    この作品は小学生の成長を描いた作品です。
    主人公は同じ子供で、小学生のある時点の話を描いた短編が7本入っております。
    それぞれ心が温められるような話で、読後感もいいかんじです。
    すっきり爽やか、ではないのですが…。

    小林さんと山田さんが良かったですな。。。

    『川の名前』もよかったですが、こちらも安心して読めました。

  • 最近思い話ばかり読んでたので

    読みやすそうな小説を読んでみました

    読みやすかったし

    楽しかったし

    なんだか、ほんわかして

    一気に読めました。

    起伏は無いけど

    楽しい話が7本

    おもしろかったすよ

    【居場所】

    ってのがテーマなんだけど

    16歳の教科書2

    で出てきた

    【自分の居場所は探すものじゃなくて与えることによって自然と生まれるのだ】

    みたいなことば

    この言葉好きですよ

    ほんとその通りだと思います。

    この本の主人公も

    自然と人に与える立場になっていて

    人に与え続けることによって

    意識はしていないだろうけど

    自然と自分にとって居心地のいい場所を作りだしたんじゃないかな。

    僕も

    無理することなく

    頑張りすぎることなく

    人に与えること

    人に与えることって人間にとって

    当たり前の行為なんだよね

    それを受け取る側が

    やって 当たり前って思うか

    やってくれて ありがとうって思うかで

    変わってくると思う。

    僕が今いる場所は

    やってくれて ありがとうの場所だから

    良い場所だね

    ぼくも

    やってくれて ありがとうの気持ちを

    常に持ち続けて

    そして、

    人に与え続けていきたいなって

    この本を読んで

    この本を読んでじゃないな

    なんか

    最近思いました。

  • 大学図書館Jun2010

  • いわゆる爽やかな読後感というのでしょうか、あの頃確かにそんなだったよな、と誰もが追憶に耽るようなストーリーかもしれません。ただ、あたしの場合、小学生時代はあまりにも暗く、いやな想い出ばかりなので、小説とはいえ、こんな素敵な想い出を持っている主人公が羨ましいです。

  • 今 ぼくは思い出す。自分の居場所を探し続けていたあの日のことを。小学生のぼく 博士(ひろし通称ハカセ)は新興住宅地への転校生。言葉も習慣も違う場所で自分の居場所を見失う。心にぽっかりと開いた穴を抱えて彼は川の町で成長していく。色んな友達と出会い、色んな冒険を重ね、彼は大人になっていく。大人になるということは、自分の子午線が、自分のいる場所にあるものだと気づくことなのだ。あぁ、そうだそうだ、と自分のことを思い出す。かつて自分が抱えていた心に開いた穴を思い出す。こうやって少しずつ自分と言うものを形作っていったんだ。あの頃の自分がここにいる。この世に存在する全てのあなたに これを贈りたい。

  • 2009/05/26

    自分の子供のころの風景が思い浮かぶ。

  • 2009.05.20 読了
    2009.05.20 購入

  • 短編集。いつもながらこの著者の書く若者は生き生きしていてよい。本作はちょっと起伏が足りないかな。

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著者プロフィール

1964年兵庫県明石市生まれ、千葉県千葉市育ち。文筆家。東京大学教養学部卒業。日本テレビ勤務中、1995年『クジラを捕って、考えた』でノンフィクション作家としてデビュー。退社後、1998年『夏のロケット』で小説家デビュー。小説に『せちやん 星を聴く人』『銀河のワールドカップ』『算数宇宙の冒険』『ギャングエイジ』『雲の王』『12月の夏休み』など。ノンフィクションに『PTA再活用論』『動物園にできること』『ペンギン、日本人と出会う』『イルカと泳ぎ、イルカを食べる』など、著書多数。現在、ナショナル ジオグラフィック日本版および日経ビジネスオンラインのウェブサイトで「・研究室・に行ってみた。」を連載中。

「2020年 『「色のふしぎ」と不思議な社会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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