七人の敵がいる (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社
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感想 : 125
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087468052

作品紹介・あらすじ

編集者としてバリバリ仕事をこなす山田陽子。一人息子の陽介が小学校に入学し、少しは手が離れて楽になるかと思ったら-とんでもない!PTA、学童保育所父母会、自治会役員…次々と降りかかる「お勤め」に振り回される毎日が始まった。小学生の親になるって、こんなに大変だったの!?笑って泣けて、元気が湧いてくる。ワーキングマザーの奮闘を描く、痛快子育てエンターテインメント。

感想・レビュー・書評

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  •  2010年発表、加納朋子さん作品6冊目読了。
     「ワーキングマザーのPTA奮闘小説!」との宣伝ですが、なんとまぁこの主人公・陽子の凄いこと!

     陽子は、息子が小学校に入学し、PTAの役員決めの際、利己的な一言で他の保護者を敵に回し、加えて学童保育、義理母・姉妹、町内自治会、スポ少等との関係でも、正論で攻める言動が災いし孤立していきます。
     読み始めは、あまり良い気分ではなく、大半の人は、陰にこもらないズバリと物申す陽子の姿勢に眉をひそめるでしょう。

     ただ、集団の中で、望ましい人間関係や合意形成を上手く築けない、いやそもそもそれを望んでいない陽子でしたが、自分のため家族のために、正しいと思ったことをやり続けます。すると、次第に理解・賞賛してくれる人が出てきて、少しずつ望んでいる方向に近づいていきます。読み手の私たちも、陽子への見方が(いい方に)変わっていきます。
     
     面倒臭く、ままならない人間関係が、実にリアルに描かれており、女性のキモチ・感情だけでなく、男性側のあるあるの態度の表現も見事です。
     学校が抱えるPTAの旧態依然とした体制・事業や担任を中心とした学級の閉塞性の課題も浮き彫りにします。
     今、悩みを抱えて、何かを変えたいと思って頑張っている方には、多くの勇気がもらえることでしょう。多くの読者が快哉を叫び、共感と支持を得る作品だと思いました。

     ちなみに、『男は敷居を跨げば七人の敵あり』(男は一旦社会に出たら、多くの競争相手や敵がいて、様々な苦労がある)という諺があり、「七人」は具体数ではなく「多い」という例えだそうですね。
     「誰にでも、どこにでも敵がいる」んですね。

     また、川北義則さんの2009年PHP新書『男には七人の敵がいる』(私は未読です)には、「無駄な人間関係に振りまわされず、強く賢く生きるための超一流の男のふるまい」が著されているようで、上司・部下・同僚・妻・女・子・親が取り上げられているそうです。

     う〜ん、今も昔も、対応ひとつ間違えば、周囲は面倒くさい敵ばかりですが、敵がいてこそ人は大きく成長できるのもまた然りなんでしょうね。自分を磨くには、男も女も関係なく、優れた敵手は必要不可欠な存在なのだと思います。相手を理解するところから始まるのかもしれません。
     孫子の兵法「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」も、いつの時代にも通ずる先達の教えですね。いやはや、勉強になりました。

  • 働く女性の子どもの学校・PTAにおける不条理を突き詰めた。クラス、学童保育、地域自治会、スポ小、登校班の旗振り等の役割り。夫は「仕事を休めないよ、忙しいから」と妻に押し付ける。しかし、兼業主婦には切実な問題だ。専業主婦だろうと兼業主婦だろうと子どもを思う気持ちは変わらない。でも兼業主婦は役員となる時間がないのだ。PTAの役割は重要だが、いっそのこと、学校業務を委託業者に任せれば良いと昔から感じていた。主人公・陽子の立ち居振る舞いは爽快感のみ残った。これまでの妻への感謝と、子を持つ日本の夫が読むべき本だ。

  • 小説すばる2009年4月号女は女の敵である、6月号義母義家族は敵である、8月号男もたいがい,敵である、10月号当然夫も敵である、12月号我が子だろうが敵になる、2010年2月号先生が敵である、4月号会長様は敵である、の7つの連作短編を2010年6月集英社から刊行。2012年3月集英社文庫化。陶子シリーズのスピンオフ1作目。やり手の編集者の陶子さんがPTA、学校、町内会の人々との丁々発止のやり取りを繰り返す痛快生活戦闘ストーリー。謎や不思議とは無縁の加納さんの新ジャンルですね。次作に進みます。

  • PTAがあたったら、とりあえず心療内科に行って安定剤を貰おうと決めていた。
    今私はフルタイムで正社員として働いていて、夫は片道2時間通勤していて、近所に親、義両親も居ないので、あたったら病まないことにまず注力した方がいいだろうと思っていた。そのぐらい怖かった。
    だけどこの本を読んで、やれることとやれないことをちゃんと示して腹括って取り組めば、乗り切れるかもしれないと思った。七人の敵が居るが、八人の味方もいるわけだから。
    励まされた!

  • これを後から読んでみた。我ら七人よりパワーアップの気がする。1話ずつ男気出した後に後悔するパターンがとても好きかも、最後にトラブル相手と和解する感じもいい、嫌味嫌がらせ言う会社の男性に作家さんが代わりにダメ出しする所なんかよくやってくれると拍手ですね、嫌な人間、イジメは大人にもあるから。実の子でないって知らなくてちょっと驚いた。1話ずつ何かしら爪痕がある、やっぱり加納朋子さんいい。昔の本購入しよう

  • 昔は「男子家を出ずれば七人の敵あり」といったものだが、今や男女は関係ないな。

    陶子さんのお話に出ていた陽子さんが主人公のお話(「レイン・レインボウ」第二話を思い出せ)。
    彼女を“ブルドーザー”とネタにした作家はあの時妄想を語っていた作家だろうか、相変わらず編集者としてばりばり働いているようだけど、それ故にPTA、学童の父母会、自治会など次々と降りかかるお勤めに振り回されるハメになる。

    自分が町内会や自治会で役員をやっていた時のことを思い出した。彼女のように次々と敵を作ってしまうことはなく、渋々唯々諾々とやっていただけだけど。

    『陽子も食べるのは速い方だが、岬さんの方がさらに速かった。忙しい人特有の、かき込むような昼食の取り方だ』には妙に納得。岬さんが言うように、仕事はできる人の方により多く流れていくんだな。そりゃ、飯を食う暇も惜しいわ。

    などと思いながら読み進め、設定からして似たようなトーンの話が続くなぁと思っていたが、後半は目先が変わり、陽子さん親子の秘密が明かされたり、ラスボス感たっぷりのPTA会長が出てきたり、一筋縄で物語が進まないところがこの作者は巧い。

    「男子家を出ずれば七人の敵あり」の後には続きがあったのかい?全く知らなかったけど…。

    ★は3.6くらい。

  • まずは、著者あとがきの引用から。
    <blockquote> PTA小説? なんか小難しくて、つまんなそう……。
     そう思った方、ぜひとも本書を読んでみて下さい。これはあなたのすぐ隣にある、日
    常であり現実でありコメディであり……時にはある意味ホラーです。「身につまされる
    わー」という方にはもちろん「自分とは無関係」と思っている方にも、ぜひ読んでいた
    だきたいのです。知っておいて損はない……はずです。たぶん。</blockquote>
    加納さんのあとがきを読むのは、これが初めてかもしれません。
    普段、加納さんは、あとがきを書かない印象です。
    つまり本書は、それくらい意気込んだ作品である、と言えるのでしょう。
    そして、その意気込み通り、本書は相当に面白く、素晴らしい作品でした。

    陽子の言動、初めはちと眉をひそめるように読みました。
    男勝りで勝ち気、傲岸で傍若無人とすら思えてしまうような発言。
    それでも、読者は先を読み進めることになります。
    なぜなら、彼女は決してそんな人物ではないことがよく分かるからです。

    そこにあるのは、煌めく知性であり、れっきとした理性なのですから。
    様々な困難から逃げることなく、真っ向から立ち向かう勇気なのですから。
    時にそれは暴走したり、単なる意地っ張りに過ぎなかったりもします。
    しかし、そういう失敗からも、彼女は逃げません。
    しっかりと反省し、同じ失敗を行わないように、前を向いて進み続ける姿勢が眩しいです。

    読み進めるにつれ、そんな陽子の態度も少しずつ変わっていきます。
    けれど、その芯は最後まで変わることはありません。
    彼女の核を為しているのはただ一つ。「我が子への愛」です。
    そして、もっと良い方法はないか、という改善への挑戦です。

    いまの教育界に蔓延する閉塞感や、様々な課題。それらを見事に描ききった作品です。
    そしてもちろん、加納さんならではの暖かく優しいストーリィテリングも健在です。
    エピローグでの一幕は、読む人に、元気と勇気を与えること間違いなし、です。
    爽やかで力強いラストシーンは、本当に素晴らしいのひと言に尽きます。

    様々な立場の人たちに、ぜひ読んでいただきたい作品です。
    特に、「俺は家庭のために働いているんだ」と公言してはばからない亭主たちにこそ。
    同じ男として、その影で繰り広げられている女性たちの戦いを、知って欲しいと願います。

  • 編集者としてバリバリ働く主人公。
    一人息子がいざ小学校へ入学。少しは手が離れると思いきや…?

    PTAや自治会役員、父母の会など、子どもがいる家庭にはなかなか切っては切り離せない繋がりや、少し煩わしい責任たち。
    どれもこれも私は未経験ながらも、幼い頃母親が「PTA役員になったらいやだなあ」とか、「何年に1回はやっておかないと」なんてぶつぶつ話していたのをよく覚えています。

    ジャンルの違う様々な人の集まりで1つのことを成し遂げるのは、なかなか容易じゃないでしょう。
    だからこそ、主人公がビシッと突き進む姿は痛快です。

    物語の本筋ではないのですが、主人公家族の関係性には驚かされたりもしました。
    こういうことを織り交ぜてくるあたりに、加納さんらしさを感じました。いろんな人がいて、いろんな家族の形がある。
    同じ立場に立った時にまた改めて読み返したいですね。

  • 家のことや育児のことは女性がするものと思っている全ての人に読んで欲しい本。

    女性も働くのが普通になってきた世の中で(というか女性も社会進出を!!とどんどん促される中で)男性と対等であるはずなのに、負担を強いられたり損をするのは女性のことがまだまだ多い。

    子供は2人の子供でしょ。
    自治会の付き合いなんて、そこに一緒に住んでるんだから妻だけの仕事じゃないよね?とか
    読んでて本当にうんうんと、主人公のかっこよさに胸がスカッとしました^_^面白かった!!

  • 評価は5.

    内容(BOOKデーターベース)
    編集者としてバリバリ仕事をこなす山田陽子。一人息子の陽介が小学校に入学し、少しは手が離れて楽になるかと思ったら―とんでもない!PTA、学童保育所父母会、自治会役員…次々と降りかかる「お勤め」に振り回される毎日が始まった。小学生の親になるって、こんなに大変だったの!?笑って泣けて、元気が湧いてくる。ワーキングマザーの奮闘を描く、痛快子育てエンターテインメント。

    初めての作家。兎に角女性の心理をついている。その上文章の言い回しがクスリと笑えて面白い。主人公の自己分析が毒舌で的を得ていて・・・こういう人いるよねぇ~。
    あっという間に読了。

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著者プロフィール

1966年福岡県生まれ。’92年『ななつのこ』で第3回鮎川哲也賞を受賞して作家デビュー。’95年に『ガラスの麒麟』で第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)、2008年『レインレイン・ボウ』で第1回京都水無月大賞を受賞。著書に『掌の中の小鳥』『ささら さや』『モノレールねこ』『ぐるぐる猿と歌う鳥』『少年少女飛行倶楽部』『七人の敵がいる』『トオリヌケ キンシ』『カーテンコール!』『いつかの岸辺に跳ねていく』『二百十番館にようこそ』などがある。

「2021年 『ガラスの麒麟 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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