何もかも憂鬱な夜に (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087467987

作品紹介・あらすじ

施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している-。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • 孤児 自殺 死刑....。常に「死」が纏わり付くこの作品に興味 関心メーターは振り切りだ。

    『施設で育った刑務官の「僕」は、20歳の死刑囚・山井を担当する。「僕」は、自殺した親友・真下と同じく混沌とした自身の内面に苦しむ。大切な恩師のように、希望を与えられる人になりたい。その一方、山井にシンパシーを感じる「僕」。この憂鬱に答えはあるのだろうか?』

    死刑制度について深く追求した内容であり、自ずと「自分は死刑制度についてどう考えているのか」を、本を閉じた休憩タイムに考えしまう。
    ーーはて、休憩とはーー
    因みに答えは出てません。すぁせん。

    終始陰鬱とした重い空気感の中、師を想い刑務官として生きる現在の「僕」と、自殺した親友との日々...を語る過去の「僕」。そして現代での「僕」を再び混沌に導く死刑囚山井の存在。

    何より、過去での真下の日記や「僕」と真下の会話が印象的だ。堕ちていく事が止められない苦悩、未来を考えるとどうしても光が差さない葛藤、衝動的なフラッシュバック。全部重い。
    ここでの彼らの叫びはとても文学的とは言えない、悪く言えば支離滅裂なセリフとして表現され、何を言っているのか分からなくなる事もしばしば。そして私はそんな彼らの会話を夢中で追っていた。何度読み返したことか。

    彼らは言葉の合間に「なんて言うのかな、」をよく使っていた。この気持ち、とてもよく分かる。
    伝えたい叫びを表現する言葉が見付からない、知らない、わからない。でもなんて言うのかな、シンパシーってあるんですよね、うーん、なんて言うのかな。←

    悪ノリは置いといて、つまりこれって読者が理解しなくて良い事なのだと感じる。彼等の会話は別に読者に伝えたくて選別された言葉では無い。
    彼等が分かり合う事。お互いに、相手に自分を伝えている事。その事実を知れればそれで良いのだと思えた。
    そしてそんな「現代の僕」の行く末は
    是非読者として自らの目で見届けていただきたく思う。「僕」から繋がる全ての憂鬱を。
    ーーーーー

    もし、何もかも憂鬱な夜が私に....来る....ことはあまり想像できないので、少し捻ってそんな人が私の近くに現れた時は、そうだなぁ...。
    傍に寄り添えるそんな存在になりたい。

    なんて綺麗な感情を生み出してくれる作家、作品では無い。考える事になるのは必然だ。しかしそれが前向きな物か、後ろ向きな物か、はたまた私のように宙ぶらりんのまま窒息しかけるのかは人それぞれだろう。

    この作品を読んで何を感じたのか、何も感じないのか、破って捨てたのか、売り飛ばしたのか、家宝にしたのか、今頃玄関に額縁で飾ってあるのか。
    本書を手に取りその人がどう感じるのか に非常に興味が唆られる。

  • 何もかも憂鬱な夜を越えるのは並大抵のことではない…。

    本書には常に湿度というかじっとりとした空気がまとわりついている。
    冒頭の、夢のような象徴的なシーンから、酒場での喧騒、しんとした収容所の雰囲気。
    雨。川。
    流れる汗。呼吸。

    施設育ちの主人公はその生い立ちから現状に至るまで、物憂げで明るい未来など想像もできない。

    正直、読めば読むほどにまとわりつく湿度が高くなるようで、一度読むのを止めてしまった。この憂鬱な夜は明けないのではないか、と

    しばらく経った後、最後まで一気に読み進めてしまった。

    頁も少なく、出来事らしい出来事は結局最後まで起こらない。
    主人公の置かれた状況は何ら変わらない。
    起こってしまったことはもう戻らない。
    死んだ人間も帰らないし、死にいく人間の運命も変えられない。

    でも、読み終えた後に確かに憂鬱な夜を越えられそうな実感が残る。

    主人公によって出された、憂鬱な夜を越えるための答えはひどくシンプルであり、地味で、かつ根気のいるものだった。
    開き直りともいえるかもしれない。

    ただ、「自分は何者にもなれない」「自分は生きている価値なんてない」「むしろ死んでしまった方がいい」

    そんな思いにとらわれたことが一度でもある人には読んで欲しい。

    そんな思いにとらわれた人が近くにいる人にも。

  • 生育環境がその人に与える影響は大きい。
    幼少期に劣悪な環境で育ち、成長しても自分の情動がコントロールできず、また自分の内面を理解できるほどの言語も持たずに、訳もわからず破壊的な犯罪的行為に及ぶ人たちがいる。
    そんな中で支えてくれ正しい道へ導こうとしてくれる人もいて、それに応えようとする人もいる。

    死刑について、命と人間について、改めて考えさせられる物語だった。



  • H30.4.30 再読。

    ・生と死、刑務官と受刑者、友情、愛情、成育歴など。難しいテーマの本だったが、気づいたら一気読みしていた。
    芸術鑑賞って、生きる上で大切な事なんだなとあらためて思わされた。
    ・「自分以外の人間が考えたことを味わって、自分でも考えろ。」
    ・「考えることで、人間はどのようにでもなることができる・・・世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、自分でつくりだすことができる。」

  • 実は中村文則さんを読むのは本作が初めて。
    先日、又吉直樹さんの「夜を乗り越える」(小学館よしもと新書)を読んで、本作を絶賛していたのでアマゾンで取り寄せました。
    打ちのめされました。
    こんな重要な作家をスルーしていた自分の不明を恥じました。
    でも、遅くなりましたが、出会えて良かった。
    又吉さんに感謝しなければなりません。
    って、いつものように前置きが長くなりました。
    でも、自分にとって、その作品と、どういうきっかけで出会ったのかはとても大事なことなんです。
    恋人と同じなんですね。
    人は恋人の出来た友達に「どうやって出会ったの?」と必ず聞きますが、本について同じ質問をする人を見たことがありません。
    本作について同じ質問をされたら、少し照れながら「又吉さんの紹介で」と答えたいと思います。
    裏表紙の内容紹介を参照しつつ、あらすじを紹介しますね。
    若干、ネタバレがあるかもしれませんのでご注意を。
    施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した20歳の未決囚・山井を担当しています。
    1週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定しますが、山井は控訴する素振りを見せません。
    「僕」は自分にどこか似た山井に、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやり取りを語って聞かせます。
    簡単に説明すると、本筋はそんなところです。
    私はまず、主人公である「僕」自身が心に抱える闇の深さに注目しました。
    施設で育ち、深い混迷の中でもがき苦しむ主人公の姿は、読んでいて胸が苦しくなりました。
    「僕」はかつて自殺を試みてもいます。
    刑務官になってからも素行は改まらず、行きずりの不良少年に向かって鉄パイプを振り上げたり、娼婦の首を絞めて殺そうとしたりします。
    はっきり言って、救いはありません。
    ですが、物語の終盤で、「僕」が恩師である施設長とのやり取りを語り出すところで、ようやく一筋の光明が差します。
    「僕」は山井に控訴を勧めます。
    その時の台詞がこうです。
    「……殺したお前に全部責任はあるけど、そのお前の命には、責任はないと思ってるから。お前の命というのは、本当は、お前とは別のものだから」
    実はこのシーンの少し前に、「僕」がかつて自殺を試みた際に、施設長が「僕」に対して命について語るシーンが挿入されています。
    施設長は「僕」に、「お前は……アメーバみたいだったんだ。わかりやすく言えば」と切り出し、滔々と生命の神秘について説き、最後に次のように語ります。
    「現在というのは、どんな過去にも勝る。そのアメーバとお前を繋ぐ無数の生物の連続は、その何億年の線という、途方もない奇跡の連続は、いいか? 全て、今のお前のためだけにあった、と考えていい」
    この2つのシーンが重なった時、私はようやく救われた気がしました。
    坂口安吾ではないですが、「僕」は堕ち切るところまで堕ち切って、再生を果たしたように感じたからです。
    完全に打ちのめされました。
    もう一度打ちのめされたいと思い、昨日、書店で中村文則さんの「掏摸」を買って帰りました。
    私にとって特別な作家が一人増えたことを申し添えて、相変わらず下手くそなレビューを終わりにしたいと思います。

  • 1日で読み終わってしまった。
    勢いで読み切った後の感覚としては、何とも言いしれない悲しみに打ちひしがられるといった感じです。

    この小説を読めてよかったです。
    私も主人公の彼のように、そっと寄り添えたら、と思いました。同じような生い立ち、同じような環境で育ってきた人にしか分からない痛み苦しみはあると思うから。

  • 私の人生でとても大切な本。死刑に対する価値観が変わりました。

    死刑反対というと、自分の家族が殺されたらどうするんだ!と必ず言われるんだけど
    自分のやった事の意味もわからず、人の命の価値も、自分の命の価値も、分からないまま死んで欲しくはない。例えば家族が殺されてもそう思うと思う。この本を読むまではそんなこと考えなかった。

  • 死刑制度について触れた作品。とっても重い内容。死刑制度について被害者家族なら、刑務官なら、加害者家族であればと様々な想像をしてみましたが私自身答えはでません。加害者が育った環境を考えれば同情することもあるのかもしれないけど子供の虐待死などのニュースを見ればこんな親死刑にすればいいのにと思うし。老老介護の末の殺人なんかだとそんなんもう仕方なかったやろ。と勝手に思ったりもする。裁くのも執行するのも関係ない安全地帯から。作品自体どよーんと暗いモヤモヤとした雰囲気でまさに憂鬱って感じでした。読んだら死刑制度について深く考える機会になると思います。

  • 「命」という言葉の捉え方が少し変わった。良い小説を読んだ。とても気分が良い。

  • 先進国で死刑があるのはアメリカと日本だけ。刑務官という特殊な仕事を、私はやっていくことはできないであろう。
    ここまで人の内面を描いた作品は久しぶりだ。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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