谷崎潤一郎フェティシズム小説集 (集英社文庫(日本))

  • 集英社 (2012年9月20日発売)
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本 ・本 (208ページ) / ISBN・EAN: 9784087466164

作品紹介・あらすじ

本当のいけないことを また教えてあげる
谷崎文学の名作の中から、人間の心に潜む密やかで妖しい欲望を浮かび上がらせる作品を一冊に。「刺青」「悪魔」「憎念」「富美子の足」「青い花」「蘿洞先生」6篇を収録。(解題/千葉俊二 鑑賞/KIKI)

感想・レビュー・書評

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  • “フェティシズム”という括りで集められた6編の短編ですが、「刺青」「富美子の足」「青い花」以外はフェチと言うより精神分析の話のように思えました。

    「刺青」
    谷崎潤一郎のデビュー作。
    初めて読んだのはおそらく中学時代。感想は当時とあまり変わらない。よく言えば様式美、悪く言えば頭でっかちな印象を与えるフェティシズム小説。
    晩年の「瘋癲老人日記」まで足フェチを貫き通す大谷崎先生に大変失礼な感想だが、そう思ってしまったのだから仕方がない。

    「悪魔」
    後半は確かにフェティシズムの話なんだけど、前半の電車恐怖症とでも言うべき主人公の症状が気になってしまいます。今で言えばパニック障害?いや脅迫性障害?。なんか現代医学で治療を受けて欲しいような、、、
    その強迫観念に後押しされて、後半主人公は一気にフェティシズムに取り憑かれます。対象は従姉妹の照子。
    とは言え、やってる事は照子の鼻汁がついたハンカチを持ち歩き舐め回すというソフト?なもの。
    やはりフェティシズムよりも、その発露の原因となった脅迫性障害のほうが気になりますね。

    「憎念」
    手代に折檻される丁稚の醜い鼻の孔を見た事をキッカケに、丁稚の小僧が虐められるところを見たくて見たくてたまらなくなってしまう坊ちゃんの話。幼少期の谷崎潤一郎の実家が裕福だったことから、実話?と勘繰ってしまう。成長と共にいじめの対象が女性に変わっていくのが興味深い。

    「富美子の足」
    絶対領域など足フェチの風上にもおけぬ。谷崎先生がこだわるのは踝より先、踵や甲、そして足指なのでございます。
    「真直ぐな、白木を丹念に削り上げたようにすっきりとした脛が、先へ行くほ段々と細まって、踝の所で一旦きゅっと引き締まってから、今度は緩やかな傾斜を作って柔かな足の甲となり、その傾斜の尽きる所に、五本の趾、、、」以降6ページにもおよぶ富美子の足の描写がなんとも素晴らしいです。
    なんでもこの作品、映画化されているらしいです。映像でこの谷崎の熱量を超えることは不可能にも思えるのだけど、はたしてどうなんだろう。

    「青い花」
    洋装というものはここまでフェティシュなものだったんですね。
    「靴屋の店、帽子屋の店、宝石商、雑貨商、毛皮屋、織物屋、……金さえ出せばそれらの店の品物がどれでも彼女の白い肌にびったり纏わり、しなやかな四肢に絡まり、彼女の肉体の一部となる。――西洋の女の衣裳は『着る物』ではない、皮膚の上層へもう一と重被さる第二の皮膚だ。外から体を包むのではなく、直接皮膚へべったりと滲み込む文身の一種だ。」
    大正時代に戻って、この高揚感を味わってみたいものです。

    「蘿洞先生」
    フェティシズム小説(と言うかSM小説?)として捉えるとなんとも物足りない。蘿洞先生と小女のプレイはラスト2ページにも満たずチラ見せで終わってしまう。金返せ!(笑)
    だとすると、主題はその前の記者と先生のやり取りにあったのか?記者自身がコンニャク問答と言うだけあって、蘿洞先生は何を聞かれてもほとんど応えていない。私生活についても政治についても「う、」とか「あー」とか言うばかり。うーむ、答えないことに意味があるのだろうか。謎な作品。
    なんでも「続蘿洞先生」という続編があるらしいのだが、、、

  • 谷崎潤一郎の小説を読んでいると、最近の「私、○○フェチなんだー」というのがとても軽々しく感じます。
    フェティシズムとは元来こういう物だったのだとおもいしるというか。

    しっとりとした女性の色気、質感、姿形をパーツひとつひとつに着目しつつしつこい程に語っていますが、描かれる欲望と反して描写はなんとも上品で美しい。
    谷崎潤一郎の話はどれも好きですが、この本の中なら『富美子の足』が特に好きです。

  • 谷崎潤一郎が好き。
    マゾヒズムとフット フェティシズム。
    短編集。
    刺青、富美子の足
    耽美なこと。

  • 谷崎潤一郎のフェティシズムを、存分に味わうことが出来る1冊。

    よくもまぁ、こんなに書けるものだ…こんなの、谷崎じゃなければ、思い付かないだろう。
    趣味炸裂、と言ったところか。

    どの話に出てくるフェティシズムの対象も、よくよく観察しないと書けないぞこれは…実際、どうやって書いたのだろうか。観察しながら書いたのか、それとも想像しながら書いたのか。

    いやはや、どの作品もすごいけれど、やはり富美子の足がすごいな。足の話だけで何ページ使うんだ。素晴らしい。
    自分の命と女の踵を天秤にかけ、後者の方が尊い、踵のためなら喜んで死ぬ….素晴らしいほどの脚フェチ。谷崎潤一郎ほどの脚フェチはいないだろうな。

    私も美脚になりたい。

  • 名作6篇が収録。これらの作品が世に出たとき、世間はどう受け止めたのだろうか…そんなことが気になった。描写細かくてすごい。富美子の足も刺青も好き。憎念に描かれる感情は分かる気がした。収録されている解題、鑑賞も分かりやすくておすすめです。

  • 病的です。フェティシズムの対象を崇拝し、変態として酔い痴れ、堪能し尽くす…文体の美しさが近頃のフェチものとは別格。
    「悪魔」にいたってはかんだ後の鼻水ですよ?きちゃない。幸い、この境地には達しておりません。

    「刺青」「悪魔」「憎念」「富美子の足」「青い花」「蘿洞先生」収録。
    「刺青」と「富美子の足」が同時収録されているのがいいですね。

  • 5年以上前に買った本を再読したので、この度感想を書くことにしました。
    これだけ「〇〇フェチ」という言葉が浸透した現代の日本ですが、谷崎潤一郎がいなければこうじゃなかったのかもしれないと思いました。(というか、きっとそうですよね。)
    まさにフェチ界のレジェンド。
    『富美子の足』では、足の描写に5ページ余りも使っています。そして、その描写のなんと艶かしいこと…。
    とても面白く、楽しい読書体験になりました。

  • 私は線が好き。

  • 何ページにもわたって脚についての魅力を語っていたり
    ちょっと一般人のわたしからしたらひいてしまうような性的嗜好を持つ主人公ばかりの短編集なのですが、文章が美しいので最後まで読めました フェチという言葉は現代ではかなり一般化していますが、これには真のフェティシズムの深淵を垣間見せられた・・・!

  • 谷崎潤一郎の初期短編。
    谷崎文学の真髄、生涯貫かれた美意識が凝縮されている。

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著者プロフィール

1886年(明治19年)〜1965年(昭和40年)。東京・日本橋生まれ。明治末期から昭和中期まで、戦中・戦後の一時期を除き執筆活動を続け、国内外でその作品の芸術性が高い評価を得た。主な作品に「刺青」「痴人の愛」「春琴抄」「細雪」など、傑作を多く残している。

「2024年 『谷崎潤一郎 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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