乱舞 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087464795

感想・レビュー・書評

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  • 有吉佐和子さんの小説、最近ものすごく惹かれている。たおやかだけどきびきびした緩急のある文体、豊富な語彙で選ばれた言葉たち、様々な登場人物の人間味(一瞬しか出てこない人物ですら目に浮かぶ!)、現実を映し出したような予定調和ではないストーリー…。
    今作も一気読み。

    前作から更に強くなった秋子、ラストの打ち合わせでの采配、大会での口上でのかっこよさは痺れた。
    したたかになったことを、「変わったのではない、育ったのだ」というのも素敵。こんな大人になりたい。

    そしてこのラスト、満足ではあるけど、風と共に去りぬのような置いてけぼり感!本当は続編もあったんだろうか。母親も妹も必要なものではなくなった壮年期の秋子のその後を読みたかった。

  • 有吉さんが描く主人公の女性に心酔し、続けて作品を読んでいる。
    本作は昭和前半、栄華を極める日舞 梶川流の家元の座を巡る作品。
    権威を巡り、有吉さんの作品お馴染みの、「色々な人々」が登場笑。
    邪な人、我儘な人、勝手な人も有吉さんの筆では湿気を除いてさらりと描かれ、ちっとも露悪的に感じない。
    『連舞』の後編でかなりのボリュームだが、展開に固唾を呑みながらあっという間に読み終える。

    「強い女性」と聞けば、我を曲げず、信念を突き通しというイメージを抱くことも多い。
    しかし主人公 秋子はその形容では尽くせぬ「強さ」がある。むしろレジリエンス弾性かな。
    生い立ちの中で、実母に愛されず、実母の妹への偏愛を間近にし、屈折した思いを抱えながらも、決して卑屈にならずに結末まで駆け抜けた女性像は、「強い女性」と簡単に形容してはならぬ気がする。

    誰にも見向きもされず、しかるべき才能や力量も不十分と評価されていた彼女がありがちな劣等感の轍に足をすくわれることは終始一貫なかった。
    夫に愛されなくても、その座を誰かに明け渡さず、自分の納得や充足を求めて理性で物事を見て判断した経緯は爽快そのもの。頭の良い女性は魅力的だと思わずにはいられない。

    親や夫、或いは周囲の人々からの注目や評価がなかったとしても、そのことで自分には価値がないと自分を責めず、光の見える先を目指しながら人に出逢い、経験を重ねて、人生の奥行と幅を増す。

    自分が「変わる」のではなく、全ての経験を油絵具のように重ね合わせてキャンバスに自分の厚みを増していく。何と豊かな道のりだろう。
    他人からの必要以上の賞賛注目評価に依存せず、自らの充足は自ら創り出す。
    潔さに憧れる。

    たまたま恵まれなかったとしても、失ったとしても、終わりではない。自分を責める必要はない。善い人であり続ける必要もない。
    理想主義や精神論とは少し距離を持った現実主義者が持続して人生という長距離を走り抜けられる気がしてならない。

    その後も読みたいのだが、有吉さんの頭の中では構想があったのだろうな。早逝が返す返す残念。

  • 「連舞」の続編。
    思わぬ成り行きで日本舞踊の梶川流の家元夫人となった秋子に、またしても予想外の出来事が襲う。夫の不慮の死により激しい跡目争いが勃発するなか、実子を持たない秋子は迷いながらも自ら家元となる決意を固めていく。
    日本舞踊の流派という独特の文化に翻弄されながら、誰一人として頼れる者のいない戦いに、最後は自分の踊りの力で勝ち抜いた秋子。
    胸のすく展開の最後に不幸な知らせが用意されているが、それさえも今後も逞しく生きていく秋子の姿を予感させる。

  • このカタルシス。
    背筋がシャンとする。

  • 『連舞』の続編。家元夫人となった秋子が、家元の突然の死後、次期家元を決める際の活躍を描く。
    日本舞踊の世界観・価値観が門外漢にとっては新鮮だった。どうしても千春の夫・崎山の視点で読んでしまう。それが本質を突いているように思えるから。

    「日本舞踊のように消費経済を基盤としている世界」
    「切符はプレイガイドでは売れないのだ。出演者には割り当てられた切符をさばく義務がある限り、金持には胡麻をする風習は消えてなくならないだろう」

    家元とは何か、特殊な人間の集団で、人をまとめていくとはどういうことか、について考えさせられる。日本舞踊の世界がこうも簡単に分家・分派を認めるとは・・・。

    どんな人間の集団(組織)にもその集団の中だけで通用する内在的論理が存在すると思うが、世間一般の価値観と違っていればいるほど、その集団から距離を置いて見ているひとにとっては、楽しいし、集団内にいる人にとってもそうではないだろうか。

  • 連舞(つれまい)・乱舞(みだれまい)の後編。
    絶版になったと思っていたら、こんな表紙になっているのにびっくり。(でも本屋でみかけない)

    踊りという特殊な世界で生きる女の話。有吉さんの文章は踊り物、芸者ものでも読みやすいし、ぐっと読ませるし、とても好きです。

    踊りの師匠を母にもつ才能のない姉と、家元との間に生まれた天才少女の妹。姉はどうやって生きていくのか。

    保存版です。

  • 連舞のその後の話。

  • 水に写る月を人は追う。
    本当の月は空にあるのに。

    醜いあらそいを通り抜けた先にある舞台。
    日舞は歌舞伎から生まれ、女形の芸を支え最後に女の舞に帰ってくる。

  • これは一言で内容を言うと、日本舞踊の跡目争いのお話でした。

    日本舞踊の家元が交通事故で突然死します。
    そこから次期家元を狙う争いが始まる。
    主人公は家元夫人の秋子。
    彼女は夫と一緒に車に乗って一命をとりとめた愛人のお腹の子供を次期家元にしようとします。
    所が、周囲には家元が外で作った他の子供を次期家元にしようとする動きが出てきたり、また秋子の母親は妹の千春を次期家元にと画策します。

    これ、「連舞」というお話の続きものらしく、断然その「連舞」の方が面白いだろうと思いました。
    天性の踊りの資質をもち、しかも母親に可愛がられて育った妹と血の滲む努力のもと家元の妻の座を射止めた姉の秋子。
    しかも今の妹の夫は秋子のかつての恋人だったらしく・・・。
    それがどうやって今のような状態になったのか。
    家元と結婚するいきさつはどうだったのか。
    興味深いです。
    このお話は言ってみればそのお話を読んでた人だけが楽しんで読める本だと思えました。

  • 連舞(つれまい)の続編。
    思い出す部分もあるので、連舞を読んでからの方が内容的にはわかりやすい。
    続編というより秋子の完結編という感じもする。
    有吉佐和子の描く女性は強い。
    芯の強さを持っているので、安心して読み進んでいける。
    大河・・・・という感じのする小説。

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著者プロフィール

昭和6年、和歌山市生まれ。東京女子短期大学英文科卒。昭和31年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』など話題作を発表し続けた。昭和59年没。

「2023年 『挿絵の女 単行本未収録作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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