宵山万華鏡 (集英社文庫)

  • 集英社 (2012年6月26日発売)
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本 ・本 (264ページ) / ISBN・EAN: 9784087468458

作品紹介・あらすじ

祭りの夜に、何かが起こる。森見ファンタジーの真骨頂!
姉妹の神隠し、学生達の青春群像劇、繰り返される一日からの脱出など、祇園祭の京都を舞台に様々な事件が交錯し、全てが繋がってゆく。万華鏡のように多彩な宵山の姿を楽しめる、連作中篇集。

感想・レビュー・書評

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  • ――意味のないところに意義がある。――
    こんな言葉が出てくると、やっぱり森見さんだなって思う。
    『宵山金魚』では私も「俺」と同じく阿呆なのですっかり騙されてしまった。
    いつも森見さんの笑っていいのか怖がっていいのかわからない独特の浮遊感にまんまとハマってしまうのだ。
    「騙す私が悪いのか。騙される君が悪いのか――」

    京都の夏の、あの湿気を含んだ空気に触れると、一瞬世界がぐにゃりと歪んだ気分になる。
    蒸し暑く澱んだ空気の底に、風鈴の澄んだ音が響く宵山。
    幻想と現実の境目がとろけ出した雑踏にふと迷い込む。

    人混みの中に、すうっと流れる華やかな赤い浴衣を着た女の子たち。
    宵山は、この世ならざるモノたちが紛れていてもおかしくない。
    だって、この夜の私たちは、世界の外側から覗かれた万華鏡の中にいるのだから。

    子どもたちは絶対に繋いだ手を離しちゃダメだよ。

  • 幻想的怪異と阿呆大学生の奇想天外な企み。
    なーる。
    森見ワールドの全てが味わえる贅沢な連作短編。
    京都への羨望がより強まってしまった。
    なんて魅力的な場所。

  • ノスタルジックでちょっと不安定で怖い、緩やかに繋がった連作短編です。

  • 夏の京の風物詩・宵山を舞台にした連作短編。怪談かと思えば、阿呆らしさ全開のお話が、かと思えば、謎めいて物哀しいお話、不気味なお話、そして…と転調していく様は、少しずらせば見えるものがくるくる変わる、まさに万華鏡のよう。
    その不可思議な吸引力のために、読み続けてしまう。

    連作とはいえ短編集なので、内容を具体的に書いてしまうとすぐネタバレになってしまいそうなので、自重。

    けれど、びっくりしたのが、連作短編なのに、「狂言回し」役がいないこと。
    そのため、読み始めは、宵山を題材にした独立短編かと思いました。
    だけど、その内に、細い線でつながっていることに気づき、「あれ?」、「え!」と引き込まれてしまう。
    狂言回しがいないのに、ここまで組み立てた森見さんの力量に脱帽した一冊です。


    川端康成の「古都」でも、宵山の夜は重要な場面でしたけど、あの幻想性は芸術家を刺激する何かがあるのかもしれせんね。

  • 怪しい…実に怪しい。
    宵山の摩訶不思議な一夜の短編集。それぞれ別話なんやけど、少しずつ重なりあって…
    長い歴史のある京都、長い歴史のある祇園祭…魑魅魍魎などが跋扈しても不思議ではない気がする。(するだけ)
    宵山で多くの人が行き来するその隙間に…魔界が開いているような…
    こういう世界に迷い込んでみたい。(みたいだけ)
    PS:
    実際の宵山は、人いっぱいで人見に行くようなもんなんで疲れるから嫌や!^^;

  • 永遠に終わらない「祭り」の物語。

    祭りは賑やかで楽しい。けれど祭りが賑やかであればあるほど、終わる時の寂しさもひとしおだ。いや、むしろ終わる時の寂しさを知っているからこそ、祭りは賑わうのかもしれない。せめて今はあでやかに咲けとばかりに、短いハレの日を祝うのかもしれない。祭りはどこか青春と似ている。また人生とも似ている。

    もともと祭りは神事であり、「ヒト」と「ヒトでないモノ」の交感の場であったという。今は宗教性より娯楽性が増したとはいえ、その起源を考えると、祭りの雑踏の中でふと異界へ迷い込んでしまう気がして不安になるのは、あながち迷信とはいえないのかもしれない。祭囃子の笛の音にどこか憂いを感じるのも、じつはヒトの本能なのかもしれない。

    賑やかなのに寂しくて、美しいのに恐ろしい。『宵山万華鏡』は、そんな祭りの本質を、ぎゅっと濃縮して一冊の本として封印したような作品だ。全6篇の連作短編集だが、同じ《宵山》を見ているのに、登場人物によって全く異なる世界が展開されてゆく。ある者にとっては壮大な茶番劇であり、ある者にとっては青春最後の打ち上げ花火であり、ある者にとっては異界への入り口であり、さらに、異界の入り口で踏みとどまる者、異界で永遠にさまようことを選ぶ者、異界と現世の境界に立つ者、完全に異界の存在と化した者がいる。文字通り魑魅魍魎の跋扈する世界。

    祭りの終わりは寂しいが、終わらない祭りほど虚しいものはないだろう。「死は悲しい。しかし、死がなければ人は死を望むに違いない」と言った人がいる。還るべき日常を失った祭りは、もはや祭りとは呼べまい。それは既に「ヒトでないモノ」の領域だ。

    どんなに美しく楽しげに見えても、永遠に変化しないものにはヒトは本能的に恐怖を抱く。一方で、抗いがたい魅力をも感じる。《宵山様》の弄ぶ玩具が万華鏡だというのは象徴的だ。あの無限に続く美しい模様に心奪われた経験のない者はいないだろう。だが、自分があのような鏡の中に閉じ込められたら正気を保てるだろうかと、恐怖を覚えたことのある者もまた多いだろう。にもかかわらず、或いはそれゆえに、万華鏡も《宵山様》も私の心を惹きつけてやまない。

    たった一冊の本の中に、森見先生は《宵山》をまるごと閉じ込めてしまったみたいだ。本を開けば、溢れんばかりのイマジネーションの奔流を覗くことができる。まるで内田百閒か泉鏡花のような幻想的な世界を、どうして平成の舞台と文体で作り出すことができるのだろう。こんな作品が読めるなら何年でも私は待つ。だからゆっくり休養してください、森見先生。

  • バレエ教室の帰り、ある小学生の姉妹が宵山という
    夢と幻想の世界に迷い込む。全6編の連作短編集。

    それぞれ色が違う、まさに「万華鏡」といった話が
    連なり、同じような時間軸で各話が交差しており、
    最終話を読んで全容が分かる構成となっている。

    初の森見登美彦作品でした。
    個人的には、3つ目と4つ目の乙川の話は、キャラが良く(漫画的で)特に面白かったです。

    京都の土地勘があればより楽しめるのかな、何となく好みが分かれそうな作風かな、と思いました。

  • 「宵山姉妹」
    バレエ教室の帰りに宵山のお祭りに出かけた女の子は、人ごみの中で姉とはぐれてしまう。姉を探すうちに真っ赤な浴衣を着た女の子たちに出会い……。

    「宵山金魚」
    主人公藤田の友人乙川は京都に住んでいる変わった男だった。藤田は過去二回、乙川に宵山の案内を頼もうとしたが、2回ともはぐらかされてしまっていた。そこで今回は一人で回ろうとする藤田だったが、乙川は祇園祭にはいろいろとルールがあるから慣れない人間には危険だと言い、荒唐無稽な話をする。しかし、藤田は実際に目を疑うような祭りの裏側に巻き込まれていく。
    本物偽物問わず京都っぽい日本っぽいものの描写にあふれていてごちゃごちゃしている。深緑野分の『この本を盗むものは』が似ている。わけのわからない目まぐるしさ。

    「宵山劇場」
    一方そのころ乙川は。

    「宵山回廊」
    千鶴の叔父は画家をやっていて、彼の娘は宵山の祭りで行方不明になってしまっていた。叔父は宵山で娘の姿を見たといい、その姿を追ううち、宵山の日を繰り返すようになってしまったと話す。

    「宵山迷宮」
    千鶴の叔父がお世話になっている画廊の柳もまた、宵山の日を繰り返していた。乙川という男が探している柳の父の遺品が関係しているらしいが……。

    「宵山万華鏡」
    「宵山姉妹」で妹がはぐれているとき、姉は何をしていたか。これまでの短編に登場した人物によく似た人物が登場するがどうやら様子が違うようだ。


    いつも通り京都を舞台にしていて、今回は宵山に関連していることも共通している。
    しかし、すべてが続編というほどの繋がりはないし、物語の雰囲気も大きく違う。
    お祭りというものは華やかである一方、少し目を脇にやれば暗い不気味な一面も見せるものだ。
    本作は複数の短編を通して宵山の世界観を表現しており、各短編が一つの作品であると同時に、短編集としても一つの作品を形成している。

  • 京都の宵山の日の幻想的な物語
    お祭り独特の、心が騒ぐような、不思議な、異世界のような雰囲気が伝わってきます
    色や音が目や耳に流れてくるよう
    それでいて、森見登美彦さんらしいユーモアもあって、よかった〜

  • 宵山を舞台とした不思議だったりちょっと怖さがあったり、阿呆な話。短編ですがすべて繋がっているので読み進めるとそれぞれの話の表と裏、側面などがわかっていくのが面白い。
    同著者の「きつねのはなし」のような感じでした。

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著者プロフィール

1979年、奈良県生駒市に生まれる。小説家。『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビュー、最新作は『シャーロック・ホームズの凱旋』。好きな食べ物はチャーハン。城崎にて人生初のスマートボールを楽しむ。

「2024年 『城崎にて 四篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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