終末のフール (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
3.61
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レビュー : 2069
  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087464436

作品紹介・あらすじ

八年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから五年が過ぎた頃。当初は絶望からパニックに陥った世界も、いまや平穏な小康状態にある。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちも同様だった。彼らは余命三年という時間の中で人生を見つめ直す。家族の再生、新しい生命への希望、過去の恩讐。はたして終末を前にした人間にとっての幸福とは?今日を生きることの意味を知る物語。

感想・レビュー・書評

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  • ここまで心を揺さぶられる小説を読んだのは久しぶりです。
    本当に心が洗われるというか、人生を前向きに考えられるようになる小説でした。

    この小説のあらすじですが、8年後に小惑星の衝突により世界が破滅するという発表があってから5年後、残り3年しかないという状況で、仙台にある『ヒルズタウン』とよばれる町で生活している人々の姿を描いた8篇の短編集です。
    8つの物語のなかでそれぞれの主人公達はそれぞれの想いを胸に日々を生きています。
    8つの物語、それぞれ心を打つものがあります。

    ここに描かれている人達は、命について「達観」しているというか、「悟りに至っている」という言葉が正しいのか分かりませんが、そういった境地にたどり着いている人が多いのは必然なのでしょう。
    なぜなら、この小説では直接的な描写はありませんが、ここに至る5年間の間に、暴動や大規模な騒乱、略奪、強盗に殺人、そして自殺といったあらゆる不幸な出来事がおき、世界の破滅を迎えるに至って、それに耐えられず精神に異常を来した人達やそれ巻き込まれた人など多くの人々が命を失っています。
    つまり、そういった異常な事態を生き残った人達がここに描かれている人達ですので、ある意味においては、もう既に選ばれた人々なのです。

    8つの物語のなかで、僕が一番刺さった物語は、4番目の物語『冬眠のガール』です。
    現在23歳の彼女は、4年前の19歳の時に突然両親を失います。殺されたのでもなく、事故や病気で失ったのでもなく、二人そろって自殺してしまったのです。一人娘である彼女を残して。彼女はそれ以来、3つの目標を立て、それを紙に書いて壁に張り、4年間何とか一人で、その目標を実現するために生き残ります。その3つの目標とは、
      〇『お父さんとお母さんを恨まない』
      〇『お父さんの本を全部読む』
      〇『死なない』
    読書家だった彼女の父は、自分の書斎に数千冊の本を所蔵しており、彼女はその本を4年間かけて全部読み切ります。この『冬眠のガール』は、彼女が最後の本を読み終わったところから始まります。
    2番目の目標を達成してしまった彼女は、新たな目標を探すために、多少の落ち着きを取り戻した町に繰り出します。そこで彼女は新しい目標を見つけます。その新しい目標とは・・・。

    彼女は、あくまでも素直で前向きです。そして3つの目標を忠実に守る。余命3年であるにもかかわらず新しい目標に向かって努力を惜しまない。そのひたむきな彼女の姿に心を打たれます。

    この小説がこれだけ感動を呼ぶのは、『死』を目の前にした人々の生活に真っ正面から取り組んでいるからでしょう。

    僕たちは、誰でも死にます。それはいつか分からない。誰もがもっと先のことだろうと何の根拠もなく思っています。
    『死』を意識しながら生きている人は少ないでしょう。しかし、そこに明確な『死』の期限が設定されれば、誰でもその圧倒的な威圧感の前で立ちすくみます。
    誰の前にも『死の壁』は立ちはだかっているはずなのに、それが透明で見えないからこそ、誰もが全力でそこに向かって走っていくことができるのです。
    でも、その壁に色がついてしまったら?
    あなたはそこに向かって全力で走って行くことができますか?

    この小説に描かれている人達は、全力とは言わないまでも、その『壁』に向かって確実に一歩一歩に前に向かって進んでいく人達です。
    そこには、諦めや達観や希望や絶望や、ありとあらゆる感情が渦巻いています。でも、そこにあるのは、決して『絶望』だけではないのです。
    「子供を産もうとする夫婦」「恋人を探そうとする若者」「誰よりも強くなろうとする少年」「最後の最後まで小惑星を観測しようとする天文学者」など、この小説に登場する彼らは、最後の最後まで諦めません。いや、生き残ろうとするのではなく、最後のその日までしっかりと生きようと心に決めているのです。

    この小説は、人生の素晴らしさ、ありがたさ、そして、この世界をいとおしく感じることをもう一度改めて思い起こさせてくれる、素晴らしい物語です。
    少年少女から老人まで、一人一人考えることは違うかもしれません。
    ただ、誰にとってもかけがえのない自分の一生を見つめ直すきっかけを与えてくれる本であることは間違いないと思います。

  • R1.8.9 読了。

     8年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから5年が過ぎた頃の仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民たちが余命3年の時間の中でそれぞれの人生を見つめ直す物語。目次の短編集のタイトルを見た時に思ったことは、「ハライチの漫才ネタのようだ。」だった。
    読み始めてみると、こんな状況に自分が置かれたらどう生きるだろう?と頭の片隅で考えていた。この小説の登場人物たちのように、最後日まで大切な誰かと一緒にいられたら幸せかもね。「鋼鉄のウール」が特に良かった。
     やっぱり、伊坂幸太郎さんの小説は良いですね。

    ・「こんなご時世、大事なのは常識とか法律じゃなくて、いかに愉快に生きるかだ。」
    ・「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」
    ・「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」
    ・「やるべきことをやるしかない。」
    ・「何かに夢中になる人をオタクって言うなら、それは敬称だ。」
    ・「一生懸命に考えて、決めたなら、それはそれで正しいんだと思うんだよねえ、わたしは。外から見ている人はいろんなこと言えるけどね、考えて決めた人が1番、偉いんだから。」
    ・「死に物狂いで生きるのは、権利じゃなくて、義務だ。」

  • この本との出会い。

    失恋した翌日だった。地下鉄に乗っていると一つの広告を見つけた。それは集英社文庫の広告で、「この夏に``はじまり``となる一冊、``ナツイチ``を見つけませんか。」という内容だった。いつもの僕なら簡単に見過ごしていたと思う。だけど、その日は違った。家に帰ってから、パソコンを前に何か面白そうな本はないかとナツイチを探していた。数日後、気になった本を求めて本屋へ行き、一冊買った。 それがこの本だった。

    「死」を設定することによって「生」を考えるという作品は多い。そんな中で、すべての人が世界の終わりを迎えるという話はとても興味深い。それは誰もそんな状況を体験したことがない、非現実的だからだ。下手な描写をすればたちまちつまらなくなる。だけどこの作品にそんな懸念は必要なかった。描かれる状況、人間関係、心情、倫理観が緻密に、巧妙に、バランスよく表現されていて、とても心地よかった。

    読み終えてあとがきを見ると、次のようなことが書いてあった。

       小説は哀しみを抱えている人によりそうもの

    ああ、なるほど。こういう出会いもあるのかと思った。

  • 再読です。
    8年後に小惑星が衝突すると予告されて5年過ぎた頃。余命3年となった仙台のヒルズタウンの住民たちのお話。

    「終末のフール」父親と娘の確執が辛かったけど、長男の和也の思い出話が最高におかしかったです。10数年越しに確かに和也は魔物を倒しに来たのだなぁと。

    「太陽のシール」の富士夫の決断、友人の土屋家族の気持ちに泣けてきました。

    「籠城のビール」はかなり複雑でやるせないのですが…
    最後の「三年逃げ切ればいいんだろ?楽勝だぜ」が秀逸です。3兄妹の平和な日々が頭に浮かび、妹や母のいない世界でも最後の最後まで生きようと思えたのだなと、ジーンときました。無事に2人が逃げ切れますように。

    「鋼鉄のウール」の苗場さんのぶれない生き方がかっこいいです。「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」という言葉が胸にドカンときました。

    「天体のヨール」の二ノ宮のキャラが好きです。深刻な状況で嬉々として小惑星の衝突を待っている二ノ宮の天体オタクっぷりがおかしくて、なぜだか癒されました。

    「深海のポール」は最後、作りかけの櫓を前に、終末のその最後の瞬間を想像して娘を一秒でも一瞬でも長く生かそうと思う渡部に泣けました。ハチャメチャだけど渡部の父親も素敵です。

    新興住宅が舞台ということもあり、家族の話が多かったです。「演劇のオール」も疑似家族のお話…
    ダメな父親も出てくるけど、かっこいい父親もたくさん登場しました。終末を前に子どもを生む決断をする富士夫、病気の息子を残して先に親である自分が死ぬという不安がなくなったという土屋、少しでも娘に長く生きてほしいと思う渡部、息子を守って死んだ蔦原の父親、それぞれの子どもへの想いに感動しました。
    伊坂さんが描く家族のあたたかくて力強い感じがとても好きです。

  • 伊坂幸太郎 著
    「Today is the first day of the rest of your life」
    今日という日は残された日々の最初の一日。
    by Charles Dederich

    まさに 伊坂さん ならではの作品だと思った
    「ヒルズタウン」に住む住人をターゲットにそれぞれの
    終末とされてる得体の知れないものに 向かってゆく有様が
    八編の中に 上手く収められており 誰とも交わらない個々の人間が 何処かで交錯している
    限られた時間を生きてるだけだと分かっていても…いきなり 3年後に小惑星がやって来て地球がなくなるかもしれない ずっと未来を考えてた人間達が 自らでなくて向こうから「死」を 突きつけられたら って究極の問題なんだけど…
    今の自分には とても為になった作品だった。
    ずっと 「何のために生きてるのか?」を考え続けた日々
    究極的には「何で生きるのか?」「いかに生きるのか」
    そんな事ばかり考えて生きてた気がするけど…最近の自分は 居直りでもなく 「何のためでもなく もしかしたら 誰のためでもなく…今を生きるだけだと…」と感じてる
    生まれた時点から死に向かって限りある時間を生きているだけなのに 死が近づいてると直面すると驚き 狼狽える
    きっと それは生きているからこそ感じられる貴重な時間なのかもしれない それを改めて知れた作品でした。
    「もう少し 頑張って 今のこの時を生きてみるか!」って気分になれました。

  • 8年後に小惑星が衝突し、地球は滅亡する。そう予告されてから5年が過ぎた世界が舞台。3年後に「死」を控えた人々の生きる姿を描いた8編の短編集。

    仲違いをしていた父娘、人類の死を前に待望の妊娠が分かった夫婦、地球滅亡の知らせとともに両親に先立たれた娘など、地球の終りを目前にしてパニックを起こす世の中を尻目に、残りわずかな時間をどのように過ごすかを模索する人々に焦点を当てています。
    登場人物は身の回りにいそうな、ごく普通の人びと。だからこそ非現実的な設定にも関わらずリアルです。紆余曲折はあれども、それぞれが決断した“残りの3年”は「生きること」への真摯な姿勢と決意があります。

    逃れられない「死」を前に、いかに「生」を謳歌するか。
    こんなにも「死」がべったりと側にある作品なのに、読後は「生き方」ばかり考えてしまう。

  • 8年後に小惑星が地球に衝突し、滅亡する---

    人はその事実を突き付けられた時、どう行動するだろうか?





    「8年後の地球の終わり」を予告されてから5年が過ぎたころの仙台が舞台。

    そのころには絶望からパニックに陥った世界も、徐々におさまって「小康状態」になっていく・・という描写が生々しくてドキドキした。





    残された3年をどう生きるか。

    「人生は怠惰に生きようとするには長すぎて、何かを成し遂げようとするには短すぎる」

    3年という限られた時間ならなおさらだ。





    自分ならどうするだろう?

    まず、暴漢や盗人や狂人のあふれかえるパニックの中「その日」を迎えるまで生き延びられるのか、それすら自信がないけれど。





    人間は脆い。

    自棄を起こして無秩序の世界に身を落としたり、自らの命を絶つ人、精神に異常をきたしてしまう人

    老後を考える必要性がなくなって、仕事を辞める人(そのため流通機関が機能しなくなり食糧難にも陥る)

    一見何も変わらないように見えても、「いつ命を奪われるかわからない、緊迫感」に不安が蓄積されて時々嘔吐する人もいる





    そんな中で、自分なりのぶれない軸を持っている人間の強さが眩しい。



    「鋼鉄のウール」に出てくる、苗場というキックボクサーは世界の終焉を予告されても変わらず練習に打ち込む。



    「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?あなたの今の生き方はどれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」

    「ぼくにできることは左フックとローキックしかないですから」

    「自分に今できることをやるしかないですから」





     イマ デキルコト ヲ ヤルシカナイ・・・





    終末論に限らず、生きていく上で何かに行き詰ったときのヒントがこの本にはちりばめられているような気がする。

  • 「明日が世界の終わりでも、私は今日林檎の木を植える」

    最近こんなことばに出会いました。
    そして、読み返したくなったこの本。

    明日ではなくて、8年後。
    小惑星が衝突して、世界は終わる。
    そう告げられた後の大混乱を経て、いよいよタイムリミットが近づいた、世界の終わる3年前。
    いろんなかたちで終末を過ごす人々。

    「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」
    このことば、カッコいい。
    結局のところ、人生は、永遠と永遠の間にあるつかの間の閃光にすぎないのだから。

  • 小惑星が衝突し地球が亡くなる。パニックから落ち着きを取り戻したころの、ある住宅街の住人たちのそれぞれを描いた物語。伊坂さんの中では珍しいミステリーじゃないお話。でもそれぞれの人物がリンクしてる感じは伊坂さんならでは!絶望の中でも生きる人々の姿が暑苦しくなく、でもなんか温かく描かれてるのがとてもよかった。

  • 伊坂さんの作品の中でもゆったりとした時間を感じられる話でした。ハラハラドキドキはないけど、迫り来る死に対して、いろんな登場人物から見た気持ちが書かれていてとてもおもしろかった。
    私情ではありますが、最近仕事でうまくいかなくて悩む事も多かったのですが、迫り来るくる人類の「死」に比べたらとても小さいなと思えました。
    読んだ後はなぜか気持ちがスッキリしていました。

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著者プロフィール

伊坂 幸太郎(いさか こうたろう)
1971年千葉県生まれの作家。東北大学法学部卒業後、SEとして働きながら文学賞応募し、2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞受賞、デビュー作となる。その後作家専業となり、宮城県仙台市に在住しながら執筆を続けている。2004年『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞、同年『死神の精度』で第57回日本推理作家協会賞短編部門、2006年平成17年度宮城県芸術選奨文芸部門、2008年『ゴールデンスランバー』で第5回本屋大賞、第21回山本周五郎賞をそれぞれ受賞。同作で直木賞の選考対象となることを辞退したことも話題になった。上記受賞作のほか、『重力ピエロ』、『バイバイ、ブラックバード』、『アイネクライネナハトムジーク』など話題となる作品は多い。代表作も殆どが映画化されている。最新作に『フーガはユーガ』。

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