九つの、物語 (集英社文庫)

著者 : 橋本紡
  • 集英社 (2011年2月18日発売)
4.01
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  • レビュー :291
  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087466652

作品紹介・あらすじ

大学生のゆきなの前に、長く会っていなかった兄がいきなり現れた。女性と料理と本を愛し、奔放に振舞う兄に惑わされつつ、ゆきなは日常として受け入れていく。いつまでもいつまでも幸せな日々が続くと思えたが…。ゆきなはやがて、兄が長く不在だった理由を思い出す。人生は痛みと喪失に満ちていた。生きるとは、なんと愚かで、なんと尊いのか。そのことを丁寧に描いた、やさしく強い物語。

九つの、物語 (集英社文庫)の感想・レビュー・書評

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  • 兄・禎文と妹のゆきなは、お互いがお互いの人生に、苦しみと痛みの喪失を
    与えてしまったことを深く悔いている。もしもあの時、こうしていたなら...いえ、
    こうしていなかったなら....と。そうしていれば、苦しませることもなかったし
    死なせることもなかっただろうに...。できるものならそんな苦しみから
    解き放してやりたい。できるものならその痛みを償いたい。そんな二人の
    気持ちの尊さを、どこかで神様は見ていてくれたのかもしれません。
    この二人の兄妹は奇跡的な再会が叶うのです。

    おにいちゃんの作る美味しい料理がゆきなの空腹を満たします。
    いつものおにいちゃんの味..。懐かしい味。大好きな味...。もう二度と
    味わうことなど叶わないと思っていたトマトスパゲティ。最後の一口を
    食べ終えてしまうのが惜しくてつい箸は止まってしまうのだけれど
    なんでだろう...おいしい食べ物、それも大好きな人の作ってくれた懐かしい
    温かな一皿というものは、空腹を満たしてくれるだけじゃないんですね。
    痛みと苦しみに喪失してしまった心でさえも優しくそっと温めてくれる
    不思議な力があるのだなぁと思います。

    九つの章で語られるこのお話には、九つの古典文学が絡められています。
    大学生ゆきなが、見失ってしまった自分の心を少しずつ修正しながら
    取り戻して成長していくその過程に寄り添うようにして、短い古典小説の中の
    一説が、優しく語りかけてくれているかのようでした。そして

    "食べてみなければどんな味になるのかわからない、人生のようなスパゲティ。"

    レシピを見ないで作るからこその味。
    信じてみよう。楽しもう..。

  • ひとりっ子で、「素敵なおにいちゃんがほしかった。。。」と
    ため息をつく少女時代を過ごした人

    生きていくのに、たくさんの本と、おいしい料理と
    たったひとりでいいから、自分を見守る温かいまなざしを持つ人が
    どうしても必要な人

    私によく似たそんな人には、きっと胸に響く物語です。

    第一話の泉鏡花に始まり、太宰治、内田百閒、樋口一葉など
    一話ごとにひと昔前の名作がタイトルとなって並び、
    最後の第九話は、お手本になったであろうサリンジャーの
    『ナイン・ストーリーズ』の中の1篇で閉じられるという、本好きにはたまらない構成。

    しかも、その一話一話に、洋風炒飯をつめたローストチキン、
    皮から手作りした小龍包、ひと瓶700円のサフランを使ったパエリアなど

    哀しい記憶を封じ込め、薄氷を踏むようにして日々を過ごしている
    自分の危うさに気付かないゆきなをなんとか「生き続けさせる」ために
    兄の禎文がせっせと作る心尽くしの料理が登場して、

    食事が喉を通らなくなったゆきなに、禎文がひと匙ずつ
    雛鳥に餌付けするように、パエリアを食べさせるシーンには
    思わず涙が零れました。

    容姿端麗で、誰とでもすぐ仲良くなれて、もちろん女の子にもモテて
    ちゃらちゃらしているのに、実は古書をこよなく愛する読書家で
    情の深い禎文が、まるで少女時代の憧れをまるごと詰め込んだかのよう♪

    最後の最後には、彼のように
    「世界に溶け込んでしまうような」召され方をしたいなぁ。

    そして、物語の終わりに添えられた禎文式トマトスパゲティのレシピの
    「決して計量してはいけない。目分量で。」とか
    「いろんなスパイスを使いましょう。いつも違う味にしましょう。」とか
    茶目っ気溢れる注意書きにまで
    どこまでも禎文がやさしく宿っていて、素敵です。

  • 「本」「食べ物」「家族」「ほのぼの」「あやかし(?)」と、私の好きなエッセンスがすべて詰まっている本で、本当に楽しめた。
    透明感があって、切なくて、温かくて、読み終わってしまうのが惜しいと感じるほど。

    少し前に読んだ「猫泥棒と木曜日のキッチン」と同様、この物語の中にも 間違っている人が出てくる。「猫泥棒・・」の時にはそれは違和感につながったが、この話では得も知れぬ不安感となり、読後もずっと考えてしまった。ただそれが不快なものではないのが不思議。

    お兄ちゃんが素敵。
    それと同じ位、みずきちゃんと香月君が誠実で温かい愛を育んでいくのに胸きゅん。

    私も作ってみよう、トマトスパゲティ。
    そして作る度に思い出そう、禎文式トマトスパゲティの人生の格言を。

  • どこかほっこりして、あたたかいお話。
    このお兄ちゃんいいな~ 
    ちゃらちゃらして、女の子にモテモテなんだけど、本が好きで料理好き。
    妹を励ますときに せっせと美味しい料理を作る。
    お兄ちゃんの作った トマトスパゲッティ、皮からつくるし小籠包・・食べてみたい。
    美味しい料理が出てくる本は それだけで心が満たされてくるようで好きだな~

    • まろんさん
      このお兄ちゃん、「素敵なおにいちゃんがほしかったな」とつぶやく女の子たちの
      「素敵」をぜんぶ詰め込んだような素敵ぶりですよね!
      私もこんなお兄ちゃんに、おいしいごはんを作ってもらって
      好きな本について語り合うという、夢のような体験を
      一度でもいいからしてみたかったなぁ。。。
      2012/09/20
  • 表紙をめくって目次を見て気が付いたのですが、タイトルはサリンジャーの「ナイン・ストーリーズ」から来てるんですね(「、」が入ってるのもこのせいですかね)。
    今まさに「ナイン・ストーリーズ」を読み途中なのに、目次の「コネティカットのひょこひょこおじさん(ナイン・ストーリーズ収録の短編)」の文字を見るまで気付かず。

    主人公は本好きで、章ごとに1つの文学作品を読んでおり、それが話に微妙にリンクするという、読書家向けのお話しでした。
    この本を読む以前に読んだことがあったのは「コネティカットの~」のみで、田山花袋の「蒲団」はストーリーだけは知っていました。
    その程度でも十分楽しめます。

    お兄さんの幽霊はだいぶ都合のよい設定ですが、大好きな存在がいなくなってしまうという話は泣けます。
    第二話「待つ」の中で、主人公のゆきなと彼氏の香月くんが「離れることになってしまった好きな人のことを『忘れた方が良いのか、覚えておいた方が良いのか』」ということを話しあいます。
    私も良く似たようなことを考えますが、いつも結論は出ずじまいでした。
    しかしこの問いに対して香月くんが言っていた答えにハッとしました。

    香月「僕は覚えている方がいいと思うよ」
    ゆきな「それって辛くないかしら」
    香月「辛いだろうね。でも、いくらかの辛さを抱えている方が、人間らしいよ」

    香月くんの言う、辛いけど忘れるなというのは努力目標のようなものであり、問の答えとしては不適格なのかもしれません。あと、そもそも好きなら忘れられない気もします。
    でも私はこういう、どっちつかずの問題に自分の言葉で答えている一文が好きです。その一文を探して本を読んでいるのかもしれない。

    井伏鱒二の「山椒魚」に関しての話が6話・7話で出てきます。
    6話「改変前」
    山椒魚とカエルは仲直りをするのが改変前。
    兄はこちらの方が好きと言っていましたね。多分、母親のしたことも許してるし、妹のせいで死んだとか、そういう想いも無いのでこっちなんでしょうね。
    7話「改変後」
    改変した後の山椒魚では、二匹の水生生物が仲直りしないで死んでいくラストです。
    主人公は7話で、割と香月くんとのことや自分のことに自暴自棄になっていたので、読後感が暗いにも拘わらずこっちを選んだのでしょうか。
    作中でも触れられていますが、山椒魚の改変に対し、「作品は読者のものであるか作者のものであるか(作者が一度発表した作品を、読者を無視して結末が変わるほど大きく変えてしまうのはどうか)」という問題が起こったそうです。
    いろいろ意見はあるとは思いますが、私は兄の友達・吉田くんの意見に賛成(作品は作者のもの)です。

    余談ですけど、私はこの本を読んだ日に、浮気したりダメダメだったりする親が出てくる話を立て続けに読みました。
    同じような人が出て来るのにこうも読後感が違うんだなぁ。

  • はじめて、橋本紡さんの作品を読みました。
    前々からこの作品が気になっていたので
    すごく、楽しみにしていました。
    どんな話なんだろう、とページを捲ってみると
    そこからはもう本から目が離せなくて
    第八話の最後では涙が流れちゃいましたね。

    もうすっかり橋本紡さんのふぁんです 笑

  • 生きることが愛おしくなる。
    誰かに大切に思われるっていいなあ。
    料理は誰かの為に作るとおいしくなるんだ。

    わたし、いただきますとごちそうさまってちゃんと言う人好きだな〜。

  • こころがふっと軽くなる本。

    「人と人とのつながりっていいなー」
    「ご飯って大事だよなー」

    とか、当たり前すぎていつも忘れていることを再確認できるような。
    いつもより少し手がこんだ料理を作って、妻に振る舞おうかな……なんて思った。

  • 『人は愚かだ。間違うことだってある。それでも、一瞬一瞬、確かな幸せを得られるなら、間違うことを恐れるべきじゃない。』

    素直さがどこまで認めらて、求められるのか。
    橋本紡作品は、ゆらゆらと進んでいくのが非常にすき。

  • 読書のテンションが落ちている時に買ったために、
    ずっと積読になっていた本。

    モチベーションが上がったところできちんと読んでみたら
    ちゃんと面白かった。

    お兄ちゃんがカッコいい。
    お兄ちゃんクオリティ高すぎ!
    こんなお兄ちゃんいるの?いたらほしい。
    お兄ちゃん主人公だよね?

    妹を溺愛しすぎて
    妹を助けるために死んだのに
    成仏しないで戻ってきて
    ツンデレってなんですか!?

    キャラもいいしさ。
    お兄ちゃんいくつよ。

    設定も良かった。
    明治〜昭和頃の近代文学に絡めていくの。
    ちょっと無理やり感もあったけど、
    久しぶりにあの辺の本を読んでみたいと思ったし、
    読んだことない人にも興味を抱いてもらえそう。

    食いしん坊の私としては、毎回お兄ちゃんの作る料理の方が興味しんしんだったけど。

    本と、食べ物。

    最後、召され方にはいろいろあって、ごく稀に、世界に溶け込んでしまうような召され方をする人がいるの

    っていうのがあって、ご都合主義っぽい!
    と思ったけど

    いまこれを書くために読み返し考えてみて、
    輪廻転生があるとして
    それは、人が悟りを開くための道のりだとすれば
    そこに至った人っていうのは、
    転生せず世界に溶け込む、っていうのはありなのかも、と。

    ちょっと面白い発見がいまできたので、
    読んで良かったと改めて思った。

    あと、トマトパスタは絶対作ろう。

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