資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言 (集英社文庫)

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  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087466539

作品紹介・あらすじ

IT革命に支えられた「新自由主義経済」は人類を幸福に導くはずだった。だが、その結果、起きているのは世界的な格差の広がり、止めどもない環境破壊、激化する資源獲得競争など悲惨の連続である。マーケット・メカニズムは社会を解体し、自然を破壊し、人類を滅亡の淵に追いやっていると言っても過言ではない。かつてはボーダレス経済を礼賛した著者が語った「市場原理主義の大いなる罪」とは。

感想・レビュー・書評

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  • 【感想】
    ・著者がそれまでの経済学のある流派から脱出し、あやふやな評論の世界に迷い込むまでを記した本。

    ・問題になる点:文明論(松岡正剛とか)に無批判なまま依拠していること。よくある偏見の「一神教が~」を流用していること。つまみ食いした歴史エピソードで何かを言おうとすること。マジックワードとして「文化」「日本精神」を使うこと。これらをひっくるめて、著者の分析と診断が恣意的なこと。
    ・問題じゃない点:新自由主義(※未定義)を抜けたこと。社会・経済の動向について著者の予想が当たったりはずれたりすること。提言そのもの。

    ・仮に、「著者は現状認識を改めたので、これまで主義/主張を翻して、マルクス経済学orその他の非主流派に転向した」というストーリーなら、私にもまだ理解できる(そうであったとしても学問上の態度という点で問題はない)。
    ・ちまたでは本書に対して「転向の書」という紹介や評価が与えられているが、私からすると「転向」ではなく「脱・学問」というべき。
    ・なお、解説は長谷川三千子(もはや近経でもマル経でもない)。
    ・ついでにいうと、著者はその後も『入門マクロ経済学』(日本評論社)の改訂の仕事はしてくれている。

    【書誌情報】
    『資本主義はなぜ自壊したのか――「日本」再生への提言』
    著者:中谷 巌
    発売日:2011年1月20日
    定価:902円(税込)
    版型:文庫判/448ページ
    ISBN:978-4-08-746653-9

     格差社会の原因は自由主義経済なのか?
     20世紀末から世界を席巻した、グローバル資本主義。豊かさをもたらすはずのその実体は、格差を拡大し、社会を解体する「悪魔の思想」であった。悔恨をこめ語る、再生への提言。
    https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-746653-9

  • グローバル資本主義の行き着く先はどこか?改革の一翼を担った筆者の懺悔の書。

    初版は2008年。少し古いがその理論は今も決して古びていないし突き上げた課題も全く解決していない。

    学生時代に筆者の「マクロ経済学」で学んだので懐かしい思いで読んだ一冊。グローバル資本主義、規制緩和、新自由主義が明るい未来を描いていた時代を知る人には実感を持って本書を読めることだろう。

    世界経済の不安定、格差社会、環境破壊。失われた古き日本。本書は経済学の前提、人間は合理的に行動するという原理を離れた内容。

    本書では日本経済の課題と解決への提言が記されているものの、ほとんど現状は変わっていない。

    日本人はいつになれば豊かでかつ安寧な生活を実現できるのだろう。

  •  かつて、新自由主義的価値観を信奉した著者が、転向して、現代の資本主義社会の根本的な問題点を批判する。アメリカ主導のグローバル化に伴い、あらゆる面でボーダーレス化が進んだ。一方で、日本がかつて有していた価値観が次第に破壊されたと批判する。その状況下で、著者は、国家でも個人でもない、いわゆる中間団体が今後の社会で必要とされるのではないか、それが日本を再生するための鍵だと主張する。その意味で、中央よりも、地方の活性化が今後ますます重要であろう。

  • 小渕内閣のもとにつくられた経済戦略会議の主要メンバーとしてグローバル資本主義の旗振り役をつとめた著者が、一転してその本質的欠陥を説いた「懺悔の書」。

    著者によるとグローバル資本主義の主要な本質的欠陥は以下の3つである。
    1. 世界金融経済の不安定要素となる。
    2. 格差を生む。
    3. 地球環境汚染を加速化させる。

    私は、より本質的な問題点として、白井聡が言うところの「資本の他者性」(資本は人の幸福に一切関心をもたない。もつのは貨幣の増殖だけである)が最も荒々しく暴力的な形で顕在化したのがグローバル資本主義であると考える。

    この点で、問題の本質をつとに認識して喝破していた論者として著者がカール・ポランニーをあげ、「大転換」の内容を紹介しているところに大いに共感した。

    それから末尾の長谷川三千子の解説が素晴らしい。味読に値する一文である。

  • 市場は効率的だから、市場に任せるのが合理的で、政府は市場に介入すべきでないという新自由主義は、アメリカだからこそうまくいった発想である(うまくいったといっても、金融危機で壊滅的な影響を受けたし、格差も拡大している)。したがって、それをそのまま日本に輸入すべきではなかったというのが筆者の見方。日本が経済成長できたのは、非合理さがあったからこそ。短期的な利益を最大化することにこだわるのではなく、信頼関係を気づくことで長期的な利益を重要視してきた。それに加えて、日本は自然を大切にする(一神教は自然は征服すべきものと考える、らしい)思想がある。これらのことから、環境の面で世界をリードすべきだと筆者は主張する。

  • ★★★2021年6月★★★


    この本の著者である中谷巌氏を知ったのは、佐藤優の『いまいきる資本論』だか、『いま生きる階級論』を読んだから。新自由主義者だった中谷氏は自らの意見をかえ、現在は新自由主義を批判する立場にいる。
    この本はそのような思いが込められている。
    2008年に書かれた本で、現在(2021年)から見ればかなり過去の話になったが、普遍的なことが書かれているため今でも充分読むに値する。


    新自由主義はアメリカ発の思想で、「格差拡大」と「環境破壊」の温床となる。そもそもアメリカはピューリタンによって築かれた宗教国家の側面があり、だから新自由主義を世界に布教しようと躍起になっている。
    一方日本は、短期的な利益よりも、長期的な信頼に重きを置く伝統があり新自由主義の思想とは相いれない。


    ところが日本にも新自由主義の荒波が押し寄せ、今や貧困大国となってしまった。それ以上に恐ろしいのは、貧困者への同情のなさだと筆者は指摘する。
    僕も同感。生活保護バッシングが一時ひどかったし、うまくいかないのは自己責任だという風潮もおかしい。
    凶悪犯罪が繰り返されるのも、このような社会構造と無縁ではない。
    環境破壊についても、資本主義は常に環境規制の緩い国、地域を食い物にする。環境はどんどん破壊される。



    日本がこんごとるべき指針は、誰もが安心して暮らせる社会づくり。そして環境立国。
    この本が世に出てから13年経つが、どうだろうか。
    まだ道半ばな気がする。
    今の子供たちが大人になるころには、少しはマシな世の中になるよう、びりきながら頑張りたいと思う。

  •  小泉前首相が進めた郵政民営化前後から、日本では新自由主義という思想が徐々に浸透してきました。その核は市場原理主義と自己責任という二つの言葉に集約できると思います。そのような新自由主義(グローバル資本主義)は誤った方向であるというのが著者の意見です。扱っている射程が広いのでここでは幾つかのパートへの感想だけ述べたいと思います。

     グローバル資本主義経済の欠点の指摘は的確だと思います。端的には「生産と消費の分離」(P.108)。国際的水平分業により先進国の工場は人件費の安い後進国に移転し、先進国がより安い製品を輸入するという生産消費スタイルが確立されました。結果、先進国のブルーカラーは消費は続けざるを得ないのに生産に関われないという事態に至ります。投資家と一般消費者は得をしますが、先進国ブルーカラーは失職ないしより賃金の低い仕事を探さざるを得ないことになります。国により政府の補助や支援はまちまちでしょうが、自己責任の旗印の下、格差が広がる構図ができます。

     また、かような市場原理主義の推進者が居るであろうことを暗にほのめかしていますが、ここは私も同感でした。「政府の干渉が減り、規制が緩和されたマーケットが実現すれば得をする勢力がいたからこそ」(P.133)。筆者は決して陰謀史観に与するわけではないと断りを入れていますが、私は、物事に因果があるということは何某かのグループがお金と時間をかけて意志をもって方向性を作ったと考えます。

     他方、以降第四章から終章まではややナイーブな議論が続きます。グローバル資本主義の源泉は米国建国の理念にまで遡っています(P.212-P.219)。単純な還元論には疑問が残りますし、歴史がない国とは言え400年前後の歴史があります。その歴史過程を分析しないのは片手落ちにも見えました。
     それ以外にも欧米の一神教を背景とする人間中心主義や、江戸時代の誇り高き武士の精神、さらには自然との調和を図る神道的日本について懐古的に言及していますが、寧ろ感傷的に映るため省いた方が良いのではと感じました。

     まとめますと、本書でなくともグローバル資本主義について学ぶには他に良い本があると思いました。確かに、どのようにしてグローバリズムが格差社会を引き起こしたか、を考える上では参考になります。しかし、議論の射程距離が広く、米国の歴史の精査や一神教の思想性の分析は甘く、人によっては中盤以降読む気を失う可能性があります。本書の論点は経済、米国史、比較宗教学、日本文化等々多岐にわたりますが、エッセイとして読むのであればこの限りではなりません。

  • 著者は経済学者で、日本の経済政策に関わる。リーマンショックを経て自説の見直しの必要性を迫られた。著者はグローバル資本主義、規制緩和、新自由主義の流れを支持していたが、結果として世界経済が不安定化し格差社会が拡大、環境破壊が進んでしまった。今後の日本経済の問題提起と課題解決について述べているが、現時点でもこの流れはあまり変わっていない。因みにこの本のタイトルは少し大袈裟過ぎるように思う。資本主義は自壊せず、増々拡大しつつあるように思える。

  • 【内容のまとめ】
    資本主義が人類に与えた傷は「世界経済の不安定化」「所得格差の拡大」「地球環境破壊」の3つと言えるだろう。
    グローバル資本主義は世界経済を活性化させる一方、これらの重大な副作用をもたらした。

    サブプライム・ローンによって、アメリカだけでなく世界の金融市場が大きく揺らいだことは未だ記憶に新しい。
    これだけの大変動にもかかわらず、多くの経済学者、とくにアメリカの経済学者たちは
    「これは大変な激動ではあるが所詮は資本主義経済の自律的な調整のプロセスに過ぎない」と、
    新自由主義やグローバル資本主義の枠組そのものは今後も続くと楽観的に考えているようだ(本書が著された2008年時点)。

    国境を越えて資本やモノが移動するというこの枠組みは、その創造主たる人類に対し、
    先に挙げた「傷」を与えたことで自らをも壊し始めているのではないだろうか。
    こうした惨状はどのように引き起こされたのか、そしてそれを乗り越える術はあるのだろうか。

    1930年代の大恐慌によって、「市場にすべてを委ねれば経済は安定的に成長する」という市場原理主義思想は破綻を来した。
    大恐慌も市場メカニズムの一時的な調整局面であり、いずれは失業も不況も収まるはずだったが、事態はますます悪化していった。
    そこで勢いを増したのが、景気安定のため政府が積極的に介入を行なうケインズ経済学である。
    その経済政策の流れが第二次大戦後も続いたことで、戦後のアメリカ社会は豊かな中間層を生み出すことができた。
    第二次大戦後からオイルショック直前にかけてのアメリカは、第二次大戦前と比べて圧倒的に所得格差が縮小した「大圧縮の時代」であった。

    ケインズ経済学は景気の安定化が政府の仕事であると主張する。
    しかし好景気の中で議員たちは有権者の歓心を買うため、さらなる公共投資と福祉政策を推進し、結果的にインフレ・巨大な財政赤字・公共部門の肥大化を招いた。
    ベトナム戦争のエスカレート、石油ショックが追い打ちをかける形となり、これまでの「大きな政府」から一転、
    「小さな政府」「市場原理」「自己責任」を軸とする合理的期待学派へとアメリカ経済学はシフトしていく。

    アダム・スミス以来の近代経済学では、人間を「ホモ・エコノミクス(経済人)」として定義する。
    経済人は自らの満足を最大化することを目的に、合理的に行動する存在である。
    そこでは人間の非合理的な部分は無視され、「どのような社会が人を幸せにするか」といった主観が入り込む問題には一切価値判断をしない。

    人間が合理的価値判断のみで行動する存在ではないことは、あらためて言及するまでもない。
    にもかかわらず、新自由主義思想があたかも人類普遍の真理のように語られるのはなぜか。
    それは新自由主義思想が学術的に、あるいは論理的に「正しい」から支持を集めたというよりも、
    むしろ一部のエリートにとって都合のよい思想だったからではないだろうか。
    とくに欧米は、「エリートとしての自覚」が日本においてよりも顕著である。
    そこには「社会をリードする人間」としての責務の自覚と、「エリートは一般大衆とは違うのだから、高額報酬を受け取って当然である」という意識が混在しているようだ。

    実際、自由競争やマーケット・メカニズムという制度的枠組みは実に「民主主義的」にみえる。
    しかし情報の格差がある以上、情報を多く持つエリートが取引を有利に進めることができてしまう。
    こうして、民主主義の隠れ蓑によって格差はますます拡大してくのである。
    この考えが正しいとすれば、どれだけ規制を撤廃し競争を盛んにしたところで、一般庶民が幸せになれることはない。
    資本を自由に操れるエリートたちがさらに豊かになるだけである。

    結局のところ、グローバル資本主義をいかに制御するかということが問題となる。
    国家が新自由主義経済にどのような制限を加えるのか、どのような社会的価値を実現するのかを模索するしかない。

  • かつてボーダレス経済を礼賛し構造改革の一翼を担った著者が、グローバル資本主義の本質と問題点、日本経済の再生について説いた本。

    格差の拡大傾向や従来コミュニティの崩壊など、新自由主義的な経済政策の負の面が顕在化した現在、日本社会のあるべき道は何かを考えることは重要なことです。

    本書の主張は情緒的すぎる部分もありますが、これからの資本主義や日本社会のあり方を考えるきっかけになる本だと思います。

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著者プロフィール

株式会社不識庵代表取締役

「2021年 『入門マクロ経済学 第6版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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