蛇行する川のほとり (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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本棚登録 : 3784
感想 : 249
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087465884

作品紹介・あらすじ

演劇祭の舞台装置を描くため、高校美術部の先輩、香澄の家での夏合宿に誘われた毬子。憧れの香澄と芳野からの申し出に有頂天になるが、それもつかの間だった。その家ではかつて不幸な事件があった。何か秘密を共有しているようなふたりに、毬子はだんだんと疑心暗鬼になっていく。そして忘れたはずの、あの夏の記憶がよみがえる。少女時代の残酷なほどのはかなさ、美しさを克明に描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 恩田陸さんという方は本当に幅の広い他種多彩な作品を書いていらっしゃいます。SF、ミステリー、ホラー、ファンタジー、どれも独特な世界観に心魅かれるものがありますが、なんといっても欠かせないのは青春ものでしょうか。私が読書を始めるきっかけとなった「蜜蜂と遠雷」は元より、「夜のピクニック」も強く印象に残る傑作でした。また、男子四人組の寮での数日間を描いた「ネバーランド」も、これぞ青春!という雰囲気感満載でした。そして、この「蛇行する川のほとり」は、今度は女子四人が主人公となる物語。しかも過去の殺人事件の真相に迫るミステリーが織り交ぜられて、少女たちの儚い青春が、とてもノスタルジックな世界観どっぷりな中に展開されていきます。

    『ねえ、毬子ちゃん、ちょっといいかな?』先輩の香澄に声をかけられた毬子。野外音楽堂で行われる夏の終わりの演劇祭に向け、大きな舞台背景を描くことになっていた彼女たちは香澄の家で合宿をして作品を仕上げることになりました。『野外音楽堂に自分の絵を置いてみたかった』という毬子。『絵は私の唯一かつささやかな特技』という彼女はもう一人の先輩、芳野とともに夏の合宿へと向かいます。香澄の家があるのは静かな川のほとり、『市の中心部を貫く川の支流は、あの辺りではゆったりとした弧を描いて流れていた』という『子供の頃の記憶が詰め込まれた特別な場所』でもありました。

    香澄に誘われて喜ぶ毬子に、『あたし、自分より綺麗な女は好きじゃないもん。あたしが気に食わないのは、あの二人じゃないわ。あの二人があんたを誘ったこと』と嫌う真魚子は合宿に行かないよう毬子を牽制します。そんな真魚子は一方で毬子をダブルデートに誘います。そこで出会った月彦は、毬子に『香澄に近付くのはよせよ。あんたは、あいつに似合わない。あいつにかないっこないよ』とこちらも合宿に行かないよう諭します。

    それでも合宿に赴いた毬子。『合宿で、一番のお楽しみは夜のお喋りに決まっている。初日の夜を終わらせてしまうのがもったいなかった。眠ったら、すぐに明日になってしまう…二人と過ごす日が、一日減ってしまうのだ』というくらい楽しい時間を過ごしていくのでした。そんな場に現れた月彦は『何か理由をつけて帰ったほうがいい。あんた、香澄がどんなに怖い女か知らないんだ』とこの場から去るよう主張します。この場は、女子の楽しい合宿なのか、陰謀に満ちた招待なのか、それとも月彦が香澄を独占するための芝居なのか、毬子は思い悩むのでした。

    4つの章からなるこの作品。それぞれの章は、毬子、芳野、真魚子、香澄視点に順に切り替わって展開していきます。そして、特に後半に行くにつれ、過去に起こった殺人事件の真相にどんどん迫っていく過程が恩田さんならではの鋭い表現、例えば『本当に信用していなけれは、自分が信用していないことすら相手に教えないし、気づかせもしない。それが「信じていない」ということなのだ』なども織り交ぜられていて、緊迫感のある結末へ向けて、読み応えのあるとても興味深い読書となりました。いつもながらの伏線張り、どんどん物語世界も広がりますが、珍しく最後にはきちんと伏線も回収され、ミステリーとしても納得感のある結末を見せてくれました。

    ただ、個人的には、ミステリー云々という部分よりは青春ものとして、女子四人の微妙な関係性が見事に描かれていたのがとても印象に残りました。時代感としては、80年代というより、もっと前、まあ私の中での勝手なイメージに過ぎませんが、70年代の少女たちの青春物語、そんな印象をもちました。

    一方で、一点どうしても言わせていただきたいことがあります。『芳野さんは、グラスのビールを一息に飲み干すと、頷いた』という感じで、とにかくバンバン酒を飲む光景が出てきます。あの〜彼女たち一応高校生なんですけど〜。「ネバーランド」もそうでしたが、青春ものでもごく普通にビール、とっても絵になるビールというのもある意味、実に恩田さんの青春ものらしいと思いました。

    残念ながら、この作品は恩田さんの数多い作品の中では決して有名な作品ではありませんが、埋もれるにはあまりに惜しい、独特な色彩感がとても印象に残る恩田さんの青春ものの傑作の一つだと思いました。

    • mayutochibu9さん
      昔は高校生のタバコ、お酒は割と普通。
      妾、愛人は作家、政治家等の特権的な感じ。
      今は大麻、児童・未成年買春・売春があり、昔からあったのか...
      昔は高校生のタバコ、お酒は割と普通。
      妾、愛人は作家、政治家等の特権的な感じ。
      今は大麻、児童・未成年買春・売春があり、昔からあったのかは不明?
      昔は離婚もしにくい時代だけど、今は離婚・再婚が当たり前でも子供たちの心はそうはいかず、傷つき、荒れるのが現代かな。
      2020/04/10
    • さてさてさん
      mayutochibu9さん、こんにちは。
      コメントありがとうございました。
      確かにそういう部分はありますね。なので、恩田さんは、よりリアル...
      mayutochibu9さん、こんにちは。
      コメントありがとうございました。
      確かにそういう部分はありますね。なので、恩田さんは、よりリアルな風景として描かれているだけなのかもしれません。こういったところにも作家さんの見方が見れるのも面白いと思います。
      2020/04/10
  • 高校の夏休み、演劇祭の舞台装置を描くために、先輩、香澄の家に泊まり込むことになった鞠子。でも、そこに集ったのは、過去に起きた不幸な事件と深く関わりのある人たちだった。

    香澄や鞠子はどう関わっていたのか、ハラハラしながら一気読み。最後に意外な真相が明かされるが、恩田さんのミステリーは、ホントに面白くて、今回もまた引き込まれてしまいました。

  • 思春期の少女たちの数日間を描いた作品で、耽美とまではいかないけれど倒錯した雰囲気を持った作品です。同じようなテイストで少年たちの日々を書いた「ネバーランド」と対を成す作品ですが、こちらは爽やかで和やかなネバーランドとは違って、不穏な空気が蔓延しています。
    まだ生まれて十数年しか経っていないのに、十年前の罪を贖うような展開の話はなかなかに重たい。青春サスペンスの恩田テイストが良く出ている作品です。

  • こちらは表紙買いでした。
    集英社版も柔らかくてすてきなのですが、中公文庫版の可愛さと黒の目立つ明るいような暗いような表紙に惹かれました。

     時々はっとするほど冷たく感じられるような美女の香澄と、ふわふわ感情の波のない美女、芳野。そして香澄を探り続けている月彦と、3人と仲が良く、かつて姉がいた暁臣。夏休み、彼らと過ごすことになった主人公毬子は4人の交錯する思いに巻き込まれてゆきます。次第にそれらは昔、香澄の母親が殺された事件へと繋がって‥といったお話でした。

     『有頂天になっていると、見ていた誰かに突き落とされる。素晴らしいことに胸を躍らせていると、必ず誰かが そんなつまらないもの と囁く。そうして、背伸びをしてはうずくまり、手を伸ばしては引っ込めて、少しずつ何かをあきらめ、何かがちょっとずつ冷えて固まってゆき、私は大人という生き物に変わってゆく。』あとがきで著者は、少女たちを封じ込めたいと思って書いたとありますが、この一節はまさに。誰もが経験した少女時代の痛さが綺麗に表されていて、気恥ずかしくなりました。

     『死ぬということは、許されてしまうことでもある。』深い!そうかもしれない。許すことしか生きている人たちには残されていないから。生きている限りはやっぱり、自分の視点が優先されたりその人のする事なす事に意識が向いてしまうからなのかな、でもその人が死んでしまったらもう憎む自分すら過去のものとなってしまうのかな、など色々考えさせられました。

  • 蛇行する川のほとりにある家での、かつての忌まわしい出来事の記憶を抱える少女たちのお話。

    『魅力的にな女の子には、それぞれ異なる膜がある。みんな、違う色をしていて、手触りも違う』P.67
    非日常的な舞台、謎めいた行動、思わせ振りな会話、かまの掛け合い、不穏な空気、憧れの先輩たち、取り巻く男の子、他を寄せ付けない間柄…、閉じた世界のこの物語にも何かしら膜を感じる。

    『そうして、背伸びをしてはうずくまり、手を伸ばしては引っ込めて、少しずつ何かをあきらめ、何かがちょっとずつ冷えて固まってゆき、私は大人という生き物に変わっていく』P.34
    そんな膜の中のこの作者らしい世界で、登場する美少女たちの、怜悧さや勝ち気、それと裏腹の脆さ、儚さ、危うさが楽しめる。

  • 3人?ぐらいの視点から物語が進んでいく。まりこの視点から最初は進んでいく。この人物が主人公かなと思いながら読み進めた。しかし途中で視点が変わり、まりこはほぼフェードアウト、、。勿論重要な役割は果たしているが悲しさが、、。
    私にはこういった経験がないためあまり分からなかったが、女子学生ならではの生々しさ、リアルさがてできていたのだろうと感じる。
    ある種、象徴となり彼女らの心に深く残ったのが印象的。

  • 恩田陸さんの小説を読むのは、前回読んだ『蜜蜂と遠雷』に続いて二作目です。

    あらすじにもある通り、「少女時代の残酷なほどのはかなさ、美しさを克明に描き出す」作品で、ミステリーが中心となりながら、細やかな描写に目を奪われます。

    主体となる登場人物のうち、毬子、真魚子、香澄、芳野の四人の視点から物語は進んでいき、最後に短いながら凝縮されたネタバラシ。そういう展開になるかな? と予感しつつも、少女の胸を一杯に占めていた考えを思うと『儚さ』という言葉がしっくりきます。
    派手な演出は無いですが、その代わりにじっくりと浸透してくる”重さ”が際立ちます。

    『蜜蜂と遠雷』が純粋に音楽へと心を傾ける人たちを描いていると表現するならば、『蛇行する川のほとり』は一夏の儚い青春を描いた物語と言えると思います。

    全く違う色合の話を二作品読んでみて、恩田陸さんに一層興味を持ちました。
    他の作品も読んでみたい作家さんです。

  • 恩田陸さんの少年少女の心情を描かれた作品が好き。
    少女たちの純粋さ、危うさ、美しさ、全部詰まってた。 そして、真実はそれぞれにとって異なるもの。

  • 女の子たちの一夏のミステリー小説
    女の子たちがひそひそ話しながら隠し事をしている感じかな?続きが気になりすぎてすぐ読み終わった。

  • 藪の中みたいに、過去の出来事のそれぞれが認識している事実や、毱子が合宿に呼ばれた本当の理由について登場人物たちが毱子に伝える内容が異なっている。当初、登場人物たちの話を読者視点で当惑しながら聴いている毱子自体も、過去の出来事に実は深く関わってることがわかったり。それぞれの思惑が読めなくて、ミステリぽく楽しめた。

    あとは、少女たちの心理描写が生き生きと書かれてて本の中に入り込んでしまった。毱子の少女っぽい感じ。とても良かった。例えば日記を書くところの描写、自分の秘密を託していた。でも本当は特別な誰かに読まれたかった日記。その相手に向けて、ほんの少しだけ取り繕った自分の日常を綴った。
    なんかいいよね。乙女感ある。憧れの先輩に誘われたとき、憧れの先輩と自分の家族が会うときの有頂天な感じや、照れ臭さ。

    あと、天気や暑さの描写も生き生きしていた。全てが重力に縛られたかのような暑さ。だとか。

    よくわからないのは、なぜ仮面をアキオミ(と思われる)が被って毱子の前にあらわれたのか。月彦がなんで天使とよばれるのか。そもそも、香澄に毱子が呼ばれた理由は?芳野は、正しい少女である毱子に興味があるってことでわかるんだけど。毱子の過去の記憶を蘇らせたいってのは、作中でアキオミがいってたけど。別に、過去の話を掘りくじ返したいわけではないはず。何がしたかったんだ香澄…

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著者プロフィール

1964年、宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞を受賞。06年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞を受賞。07年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞を受賞。17年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞を受賞する。

「2023年 『ドミノin上海』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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