楊令伝 13 青冥の章 (集英社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (392ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784087468403

感想・レビュー・書評

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  • 「第一、戦いをやめようと思ったら、やめれるのか。やがて、戦いは起こる。その準備を梁山泊はしている。いいか、いずれ交易は、商隊を出さなくても出来るようになる。西域の国々から、隊商がくる。日本からも、南の国からも、交易船がくる。物が梁山泊に集まり、散っていく。梁山泊には、金銀がのこるだけだ」
    「なるほどねえ」
    「そんな国を周囲が許すと思うか。税が安く、商いが自由な国を。よってたかって、潰しにかかる。それは、楊令殿も呉用殿も、よくわかっているだろう。どう凌ぐか。楊令殿の頭は、それで一杯のはずだ」
    「凌ぎきったら?」
    「周囲は、自然に梁山泊になる。そうなるために流れる血は、童貫戦の比では無いだろうが」
    「凌げなかったら、潰れるだけかい?」
    「その時、私に何が出来るのか。ほかの商人は知らず、紡鵺盛栄に、なにができるか。いまは、そればかりを考えているのだ、私は」
    「楊令殿は、北京大名府を、呼延陵に占領させたよ」
    「戦をやりたがっている連中を、宥める意味もあったのだと思う。いずれ、周囲が梁山泊と同じようになるか、試しているのだとも思う。呉用殿の考えが大きいだろうが」
    「いずれにせよ、戦はある、
    とあんたは思っているんだね?」
    「思っているよ。生きるか死ぬかの戦いを、梁山泊は通り抜けるしかない」
    「底なし沼を、掻き回さなくてもか」
    「沼が、口を開けて嗤っているだろう。人の愚かさや醜さを飲み込もうとな」
    「わからないよ、あたしには」
    「酔っているものな」
    「素面だって、わかりゃしないさ」(159p)

    梁山泊、金国、斉国、南宗、入り乱れての混沌の中で、岳飛は僅かに蕭珪材に辛勝する。先が見えない戦乱。楊令の理想は、果たして実を結ぶだろうか。

    梁山泊から、一番に裏切り者が出るとしたら、戴宗、韓伯竜、そしてこの盛栄を予想していた。処が、この巻で彼らは一様に「漢」を見せる。意外にも最初の裏切り者は「あいつ」だった。思うに、若いということは、こういうことなのかもしれない。
    2012年7月3日読了

  • 其々の勢力が形を整えてきている。
    意外な人が敵の手に落ち、意外な人が寝返る。

    梁山泊は物語の中で最も安定している時期かもしれない。
    いつまで続くかはわからないけれど、いつ迄も一日でも長くその安寧が続いてほしいと心から思います。

    物語はあと二巻で終わり岳飛伝へと続くのですが、楊令自体はどうなってしまうのでしょうか?
    梁山泊はどうなってしまうのでしょうか?

    そして岳飛はどのように運命に翻弄されていくのでしょうか?

    次巻が楽しみです。

  • 蕭珪材はイクサガミ

  • 蕭珪材と岳飛の戦い。
    秦容の飛躍

  • 剣が俺に死ねと言ったのか
    熱い死闘の末、護国の剣が折れた
    この闘いは熱かった

  • 3.9

    梁山泊初離反か。二部ももう終わりだしこれがキーになってくるのか。
    そして岳飛・楊令の2人の個は今後どのように進み、三部へと繋がっていくのか。

  • 天立の夢
    地数の光
    地短の光
    地煞の光
    天敗の夢

    第65回毎日出版文化賞
    著者:北方謙三(1947-、唐津市、小説家)
    解説:張競(1953-、中国上海、比較文学者)

  • 水滸伝に引き続き、一気読み。
    単なる国をかけた闘争を描くだけでなく、『志』という不確かなものに戸惑いつつも、前進する男たちの生きざまが面白い。壮大なストーリー展開の中で、たくさんの登場人物が出てくるが、それぞれが個性的で魅力的。よくもまー、これだけの人間それぞれにキャラを立たせられな。そして、そんな魅力的で思い入れもあるキャラが、次から次へと惜しげもなく死んでいくのが、なんとも切ない。最後の幕切れは、ウワーーっとなったし、次の岳飛伝も読まないことには気が済まない。まんまと北方ワールドにどっぷりはまっちまいました。

  • 語り合ったりなんかしちゃったりして。

  • ひとつの目的のために、大勢が心を一つにして立ち向かう。
    そんな時代を過ぎてしまった梁山泊は、もう一枚岩ではない。

    国を造る。
    いうのは簡単だが、思い描く国の形はそれぞれ。
    楊令に託す国の形が、自分勝手なものになってきたとき、梁山泊の未来に暗雲が立ち込めてくる。

    まるで哲学の書のように、「国とは?」を考える人物たち。
    国とは、民衆を守るための強い軍隊と考えた岳飛は、守ってきたはずの民衆から反乱を起こされる。
    国とは、民衆から搾り取った税金で潤っていくものと考える旧宋の生き残りたち。
    国とは、民族の独立のためにあるものと考えた女真族の国・金。
    国とは、民衆が安寧に暮らせる場所と考える楊令。

    歴史的に見ると梁山泊は生き残れない。
    だとしたら物語の着地点はどこか。
    楊令が生きている限り梁山泊は負けないのなら、楊令の死をもって終わるのか。
    しかし楊令は戦いに負けることはないはずだ。そういう存在に作られている。
    だとしたら病死、事故死、暗殺、自殺…のうちのどれかなのか。

    「仲睦まじい父と子」という存在が楊令の唯一の弱点で、それすら克服しかかっている現在、楊令は無敵だ。
    けれどなんでだろう、巻が進むにつれて楊令の内心が虚ろに感じる。
    何のために闘い、何を守ろうとしているのか。

    誰に相談することもできない、誰にも意見を聞くことがない、絶対的な頭領・楊令。
    楊令の幸せはどこにあるのかな。

    軍事的過ちをうやむやのうちになかったことにされた李英は、やっぱり自分を反省することなく、出世できない不満だけを膨らませていくことになった。
    「あれはなかったことになったはずなのに、なぜだ?」
    反省するきっかけを得られなかった李英は、成長するきっかけも得られなかった。
    これは本当に聚義庁(しゅうぎちょう)の落ち度だ。

    そして、楊令から子ども呼ばわりされた岳飛が、今は子持ちなのである。
    時間の流れが速すぎて…私も年を取るはずだよ。←違う

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著者プロフィール

北方謙三

一九四七年、佐賀県唐津市に生まれる。七三年、中央大学法学部を卒業。八一年、ハードボイルド小説『弔鐘はるかなり』で注目を集め、八三年『眠りなき夜』で吉川英治文学新人賞、八五年『渇きの街』で日本推理作家協会賞を受賞。八九年『武王の門』で歴史小説にも進出、九一年に『破軍の星』で柴田錬三郎賞、二〇〇四年に『楊家将』で吉川英治文学賞など数々の受賞を誇る。一三年に紫綬褒章受章、一六年に「大水滸伝」シリーズ(全五十一巻)で菊池寛賞を受賞した。二〇年、旭日小綬章受章。『悪党の裔』『道誉なり』『絶海にあらず』『魂の沃野』など著書多数。

「2022年 『楠木正成(下) 新装版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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